不動産登記法をゼロから整理する|登記記録の基礎と、住所等変更登記の義務化(令和8年4月1日施行)に対応
宅建士試験の権利関係14問のうち、不動産登記法は毎年ほぼ1問が出題される固定枠の分野です。「二重譲渡は登記の先後で決まる」(民法177条)という対抗要件の話は権利関係が苦手な人のための読み方教科書で扱いましたが、この記事では、その登記そのものを規律する不動産登記法を、登記記録の構成から、申請義務が課される場面まで整理します。とりわけ令和8年4月1日に施行される「住所等変更登記の申請義務化」は、令和8年度試験の基準日(令和8年4月1日現在施行の法令)にちょうど滑り込む形で施行される改正であり、出題予想上の重要論点です。
この記事の使い方
| パート | 内容 |
|---|---|
| 第1部 | 登記記録の構成(表題部・権利部)と基本用語 |
| 第2部 | 表示に関する登記(表題登記の申請義務) |
| 第3部 | 権利に関する登記の基礎(共同申請主義・対抗要件・所有権保存登記) |
| 第4部 | 相続登記の申請義務化(令和6年4月1日施行) |
| 第5部 | 住所等変更登記の申請義務化(令和8年4月1日施行)――出題予想の最重要論点 |
| 第6部 | 演習問題12問(オリジナル作問) |
第1部 登記記録の構成と基本用語
1-1 登記記録は「表題部」と「権利部」に区分される
登記記録は、一筆の土地又は一個の建物ごとに作成される電磁的記録で、表題部と権利部の2つに区分して作成されます(2条5号・7号・8号・12条)。
| 区分 | 記録される内容 |
|---|---|
| 表題部 | 不動産の物理的な状況(所在・地番・地目・地積、建物であれば構造・床面積等)に関する登記=表示に関する登記 |
| 権利部 | 所有権その他の権利に関する登記=権利に関する登記 |
さらに実務上、権利部は「甲区」(所有権に関する事項が記録される)と「乙区」(所有権以外の権利=抵当権・賃借権等に関する事項が記録される)に分かれています。この甲区・乙区という呼び方は不動産登記規則に基づく実務上の区分ですが、宅建試験でも前提知識として頻出します。
1-2 基本用語
| 用語 | 意味 | 条文 |
|---|---|---|
| 表題部所有者 | 所有権の登記がない不動産の登記記録の表題部に、所有者として記録されている者 | 2条10号 |
| 登記名義人 | 登記記録の権利部に、権利者として記録されている者 | 2条11号 |
| 登記権利者 | 権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける者 | 2条12号 |
| 登記義務者 | 権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人 | 2条13号 |
| 登記識別情報 | 登記名義人自らが登記を申請していることを確認するために用いられる符号(従来の「権利証」に代わるもの) | 2条14号 |
第2部 表示に関する登記(表題登記の申請義務)
表示に関する登記は、不動産の物理的な現況を公示するものであり、権利に関する登記とは異なり、所有者に申請義務が課されている点が最大の特徴です。
| 場面 | 申請義務の内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 土地の表題登記 | 新たに生じた土地又は表題登記がない土地の所有権を取得した者は、その取得の日から1か月以内に表題登記を申請しなければならない | 36条 |
| 建物の表題登記 | 新築した建物又は表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その取得の日から1か月以内に表題登記を申請しなければならない | 47条1項 |
権利に関する登記(後述する所有権の保存登記や移転登記など)には、原則として申請義務がなく、登記をするかどうかは当事者の任意でした。この「表示に関する登記には申請義務があるが、権利に関する登記には申請義務がない」という対比が、不動産登記法の基本構造として長く維持されてきました。ところが、この対比は次に見る相続登記・住所等変更登記の義務化によって、権利に関する登記の一部にも申請義務が及ぶ形に変わっています。
第3部 権利に関する登記の基礎
3-1 共同申請主義
権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同でしなければなりません(60条)。売買による所有権移転登記であれば、買主(登記権利者)と売主(登記義務者)が共同して申請するのが原則です。判決による登記(63条)のように、単独で申請できる例外もあります。
3-2 登記の順位・対抗力
同一の不動産について登記した権利の順位は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記の前後によります(4条1項)。これは、民法177条が「不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ第三者に対抗することができない」と定めていることと表裏の関係にあります。既にされた権利に関する登記を変更・更正する付記登記の順位は、主登記の順位によります(4条2項)。
3-3 所有権の保存登記
所有権の登記がない不動産に最初にされる所有権の登記を「所有権の保存の登記」といいます。所有権の保存の登記は、次に掲げる者以外の者は申請することができません(74条)。
- 表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人
- 所有権を有することが確定判決によって確認された者
- 収用によって所有権を取得した者
区分建物(マンションの一室等)については、表題部所有者から所有権を取得した者(分譲業者から購入した最初の買主等)も申請することができます(74条2項)。この場合、当該建物が敷地権付き区分建物であるときは、敷地権の登記名義人の承諾を得なければなりません。
第4部 相続登記の申請義務化(令和6年4月1日施行)
所有者不明土地の発生を防止するため、令和6年4月1日から、相続による所有権の移転登記が義務化されています。
| 項目 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 義務の内容 | 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない | 76条の2第1項 |
| 遺産分割があった場合 | 相続分に応じた登記がされた後に遺産分割があったときは、相続分を超えて所有権を取得した者は、遺産分割の日から3年以内に移転登記を申請しなければならない | 76条の2第2項 |
| 簡易な履行手段 | 登記官に対し、相続が開始した旨及び自らが相続人である旨を申し出る「相続人である旨の申出」(相続人申告登記)をすれば、申請義務を履行したものとみなされる | 76条の3 |
| 違反した場合 | 正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料 | 164条1項 |
相続人申告登記は、遺産分割協議がまとまらず誰がどの持分を取得するか確定していない段階でも、とりあえず「相続が開始したこと」と「自分が相続人であること」を申告するだけで義務を履行したとみなしてもらえる、簡易な制度です。ただし、その後の遺産分割によって所有権を取得したときは、改めてその分割の日から3年以内に移転登記を申請しなければなりません(76条の3第4項)。
第5部 住所等変更登記の申請義務化(令和8年4月1日施行)――出題予想の最重要論点
5-1 制度の内容
相続登記の義務化と対をなす改正として、所有権の登記名義人の氏名(名称)又は住所についての変更登記も義務化されます。この改正は令和8年4月1日に施行され、まさに令和8年度試験の出題基準日にあたるため、出題予想上の最重要論点の一つです。
| 項目 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 義務の内容 | 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない | 76条の5 |
| 違反した場合 | 正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、5万円以下の過料 | 164条2項 |
| 職権による変更登記 | 登記官は、法務省令で定める場合には、職権で氏名・名称又は住所の変更登記をすることができる。ただし、登記名義人が自然人であるときは、その者からの申出があるときに限る | 76条の6 |
住所等変更登記の義務化は、婚姻等による氏名の変更、転居による住所の変更のいずれについても、登記名義人本人に申請義務を課す点が特徴です。
5-2 数値の整理(相続登記との比較)
住所等変更登記と相続登記は、いずれも所有者不明土地対策として同時期に整備された制度ですが、義務の履行期間と過料の額が異なる点が、数値のすり替えを狙った出題で特に狙われやすいポイントです。
| 項目 | 相続登記の義務化 | 住所等変更登記の義務化 |
|---|---|---|
| 施行日 | 令和6年4月1日 | 令和8年4月1日 |
| 履行期間 | 相続の開始及び所有権取得を知った日から3年以内 | 変更があった日から2年以内 |
| 過料 | 10万円以下 | 5万円以下 |
| 簡易な履行手段 | 相続人申告登記(76条の3) | 職権による変更登記(本人の申出が前提、76条の6) |
| 根拠条文 | 76条の2 | 76条の5 |
「相続登記は3年・10万円、住所等変更登記は2年・5万円」という対応関係を、逆に覚えてしまわないように注意してください。
5-3 この改正が対抗要件(899条の2)を変更するものではない点
権利関係が苦手な人のための読み方教科書の問14でも確認したとおり、相続による権利の承継は、法定相続分の範囲内であれば登記を備えなくても第三者に対抗することができます(民法899条の2第1項)。住所等変更登記の義務化は、あくまで既に生じている所有権の登記名義人に、氏名・住所の変更を登記に反映させる義務を課す規定であり、相続による権利の承継の対抗要件(民法899条の2)の仕組みを変更するものではありません。この2つの改正を混同しないようにしましょう。
第6部 演習問題12問
なお、本問題集は筆者(当サイト)が独自に作成した予想問題であり、実際の試験問題の的中や出題を保証するものではありません。過去問の文言はそのまま用いず、条文を根拠にオリジナルで作問しています。法令は令和8年4月1日現在施行されているものを基準にしていますが、受験にあたっては最新の法令・公式発表を必ずご確認ください。
問1 登記記録の構成
登記記録の構成(2条・12条)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 登記記録は表題部から成り、権利に関する登記は別の帳簿に記録される。
- 登記記録は、表題部と権利部に区分して作成され、表題部には表示に関する登記が、権利部には権利に関する登記が記録される。
- 表題部所有者とは、所有権の登記がある不動産について、権利部に所有者として記録されている者をいう。
- 登記識別情報は、登記記録の表題部に記録される事項であり、権利部には記録されない。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。登記記録は表題部と権利部の両方を備えて作成され、権利に関する登記も同じ登記記録内の権利部に記録されます(12条)。
2が正しい記述です。登記記録は表題部及び権利部に区分して作成され(12条)、表題部には表示に関する登記が(2条7号)、権利部には権利に関する登記が記録されます(2条8号)。
3は誤りです。表題部所有者とは、所有権の登記が「ない」不動産の登記記録の表題部に、所有者として記録されている者をいいます(2条10号)。所有権の登記がある不動産の権利部に記録されている者ではありません。
4は誤りです。登記識別情報は、登記名義人自らが登記を申請していることを確認するために用いられる符号であり、表題部の事項ではありません(2条14号)。
「表題部=表示に関する登記」「権利部=権利に関する登記」という対応関係と、表題部所有者は「所有権の登記がない」段階の呼び方である点が急所です。
問2 表題登記の申請義務
表示に関する登記の申請義務(36条・47条)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 新たに生じた土地の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から3か月以内に、表題登記を申請しなければならない。
- 新築した建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から1か月以内に、表題登記を申請しなければならない。
- 土地・建物のいずれについても、表題登記の申請は任意であり、申請義務は課されていない。
- 表題登記の申請義務は、建物について課され、土地の表題登記には申請義務がない。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。新たに生じた土地又は表題登記がない土地の所有権を取得した者は、その取得の日から1か月以内に表題登記を申請しなければなりません(36条)。3か月ではありません。
2が正しい記述です。新築した建物又は表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その取得の日から1か月以内に表題登記を申請しなければなりません(47条1項)。
3は誤りです。表示に関する登記には、権利に関する登記とは異なり、申請義務が課されています。
4は誤りです。土地についても、新たに生じた土地又は表題登記がない土地の所有権を取得した者に、1か月以内の表題登記の申請義務が課されています(36条)。
表示に関する登記は、土地・建物のいずれについても「所有権取得の日から1か月以内」という共通の期間で申請義務が課されている点が急所です。
問3 共同申請主義
権利に関する登記の申請(60条)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者が単独で行うことができる。
- 権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同でしなければならない。
- 判決による登記についても、登記権利者及び登記義務者の共同申請によらなければならず、単独で申請することはできない。
- 共同申請主義は、表示に関する登記についても、権利に関する登記と同様に適用される原則である。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。権利に関する登記の申請は、原則として登記権利者の単独申請ではなく、登記義務者との共同申請によります。
2が正しい記述です。権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同でしなければなりません(60条)。
3は誤りです。判決による登記は、共同申請主義の例外として、登記権利者が単独で申請することができます(63条1項)。
4は誤りです。共同申請主義(60条)は権利に関する登記に関する原則であり、表示に関する登記は、性質上、所有者による単独の申請が前提とされています。
共同申請主義には、判決による登記や相続による登記など、単独申請が認められる例外が存在する点もあわせて押さえておきましょう。
問4 登記の順位
登記した権利の順位(4条)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 同一の不動産について登記した権利の順位は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記の前後による。
- 同一の不動産について登記した権利の順位は、権利が成立した日の前後による。
- 付記登記の順位は、主登記の順位にかかわらず、登記がされた日の前後による。
- 権利の順位は登記記録上明らかにする必要がなく、当事者間の合意によって自由に定めることができる。
解答・解説
正答は1です。
1が正しい記述です。同一の不動産について登記した権利の順位は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記の前後によります(4条1項)。
2は誤りです。権利の順位は権利が成立した日ではなく、登記の前後によって決まります。
3は誤りです。付記登記の順位は主登記の順位によります(4条2項)。
4は誤りです。権利の順位は登記記録上の登記の前後という客観的な基準で定まるものであり、当事者間の合意で自由に変更できるものではありません(順位の変更には別途登記が必要です)。
登記の順位が「登記の前後」という客観的な基準で決まる点、そして付記登記は主登記の順位に従うという原則が急所です。
問5 所有権の保存の登記
所有権の保存の登記(74条)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 所有権の保存の登記は、表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人が申請することができる。
- 所有権の保存の登記は、表題部所有者からの承諾を得れば、表題部所有者以外の第三者であっても自由に申請することができる。
- 収用によって所有権を取得した者は、所有権の保存の登記を申請することができない。
- 区分建物について、表題部所有者から所有権を取得した者は、敷地権の登記名義人の承諾の有無にかかわらず、所有権の保存の登記を申請することができる。
解答・解説
正答は1です。
1が正しい記述です。所有権の保存の登記は、表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人が申請することができます(74条1項1号)。
2は誤りです。所有権の保存の登記を申請できる者は74条1項各号に列挙されており、表題部所有者の承諾があれば誰でも申請できるものではありません。
3は誤りです。収用によって所有権を取得した者も、所有権の保存の登記を申請することができます(74条1項3号)。
4は誤りです。区分建物について表題部所有者から所有権を取得した者が保存の登記を申請できる場合において、当該建物が敷地権付き区分建物であるときは、敷地権の登記名義人の承諾を得なければなりません(74条2項)。
所有権の保存の登記を申請できる者は74条1項各号に限定列挙されている点、区分建物には敷地権登記名義人の承諾という追加要件がある点を押さえておきましょう。
問6 相続登記の申請義務化①(期間と過料)
相続による所有権の移転の登記の申請義務(76条の2)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 所有権の登記名義人について相続の開始があった場合、相続により所有権を取得した者は、相続の開始の日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければならない。
- 所有権の登記名義人について相続の開始があった場合、相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
- 相続人に対する遺贈により所有権を取得した者には、相続による所有権移転登記と同様の申請義務は課されていない。
- 相続登記の申請義務に違反した場合の過料は、20万円以下である。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。申請義務の起算点は相続の開始の日ではなく、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日です(76条の2第1項)。
2が正しい記述です。相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければなりません(76条の2第1項)。
3は誤りです。相続人に対する遺贈により所有権を取得した者も、相続の場合と同様の申請義務を負います(76条の2第1項後段)。
4は誤りです。相続登記の申請義務違反の過料は10万円以下です。20万円ではありません。
起算点が「相続開始の日」ではなく「相続開始及び所有権取得を知った日」である点、相続人に対する遺贈も対象に含まれる点、そして過料の額(10万円以下)が急所です。
問7 相続登記の申請義務化②(相続人申告登記)
相続人である旨の申出等(76条の3、相続人申告登記)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 相続登記の申請義務を負う者は、遺産分割協議がまとまっていない場合であっても、登記官に対し、相続が開始した旨及び自らが相続人である旨を申し出ることができる。
- 相続人である旨の申出をした者は、その後の遺産分割によって所有権を取得しても、改めて移転登記を申請する義務を負うことはない。
- 相続人である旨の申出は、登記官が職権で行うものであり、相続人が自ら申し出ることはできない。
- 相続人である旨の申出をしても、相続登記の申請義務を履行したものとはみなされない。
解答・解説
正答は1です。
1が正しい記述です。相続登記の申請義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、相続が開始した旨及び自らが相続人である旨を申し出ることができます(76条の3第1項)。遺産分割協議が未了の段階でも申し出ることができます。
2は誤りです。相続人である旨の申出をした者も、その後の遺産分割によって所有権を取得したときは、原則として当該遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければなりません(76条の3第4項)。
3は誤りです。相続人である旨の申出は、相続人自らが登記官に対して行うものです(76条の3第1項)。
4は誤りです。所定の期間内に相続人である旨の申出をした者は、相続による所有権の取得(申出前の遺産分割によるものを除く)に係る移転登記の申請義務を履行したものとみなされます(76条の3第2項)。
相続人申告登記は「とりあえず相続人であることだけ申告して義務を履行したとみなしてもらう」制度であり、その後の遺産分割で確定的に所有権を取得すれば、別途その分割の日から3年以内に移転登記が必要になる点が急所です。
問8 住所等変更登記の申請義務化①(期間と過料)
所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請義務(76条の5)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 所有権の登記名義人の住所について変更があったときは、当該登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、住所についての変更の登記を申請しなければならない。
- 所有権の登記名義人の氏名又は名称についての変更は、住所の変更とは異なり、変更の登記の申請義務の対象とされていない。
- 住所等変更登記の申請義務は、令和6年4月1日から施行されている。
- 住所等変更登記の申請義務に違反した場合の過料は、相続登記の申請義務違反と同じく10万円以下である。
解答・解説
正答は1です。
1が正しい記述です。所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、変更の登記を申請しなければなりません(76条の5)。
2は誤りです。76条の5は「氏名若しくは名称又は住所について変更があったとき」と定めており、氏名・名称の変更も住所の変更と同じく申請義務の対象です。
3は誤りです。住所等変更登記の申請義務は令和8年4月1日から施行されます。令和6年4月1日施行は相続登記の申請義務化です。
4は誤りです。住所等変更登記の申請義務違反の過料は5万円以下であり、相続登記の申請義務違反(10万円以下)とは金額が異なります。
「2年以内・5万円以下」(住所等変更登記)と「3年以内・10万円以下」(相続登記)という2つの数値セットを取り違えないようにしましょう。
問9 住所等変更登記の申請義務化②(職権による変更登記)
職権による氏名等の変更の登記(76条の6)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 登記官は、法務省令で定める場合には、登記名義人からの申出がなくても職権で所有権の登記名義人の氏名又は住所の変更の登記をすることができる。
- 登記名義人が自然人である場合、職権による氏名等の変更の登記は、当該登記名義人からの申出があるときに限りすることができる。
- 職権による氏名等の変更の登記の制度は、登記名義人本人による変更登記の申請義務(76条の5)を廃止するものである。
- 職権による氏名等の変更の登記は、法人である登記名義人については認められていない。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。登記名義人が自然人であるときは、その者からの申出があるときに限り、職権による変更登記をすることができます(76条の6ただし書)。常にできるわけではありません。
2が正しい記述です。登記名義人が自然人である場合、職権による氏名等の変更の登記は、当該登記名義人からの申出があるときに限りすることができます(76条の6ただし書)。
3は誤りです。職権による変更登記の制度は、76条の5の申請義務を前提とした補完的な仕組みであり、申請義務そのものを廃止するものではありません。
4は誤りです。76条の6ただし書は登記名義人が自然人であるときの限定であり、法人については、この限定が付されていません(法人の場合は商業・法人登記等との連携により、本人の申出なく職権での変更がされ得ます)。
自然人の場合は本人の申出が前提となる一方、法人についてはこの限定がないという主体による違いが急所です。
問10 相続登記と住所等変更登記の比較
相続登記の申請義務化(76条の2)と住所等変更登記の申請義務化(76条の5)の比較に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 相続登記の申請義務の履行期間は2年以内、住所等変更登記の申請義務の履行期間は3年以内である。
- 相続登記の申請義務違反の過料は10万円以下、住所等変更登記の申請義務違反の過料は5万円以下である。
- 相続登記の申請義務化は令和8年4月1日、住所等変更登記の申請義務化は令和6年4月1日にそれぞれ施行された。
- 相続登記・住所等変更登記のいずれについても、簡易な履行手段は設けられていない。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。履行期間は逆で、相続登記が3年以内、住所等変更登記が2年以内です。
2が正しい記述です。相続登記の申請義務違反の過料は10万円以下(76条の2・164条1項)、住所等変更登記の申請義務違反の過料は5万円以下です(76条の5・164条2項)。
3は誤りです。施行日は逆で、相続登記の申請義務化が令和6年4月1日、住所等変更登記の申請義務化が令和8年4月1日です。
4は誤りです。相続登記には相続人である旨の申出(相続人申告登記、76条の3)、住所等変更登記には職権による変更登記(本人の申出が前提、76条の6)という、それぞれ簡易な履行手段が設けられています。
この2つの改正はセットで狙われやすく、期間・過料・施行日のいずれか一つでも入れ替えられると誤りになる点に注意しましょう。
問11 住所等変更登記の義務化と対抗要件の違い
住所等変更登記の申請義務化(76条の5)と、相続による権利の承継の対抗要件(民法899条の2)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 住所等変更登記の申請義務化は、相続による権利の承継について、法定相続分を超える部分も登記なくして対抗できるようにする改正である。
- 住所等変更登記の申請義務化は、既に生じている所有権の登記名義人に氏名・住所の変更を登記に反映させる義務を課す改正であり、相続による権利の承継の対抗要件の仕組み(民法899条の2)を変更するものではない。
- 住所等変更登記の申請義務化により、相続による権利の承継は、法定相続分の範囲内であっても登記を備えなければ第三者に対抗することができなくなった。
- 住所等変更登記の申請義務化と、相続による権利の承継の対抗要件は、いずれも令和8年4月1日に施行された同一の改正である。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。法定相続分を超える部分について登記なくして対抗できるようにする改正ではなく、むしろ民法899条の2は、法定相続分を超える部分については登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないと定めています。
2が正しい記述です。住所等変更登記の申請義務化は、所有権の登記名義人の氏名・住所の変更を登記に反映させる義務を課す改正であり、相続による権利の承継の対抗要件の仕組み(民法899条の2)を変更するものではありません。
3は誤りです。相続による権利の承継は、法定相続分の範囲内であれば、住所等変更登記の義務化後も登記を備えなくても第三者に対抗することができます(民法899条の2第1項)。
4は誤りです。相続による権利の承継の対抗要件に関する規定(民法899条の2)は令和元年7月1日から施行されており、令和8年4月1日施行の住所等変更登記の義務化とは別の改正です。
「住所等変更登記の義務化」と「相続の対抗要件(899条の2)」は、施行時期も内容もまったく異なる別々の改正であるという整理が急所です。
問12 総合問題
不動産登記に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
- 表示に関する登記には申請義務が課されているが、権利に関する登記には申請義務は課されていない。
- 相続による所有権の移転の登記も、所有権の登記名義人の住所についての変更の登記も、正当な理由がないのに申請を怠ったときは過料の対象となる。
- 権利に関する登記の申請は、登記権利者の単独申請によることができるのが原則である。
- 所有権の保存の登記は、表題部所有者以外の者であれば誰でも申請することができる。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。相続登記(76条の2)・住所等変更登記(76条の5)という権利に関する登記の一部にも、令和6年・令和8年の改正で申請義務が課されており、「権利に関する登記には申請義務が一切課されていない」という説明はもはや正確ではありません。
2が正しい記述です。相続による所有権の移転の登記(76条の2)も、所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記(76条の5)も、正当な理由がないのに申請を怠ったときは、それぞれ過料の対象となります(164条1項・2項)。
3は誤りです。権利に関する登記の申請は、原則として登記権利者及び登記義務者の共同申請によります(60条)。単独申請は判決による登記など例外的な場合に限られます。
4は誤りです。所有権の保存の登記を申請できる者は、74条1項各号に列挙された者(表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人・確定判決によって所有権を確認された者・収用によって所有権を取得した者)に限られます。
かつて「権利に関する登記には申請義務がない」というのが不動産登記法の基本構造でしたが、相続登記・住所等変更登記の義務化によって、この基本構造そのものが一部見直されているという理解が、この分野全体の急所です。
まとめ
- 登記記録は表題部(表示に関する登記)と権利部(権利に関する登記)に区分され、表題登記には所有権取得の日から1か月以内という申請義務がある
- 権利に関する登記は原則として登記権利者・登記義務者の共同申請により、登記の順位は登記の前後で決まる
- 所有権の保存の登記を申請できる者は74条1項各号に限定される
- 相続登記の申請義務化(令和6年4月1日施行)は、相続開始及び所有権取得を知った日から3年以内、違反時は10万円以下の過料。簡易な履行手段として相続人申告登記がある
- 住所等変更登記の申請義務化(令和8年4月1日施行)は、変更があった日から2年以内、違反時は5万円以下の過料。自然人については本人の申出を前提とする職権登記の仕組みもある
- 住所等変更登記の義務化は、相続による権利の承継の対抗要件(民法899条の2)とは別の改正であり、混同しないよう注意する
免責事項
- 本記事の演習問題はすべて筆者が独自に作成した予想問題であり、実際の宅建試験問題の的中や出題を保証するものではありません。
- 作問にあたっては、過去問の文言をそのまま転載せず、条文を根拠に独自に作問しています。
- 法令は改正されることがあります。本記事の内容は執筆時点の情報に基づくものであり、最新の法令・制度については法務省・国土交通省や実施団体(一般財団法人 不動産適正取引推進機構)などの一次情報を必ずご自身で確認してください。
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