権利関係が苦手な人のための読み方教科書|登場人物の図解・善意悪意の判定・判例の読み方
宅建士試験の4分野(権利関係・宅建業法・法令上の制限・税その他)のうち、権利関係だけは「暗記量を増やしても点数が伸びにくい」という声をよく聞きます。理由ははっきりしていて、権利関係の出題は暗記した条文をそのまま当てはめれば解ける問題が少なく、A・B・Cといった複数の登場人物が絡む事例を正確に読み解く力が必要だからです。この記事では、権利関係の学習でつまずきやすい3つのポイント――①登場人物が増えると誰が誰だか分からなくなる、②善意・悪意の判定基準があいまいなまま覚えている、③判例の文章が読めない――を順番に取り上げ、それぞれを突破するための具体的な手順を示します。網羅的な範囲解説ではなく、この3つのつまずきをなくすことに絞った教科書です。
この記事の使い方
この記事は次の4部構成です。第1部・第2部・第3部で「手順」を身につけたうえで、第4部の演習問題15問でその手順を実際に使ってみる、という流れで読み進めてください。
| パート | 内容 |
|---|---|
| 第1部 | 登場人物が増えたら図にする手順(二重譲渡・代理・転貸借の3パターンを図解) |
| 第2部 | 善意・悪意を機械的に判定する4ステップと、代表的な論点の一覧表 |
| 第3部 | 判例の文章を「誰が・誰に・何を主張して・どちらが勝ったか」に分解して読む手順 |
| 第4部 | ここまでの手順を使って解く演習問題15問(オリジナル作問・法改正対応) |
第1部 登場人物が増えたら、まず「図」にする
なぜ図が必要なのか
権利関係の問題を間違える原因は、実は民法のルールを知らないことよりも、「誰が誰に何をしたか」を文章のまま頭の中で処理しようとして、途中で混乱することにあるケースが多くあります。A・B・Cと登場人物が3人を超えたあたりから、文章を目で追うだけでは関係を正確に保持できなくなるのは、誰にでも起こることです。これを防ぐ方法はシンプルで、問題文を読みながら、その場で簡単な図に描き起こすことです。
大事なのは「上手な図を描くこと」ではなく、毎回同じ型で描くことです。型が決まっていれば、図を描く作業そのものに頭を使わずに済み、関係の整理に集中できます。この記事では、次の4つのルールだけを使います。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| 丸・四角 | 登場人物(問題文に出てくる順にA・B・C…とアルファベットを振る) |
| 矢印 | 「誰が・誰に・何をしたか」(売った・貸した・登記した・だました 等) |
| ①②③ | 時系列。物語の中で早く起きた出来事から順に番号を振る(左から右へ描くとなお分かりやすい) |
| タグ(登記あり/なし等) | 対抗要件(登記・引渡し等)や、善意・悪意の別。権利関係の勝負はここで決まることが多い |
以下、この型を使って、権利関係の頻出パターンを3つ、実際に図で確認します。
例① 二重譲渡と対抗要件(民法177条)
Aが所有する土地を、Bに売却したあと、同じ土地をさらにCにも売却してしまった――という「二重譲渡」は、権利関係の中でも登場人物の整理でつまずきやすい定番パターンです。誰が先に契約したか(時系列)と、誰が先に登記を備えたか(対抗要件)という2つの「順番」が別々に問われるため、図に描かずに文章だけで処理しようとすると混同しやすくなります。
この図で押さえておきたいのは、「先に契約した」という時系列(①②)と、「先に登記を備えた」という対抗要件はまったく別の軸であるという点です。契約の先後は所有権の優劣を直接決めず、原則として物を言うのは登記の先後です(177条)。ただし、Cが単なる悪意(Bの存在を知っていた)にとどまらず、Bを害する目的で先回りして登記を備えたと評価される「背信的悪意者」にあたる場合は、Cは177条の「第三者」として保護されず、Bに対抗できません(最判昭和43年8月2日)。この「単なる悪意」と「背信的悪意」の違いは、第2部で改めて整理します。
例② 代理と表見代理(民法99条・110条)
本人・代理人・相手方という3人が登場する代理の場面も、契約の効果が「誰と誰の間で」生じるのかを図で確認しておくと混乱しにくくなります。
代理の基本構造は、契約を締結するのはBとCだが、その効果はBを飛び越えて直接Aに帰属するという点にあります。ここを「Bがいったん権利を取得して、それをAに渡す」とイメージしてしまうと、代理人の破産や代理人自身の債権者との関係を問う応用問題で読み違えます。また、Bが与えられた代理権の範囲を超えて行為をした場合でも、Cが代理権の存在を信じ、かつ信じたことに正当な理由(無過失)があるときは「表見代理」が成立し、Aが責任を負うことになります(110条等)。この「Cが信じたことに正当な理由があるか」という判定は、まさに第2部で扱う善意・悪意(+無過失)の判定手順がそのまま使える場面です。
例③ 賃貸借の転貸(民法613条)
賃貸人・賃借人・転借人という3人が登場する転貸借も、「誰が誰に対して直接の義務を負うか」を図で確認しておくべき典型例です。
適法な転貸借(賃貸人Aの承諾を得た転貸)が行われると、転借人Cは、AB間の原賃貸借とBC間の転貸借のうち低い方の賃料額を限度として、Aに対して直接に義務を負います(613条1項)。この「低い方を限度に」という条件は、A・B・Cという3人の金額関係を図か表に書き出さないと見落としやすいポイントです。また、AB間の賃貸借を合意だけで解除しても、原則としてその解除をCに対抗できません(613条3項本文)。ただしBの債務不履行によってAB間の賃貸借が解除された場合は別で、この場合はCに対抗できます(同項ただし書)。これらの規定は、もともと判例が積み重ねてきた考え方を令和2年4月1日施行の債権法改正で条文として明文化したものです。
図を描く手順のまとめ
- 問題文に出てくる順に、登場人物にA・B・Cとアルファベットを振る
- 出来事を「誰が・誰に・何をしたか」の矢印で、起きた順(①②③)に並べる
- 登記・引渡しなど対抗要件を備えているのは誰かをタグで書き込む
- 善意・悪意が問題になっている場合は、誰の・何についての善意悪意かを図の中にメモする(第2部の手順で判定する)
- 図が完成したら、問われているのは「対抗関係(177条等)」の話か、「善意・悪意による保護」の話かを見極める
この手順は、二重譲渡・代理・転貸借に限らず、抵当権と賃借権が絡む問題や、相続人が複数登場する問題など、権利関係のほとんどの応用問題に共通して使えます。
第2部 善意・悪意を機械的に判定する
まず「道徳の善悪ではない」ことを徹底する
権利関係でいう「善意」「悪意」は、日常語の「善い・悪い」とはまったく関係がありません。
- 善意=ある事実を知らないこと
- 悪意=ある事実を知っていること
これだけです。「悪意」という言葉から「意地悪な人」を連想してしまうと、条文の内容が頭に入りにくくなります。まずはこの言い換えだけを徹底してください。
判定の4ステップ
善意・悪意が絡む問題を読むときは、次の4つを順番に確認する癖をつけると、読み違いが大きく減ります。
- 誰の善意・悪意が問われているか(主語の特定) — 「相手方の善意」なのか「第三者の善意」なのかで、適用される条文がまったく別物になります
- 「何を」知らない/知っているのかを特定する — 「意思表示が虚偽であること」なのか「代理権がないこと」なのか、対象を取り違えると全く別の論点になります
- いつの時点の善意・悪意かを特定する — 契約時点なのか、登記時点なのか、対抗要件を備えた時点なのかで結論が変わることがあります
- 「無過失」まで要求されているかを確認する — 善意でありさえすれば足りる論点と、善意に加えて無過失(不注意でないこと)まで要求される論点があり、これを取り違えると正誤が逆転します
善意・悪意で結論が変わる代表論点
ステップ4の「無過失まで必要か」は特に見落としやすいポイントです。以下の一覧表で、代表的な論点ごとに整理しておきます。条文番号は、学習の最終段階で必ずe-Gov法令検索など一次資料で確認してください。
| 論点 | 保護される(または不利益を受ける)のは誰の善意・悪意か | 無過失まで必要か | 条文 |
|---|---|---|---|
| 通謀虚偽表示 | 虚偽の意思表示があったことを知らない第三者 | 不要(善意で足りる) | 民法94条2項 |
| 錯誤による取消し | 錯誤による取消しがあったことを知らない第三者 | 必要(善意でかつ過失がないこと) | 民法95条4項(令和2年施行改正で追加) |
| 詐欺による取消し | 詐欺による取消しがあったことを知らない第三者 | 必要(善意でかつ過失がないこと) | 民法96条3項(令和2年施行改正で「善意」から「善意でかつ過失がない」に変更) |
| 強迫による取消し | (第三者保護の規定自体が存在しない) | — | 民法96条には強迫の第三者保護規定がなく、取消しは善意・悪意を問わず対抗できる |
| 即時取得 | 占有を取得した者が、相手に権利がないことを知らないこと | 必要(平穏・公然・善意・無過失) | 民法192条 |
| 背信的悪意者(対抗関係) | 単なる悪意ではなく、登記の欠缺を主張することが信義則に反するかどうかで判断(善意・悪意の二択ではない) | — | 民法177条・判例法理(最判昭和43年8月2日) |
| 94条2項類推適用 | 不実の登記の存在を知らない第三者(本人に帰責性があることが前提) | 事案の類型による(要求される場合とされない場合がある) | 民法94条2項の類推適用(判例法理) |
| 代理行為の顕名なし | 代理人が本人のためにすることを相手方が知っているか、知ることができたか | 「知ることができた」=有過失も含む | 民法100条ただし書 |
| 表見代理 | 相手方が代理権の存在を信じ、かつ信じたことに正当な理由(無過失)があるか | 必要(正当な理由=無過失) | 民法110条等 |
この表を眺めて分かるとおり、「善意なら足りるのか、無過失まで必要なのか」は論点ごとにバラバラです。丸暗記するよりも、「なぜその論点では無過失まで求めるのか」を考えて覚えると定着しやすくなります。たとえば詐欺の場合、無過失要件が令和2年の改正で追加されたのは、注意すれば詐欺の事実に気づけたはずの第三者を、詐欺の被害者本人よりも手厚く保護するのは不均衡だという考え方によるものです。
「対抗要件」の場面と混同しない
もう一つ、初学者が混同しやすいのが、善意・悪意で決まる場面と、登記・引渡しなどの対抗要件の先後で決まる場面の違いです。二重譲渡(177条)は原則として登記の先後で決まり、善意・悪意そのものは問題になりません(背信的悪意者かどうかという例外はありますが、これは「知っていたかどうか」だけでなく「信義則に反する事情があるか」まで問われる別次元の判断です)。一方、借地借家法上の賃借権の対抗要件(建物の登記や引渡し)も、善意・悪意ではなく対抗要件の有無で決まります。「善意・悪意の話なのか、対抗要件の話なのか」を最初に切り分けることが、読み違いを防ぐ近道です。
第3部 判例の読み方
判例文が読めない本当の理由
判例の文章が難しく感じるのは、法律用語が並んでいるからというより、「誰が・誰に対して・何を主張して・裁判所がどちらを勝たせたか」という骨組みを、自分で分解していないからであることがほとんどです。判例集や参考書の文章をそのまま丸暗記しようとすると、長い一文の中で主語と述語を見失い、結論だけを機械的に覚えることになりがちです。次の5つの質問に沿って分解すると、同じ判例でも格段に読みやすくなります。
- 誰が原告(訴えた側)で、誰が被告(訴えられた側)か
- 原告は何を求めて訴えたか
- 争いになっている法律上の論点は何か
- 裁判所はどちらを勝たせたか(結論)
- なぜその結論になったか(理由)
以下、この分解法を使って、権利関係の頻出判例を3件、実際にやってみます。いずれも第1部・第2部で扱った「登場人物の増加」「善意・悪意」の場面がそのまま登場する判例です。
判例① 背信的悪意者は177条の「第三者」に当たらない(最判昭和43年8月2日・民集22巻8号1571頁)
| 分解項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が・誰に | 土地の第一買主(登記なし)が、先に登記を備えた第二買主に対して所有権を主張 |
| 何を主張したか | 「第二買主は自分(第一買主)を害する目的で先回りして登記を備えた背信的悪意者であり、177条の第三者として保護されるべきではない」という主張 |
| 論点 | 177条の「第三者」の範囲に、悪意の第三者や背信的悪意者も含まれるのか |
| 結論 | 単なる悪意者は「第三者」に含まれるが、背信的悪意者は含まれない |
| 理由 | 実体上の物権変動を知りながら、その登記の欠缺(登記がないこと)を主張することが信義則に反すると認められる事情がある者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないから |
日常語に置き換えると、「単に知っていた(悪意)だけでは仲間外れにしない。でも、相手を困らせる目的でわざと先回りして登記を取るような、ずるいやり方をした人まで177条で保護してあげる理由はない」という考え方です。
判例② 94条2項類推適用と第三者の範囲(最判昭和45年7月24日)
| 分解項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が・誰に | 不実の登記の名義人から不動産を取得した第三者が、真の権利者に対して所有権を主張 |
| 何を主張したか | 「自分は登記名義に頼って取引した第三者であり、94条2項によって保護されるべきだ」という主張 |
| 論点 | 94条2項が類推適用される場合の「第三者」に、登記名義人と直接取引した者だけでなく、そこからさらに買い受けた転得者も含まれるか |
| 結論 | 94条2項にいう「第三者」には、虚偽表示の当事者・包括承継人以外で、その表示の目的について法律上利害関係を有するに至った者が含まれ、直接の相手方だけでなく転得者も含まれ得る |
| 理由 | 94条2項が第三者を保護する趣旨は、不実の外観を信頼して取引に入った者を広く保護する点にあるため |
これは第1部で扱った「登場人物が増える」問題そのものです。AとBの間だけの話ではなく、BからさらにC、CからさらにD……と転売が続いても、「第三者」の範囲に含めて保護するかどうかを判断する必要がある、という場面を示しています。
判例③ 背信的悪意者からの転得者と177条(最判平成8年10月29日)
| 分解項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が・誰に | 土地の第一買主が、背信的悪意者である第二買主からさらに買い受けた転得者に対して所有権を主張 |
| 何を主張したか | 「第二買主が背信的悪意者である以上、そこから買い受けた転得者も背信的悪意者として扱われ、自分(第一買主)に対抗できないはずだ」という主張 |
| 論点 | 背信的悪意者からの転得者は、当然に背信的悪意者として扱われるのか |
| 結論 | 転得者は、第一買主との関係で転得者自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、所有権取得を第一買主に対抗できる |
| 理由 | 背信的悪意者が177条の「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で個別・相対的に判断されるべき事柄だから(相対的構成) |
A・B・C・Dと登場人物が4人に増えても、判定の物差しは変わりません。「Cが背信的悪意者だから、Dも自動的に同じ扱いになる」と短絡的に考えるのではなく、Dについて改めて、Dが第一買主との関係で背信的悪意者にあたるかどうかを個別に判定するという「相対的構成」の考え方は、登場人物が増えるほど重要になります。
難解表現の言い換え対応表
判例特有の言い回しは、日常語に置き換えると格段に理解しやすくなります。
| 判例でよく見る表現 | 日常語での言い換え |
|---|---|
| 対抗することができない | 相手に対して優先を主張できない(勝てない) |
| 第三者に該当しない | 保護してもらえる側の仲間に入れない |
| 正当な利益を有しない | 保護してあげるべき理由がない |
| 信義則に反する | ずるいやり方だから許さない、という考え方 |
| 類推適用する | 本来その条文が想定した場面ではないが、状況が似ているので同じルールを当てはめる |
| 相対的構成 | 同じ人物でも、比べる相手が違えば勝ち負けの結論も変わるという考え方 |
| 善意でかつ過失がない | 知らなかった、しかも普通に注意していても気づけなかった |
| 帰責性 | そのような状況を生み出してしまった原因・責任 |
| 法意 | 条文そのものの文言ではなく、その条文が目指している考え方・趣旨 |
| 法律上の利害関係を有する | その出来事によって、自分の権利や義務に影響を受ける立場にある |
第4部 演習問題15問
ここまでの手順(図にする・善意悪意を4ステップで判定する・判例を分解して読む)を使って解けるように作った、オリジナルの演習問題15問です。登場人物が3人以上になる問題を中心に構成しています。各問題の選択肢をタップすると、解答・解説が表示されます(消去法で選択肢に打ち消し線を引くこともできます)。
なお、本問題集は筆者(当サイト)が独自に作成した予想問題であり、実際の試験問題の的中や出題を保証するものではありません。過去問の文言はそのまま用いず、論点のみを参考にオリジナルで作問しています。法令は令和8年4月1日現在施行されているもの(令和2年4月1日施行の債権法改正、令和8年4月1日施行の住所等変更登記の義務化を含む)を基準にしていますが、受験にあたっては最新の法令・公式発表を必ずご確認ください。
問1 二重譲渡と対抗要件の基本
Aが所有する甲土地を、Aは先にBに売却したが、Bは登記を備えないままでいた。その後、AはBへの売却の事実を伏せたまま、同じ甲土地をCにも売却し、Cが先に所有権移転登記を備えた。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- Bは、Aと契約を締結した時点がCより早いため、登記の先後にかかわらずCに優先して所有権を主張できる。
- Cは、Aとの契約締結がBより後であっても、先に登記を備えた以上、原則としてBに優先して所有権を主張できる。
- Bは、Cが登記を備える前にAから甲土地の引渡しを受けていれば、登記がなくてもCに対抗できる。
- Aは甲土地を二重に売却しているため、Aと締結した売買契約はB・Cのいずれについても無効であり、両者とも所有権を取得できない。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。契約締結の先後は所有権の優劣を直接決める基準ではありません。不動産の物権変動については、原則として登記の先後によって優劣が決まります(民法177条)。
2が正しい記述です。Cは契約締結がBより後であっても、先に登記を備えている以上、原則としてBに優先して所有権を主張できます(177条)。
3は誤りです。不動産の対抗要件は登記であり、引渡しを受けているだけでは、登記を備えたCに対抗することはできません。
4は誤りです。AB間・AC間の各売買契約は、いずれも当事者間では有効に成立しています。無効になるわけではなく、登記の先後によってB・Cのどちらが所有権の取得を第三者に対抗できるかが決まる問題です。
契約の先後(時系列)と登記の先後(対抗要件)は別の軸だという点は、第1部の図で確認したとおりです。
問2 背信的悪意者の判定
Aが所有する乙土地について、Aは先にBに売却したが、Bは登記を備えていなかった。Cは、BがAから乙土地を買い受けていた事実を知りながら、Bを困らせる目的で、Aから重ねて乙土地を買い受け、Bより先に所有権移転登記を備えた。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- Cは、Bが先に契約していたことを知っていた(悪意)という事情は、それ単独で177条の第三者に該当しなくなる理由となる。
- Cが先に登記を備えている以上、Cの主観的な事情にかかわらずBはCに所有権を対抗することができない。
- Cが単なる悪意者にとどまらず、Bを害する目的で先に登記を備えたと評価される場合には、Cは177条の第三者に該当せず、Bはこれに対抗することができる。
- Cが背信的悪意者と評価される場合、Bは、Cの承諾を得ることなくAから直接Bへの所有権移転登記の手続を単独で行うことができる。
解答・解説
正答は3です。
1は誤りです。単なる悪意(Bが先に契約していたことを知っていただけ)にとどまる限り、Cは177条の第三者に該当しなくなるわけではありません。悪意者であっても登記を備えれば原則として保護されます。
2は誤りです。Cが背信的悪意者と評価される場合は、登記を備えていてもBに対抗できないという例外があります。
3が正しい記述です。Bを害する目的で先回りして登記を備えたと評価されるような背信的悪意者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有せず、177条の第三者に該当しないため、Bに対抗できません(最判昭和43年8月2日)。
4は誤りです。Cが背信的悪意者としてBに対抗できないとしても、登記手続は共同申請が原則であり、Bが単独でAから直接Bへの移転登記手続を行えるわけではありません。
「悪意」と「背信的悪意」は別物です。知っていただけでは足りず、信義則に反すると評価される事情(相手を害する目的で先回りする等)が必要という点を押さえておきましょう。
問3 背信的悪意者からの転得者(相対的構成)
Aが所有する丙土地について、AはBに売却したが、Bは登記を備えていなかった。Cは、Bとの関係で背信的悪意者と評価される事情のもとで、Aから重ねて丙土地を買い受け、登記を備えた。その後、Cはこの丙土地をDに売却し、Dが登記を備えた。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- Cが背信的悪意者である以上、Cから丙土地を買い受けたDも当然に背信的悪意者として扱われ、Bに対抗できない。
- Dは、B・C間の事情にかかわらず、登記を備えている以上、当然にBに優先して所有権を主張できる。
- Dが所有権取得をBに対抗できるかどうかは、CがBとの関係で背信的悪意者であるかとは別に、D自身がBとの関係で背信的悪意者と評価されるかどうかによって判断される。
- Cが背信的悪意者としてBに対抗できない以上、Cは無権利者であるから、Dは無権利者からの譲受人として所有権を取得できない。
解答・解説
正答は3です。
1は誤りです。Cが背信的悪意者であることから、転得者Dも当然に背信的悪意者として扱われるわけではありません。
2も誤りです。Dが登記を備えていれば当然にBに優先するわけではなく、Dについて個別の判定が必要です。
3が正しい記述です。背信的悪意者からの転得者が177条の第三者として保護されるかどうかは、Cについての判断とは切り離し、D自身がBとの関係で背信的悪意者と評価されるかどうかによって、個別・相対的に判断されます(最判平成8年10月29日、相対的構成)。
4は誤りです。背信的悪意者であるCは、Bとの関係で登記の欠缺を主張できないにとどまり、丙土地について無権利者になるわけではありません。したがって、Dが無権利者からの譲受人として一律に所有権を取得できないということにはなりません。
登場人物がA・B・C・Dの4人に増えても、「Dについて改めて個別に判定する」という物差し自体は変わらないという点が、この判例(相対的構成)の核心です。
問4 94条2項類推適用と第三者の範囲
Aは、自己が所有する丁土地について、友人Bに頼んで登記名義をB名義にしてもらい、その後もB名義のままにしておくことを承認していた(AB間に、通謀による虚偽表示が成立していたとまでは認められない事案とする)。Bは、事情を知らないCにこの丁土地を売却した。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 94条2項が直接適用されるためにはAB間に通謀虚偽表示が成立していることが必要であり、本問のようにAが不実の登記の作出を承認したにとどまる場合は、94条2項の類推適用が問題となるにとどまる。
- Aが不実の登記の作出に関与しておらず、事後に気づいて直ちに是正を求めていた場合であっても、Cが善意であれば94条2項が類推適用されてAはCに対抗できなくなる。
- 94条2項が類推適用される場面では、Cの主観的要件は善意で足り、無過失までは求められないとするのが判例の一貫した立場である。
- Cが善意でかつ無過失であったとしても、Aが不実の登記の作出に何らかの形で関与していない限り、94条2項が類推適用されることはあり得ない。
解答・解説
正答は1です。
1が正しい記述です。94条2項が直接適用されるにはAB間の通謀(意思の合致)による虚偽表示が必要です。本問のようにAが不実の登記の作出を承認したにとどまる場合は、94条2項を類推適用できるかどうかが問題となります。
2は誤りです。Aが不実の登記の作出に関与しておらず、むしろ是正を求めていたような場合は、Aに帰責性が乏しく、94条2項の類推適用は認められにくくなります。
3は誤りです。94条2項が類推適用される場面でCに無過失まで求められるかどうかは、外観作出へのAの関与の程度など事案の類型によって異なり、常に善意のみで足りるわけではありません。
4は誤りです。Aが不実の登記の作出に積極的に関与していなくても、その存在を知りながら長期間放置していたなど、承認・黙認にとどまる関与でも類推適用が問題となり得ます。「関与していない限りあり得ない」という言い切りは要件を狭めすぎています。
94条2項類推適用は、条文の文言どおりの場面ではないのに同じ結論を導く「類推」の代表例です。第3部の言い換え対応表もあわせて確認してください。
問5 詐欺による取消しと第三者保護(改正論点)
BはAをだまして、Aが所有する戊土地をBに売却させた(詐欺による意思表示)。Bはその後、この戊土地を、事情を知らないCに転売した。Aは、Bの詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消した。令和2年4月1日施行の債権法改正後の規定に照らした記述として、最も適切なものはどれか。
- Cが取消し前に戊土地を取得していた場合、Cが善意でありさえすれば、過失の有無を問わずAは取消しをCに対抗できない。
- Cが取消し前に戊土地を取得していた場合、Cが善意であっても過失があれば、Aは取消しをCに対抗することができる。
- 令和2年の改正によって、詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者だけでなく悪意の第三者に対しても対抗できないこととされた。
- 詐欺による意思表示の取消しは、第三者の善意・悪意にかかわらず、Aはその第三者に対抗することができる。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。令和2年4月1日施行の改正により、96条3項の第三者保護要件は「善意」から「善意でかつ過失がない」ことに変更されました。善意であっても過失があれば保護されません。
2が正しい記述です。改正後の96条3項により、Cが善意でも過失があれば第三者として保護されず、Aは取消しをCに対抗できます。
3は誤りです。改正の内容は、保護される第三者の主観的要件を善意から善意無過失へと厳格化(絞り込む方向)にしたものであり、悪意の第三者にまで保護対象を広げたものではありません。
4は誤りです。詐欺による取消しには96条3項という第三者保護規定があり、善意無過失の第三者にはAは取消しを対抗できません。悪意・善意を問わないとする点が誤りです。
96条3項の「善意」から「善意でかつ過失がない」への変更は、令和8年度試験でも狙われやすい改正論点です。次の問6で扱う強迫との対比とあわせて押さえておきましょう。
問6 強迫による取消しとの比較
BはAを強迫して、Aが所有する己土地をBに売却させた(強迫による意思表示)。Bはその後、この己土地を、事情を知らないCに転売した。Aは、Bの強迫を理由にAB間の売買契約を取り消した。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 強迫による意思表示の取消しについても、詐欺の場合と同様に、Cが善意無過失であれば、AはCに対抗できない。
- 強迫による意思表示は、詐欺による意思表示と異なり第三者保護規定(96条3項)の適用対象とされていないため、Aは、Cの善意・悪意にかかわらず取消しをCに対抗することができる。
- 強迫による意思表示は取り消すことができない意思表示であり、はじめから無効であるため、Aは取消しの意思表示をすることなく所有権を回復する。
- Cが強迫の事実を知らずに己土地を取得した善意の第三者である場合、Cは民法192条の即時取得によって己土地の所有権を取得する。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。96条3項の第三者保護規定は詐欺の場合に適用されるものであり、強迫の場合には適用されません。
2が正しい記述です。強迫による取消しには詐欺のような第三者保護規定がなく、Aは第三者の善意・悪意にかかわらず取消しを対抗できます。強迫の被害者は詐欺の被害者よりも帰責性が乏しいと考えられているためです。
3は誤りです。強迫による意思表示は無効ではなく、取り消すことができる行為(取消権の対象)です。取消しの意思表示をして初めて効果が生じます。
4は誤りです。即時取得(192条)は動産の取引について適用される制度であり、土地のような不動産には適用されません。
詐欺は96条3項による第三者保護があるのに対し、強迫にはこの保護規定がありません。「だまされた側より、脅された側のほうが手厚く保護される」という理由づけとあわせて覚えておくと定着しやすくなります。
問7 制限行為能力者の取消しと第三者
未成年者Aは、法定代理人の同意を得ずに、自己が所有する庚土地をBに売却した。Bはこれを、事情を知らないCに転売した。その後、Aの法定代理人は、AB間の売買契約を制限行為能力を理由に取り消した。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 未成年者の行為能力の制限による取消しについても、詐欺による取消しと同様に、善意の転得者Cを保護する明文の規定が置かれているため、Aは取消しをCに対抗できない。
- 制限行為能力を理由とする取消しには、詐欺の場合のような善意の第三者保護規定は設けられておらず、Cが善意であっても、Aは原則として取消しをCに対抗することができる。
- 未成年者Aが法定代理人の同意を得ずに行った売買契約は、取消しの意思表示を要せず、契約時に遡って当然に無効である。
- Bが背信的悪意者に該当するかどうかによって、Aが取消しをCに対抗できるかどうかが決まる。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。制限行為能力を理由とする取消しについては、詐欺(96条3項)や錯誤(95条4項)のような善意の第三者保護規定は設けられていません。
2が正しい記述です。制限行為能力による取消しには第三者保護規定がないため、Cが善意であっても、Aは原則として取消しの効果をCに対抗できます。
3は誤りです。制限行為能力を理由とする行為も取消しうる行為であり、当然に無効になるわけではなく、取消しの意思表示によって初めて遡及的に無効となります。
4は誤りです。背信的悪意者の法理は177条の対抗関係(登記の先後が問題となる場面)で用いられる判断枠組みであり、制限行為能力による取消しの場面とは異なる論点です。
制限行為能力者の保護は、取引の安全(善意の第三者の保護)よりも優先される場面が多いという点で、詐欺・錯誤とは対照的です。
問8 代理の基本と顕名
Aは、自己が所有する建物の売却についてBに代理権を与えた。Bは、相手方Cとの間でこの建物の売買契約を締結した。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- Cとの売買契約の効果は、いったんBに帰属した後、BからAへ改めて譲渡されることによってAに移転する。
- Bが本人Aのためにすることを示さずに(顕名なしに)Cと契約した場合であっても、Cがその事情(Bが代理人としてすることを知っていた等)を知っていたときは、その契約の効果は直接Aに帰属する。
- Bが代理権を有する限り、Cとの契約の効果をAに帰属させるかBに帰属させるかは、Bが自由に選択することができる。
- 代理権の授与は、AB間の書面による契約によって行う場合に限り効力を生じ、口頭による授与は効力を生じない。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。代理行為の効果は、Bを経由することなく直接Aに帰属します(99条1項)。
2が正しい記述です。代理人が本人のためにすることを示さない(顕名しない)でした意思表示は、原則として代理人自身のためにしたものとみなされますが、相手方がその事情を知り、又は知ることができたときは、本人に対して効力を生じます(100条ただし書)。
3は誤りです。契約の効果の帰属先は、Bが自由に選べるものではなく、顕名の有無や相手方の認識といった要件によって決まります。
4は誤りです。代理権の授与に書面が必要という要式性は定められておらず、口頭による授与でも効力を生じます。
この問題は、代理の基本構造(第1部)と、善意・悪意の判定手順(第2部)がどちらも関わる典型例です。「相手方が知っていたかどうか」で結論が変わる場面は、まさに善意・悪意の判定手順がそのまま使えます。
問9 無権代理と表見代理
Bは、Aから何らの代理権も与えられていないにもかかわらず、A本人の代理人と称して、相手方Cとの間でA所有の土地の売買契約を締結した。Cは契約締結時、Bに代理権がないことを知らず、そのことについて過失もなかった。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- Bに代理権がない以上、Cが善意無過失であっても、この契約の効果がAに帰属することはない。
- Aが過去にBへ全く別の事項について代理権を与えていた事実があり、CがBの代理権の範囲についてそのように信じたことに正当な理由がある場合には、権限外の行為の表見代理(110条)が成立し、契約の効果がAに帰属することがある。
- 無権代理行為は、本人Aの追認がなくても、契約締結時に遡って当然にAに対して効力を生じる。
- Cは、Bに代理権がないことを知らなかった以上、Aが追認を拒絶した場合、Bに対して履行又は損害賠償の請求をすることはできない。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。基本代理権の存在など一定の要件を満たせば、表見代理が成立して契約の効果がAに帰属することがあります。
2が正しい記述です。Bに何らかの基本代理権があり、Cが代理権の範囲について信じたことに正当な理由(無過失)がある場合には、権限外の行為の表見代理(110条)が成立し得ます。
3は誤りです。無権代理行為は、本人の追認がなければ本人に対して効力を生じないのが原則です(113条1項)。
4は誤りです。無権代理の相手方Cが善意無過失であり、本人Aが追認を拒絶した場合、Cは無権代理人Bに対して履行又は損害賠償の請求をすることができます(117条)。
表見代理の成立要件(基本代理権の存在+相手方の善意無過失=正当な理由)は、第2部の判定手順(誰の・何についての善意無過失かを特定する)がそのまま当てはまる場面です。
問10 復代理
Aは、自己が所有する土地の売却についてBに代理権を与えた。Bは、やむを得ない事由があったため、Aの許諾を得てCを復代理人として選任した。Cは、本人Aのためにすることを示して、相手方Dとの間で売買契約を締結した。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 復代理人Cが締結した契約の効果は、いったんBに帰属した後、BからAに移転する。
- 復代理人Cは、本人Aの代理人であるとともに、Bの代理人でもある地位を兼ねる。
- Bは、復代理人Cを選任した後は、自らの代理権を失い、以後A・D間の契約に関与する余地がなくなる。
- Cは、復代理人として、Bの代理権の範囲内で、直接Aを代理してDと契約を締結することができる。
解答・解説
正答は4です。
1は誤りです。復代理人Cが締結した契約の効果は、Bを経由せず直接Aに帰属します。
2は誤りです。復代理人はあくまで本人Aの代理人であり、代理人Bの代理人という地位を兼ねるものではありません。
3は誤りです。Bが復代理人Cを選任しても、B自身の代理権は消滅せず存続します。復代理人の選任は、Bの代理権に加えてCの代理権が新たに生じるものです。
4が正しい記述です。復代理人Cは、本人Aの代理人として、Bの代理権の範囲内で直接Aを代理し、Dと契約を締結することができます。
登場人物がA・B・C・Dの4人になっても、「効果は誰に帰属するか」という図の型(第1部)を使えば整理しやすくなります。復代理人Cからの矢印は、Bを経由せず直接Aに向かう、と覚えておきましょう。
問11 借地上の建物登記による対抗要件
Aが所有する辛土地をBに賃貸し(建物所有目的の借地権)、Bはこの土地の上に自己名義で登記した建物を所有している。その後、AはこのB所有建物が存する辛土地をCに譲渡した。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- Bは、土地の賃借権について登記を備えていない限り、自己名義の建物の登記があっても、Cに賃借権を対抗することができない。
- Bは、その借地上に自己名義で登記した建物を有していれば、土地の賃借権について登記を備えていなくても、Cに対して賃借権を対抗することができる。
- Bが所有する建物の登記名義が、B自身ではなくBの家族など他人の名義であっても、Cに対して土地の賃借権を対抗することができる。
- 借地上の建物についての登記は、所有権保存登記でなければならず、表示登記では対抗要件として認められない。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。借地借家法10条1項により、借地上に借地権者名義で登記された建物を所有していれば、土地の賃借権自体について登記を備えていなくても、賃借権を第三者に対抗できます。
2が正しい記述です。借地上の自己名義の建物の登記が、土地の賃借権の対抗要件として機能します(借地借家法10条1項)。
3は誤りです。判例上、建物の登記名義は借地権者自身のものでなければならず、家族など他人名義の登記では対抗要件として認められません(最大判昭和41年4月27日)。
4は誤りです。借地上の建物の登記は、所有権保存登記に限られず、建物の表示登記でも対抗要件として認められます(最判昭和50年2月13日)。
「建物名義は借地人本人でなければならない」「表示登記でもよい」という2つの判例のポイントは、セットで狙われやすい論点です。
問12 賃貸人たる地位の移転
Aが所有する建物をBに賃貸し、Bは引渡しを受けて居住しており、対抗要件を備えている。その後、AはこのB居住建物をCに譲渡した。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 賃貸人たる地位がAからCに移転するためには、AC間の合意に加えて、Bの承諾が必要である。
- 対抗要件を備えたBの賃借権がある場合、AC間で賃貸人たる地位の移転について特段の合意をしなくても、賃貸人たる地位は原則としてCに移転する。
- AC間で、賃貸人たる地位をAに留保する旨、及びこの建物をCがAに賃貸する旨の合意をした場合であっても、賃貸人たる地位は当然にCに移転し、AC間の合意によってこれを覆すことはできない。
- 賃貸人たる地位がCに移転した場合であっても、Bから預かっていた敷金の返還債務はAに残り、Cに承継されることはない。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。対抗要件を備えた賃貸不動産の所有権が移転した場合、賃貸人たる地位の移転にBの承諾は不要です(605条の2第1項)。
2が正しい記述です。対抗要件を備えたBの賃借権がある以上、AC間で特段の合意をしなくても、賃貸人たる地位は原則としてCに移転します(605条の2第1項)。
3は誤りです。AC間で、賃貸人たる地位をAに留保し、この建物をCがAに賃貸する旨を合意したときは、賃貸人たる地位はCに移転しません(605条の2第2項)。
4は誤りです。賃貸人たる地位がCに移転したときは、敷金の返還債務もCに承継されます(605条の2第4項)。
605条の2は、もともと判例が積み重ねてきたルールを令和2年4月1日施行の債権法改正で明文化したものです。「賃借人の承諾は不要」「留保の合意も可能」という2点をセットで押さえておきましょう。
問13 転貸借の効果
Aが所有する建物をBに賃貸し、BはAの承諾を得てこの建物をCに転貸した(適法な転貸借)。原賃貸借の賃料は月額10万円、転貸借の賃料は月額8万円である。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- Aは、Cに対して、転貸借契約に基づく賃料として月額10万円を直接請求することができる。
- Aは、Cに対して、原賃貸借と転貸借のうちいずれか低い額である月額8万円を限度として、転貸借に基づく債務の履行を直接請求することができる。
- Cは、Bに対して転貸借の賃料をあらかじめ前払いしていれば、その前払いをもってAに対抗することができる。
- 原賃貸借が期間の満了により終了する場合、Aは、転借人Cへの通知を要せず、その終了をCに対抗することができる。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。Aが転借人Cに直接請求できる範囲は、原賃貸借に基づく賃借人Bの債務の範囲を限度とします。原賃貸借の賃料10万円のほうが転貸借の賃料8万円より高い場合でも、Aは転貸借の賃料8万円を超えて請求することはできません。
2が正しい記述です。Aは、原賃貸借と転貸借のうちいずれか低い額を限度として、Cに直接履行を請求できます(613条1項)。
3は誤りです。転貸借に基づく賃料の前払いをもって、Aに対抗することはできません(613条1項後段)。
4は誤りです。建物の転貸借がされている場合、原賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときは、賃貸人Aは、その旨を転借人Cに通知しなければ、その終了をCに対抗できません(借地借家法34条1項)。
613条1項の「低い方の額を限度に」という部分は、A・B・Cそれぞれの賃料額を書き出して比べないと見落としやすいポイントです。
問14 相続と対抗要件・住所等変更登記の義務化
甲が死亡し、その相続人は子であるAとBの2名(法定相続分は各2分の1)である。Aは、遺産分割前に、甲の遺産である不動産の全部を自己が単独で相続したものとする内容の登記をしたうえで、この不動産をCに売却し、移転登記も済ませた。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- Bは、自己の法定相続分である2分の1の持分については、登記を備えなくてもCに対抗することができる。
- Bは、Aが不動産全部を単独で相続した旨の登記をしてCに売却した以上、自己の法定相続分についても、登記を備えなければCに対抗することができない。
- Bの法定相続分を超える部分(遺産分割等でBが追加的に取得する部分)についても、Bは登記を備えなくてもCに対抗することができる。
- 令和8年4月1日施行の住所等変更登記の義務化は、相続によって取得した持分についての登記の対抗要件を不要にするものであり、Bは今後、登記をしなくてもあらゆる第三者に対抗できるようになる。
解答・解説
正答は1です。
1が正しい記述です。相続による権利の承継は、法定相続分の範囲内であれば、登記を備えなくても第三者に対抗することができます(899条の2第1項)。
2は誤りです。法定相続分の範囲内は登記なくして対抗できるという原則を否定しており、誤りです。
3は誤りです。法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができません(899条の2第1項)。
4は誤りです。令和8年4月1日施行の住所等変更登記の義務化は、不動産の所有権登記名義人に住所・氏名の変更登記を義務付ける改正であり、相続による権利承継の対抗要件(899条の2)の仕組みを変更するものではありません。
相続登記の義務化(令和6年4月1日施行)と、住所等変更登記の義務化(令和8年4月1日施行)は、対象も内容も異なる別々の改正です。この2つを混同しないようにしましょう。
問15 即時取得と対抗要件の違い
Aは自己が所有する絵画をBに預けていたところ、Bはこの絵画を無断で自己の物としてCに売却し、引き渡した。Cは、Bが真の所有者ではないことを知らず、そのことについて過失もなかった。この場合に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 絵画は不動産ではなく動産であるため、Cの所有権取得の可否は民法177条の対抗要件の問題として処理され、Cが先に引渡しを受けている以上、Aに優先する。
- Cが、平穏に、公然と、善意で、かつ過失なく絵画の占有を取得した場合には、Cは即時にその絵画について行使する権利を取得する。
- Aは、Bに絵画を預けていたにすぎず所有権を失っていないため、Cが即時取得の要件を満たしていた場合でも、Aは絵画の返還をCに請求することができる。
- 即時取得が成立するためには、Cが有償で絵画を取得したことに加えて、AB間の寄託契約の存在についても善意無過失であったことが必要である。
解答・解説
正答は2です。
1は誤りです。177条は不動産の物権変動の対抗要件に関する規定です。本問は無権利者Bからの動産の取得の問題であり、即時取得(192条)の要件を満たすかどうかで処理されます。
2が正しい記述です。平穏・公然・善意・無過失で動産の占有を取得した者は、即時にその動産について行使する権利を取得します(192条)。
3は誤りです。Cが即時取得の要件を満たしていれば、Cは確定的に所有権を取得し、Aは所有権を失うため、Aは絵画の返還をCに請求することはできません(本問はBに預けていた物であり、盗品・遺失物の特則(193条)が適用される場面でもありません)。
4は誤りです。即時取得の要件は取引行為による占有の取得と平穏・公然・善意・無過失であり、有償性やAB間の内部関係(寄託契約の存在)についての認識は要件ではありません。
即時取得(動産・192条)と対抗要件(不動産・177条)は、対象物の種類がそもそも異なるという点を、第1部・第2部の型を使って最初に切り分けておくと、選択肢を読み違えにくくなります。
まとめ
- 権利関係でつまずく原因の多くは、知識不足そのものより「登場人物が増えると関係を保持できない」「善意・悪意の判定基準があいまい」「判例文を分解せずに読んでいる」という3つの読み方の問題にある
- 登場人物が増えたら、丸・矢印・時系列の数字・対抗要件タグという共通の型で図に描き起こすと関係を整理しやすい
- 善意=知らないこと、悪意=知っていることであり、道徳の善悪とは無関係。「誰の・何についての・いつの時点の善意悪意か」「無過失まで必要か」の4ステップで機械的に判定する
- 判例は「誰が・誰に対して・何を主張して・裁判所がどちらを勝たせたか・なぜか」に分解すると読みやすくなる
- 詐欺(96条3項)は令和2年4月1日施行の改正で第三者保護の要件が「善意」から「善意でかつ過失がない」に変更されており、強迫にはそもそも同様の第三者保護規定がない
- 令和8年4月1日には住所等変更登記の義務化が施行されるが、これは相続の対抗要件(899条の2)とは別の改正であり、混同しないよう注意する
学習の進め方
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 図の型を身につける | 丸・矢印・時系列の数字・対抗要件タグの4つのルールだけを使い、二重譲渡・代理・転貸借以外の問題でも自分で図を描く練習をする |
| 2. 善意悪意の4ステップを繰り返す | 過去問や本ドリルの問題を解くたびに「誰の・何を・いつの時点で・無過失も必要か」を順番に確認する癖をつける |
| 3. 判例は分解してから覚える | 判例集の文章を丸暗記せず、「誰が・誰に・何を主張し・どちらが勝ち・なぜか」の5項目に自分で分解してからまとめ直す |
| 4. 改正論点は一次資料で確認する | 詐欺・錯誤の第三者保護要件(令和2年改正)、住所等変更登記の義務化(令和8年4月1日施行)など、直近の改正点はe-Gov法令検索や法務省の公表資料で最新の条文を確認する |
| 5. 演習で手順を使い切る | 第4部の15問を、答えを覚えるのではなく、図・判定手順・分解法を実際に使いながら解き直す |
法令の具体的な条文番号・施行日は改正によって見直されることがあるため、学習の最終段階では必ずe-Gov法令検索や国土交通省・法務省の公表資料で最新の内容を確認してください。
免責事項
- 本記事の演習問題はすべて筆者が独自に作成した予想問題であり、実際の宅建試験問題の的中や出題を保証するものではありません。
- 作問にあたっては、過去問の文言をそのまま転載せず、公開されている出題傾向・論点のみを参考にしています。
- 法令は改正されることがあります。本記事の内容は執筆時点の情報に基づくものであり、最新の法令・制度については法務省・国土交通省や実施団体(一般財団法人 不動産適正取引推進機構)などの一次情報を必ずご自身で確認してください。
- 判例の要旨は、公表されている判決文・解説記事をもとに筆者が要約したものであり、実際の判決文の引用ではありません。正確な内容は判例集の原文でご確認ください。
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