店舗(飲食店)をもつ事務所ビルの設備計画|低層の店舗と上層オフィスをどう両立するか
結論から言うと、低層に飲食店舗、上層に事務所を積み重ねる複合用途ビルの設備計画で最初に押さえるべきは、「同じ1棟でも、低層階と上層階ではまったく別の建物だと考えて設備を分けて計画する」という発想です。飲食店舗は営業時間が長く夜間まで及ぶこと、厨房から大量の排気と臭気・油煙が出ること、水回りの負荷が大きいことが特徴です。一方の事務所は昼間の執務時間帯に負荷が集中し、OA機器の発熱はあっても水や臭気の負荷はほとんどありません。この性格の違う2つの用途を1本の幹線・1系統の空調でまとめてしまうと、必ずどちらかに無理が生じます。
この記事では、事務所ビルの設備計画で解説したオフィス側の考え方と、商業施設・複合施設の設備計画で解説したテナント対応の考え方を土台にしながら、低層店舗と上層事務所を1棟に納めるときに特有の論点――系統分離、臭気遮断、グリストラップ、避難計画――を基本設計段階の実務目線で整理します。厨房設備そのものの詳細は特殊設備(厨房・浴場・プールろ過)に譲ります。
低層店舗と上層オフィス、要求はここまで違う
低層に飲食店舗、上層に事務所を重ねる建物は、見た目は1棟のビルでも、用途としては性格の異なる2つの建物が縦につながっていると捉えるのが実務上の基本です。
- 営業時間帯が違う:事務所は概ね日中の執務時間帯に人と機器の負荷が集中し、夜間・休日はほぼ無人になります。一方、飲食店舗は昼の営業に加えて夜間営業を行う店も多く、深夜まで空調・換気・電気を稼働させる必要が生じます。
- 換気量の桁が違う:事務所の換気は在室人数に応じた一般的な外気量で足りますが、厨房を持つ飲食店舗では加熱調理に伴う大量の給排気が必要で、必要換気量が事務所フロアとは桁違いに大きくなります。
- 臭気・油煙・熱・騒音の発生源になる:厨房排気には油煙や臭気が含まれ、フライヤーや火気からの発熱、換気扇・冷却機器からの騒音も伴います。これらが上階の事務所や周辺環境に影響しないよう遮断する計画が欠かせません。
- 水回りの負荷が違う:飲食店舗は調理・洗浄のための大量の給排水があり、油分を含む排水を処理するグリストラップ(厨房排水中の油脂・生ゴミを分離してから下水に流す装置)が必須です。事務所側は湯沸室程度の軽微な給湯にとどまります。
- 電力・ガスの容量が違う:厨房機器やガス機器は大きな電力・ガス容量を必要とし、事務所フロアの一般的な電力密度とは別枠で幹線を確保する必要があります。
低層店舗と上層事務所の要求比較
| 項目 | 低層の飲食店舗 | 上層の事務所 |
|---|---|---|
| 稼働時間帯 | 昼〜深夜まで長時間・夜間営業もあり | 概ね日中の執務時間帯に限定 |
| 換気量 | 厨房排気を含み大量(局所排気+一般換気) | 在室人数に応じた一般的な外気量 |
| 排水の特徴 | 油分・生ゴミを含む厨房排水(グリストラップ必須) | トイレ・湯沸室程度の一般排水 |
| 電力・熱源 | 厨房機器・冷凍冷蔵で大容量、ガスも多用 | OA機器中心で比較的平準化された負荷 |
| 主な計画課題 | 臭気・煙・騒音・振動の遮断、搬入動線 | OA負荷への対応、レイアウト変更への柔軟性 |
このように性格の異なる2つの用途を無理に一体化させず、系統・経路・管理区分をできる限り分離しておくことが、複合用途ビルの設備計画で最初に決めるべき方針になります。
空調・熱源計画:系統分離と個別空調・子メーター
低層の飲食店舗と上層の事務所では、空調負荷の性質も稼働時間もまったく異なるため、熱源・空調系統を店舗用と事務所用で分けて計画するのが基本の考え方です。
- 系統分離の理由:事務所が休止する夜間に飲食店舗だけを営業させたい場合、系統が共通だと店舗のためだけに事務所フロア分の熱源機器まで稼働させることになり、著しく非効率です。系統を分けることで、営業していない側の設備を止めておくことができます。
- 個別空調+子メーター:飲食店舗はテナントとして入居するケースが多く、商業施設・複合施設の設備計画で触れた個別分散方式(ビル用マルチエアコン等)と子メーター(テナントごとの使用量計測)による課金がここでも有効です。営業時間・使用電力が事務所とは大きく異なるため、テナント単位で費用負担を分けられる仕組みが実務上望まれます。
- テナント入替えへの余裕:飲食店舗は数年単位で業態が入れ替わることが珍しくありません。次に入るテナントの厨房規模が変わっても対応できるよう、空調・熱源・電気容量にあらかじめ余裕を持たせておくことが実務上のポイントです。熱源設備全体の考え方は熱源設備計画(蓄熱式・省エネ)を参照してください。
空調・熱源系統の分け方
| 系統 | 対象 | 考え方 |
|---|---|---|
| 店舗系統 | 低層の飲食店舗フロア | 個別分散方式+子メーターで営業時間・使用量に応じた運用 |
| 事務所系統 | 上層の執務フロア | ペリメータ・インテリアゾーニングを基本とした一般的な事務所空調 |
| 共用部系統 | エントランス・共用廊下・エレベーターホール等 | ビル管理者が一括管理し、両用途の稼働状況に左右されにくい計画とする |
熱源機器や配管の系統図の描き方については配管系統図の基礎(空調)にまとめていますので、あわせてご覧ください。
換気と臭気対策:厨房排気と上階への遮断
低層店舗をもつ事務所ビルで最も特有性の高い論点が、厨房から発生する排気・臭気・油煙をどう処理し、上階の事務所や周辺に影響させないかという点です。
- 給排気バランス:厨房内は、フードから排気する量に対して、給気(外から新鮮な空気を取り入れる量)が不足すると室内が負圧になり、扉の開閉が重くなったり、他の排気系統から臭気が逆流したりする不具合が起こります。給気と排気の風量バランスを取ることが厨房換気計画の基本です。
- 上階への臭気・煙の遮断:厨房の排気ダクトは、油煙や臭気を含んだまま上階の事務所フロアや外部に放出しないよう、グリスフィルター(油分を捕集するフィルター)や排気ファンの位置、ダクトの気密性に配慮する必要があります。特に上層に事務所が乗る構成では、厨房排気ダクトが事務所の外気取入れ口や開口部に近接しないよう経路を計画することが重要です。
- 排気ルート(縦シャフト)の確保:低層の厨房から屋上まで排気を導く場合、建物を縦に貫く排気シャフト(設備配管・ダクトを通す竪穴区画)が必要になります。このシャフトは事務所フロアを経由することが多いため、防火区画・防煙区画としての性能を確保しつつ、メンテナンス経路も合わせて計画します。
- 臭気対策の追加手段:脱臭装置や活性炭フィルターの設置、排気口の位置・高さの工夫(隣接する開口部や近隣建物からできるだけ離す)なども、実際の敷地条件に応じて検討されます。
厨房まわりの給排気・グリスフィルターなどの詳細な機器構成は特殊設備(厨房・浴場・プールろ過)で解説していますので、あわせて参照してください。事務所フロア側の一般的な換気の考え方は換気の基礎(第1〜3種・24時間換気)をご覧ください。
給排水計画:グリストラップと受水槽・給水方式
給排水設備も、低層店舗と上層事務所で求められる水準が大きく異なります。
- グリストラップの設置:厨房からの排水には油脂分や生ゴミが含まれるため、そのまま下水に流すと配管の詰まりや悪臭の原因になります。グリストラップで油脂・固形物を分離してから排水する計画が必須で、定期的な清掃・維持管理がしやすい位置に設置することも実務上重要です。
- 事務所側の給湯:上層の事務所フロアは、各階の湯沸室・給茶室向けの小規模な給湯設備が中心で、厨房のような大量給湯は基本的に想定しません。
- 受水槽・給水方式:ビル全体としては、店舗の大量使用と事務所の平準化した使用を合わせた給水量を見込んで、受水槽方式や増圧直結方式などの給水方式を選定します。飲食店舗の使用水量は営業時間帯に集中しやすいため、ピーク時の水圧・水量が不足しないよう配管サイズやポンプ容量に余裕を持たせることが求められます。
- 系統の分離:厨房系統の排水は、事務所フロアの雑排水・汚水系統とできるだけ別系統にしておくと、詰まりや臭気トラブルが起きた際の原因特定・補修がしやすくなります。
給排水の負荷比較
| 項目 | 低層の飲食店舗 | 上層の事務所 |
|---|---|---|
| 主な排水内容 | 調理・洗浄排水(油脂分・生ゴミを含む) | トイレ・湯沸室排水(一般排水) |
| 必須設備 | グリストラップ | 排水トラップ(封水) |
| 給水量のピーク | 営業時間帯に集中 | 昼休み前後など緩やかな山 |
| 給湯規模 | 厨房機器向けにまとまった給湯量 | 湯沸室程度の小規模給湯 |
排水トラップの基本的な仕組みは排水トラップと通気の基礎(封水)、給水設備全体の考え方は給水設備の計画を参照してください。
電気計画:店舗の大容量電源と幹線・非常電源
飲食店舗は厨房機器・冷凍冷蔵設備・空調・照明・看板など、電力を多く使う設備が集中する用途です。
- 店舗の大きな電力・ガス需要:厨房機器には電気式・ガス式の両方があり、電気式を多く採用する店舗では特に大きな電力容量が必要になります。ガス式中心の店舗でもガス配管容量の確保が必要です。いずれにしても、事務所フロアの一般的な電力密度とは別枠で、店舗用の幹線・分電盤容量を見込んでおく必要があります。
- 幹線容量の余裕:飲食テナントは入替えのたびに厨房機器の構成が変わりやすく、次のテナントが今より大きな電力を必要とする可能性も考えられます。幹線サイズや受変電設備の変圧器容量には、将来の増設を見込んだ余裕を持たせておくことが実務上のポイントです。受変電設備の全体像は受変電設備の基礎(単線結線図)を参照してください。
- 非常電源の対象整理:停電時にも稼働を維持すべき負荷を用途ごとに整理します。事務所側ではエレベーター・非常照明・誘導灯・サーバー機器等、店舗側では厨房の一部機器や防犯・防災設備が対象になり得ます。非常用発電機・UPSの容量計画については予備電源・非常用自家発電にまとめています。
- テナント精算のための計量:店舗の使用電力量を事務所と切り分けて計量し、テナントごとに費用を精算できる仕組みを設けることも、複合用途ビルの電気計画では一般的です。
防災計画:用途混在ビルの避難安全
低層に不特定多数が出入りする飲食店舗、上層に執務者が常駐する事務所という構成は、避難計画の面でも単一用途のビルとは異なる配慮が必要です。
- 自動火災報知設備(自火報):用途ごとに警戒区域を分け、火災の発生階・発生用途を早期に特定できるようにすることが基本です。詳しくは自動火災報知設備の警戒区域と感知器選定を参照してください。
- 誘導灯・非常用照明:不特定多数が利用する低層の飲食店舗では、避難経路が分かりやすいよう誘導灯の視認性を確保することが特に重要です。非常用照明・誘導灯の考え方は非常用照明と誘導灯の計画にまとめています。
- 排煙設備:厨房で火災が発生した場合、煙や熱が上階の事務所に伝わらないよう、竪穴区画(前述の排気シャフト等)の防火・防煙性能を確保することが重要な論点になります。排煙計画全体は排煙設備の計画を参照してください。
- 消火設備の使い分け:厨房は火気を扱うため、一般の消火設備に加えて厨房特有の消火対策(フード・ダクト内の自動消火設備等)が求められる場合があります。消火設備の使い分けは消火設備の使い分けを参照してください。
- 避難動線の分離:低層の来店客と上層の執務者・来訪者とでは、避難時に優先すべき経路や誘導の考え方が異なることもあるため、用途ごとの利用者特性を踏まえた避難計画とすることが実務上のポイントです。
具体的な設備水準・規格値は建物の規模や用途構成によって細かく定められているため、必ず所轄官署・設計者に確認しながら計画を進めてください。
近年の傾向:省エネ機器の採用
近年は、店舗併設の事務所ビルにおいても省エネ性能への要求が高まっており、次のような機器が検討されることが増えています。
- 気化式加湿器:水を蒸発させて加湿する方式で、蒸気を作るためのヒーターを使わない分、消費エネルギーを抑えられる加湿方式として採用が広がっています。事務所フロアの冬季の乾燥対策として検討されることがあります。
- 潜熱回収型給湯機:燃焼排気の熱(潜熱)を回収して給湯に再利用することで、従来型の給湯機より効率よくお湯を沸かせる機器です。厨房でまとまった給湯を使う店舗フロアや、事務所の湯沸室給湯でも省エネ機器として選択肢に挙がります。
これらはあくまで一般的な傾向であり、実際の採用可否は建物の用途構成・規模・コストバランスを踏まえて設計者が判断する事項です。
実務チェックリスト
- 低層店舗と上層事務所で空調・熱源系統を分離したか
- 店舗側に個別空調+子メーターなど、テナント運用に適した方式を検討したか
- 厨房の給排気バランス(負圧防止)を確認したか
- 厨房排気が上階の事務所や外気取入れ口に影響しない経路になっているか
- 排気シャフト(竪穴区画)の防火・防煙性能を確認したか
- グリストラップの設置位置・維持管理のしやすさを確認したか
- 給水方式(受水槽・増圧直結等)が店舗のピーク使用水量に対応できるか
- 店舗用の幹線・分電盤容量に将来のテナント入替えを見込んだ余裕があるか
- 非常電源の対象負荷を用途ごとに整理したか
- 自火報の警戒区域、誘導灯、排煙、厨房消火設備など防災設備を用途混在の観点で確認したか
よくある質問
低層店舗と上層事務所で空調系統を分けないとどうなりますか?
営業時間帯が異なるため、事務所が休止している夜間に店舗のためだけに共通の熱源機器を稼働させることになり、著しく非効率です。また負荷の性質が違う2つの用途を1系統で制御しようとすると、どちらかに不満が生じやすくなります。系統を分けることが実務上の基本です。
厨房排気の臭気が上階の事務所に上がってこないか心配です。どう対策しますか?
排気ダクトの経路計画、グリスフィルターの設置、竪穴区画の気密性確保が基本の対策です。特に事務所の外気取入れ口や開口部に厨房排気が近接しないよう経路を計画することが重要です。具体的な対策は建物の形状・敷地条件によって異なるため、設計者に確認してください。
飲食テナントが入替わる際、設備面で注意することは?
次のテナントの厨房規模や電力需要が変わる可能性を見込み、幹線・空調・給排水にあらかじめ余裕を持たせておくことが重要です。グリストラップや排気ダクトの位置も、テナント入替え時に大きな改修をせずに使い続けられるよう計画しておくと実務上有利です。
用途混在ビルの避難計画で特に注意すべき点は?
不特定多数が利用する低層店舗と、執務者が常駐する上層事務所とでは、避難時に必要な誘導灯の視認性や排煙・防火区画の考え方が異なります。特に厨房火災時の煙・熱が上階に伝わらないようにする竪穴区画の性能確保が重要な論点です。
まとめ
- 低層の飲食店舗と上層の事務所は、営業時間・換気量・水回り負荷・電力需要のすべてが異なり、同じ1棟でも別の建物として計画するのが基本
- 空調・熱源は店舗系統と事務所系統を分離し、店舗側は個別空調+子メーターでテナント運用に対応
- 換気は厨房の給排気バランスと、上階への臭気・煙の遮断が最大の論点。排気シャフトの防火・防煙性能がカギ
- 給排水は厨房のグリストラップが必須。給水方式は店舗のピーク使用水量を見込んで選定
- 電気は店舗の大容量電源・ガス需要に対応した幹線容量の余裕と、用途ごとの非常電源整理が必要
- 防災は自火報・誘導灯・排煙・厨房消火設備を用途混在の観点で計画し、避難安全を確保
店舗と事務所という性格の異なる用途を1棟に納める設備計画は、「系統を分ける」「上下階の影響を遮断する」という2つの視点を軸に整理すると、実務上の判断がしやすくなります。実際の設計にあたっては、店舗の業態や建物規模に応じて設計者・専門家とよく相談しながら計画を進めることをおすすめします。
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