予備電源・非常用自家発電設備の計画|発電機・蓄電池・UPSの使い分け
結論から言うと、停電対策としての「予備電源」は1種類の設備で済ませるものではなく、「どれだけの電気を」「どのくらいの時間」「どのくらいの速さ(許容できる停止時間)」で補うかという3つの軸の組み合わせで、複数の手段を使い分けるのが基本の考え方です。停電の瞬間から数十秒の空白も許されない機器もあれば、数十秒〜数分の起動待ちが許容できる負荷もあり、どちらも「予備電源」とひとくくりにしてしまうと計画がかみ合いません。
この記事では、電気設備の実務目線で、非常用自家発電設備・蓄電池設備・UPS(無停電電源装置)という3つの主な手段の性格の違い、建築基準法・消防法が要求する「非常電源」との関係、発電機まわりの計画上の論点、負荷の優先順位づけ、BCP(事業継続計画)の観点までを整理します。受変電設備の基礎は受変電設備の基礎|単線結線図で見る電気の流れと主要機器、停電時に必要になる照明設備は非常用照明と誘導灯の計画もあわせてご覧ください。
予備電源とは何か:3つの軸で考える
「予備電源」という言葉は幅広く使われますが、計画の場面では次の3つの軸に分解して考えると整理がしやすくなります。
- 容量(どれだけの電気を):建物全体をまかなうのか、一部の保安負荷だけをまかなうのか
- 持続時間(どのくらいの時間):数分程度でよいのか、数時間〜半日以上必要なのか
- 切替時間(どのくらいの速さ):一瞬の停電も許されないのか、数十秒の空白が許容できるのか
この3つの軸のうち、特に「切替時間」は見落とされがちですが、実務上の影響が大きいポイントです。人の避難誘導のための照明であれば数秒〜数十秒の空白があっても実用上大きな支障は出にくい一方、サーバー室の機器や手術室の医療機器などは、瞬時の電圧低下・停電でも誤作動やデータ損失につながることがあります。「何を守るための予備電源か」を先に決めてから、手段を選ぶという順番が、計画のぶれを防ぎます。
主な手段の使い分け:発電機・蓄電池・UPS
予備電源の主な手段を、性格の違いで比較すると次のとおりです。
| 項目 | 非常用自家発電設備 | 蓄電池設備 | UPS(無停電電源装置) |
|---|---|---|---|
| 動力源 | ディーゼルエンジンやガスエンジンなどの原動機 | 蓄えた電気エネルギー(鉛蓄電池・リチウムイオン電池など) | 内蔵または接続された蓄電池 |
| 起動までの時間 | 数十秒程度(原動機の始動・電圧確立が必要) | 瞬時に近い(回路の切替のみ) | 瞬時(常時給電方式であれば切替自体が発生しない) |
| 継続して供給できる時間 | 燃料を補給できれば長時間(数時間〜) | 限定的(電池容量に依存し、数十分〜数時間程度が目安) | 短時間が基本(数分〜十数分程度が目安、自家発電への橋渡し用途が中心) |
| 主な用途 | 建物全体・大容量の保安負荷を長時間支える | 発電機が立ち上がるまでの橋渡し、比較的小容量の負荷 | 停電の瞬間も許されない精密機器・情報機器を守る |
| 計画上の主な論点 | 燃料備蓄・排気/騒音・設置スペース・法令上の届出 | 電池の交換周期・設置環境(温度)・容量の目減り管理 | バッテリー寿命・発熱対策・上位電源(発電機等)との連携 |
この表からも分かるとおり、非常用自家発電設備は「長時間・大容量」を得意とする一方で起動に数十秒を要し、UPSは「瞬時・短時間」を得意とする一方で長時間の単独運転には向きません。そのため実務では、UPSが停電直後の瞬間を橋渡しし、その間に非常用自家発電設備が立ち上がって長時間の電源を引き継ぐ、という多段階の組み合わせで計画されることが一般的です。蓄電池設備は、その中間的な性格を持つ手段として、規模や用途に応じて単独で、あるいは発電機の補助として組み込まれます。
消防法・建築基準法が要求する「非常電源」との関係
ここまで紹介した予備電源の手段は、建物の使い勝手を良くするための任意の設備として計画されることもありますが、消防法や建築基準法によって設置そのものが義務づけられる場合があるという点を区別しておく必要があります。この法令上義務づけられる電源は「非常電源」と呼ばれ、次のような防災設備を停電時にも機能させるために求められます。
| 非常電源が必要とされる主な防災設備 | 停電時に果たすべき役割 |
|---|---|
| 非常用照明 | 避難経路の視界を確保する |
| 自動火災報知設備 | 火災の発生を検知し、警報を発し続ける |
| 排煙設備(機械排煙の場合) | 排煙機を作動させ、避難経路の煙を排出し続ける |
| 屋内消火栓・スプリンクラー等の消火ポンプ | 消火用の水を送り続ける |
これらの防災設備は、平常時の電源が失われた瞬間こそ本来の役割を発揮すべき設備であるため、非常電源の種類・容量・持続時間には一定の基準が定められています。非常電源として認められる方式には、自家発電設備・蓄電池設備・(対象によっては)そのほかの方式があり、対象設備の種類や建物の規模によって求められる持続時間や組み合わせの条件が変わります。具体的な持続時間の基準値や、どの設備にどの非常電源方式が認められるかは、対象建物の用途・規模によって適用条件が異なるため、本記事では数値そのものへの深入りは避け、所轄消防署・特定行政庁への確認を前提としてください。
なお、非常電源は「防災設備を守るための電源」という位置づけであり、事務所のOA機器やエレベーターの一般利用など、事業継続・利便性のための予備電源とは目的が異なります。両者を同じ発電機で兼用する計画も実務上はよく見られますが、まず非常電源として法令が求める容量・系統を確保したうえで、余力がある範囲で他の負荷を追加するという優先順位を崩さないことが重要です。
非常用自家発電設備の計画:燃料・排気/騒音振動・設置場所
非常用自家発電設備は、いざというときに確実に立ち上がることが何より重要な設備であるため、計画段階で押さえておくべき論点が複数あります。
燃料備蓄と連続運転時間
発電機は燃料が尽きれば止まってしまうため、「何時間分の燃料を備蓄しておくか」は計画の根幹に関わる論点です。非常電源として法令上必要な最低限の持続時間を満たすことはもちろん、BCP(事業継続)の観点から、災害発生後にどれだけの期間、建物の機能を維持したいかによって、備蓄量の考え方は変わってきます。燃料の補給ルートが途絶する可能性も踏まえ、「法令が求める最低限」と「事業として確保したい時間」を分けて検討するのが実務上のポイントです。
冷却・排気系統
エンジンを動力源とする発電機は、稼働中に大量の熱と排気ガスを発生させます。冷却水やラジエーターによる放熱経路、排気ガスを屋外に導く排気筒の経路を、機械室のレイアウトと合わせて早い段階で確保しておく必要があります。排気筒の出口位置は、外気取入れ口や居室の開口部との位置関係にも注意が必要です。
騒音・振動対策
発電機は稼働中にエンジン音・振動を伴うため、設置場所によっては近隣への騒音配慮や、建物躯体への振動伝播を抑える防振・防音対策が求められます。特に住宅地に近い立地や、発電機室の直上・直下に居室がある配置では、意匠設計・構造設計側との早期の調整が欠かせません。
設置場所(屋上・地下)の考え方
発電機は屋上・地上・地下のいずれにも設置される可能性がありますが、それぞれに一長一短があります。
| 設置場所 | 主な利点 | 主な留意点 |
|---|---|---|
| 屋上 | 排気・騒音の拡散がしやすい、浸水リスクが低い | 燃料配管が長くなる、重量物の搬入・構造への配慮が必要 |
| 地下 | 燃料タンクとの距離が近く配管計画がしやすい | 浸水時に水没するリスクがある、排気筒の経路が長くなりやすい |
近年は水害の頻発を踏まえ、地下に設置する場合は浸水対策(防水扉・止水板・燃料タンクや制御盤のかさ上げなど)を合わせて検討することが、実務上の重要な論点になっています。
法令上の届出
一定規模以上の発電設備は、消防法上の届出(危険物である燃料の貯蔵・取扱いに関するものを含む)や、電気事業法上の手続きの対象となる場合があります。届出の要否・区分は燃料の種類・貯蔵量・発電設備の出力によって変わるため、計画の早い段階で所轄消防署・関係官庁への確認を行うことが欠かせません。
負荷の優先順位づけ:保安負荷と防災負荷を切り分ける
非常用自家発電設備の容量には限りがあるため、「停電時に何を優先して電気を送るか」をあらかじめ設計しておく必要があります。この整理でよく使われる考え方が、負荷を「保安負荷」と「一般負荷」に区分するというものです。
- 保安負荷:非常電源として法令上維持が求められる防災設備(非常用照明・自動火災報知設備・消火ポンプ等)や、事業継続上どうしても止められない設備(サーバー、重要な生産設備等)
- 一般負荷:それ以外の、停電時には停止してもやむを得ない設備(一般のコンセント、通常時の空調・照明の大部分等)
発電機の容量は、保安負荷をすべて同時にまかなえることを最優先に計画し、余力がある範囲で一般負荷の一部(特定のエレベーター1台、一部の執務スペースの照明など)を組み込むかどうかを検討する、という順番が基本です。この切り分けは受変電設備側の系統設計とも密接に関わるため、どの回路が保安負荷でどの回路が一般負荷かを、単線結線図の段階で明確に区分しておくことが、竣工後の停電時対応をスムーズにする実務上のポイントになります。
BCP(事業継続)の観点から見た予備電源
災害時にも建物の機能をどこまで維持するかというBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)の観点は、予備電源の計画に直結します。消防法・建築基準法が求める非常電源はあくまで「命を守るための最低限」であり、事業を継続するための電源とは目的も容量も異なる場合が多い点に注意が必要です。
たとえばデータセンターや医療施設、災害時の拠点となる庁舎などでは、法令上の非常電源の基準を満たすだけでなく、事業として「何日間、どの機能を維持し続けるか」を目標として設定し、それに見合う燃料備蓄量・発電機の冗長化(複数台構成)・給水設備側のBCP(受水槽や井戸水の活用等)まで含めて総合的に計画されることがあります。給排水設備側のBCP・耐震の考え方については、給排水設備のBCP・耐震でも整理していますので、電気系統の予備電源と合わせて検討する際の参考にしてください。
BCPの観点での予備電源計画は、「法令を満たしているか」という最低ラインの確認だけでなく、「災害後、事業としてどこまで機能を維持したいか」という経営判断に近い問いから逆算して容量・持続時間を決めていく点が、非常電源単体の計画と異なる視点になります。
実務チェックリスト
予備電源・非常用自家発電設備の計画で、抜け漏れを防ぐための確認項目です。
手段の選定
- 守りたい負荷ごとに、許容できる切替時間(瞬時か、数十秒の空白が許容できるか)を整理したか
- 発電機・蓄電池・UPSを、単独ではなく多段階の組み合わせとして計画しているか
非常電源としての要件
- 非常用照明・自動火災報知設備・排煙設備・消火ポンプ等、非常電源が必要な防災設備を洗い出したか
- 対象設備ごとに求められる非常電源の方式・持続時間を所轄に確認する予定があるか
発電機まわりの計画
- 燃料備蓄量を、法令上の最低限とBCP上の目標時間の両方から検討したか
- 冷却・排気経路が、外気取入れ口・居室の開口部と干渉しないか確認したか
- 騒音・振動対策について、意匠・構造設計側と早期に調整しているか
- 地下設置の場合、浸水対策を計画に織り込んでいるか
- 法令上の届出(消防法・電気事業法等)の要否を確認したか
負荷の優先順位
- 保安負荷と一般負荷を単線結線図の段階で区分できているか
- 発電機容量が保安負荷を同時にまかなえる前提で設計されているか
BCPの観点
- 法令上の最低ラインとは別に、事業継続上維持したい時間・機能を目標として設定したか
- 給排水設備側のBCPと合わせて、災害後の建物全体の機能維持を検討したか
よくある質問
非常用自家発電設備さえあれば、UPSは不要ではないか?
必ずしもそうとは言えません。非常用自家発電設備は起動までに数十秒程度を要するため、その間の空白がそのまま機器の停止・誤作動につながる負荷(サーバーや精密機器等)にとっては、この数十秒の空白自体がリスクになります。そのため、瞬時の切替が必要な負荷にはUPSを個別に設け、発電機が立ち上がるまでの橋渡しをさせる計画が一般的です。
蓄電池設備は非常用自家発電設備の代わりになるのか?
規模と目的によります。蓄電池設備は起動の速さでは優れていますが、電池容量に依存するため長時間の連続運転には向かない場合が多く、大容量・長時間の電源が必要な建物では非常用自家発電設備が主力となることが一般的です。近年は蓄電池の大容量化も進んでおり、建物の規模や求める持続時間次第では組み合わせ方の選択肢が広がっていますが、個別の建物ごとに必要な容量・時間から検討する必要があります。
発電機の燃料は、どのくらいの量を備蓄しておけばよいのか?
法令上の非常電源として最低限求められる持続時間は対象設備・建物規模によって異なるため、まずは所轄消防署・特定行政庁への確認が前提になります。そのうえで、BCPの観点から事業として維持したい時間がある場合は、法令上の最低限とは別に、その目標時間に見合う燃料備蓄量を追加で検討することになります。
発電機は屋上と地下、どちらに設置するのが正解なのか?
一概にどちらが正解とは言えず、建物の規模・立地・構造によって適した選択が変わります。屋上は排気・騒音の点で有利な一方、燃料配管が長くなりやすく、地下は燃料タンクとの距離が近い一方で浸水リスクへの対策が欠かせません。それぞれの利点と留意点を踏まえ、建物ごとに構造設計・意匠設計と合わせて総合的に判断する事項です。
まとめ
- 予備電源は「容量」「持続時間」「切替時間」の3つの軸で整理し、守りたい負荷に応じて手段を使い分けるのが基本の考え方
- 非常用自家発電設備は長時間・大容量、蓄電池設備は中間的、UPSは瞬時・短時間という異なる得意分野を持つ
- 実務では、UPSが停電直後を橋渡しし、非常用自家発電設備が長時間の電源を引き継ぐ、多段階の組み合わせが一般的
- 消防法・建築基準法が求める「非常電源」は、非常用照明・自火報・排煙設備・消火ポンプ等の防災設備を守るための最低限の電源であり、事業継続のための予備電源とは目的が異なる
- 非常用自家発電設備は燃料備蓄・冷却排気・騒音振動・設置場所・法令上の届出まで含めて計画する必要がある
- 停電時は保安負荷を優先し、余力の範囲で一般負荷を組み込むという優先順位づけが実務の基本
予備電源の計画は、発電機やUPSといった機器そのものの性能だけでなく、「何を、どのくらいの時間、どのくらいの速さで守るか」という目的の整理から始めることが、無理のない容量設計につながります。法令上の最低限を満たすことと、事業として求める事業継続レベルを満たすことは別の問いであるという点を意識しておくと、計画の抜け漏れを防ぎやすくなります。
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