建築設備.tech
基本設計管工事(空調・給排水)

給排水設備のBCPと耐震対応|断水・停電に備える設備計画の考え方

結論から言うと、給排水設備のBCP(事業継続計画)対応とは「地震・断水・停電のいずれかが起きても、建物としての最低限の機能を一定時間維持できるようにしておく」設計上の備えのことです。特別な最新設備を導入することよりも、配管の揺れ対策、水を貯めておく仕組み、電気が止まっても水を届けられる経路の3つを基本設計の段階で押さえておくことが実務上のポイントになります。

この記事では、地震対策(配管の耐震・受水槽の転倒防止・緊急遮断弁)、断水対策(受水槽容量や非常用水源)、停電対策(ポンプの非常電源や重力利用)、そして排水側のBCPまで、給排水設備の防災計画を一通り整理します。基本となる受水槽方式の全体像は給水設備の計画で解説しているので、あわせて確認してみてください。


BCPと建築設備の関係

BCP(Business Continuity Plan・事業継続計画)は、もともと企業が災害時にも事業を止めない、あるいは早期に再開するための計画を指す言葉ですが、建築設備の分野では「災害時にも建物としての最低限の機能を保つための設計・運用上の備え」という意味で使われることが多くなっています。

給排水設備で言えば、地震で配管が破損しないこと、断水が起きてもしばらくの間は水を使えること、停電しても最低限の水を届けられることが、この「最低限の機能」にあたります。特にオフィスビルや病院、福祉施設、学校、そして図書館のような公共施設は、災害発生直後に多くの人がとどまる場所になったり、地域の給水拠点として機能したりすることがあるため、給排水設備のBCP対応は建物単体の話にとどまらない側面を持っています。図書館が災害時に果たす役割については図書館の設備計画とゾーニングでも触れているので、公共施設の計画を考えるときはあわせて参照するとよいと思います。

BCP対応は「これをやれば完璧」という単一の答えがあるものではなく、建物の用途・規模・立地(浸水想定区域かどうかなど)に応じて、優先順位を決めながら段階的に組み込んでいくものです。基本設計の段階で「どこまで備えるか」を建築主と合意しておくことが、後工程での手戻りを防ぐうえでも重要になります。


地震対策:配管と水槽をどう守るか

地震対策の基本は「揺れても配管が破断しない」ことと、「水槽そのものが倒れたり移動したりしない」ことの2点に集約されます。

配管の耐震

給排水管は建物の構造体に固定されていますが、建物本体と設備配管では揺れ方(固有振動)が異なるため、剛体のまま接続していると地震時に無理な力がかかり、破断や継手の外れにつながることがあります。これを防ぐための代表的な考え方が次の3つです。

  • 可とう継手(フレキシブルジョイント):配管の一部に、ある程度自由に曲がる・伸縮できる継手を挟み込み、揺れによるずれを吸収する
  • 支持・固定の見直し:配管を固定する金物(サポート)の間隔や強度が不足していると、揺れの力が特定の箇所に集中してしまうため、系統全体でバランスよく支持する
  • エキスパンションジョイント部の配慮:建物が構造的に分かれている継ぎ目(エキスパンションジョイント)をまたいで配管を通す場合、両側の建物が別々に揺れることを前提に、十分な可とう性を持たせた配管処理が必要になる

受水槽・高置水槽の転倒防止

受水槽や高置水槽は、水が満たされた状態では相当な重量になり、地震時には慣性力によって転倒したり、架台からずれ落ちたりするおそれがあります。水槽本体をアンカーボルトで架台にしっかり固定すること、架台自体の構造耐力を確保することが基本の考え方です。屋上に設置される高置水槽は、転倒すると下の階や周辺への被害が大きくなりやすいため、特に注意が必要な設備のひとつです。

緊急遮断弁

大地震の際、受水槽から下流側の配管が破損すると、せっかく貯めていた水槽内の水がそのまま流れ出てしまいます。これを防ぐために設けられるのが緊急遮断弁で、地震の揺れを感知すると自動的に弁を閉じ、受水槽内の水を「非常用水」として温存する仕組みです。断水時の生活用水や、災害用トイレの洗浄水として活用できるよう、緊急遮断弁の設置は受水槽方式を採用する建物での有効な備えとされています。

対象 主なリスク 主な対策
配管全般 揺れによる破断・継手の外れ 可とう継手の設置、支持間隔の見直し
エキスパンションジョイント部 建物同士の相対変位による損傷 十分な可とう性を持つ配管処理
受水槽・高置水槽 転倒・架台からのずれ アンカーボルト固定、架台の耐力確保
受水槽の水 下流配管破損による流出 緊急遮断弁による自動遮断

断水対策:水をどれだけ・どう確保するか

断水対策の基本は「貯めておく」と「別の水源を持つ」の2本立てです。

受水槽の容量という考え方

受水槽方式では、水道本管からの水をいったん受水槽に貯めてからポンプで各所に送るため、受水槽そのものが「時間を稼ぐバッファ」の役割を持ちます。受水槽の有効容量をどの程度確保するかは、建物の用途や1日あたりの使用水量をもとに設計段階で検討する事項であり、容量が大きいほど断水発生時に持ちこたえられる時間は長くなりますが、その分スペースやコストとのバランスも必要になります。どの程度の容量を見込むかは案件ごとに考え方が分かれる部分なので、実際の設計にあたっては設計者・所轄の水道事業者に確認しながら決めるのが実務上のポイントです。

非常用水源・応急給水栓

受水槽の水を使い切った後の備えとして、井戸水を非常用水源として併用する計画や、断水時に受水槽や高置水槽から直接水を取り出せる「応急給水栓」をあらかじめ設けておく計画があります。応急給水栓は、平常時は使わない設備ですが、災害時に配管を経由せず直接水を汲み出せるようにしておくことで、断水時でも最低限の生活用水を確保しやすくなります。

想定される断水状況 主な影響 設計上の備え
短時間の断水 受水槽内の水でしのげる 受水槽容量の確保
長期の断水 受水槽の水を使い切る 非常用水源(井戸水等)の検討、応急給水栓の設置
配水管本体の被災 復旧まで水道水が使えない 貯水槽の緊急遮断弁による水の温存

停電対策:ポンプが止まっても水を届ける

給水・排水のどちらも、多くの建物ではポンプの力に頼っています。受水槽から高置水槽や各系統へ水を送る揚水ポンプ、汚水・雑排水を排水本管や処理槽へ送る排水ポンプは、いずれも電気がなければ動きません。停電時にこれらのポンプが止まると、水そのものはあっても、必要な場所まで届けられない・排水を流せないという事態が起こります。

対策としては大きく2つの方向性があります。

  • 非常電源でポンプを動かし続ける:自家発電設備からポンプへ電源を供給できるようにしておく方法です。どのポンプを非常電源系統につなぐかは、建物の用途・重要度によって優先順位が変わります。非常用の自家発電設備そのものの考え方は予備電源・非常用自家発電で解説しているので、電気設備側の計画とあわせて確認するとよいと思います。
  • 重力を活かした系統を持つ:高置水槽方式では、屋上の高置水槽から各階へは重力で水が流れる(自然流下)ため、ポンプが停止していても高置水槽に水が残っている間は給水を継続できます。近年増えている加圧給水方式(ポンプ直送方式)は高置水槽を持たないため、停電時にはポンプが完全に停止してしまう点を踏まえ、非常電源とセットで検討する必要があります。

排水側についても、自然流下できる系統であれば停電の影響を受けにくくなりますが、地下階やピットからの排水など、ポンプアップが避けられない箇所も多いため、こちらも非常電源の優先順位に含めて検討することになります。


排水側のBCP:流せないときにどうするか

給排水設備のBCPというと給水側の話に注目が集まりがちですが、排水側の備えも同じくらい重要です。

下水道の本管そのものが地震で被災した場合、建物側でどれだけ排水設備を整えていても、最終的な放流先がない状態になります。このような事態を想定して、次のような備えが検討されます。

  • 災害用トイレ(マンホールトイレ等):下水道本管に直接つながる形で設置しておき、建物内の排水設備が使えない状況でも用を足せるようにする仕組みです。公共施設や避難場所として指定されている建物では、この災害用トイレの計画があらかじめ組み込まれていることが多くなっています。
  • 排水の一時貯留:排水先が使えない間、汚水・雑排水を一時的にタンクなどに貯めておき、状況が改善してから流す考え方です。恒久的な解決にはなりませんが、断水と同様に「時間を稼ぐ」ための備えとして位置づけられます。
  • 簡易トイレ・携帯トイレの備蓄:設備そのものではありませんが、排水設備が完全に使えなくなった際の運用面の備えとして、防災計画の中で合わせて検討されることが多い項目です。

排水側のBCPは、設備単体の性能というより「排水設備が使えなくなったときに、建物としてどう運用でしのぐか」という運用計画とセットで考える必要がある点が、給水側との大きな違いです。


実務チェックリスト

  • 配管の主要な系統に可とう継手が適切な位置に入っているか確認したか
  • エキスパンションジョイント部を通過する配管の可とう性を確認したか
  • 受水槽・高置水槽の転倒防止措置(アンカーボルト固定、架台の耐力)を確認したか
  • 緊急遮断弁の設置要否と、設置する場合の作動条件を確認したか
  • 受水槽の有効容量について、建物用途に応じた考え方を設計者・所轄と協議したか
  • 非常用水源(井戸水等)や応急給水栓の要否を建築主と協議したか
  • どのポンプ(給水・排水)を非常電源系統に含めるか、優先順位を整理したか
  • 停電時に自然流下で機能する系統がどこまであるか把握したか
  • 災害用トイレや排水の一時貯留など、排水側の備えを検討したか
  • 建物が地域の避難場所・給水拠点になる可能性がある場合、その役割を踏まえた計画になっているか

よくある質問

受水槽の容量は大きければ大きいほど良いのですか

断水時に持ちこたえられる時間という観点では容量が大きいほど有利ですが、設置スペースや構造への荷重、コストとのバランスも必要です。建物の用途や利用実態に応じて、どの程度の容量を見込むかを設計段階で検討する事項であり、一律の正解があるわけではありません。実際の数値は設計者・所轄の水道事業者に確認しながら決めるのが基本です。

加圧給水方式(高置水槽なし)はBCPの観点で不利になりますか

高置水槽を持たない加圧給水方式は、停電時に重力による自然流下が使えないため、その点では高置水槽方式に比べて停電の影響を受けやすいと言えます。ただし、省スペース性やメンテナンス性など別のメリットもあるため、非常電源の確保とセットで検討することで補うのが実務上の考え方です。

緊急遮断弁はどんな建物にも必要ですか

すべての建物に一律で求められるものではなく、建物の規模・用途・重要度に応じて設置を検討する設備です。避難所指定を受けている建物や、断水時の給水拠点としての役割が想定される建物では、優先的に検討されることが多くなっています。

災害用トイレは新築のときから計画しておく必要がありますか

マンホールトイレのように、あらかじめ下水道本管への接続を見込んだ配管を用意しておく方式の場合、後から追加するよりも新築・改修のタイミングで計画に組み込んでおいたほうが、配管ルートや設置スペースの確保がしやすくなります。建物の防災上の位置づけが決まっている場合は、基本設計の段階で検討しておくのが望ましいと考えられます。


まとめ

  • 給排水設備のBCP対応とは、地震・断水・停電のいずれかが起きても建物としての最低限の機能を一定時間維持できるようにしておく設計上の備え
  • 地震対策では、配管の可とう継手・支持の見直し、受水槽・高置水槽の転倒防止、緊急遮断弁による水の温存がポイントになる
  • 断水対策では、受水槽の容量確保に加え、非常用水源や応急給水栓など「別の水源・別の取り出し口」を持つ発想が有効
  • 停電対策では、ポンプへの非常電源の確保と、重力を活かせる自然流下系統の把握が両輪になる
  • 排水側では、災害用トイレや一時貯留など、排水設備が使えなくなったときの運用面の備えも欠かせない
  • 避難所や給水拠点になり得る公共施設では、建物単体を超えた地域防災の視点も踏まえた計画が求められる

給排水設備のBCP対応は、特別な設備を1つ導入すれば完結するものではなく、配管・水槽・ポンプ・排水経路のそれぞれに小さな備えを積み重ねていく作業です。建物の用途や重要度によって「どこまで備えるべきか」の答えは変わってくるため、基本設計の早い段階で建築主・設計者・所轄官署と方向性をすり合わせておくことが、結果的に無理のない防災計画につながります。

なお、本記事で紹介した内容は一般的な考え方の整理です。実際の設計にあたっては、必ず所轄官署・設計者・設備業者に確認しながら進めてください。


あわせて読みたい

関連記事