事務所ビル(オフィス)の設備計画|ペリメータ・インテリアゾーンとOA負荷の考え方
結論から言うと、事務所ビルの設備計画で最初に押さえるべきは「窓際(ペリメータゾーン)と室内側(インテリアゾーン)で熱の入り方がまったく違う」という点と、「OA機器と在室人数の発熱が空調・電気の両方に効いてくる」という点です。住宅や工場と違い、事務所は昼間の限られた時間帯に人と機器の熱負荷が集中し、しかもテナントの入れ替えやレイアウト変更が前提になっている建物用途でもあります。
この記事では、事務所ビルならではの空調ゾーニングの考え方、OA負荷を見込んだ電気設備の容量計画、比較的負荷の軽い給排水設備の位置づけ、そして近年のZEB・省エネ対応やシェアオフィス化の傾向まで、実務目線で整理します。用途別の空調計画全般については用途別の空調設備計画もあわせてご覧ください。
事務所ビルの設備の特徴
事務所ビルは、他の建物用途と比べて次のような特徴を持っています。
- 在室人数密度が比較的高い:執務室は1人あたりの床面積が小さめに計画されることが多く、人体からの発熱(顕熱・潜熱)が空調負荷に無視できない割合を占めます。
- OA機器の発熱が大きい:パソコン・モニター・複合機・サーバー機器などが常時稼働し、照明と並んで内部発熱の主要因になります。特にサーバー室やコピー機コーナーは局所的に発熱が集中しやすい場所です。
- 負荷が執務時間帯に集中する:朝の始業から夕方の終業までの間に人・機器・照明の負荷が一気に立ち上がり、夜間・休日はほぼ無人になります。このオンオフの差が大きいことが、空調の立ち上げ制御や熱源機器の選定に影響します。
- テナント変更・レイアウト変更への対応が前提:賃貸オフィスビルでは入居テナントが数年単位で入れ替わり、間仕切りの位置や座席レイアウトも頻繁に変わります。設備は「将来の変更のしやすさ」を織り込んで計画する必要があります。
これらの特徴が、以降で説明する空調・電気・給排水それぞれの計画方針に直結しています。
空調計画:ペリメータゾーンとインテリアゾーン
事務所ビルの空調計画で最も基本となる考え方が、建物平面を「ペリメータゾーン」と「インテリアゾーン」に分けてゾーニングすることです。
- ペリメータゾーン(窓際):外壁・窓に面した部分で、日射や外気温の影響を直接受けます。夏は日射で冷房負荷が増え、冬は外皮からの熱損失で暖房負荷が増えるなど、季節・時間帯によって負荷の向きが大きく変動します。
- インテリアゾーン(室内側):外壁に面しない室内側の部分で、外気の影響をほとんど受けません。照明・OA機器・人体からの発熱が支配的なため、真冬でも冷房が必要になる「年中冷房気味」の傾向があります。
この2つのゾーンを同じ系統でまとめて空調してしまうと、片方は寒く片方は暑いといったクレームが起きやすくなります。そのため、ペリメータとインテリアで系統を分けて個別に温度制御できるようにするのが基本の考え方です。
ペリメータ・インテリアゾーンの特徴比較
| 項目 | ペリメータゾーン | インテリアゾーン |
|---|---|---|
| 主な熱負荷要因 | 日射・外気温・外皮熱貫流 | 照明・OA機器・人体発熱 |
| 負荷の変動 | 季節・時間帯で大きく変動 | 年間を通じて比較的安定 |
| 暖房の要否 | 冬季は暖房が必要になりやすい | 冬でも冷房が必要になることがある |
| 制御のポイント | 日射遮蔽(ブラインド等)と連動した制御 | OA機器負荷の変動に追従した制御 |
空調方式の考え方
事務所ビルで採用される空調方式は建物の規模やテナント構成によって異なりますが、代表的な方式を整理すると次のようになります。
| 方式 | 概要 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 空調機(AHU)+VAV方式 | 中央の空調機から送風し、各室・各系統のVAVユニット(風量を自動調整する装置)で吹出風量を調整 | 大規模オフィス、ゾーンごとの温度制御を重視する場合 |
| ファンコイルユニット方式 | 各ゾーンにファンコイルを設置し、冷温水を循環させて個別に制御 | ペリメータ側の負荷変動対応、中小規模ビル |
| 個別分散方式(ビル用マルチエアコン等) | 室外機と複数の室内機を冷媒配管でつなぎ、テナントごと・フロアごとに独立制御 | 賃貸オフィスでテナントごとに使用時間・料金精算を分けたい場合 |
賃貸オフィスビルでは、テナントごとに空調の使用時間や電力料金を分けて管理したいというニーズが強く、個別分散方式(ビルマルチ)が採用されるケースが多く見られます。一方、大規模な自社ビルや官庁系のビルでは、中央熱源とAHU+VAV方式を組み合わせ、全体最適な省エネ制御を行う例も多くあります。
外気処理とCO2制御
事務所ビルは在室人数が多いため、換気による外気導入量の確保も重要な計画要素です。
- 全熱交換器の活用:外気を取り入れる際、排気側の熱・湿気を利用して外気をあらかじめ予冷・予熱する全熱交換器(顕熱と潜熱の両方を熱交換する装置)を組み込むことで、外気処理にかかる熱源負荷を抑えることができます。
- CO2濃度による外気量制御:在室人数は時間帯や曜日によって変動するため、室内のCO2濃度をセンサーで測定し、濃度に応じて外気導入量を自動調整するCO2制御を導入することで、過剰な外気導入による熱負荷の増加を防ぎつつ、必要な換気量を確保できます。
- 執務時間外の外気カット:夜間・休日など無人時間帯は外気導入を最小限に絞り、熱源機器や空調機の無駄な稼働を減らす制御も一般的です。
電気計画:OA負荷を見込んだ容量設計
事務所ビルの電気設備計画では、OA機器を見込んだ幹線・コンセント容量の確保が大きなテーマになります。
- OA負荷の見込み:パソコン、モニター、複合機、サーバー機器などの想定台数・使用率から、床面積あたりの電力密度(W/㎡)を見込んで幹線サイズや分電盤の容量を計画します。将来の機器増設や高負荷化を見越して、ある程度の余裕を持たせておくことが実務上のポイントです。
- フリーアクセスフロア:床下に配線スペースを設けるフリーアクセスフロア(二重床の下に電源・LAN配線を自由に通せる構造)を採用することで、座席レイアウトの変更やテナント入れ替えに柔軟に対応できます。近年の事務所ビルでは標準的な仕様になりつつあります。
- 受変電設備:OA機器・空調用電力の増加を見込んだ変圧器容量の確保が必要です。受変電設備の全体像については受変電設備の基礎を参照してください。
- 非常用電源:サーバー室やエレベーター、非常照明・誘導灯など、停電時にも稼働を維持すべき負荷を整理し、非常用発電機やUPS(無停電電源装置)の容量を検討します。特にデータやシステムを扱うテナントが入る場合は、停電時の業務継続性への配慮が求められます。
- 中央監視・幹線設備:フロアごとの電力使用状況を一元的に把握し、テナント精算や省エネ管理に活用する仕組みも重要です。詳しくは中央監視設備と幹線設備をご覧ください。
給排水計画:負荷は比較的小さいが用途は明確
事務所ビルの給排水設備は、宿泊施設や商業施設と比べると水使用量そのものは大きくありません。主な用途は次の通りです。
- トイレ(衛生器具):在室人数に応じた便器・洗面器の数を計画します。近年は節水型器具や自動水栓の採用が標準的です。
- 給湯(湯沸室・給茶室):各フロアに設けられる湯沸室向けの小規模な給湯設備が中心で、住宅のような大量給湯は基本的に想定しません。
- 雑排水・汚水の排水計画:トイレ・湯沸室からの排水を系統ごとに整理し、排水トラップ(封水により下水からの臭気や虫の侵入を防ぐ機構)を適切に設けます。
給排水設備全体の考え方は給水設備の計画や給湯設備の計画にまとめていますので、あわせて参照してください。
省エネとレイアウト変更への柔軟性
事務所ビルは延べ床面積が大きくなりやすく、空調・照明のエネルギー消費量も大きいため、省エネ性能への要求が年々高まっています。
- ZEB・BEIへの対応:建物全体の一次エネルギー消費量を抑えるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の考え方や、その評価指標であるBEI(基準一次エネルギー消費量に対する設計値の比率)は、事務所ビルの新築・改修計画で避けて通れないテーマになっています。詳しくは建築物のZEBと省エネとBEIと省エネ基準を参照してください。
- 昼光利用・照明の省エネ制御:窓際の照明を昼光センサーで自動調光するなど、ペリメータゾーンの特性を活かした省エネ制御も一般的です。
- レイアウト変更への柔軟性:間仕切り変更に伴う空調吹出口・照明・コンセントの移設のしやすさは、テナントの満足度や改修コストに直結します。設備計画の段階で、将来の変更を想定した余裕あるゾーニングや配線ルートを検討しておくことが実務上重要です。
近年の傾向:シェアオフィス・ショールーム併設
近年は、1フロアを複数企業でシェアするシェアオフィス(コワーキングスペース)や、執務スペースにショールーム機能を併設するオフィスも増えています。こうした用途では、次のような設備上の配慮が求められます。
- 利用者・法人ごとに使用量を分けて計量できる電力・空調の個別計量
- 見せる設備(配管・配線をあえて意匠として見せる計画)と、隠す設備(従来型の天井裏・二重床への収納)の使い分け
- 会議室・イベントスペースなど、一時的に人数が集中する部屋への局所的な空調・換気対応
実務チェックリスト
- ペリメータゾーンとインテリアゾーンを分けて空調系統・制御を計画したか
- 日射遮蔽(ブラインド等)と空調制御の連動を検討したか
- OA機器の想定台数・発熱量から幹線・分電盤容量を見込んだか
- フリーアクセスフロアなど、将来のレイアウト変更に対応できる配線計画になっているか
- サーバー室・複合機コーナーなど局所的な発熱箇所への個別対応を検討したか
- CO2濃度連動の外気量制御、全熱交換器による省エネを検討したか
- 非常用発電機・UPSの対象負荷(サーバー、エレベーター、非常照明等)を整理したか
- テナントごとの電力・空調使用量の計量方法を決めたか
- ZEB・BEIなど省エネ基準への適合方針を早期に確認したか
- 湯沸室・トイレなど給排水設備の系統整理と将来改修のしやすさを確認したか
よくある質問
ペリメータとインテリアで空調系統を分けないとどうなりますか?
窓際と室内側で負荷の向きが逆になる時期(例えば冬の朝方など)に、片方が暑く片方が寒いといった温度ムラのクレームが発生しやすくなります。系統を分けて個別制御することで、こうした不満を抑えることができます。
OA機器の発熱はどのくらい見込めばよいですか?
機器の種類・台数・使用率によって大きく変わるため、一律の数値で語ることは難しく、実際の設計では想定される入居企業の業態や機器構成をもとに設計者が積算します。数値の妥当性は必ず設計者・専門家に確認してください。
賃貸オフィスビルで個別分散方式(ビルマル)が多いのはなぜですか?
テナントごとに空調の使用時間帯や電力料金を分けて管理したいというニーズが強いためです。中央熱源方式に比べて、テナント単位での運用管理のしやすさが評価されています。
シェアオフィスやフリーアドレス化に対応する設備計画のポイントは?
固定席を前提としない座席配置に対応できるよう、フリーアクセスフロアや天井カセット形の空調機器など、レイアウト変更に強い設備方式を採用することがポイントです。個別計量の仕組みも合わせて検討します。
まとめ
- 事務所ビルは在室人数・OA機器の発熱が大きく、負荷が執務時間帯に集中する建物用途
- 空調計画はペリメータゾーン(外気の影響大)とインテリアゾーン(年中冷房気味)を分けたゾーニングが基本
- 空調方式はAHU+VAV、ファンコイル、個別分散(ビルマル)などがあり、テナント運用のしやすさで選ばれることが多い
- 電気計画ではOA負荷を見込んだ幹線・コンセント容量とフリーアクセスフロアが重要
- 給排水は給湯・トイレ中心で負荷は比較的小さいが、湯沸室など用途は明確
- ZEB・BEIへの対応やレイアウト変更への柔軟性が、近年の設備計画で重視されるテーマ
事務所ビルの設備計画は、「昼間の限られた時間帯に集中する負荷」と「テナント変更への柔軟性」という2つの視点を常に意識することが実務上のポイントです。実際の設計にあたっては、建物規模やテナント構成に応じて設計者・専門家とよく相談しながら計画を進めることをおすすめします。
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