工場・生産施設の電気設備計画の基礎|受変電容量・動力集中・高調波と防爆エリアの考え方
工場・生産施設の電気設備計画は、事務所ビルの電気設備計画とは出発点が異なると筆者は感じています。事務所ビルでは照明・コンセント・空調といった比較的読みやすい負荷が中心になりますが、工場では生産ライン・加工機械・搬送設備といった動力負荷の塊が電気設備計画の主役になります。負荷の種類も稼働パターンも生産品目によって大きく変わるため、「工場の電気設備」を一律に語ることは難しい分野ですが、どんな工場でも共通して押さえておきたい視点はいくつかあります。
この記事では、工場・生産施設の電気設備を計画するうえで押さえておきたい、受変電容量の考え方、動力設備が集中することによる高調波・電圧変動という論点、そして危険物や可燃性ガスを扱うエリアで必要になる防爆電気設備との取り合いを整理します。建物としての工場・物流施設の計画全体については建築計画分野の工場・物流施設の計画の基礎で扱っていますので、電気設備側の視点はこの記事、建物計画側の視点はそちらの記事とあわせて読むと理解がつながります。
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早見まとめ
| 項目 | 考え方の要点 |
|---|---|
| 負荷の性格 | 生産ライン・加工機械・搬送設備という動力負荷が中心。事務所ビルより負荷率・稼働パターンの振れ幅が大きい |
| 受電方式 | 契約電力の規模に応じて高圧受電・特別高圧受電を選択。生産計画の拡張余地を見込んだ変圧器容量の確保が実務上のポイント |
| 動力設備の集中 | 大容量モーターの始動電流、インバータ制御機器からの高調波流出、負荷変動による電圧フリッカが起きやすい |
| 高調波対策 | 高圧・特別高圧受電で発生機器を新設・増設する場合、高調波抑制対策ガイドラインに基づく検討が必要になる場合がある |
| 防爆エリアとの取り合い | 塗装・溶剤・粉じん・可燃性ガスを扱う工程では、危険場所の区分に応じた防爆電気設備の検討が必要 |
| 停電時の影響 | 生産ラインの停止・仕掛品のロス・再起動時間という、事務所ビルとは異なるBCP上の論点がある |
受変電容量の考え方:生産設備という動力負荷をどう見積もるか
工場の受変電設備計画では、まず生産設備側の負荷リストを積み上げるところから始まります。個々の生産機械の定格容量を単純に合計すると過大な数字になりがちなため、電気設備の学習ガイドで扱っている需要率・負荷率・不等率の基礎の考え方を使い、実際にどれだけの設備が同時に稼働するかという需要率を見込んで最大需要電力を想定します。
工場特有の注意点は、生産計画の変化に対する余裕をどう見込むかという点です。事務所ビルの負荷は建物の用途が大きく変わらない限り比較的安定していますが、工場では生産ラインの増設・機械の更新・生産品目の変更によって負荷構成が数年単位で変わることがあります。将来の増設余地をどこまで変圧器容量・幹線サイズに織り込んでおくかは、初期投資とのバランスで発注者と早い段階ですり合わせておく必要があります。受変電設備そのものの構成やキュービクルの考え方は受変電設備の基礎、受電方式の選び方は受電方式の基礎で扱っていますので、あわせて確認してください。
動力設備の集中が生む2つの論点:高調波と電圧変動
工場の電気設備計画で事務所ビルとの違いが最も表れやすいのが、動力設備が集中することで生じる電気の「質」の問題です。
高調波は、インバータ制御による省エネ・可変速運転が生産設備に広く採用されるようになったことで、工場の電気設備計画では避けて通れない論点になっています。高圧・特別高圧で受電する需要家が高調波発生機器を新設・増設・更新する場合には、「高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン」に基づく検討が必要になる場合があります。発生源となる機器の種類や障害の考え方、直列リアクトルやフィルタといった対策の全体像は高調波対策の基礎で詳しく整理していますので、工場の電気設備を計画する際は必ずあわせて確認しておきたい単元です。
電圧変動(フリッカ)も、工場特有の論点です。大容量モーターの始動時には定格電流の数倍にあたる始動電流が瞬間的に流れ、これが幹線のインピーダンスと組み合わさって電圧降下・電圧フリッカを引き起こすことがあります。溶接機のように負荷が周期的に大きく変動する設備でも同様の現象が起きやすく、照明のちらつきや近隣への影響として表面化する場合があります。始動方式の選定(スターデルタ始動・インバータ始動等)や幹線の余裕を持った設計は、電気設備の学習ガイドで扱っている動力設備の計画の考え方が土台になります。
| 論点 | 起きやすい現象 | 主な対策の方向性 |
|---|---|---|
| 高調波 | 進相コンデンサの焼損、制御機器の誤動作 | 直列リアクトル、多パルス化、フィルタの設置(ガイドラインに基づく検討) |
| 電圧変動(フリッカ) | 大容量モーター始動時の電圧降下、照明のちらつき | 始動方式の見直し、幹線の余裕確保、専用回路化 |
防爆エリアとの取り合い:どの工程で検討が必要になるか
工場では、塗装工程の有機溶剤、粉体を扱う工程の可燃性粉じん、特定の化学プロセスで発生する可燃性ガスなど、通常の電気機器がそのまま着火源になり得る場所が生じる工程が少なくありません。こうした場所では、危険場所の区分に応じた防爆電気設備の検討が必要になります。危険場所の3区分(特別危険箇所・第一類・第二類)や防爆構造の種類(耐圧防爆・本質安全防爆・安全増防爆等)の基本的な考え方は防爆電気設備の基礎で整理していますので、工場のどの工程に防爆電気設備の検討余地があるかを見極めるための土台として、あわせて確認しておくことをおすすめします。
電気設備の計画者として重要なのは、工程のどこに危険場所が生じうるかを、生産設備を熟知している発注者側の担当者・専門技術者と早い段階ですり合わせておくことです。危険場所の判定そのものは高度に専門的な検討を要するため、設備設計の立場としては「この工程には防爆エリアの検討が必要かもしれない」という気づきを持てることが、まず求められる範囲だと筆者は考えています。
停電時の影響とBCPの考え方
事務所ビルの停電対応が主に「人の安全確保」と「最低限の業務継続」を目的にするのに対し、工場の停電対応にはこれに加えて生産ラインの保護という論点が加わります。加工中の仕掛品が停電によって不良化する工程、瞬時停電でも生産ラインの再起動に長い時間を要する工程では、無停電電源装置(UPS)による瞬低対策や、生産ラインの安全停止シーケンスを電気設備側でどう支援するかという検討が必要になります。予備電源・非常用自家発電設備の基本的な考え方は予備電源・非常用自家発電設備の計画、UPSの容量計画はUPS(無停電電源装置)の基礎で整理していますので、生産ラインのどこに停電リスクの高い工程があるかを発注者と確認したうえで、必要な範囲に絞って電源のバックアップを計画する視点が実務では求められます。
まとめ
- 工場の電気設備計画は、事務所ビルと違って生産ライン・加工機械という動力負荷が中心になり、需要率・負荷率の見積もりに加えて将来の増設余地の織り込みが論点になる
- 動力設備が集中することで、インバータ機器等による高調波と、大容量モーター始動時の電圧変動(フリッカ)という2つの「電気の質」の論点が生じやすい
- 塗装・粉体・可燃性ガスを扱う工程では、危険場所の区分に応じた防爆電気設備の検討が必要になる場合がある
- 停電時は人の安全確保だけでなく、仕掛品の保護・生産ラインの再起動時間というBCP上の論点が加わる
工場の電気設備は生産品目によって負荷の性格が大きく変わるため、この記事で扱った視点を土台にしながら、実際の計画では発注者側の生産技術担当者と密にすり合わせて進めることが欠かせないと筆者は考えています。
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