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実施設計電気設備

動力設備の計画|電動機・インバータ・力率改善の基礎

建物の中でモーターを使う機器、たとえば給水ポンプ、排水ポンプ、空調機のファン、エレベーターなどに電力を供給する系統が動力設備です。同じ電気設備でも、照明やコンセントを扱う電灯設備とは負荷の性質がまったく異なり、始動時に大きな電流が流れる・回転数を制御したい・力率が悪化しやすいといった、モーター特有の課題への対応が計画の中心になります。

この記事では、動力設備の実施設計段階で押さえておきたい要点として、三相誘導電動機の基本的な仕組み、始動方式の選び方、力率と進相コンデンサによる力率改善、動力盤の分岐回路と保護、インバータによる可変速制御と省エネの考え方を整理します。動力設備の分岐回路がどこから電気を受け取るかという上流側の話は中央監視設備と幹線設備の計画で扱っているため、あわせて参照してください。


動力設備とは何か

動力設備とは、電動機(モーター)を動力源とする機器・装置に電力を供給し、その運転を制御・保護するための電気設備です。建物設備の分野では、給水設備・排水設備・空調設備・排煙設備など、他分野の機械設備を動かす「電気の供給側」として登場することが多く、電気設備単体で完結するというより、機械設備・衛生設備との接点が多い設備でもあります。

電灯設備との大きな違いは負荷の性質です。照明やコンセントの負荷は比較的一定で、電流の急な変化は起きにくいのに対し、モーター負荷は起動する瞬間に定格電流よりもかなり大きな電流(始動電流)が流れます。この始動時の挙動をどう扱うかが、動力設備の計画で最初に考える論点になります。

動力設備は、大きく次の2つの判断で成り立っています。1つは電動機をどう始動させ、どう保護するかという機器側の判断、もう1つはその電動機に電力を届ける分岐回路・動力盤をどう構成するかという配電側の判断です。この記事では、この2つを順に見ていきます。


三相誘導電動機の基本

建物設備で使われるモーターの大半は、三相誘導電動機と呼ばれる方式です。三相交流を固定子(外側の巻線)に流すと、内部に回転する磁界(回転磁界)が発生し、この回転磁界に引きずられる形で回転子(内側の軸)が回転する、という仕組みで動力を生み出します。

回転子は回転磁界の速度(同期速度)にわずかに遅れて回転する性質があり、この速度差を「すべり」と呼びます。負荷が大きくなるほどすべりが増え、回転子に流れる電流も増えるという関係があり、これが後述する過負荷保護の考え方の土台になります。

三相誘導電動機は構造が比較的単純で堅牢、保守の手間が少ないという特徴があり、ポンプやファンなど連続運転が求められる機器の動力源として広く使われています。一方で、始動する瞬間には回転子がまだ止まっている状態から急に大きな磁界変化を受けるため、定格電流の数倍にあたる始動電流が一時的に流れる性質があります。この始動電流をどう抑えるかが、始動方式選定の主なテーマです。


始動方式の選び方

三相誘導電動機の始動方式は、電動機の容量や、始動時の電流・トルクをどこまで抑えたいかによっていくつかの選択肢があります。代表的な方式を整理すると、次のようになります。

始動方式 特徴 主な適用
全電圧始動(直入れ) 定格電圧をそのまま印加する最も単純な方式。始動電流・始動トルクが最大になる 比較的小容量の電動機、電源系統に余裕がある場合
スターデルタ始動 始動時はスター結線、加速後にデルタ結線へ切り替える方式。始動電流・始動トルクとも全電圧始動よりおおむね抑えられる ある程度の容量帯の電動機で、配線を複雑にしても始動電流を抑えたい場合
リアクトル始動 始動時に直列リアクトルを挿入し、タップ(電圧比)に応じて始動電流を制限する方式 スターデルタ始動が適さない場合や、より広い容量帯で始動電流を細かく調整したい場合
インバータ始動 インバータで周波数・電圧を徐々に上げながら始動する方式。始動電流を小さく保ちやすい 可変速制御と併用する場合や、始動時の衝撃・電圧変動を特に抑えたい設備

どの方式を選ぶかは、電動機単体の性能だけでなく、その建物の受電容量・他の負荷への電圧変動の影響・分岐回路の許容電流といった、系統全体とのバランスで決まります。容量の大きな電動機を全電圧始動させると、始動の瞬間に電源系統の電圧が大きく落ち込み、同じ系統につながる照明のちらつきや他の機器への影響が出ることがあるため、一定容量を超える電動機ではスターデルタ始動やリアクトル始動、インバータ始動が検討の対象になります。

なお、始動方式の最終的な選定は、電動機容量・電源事情・負荷特性(始動時に必要なトルクの大きさ)を踏まえて、電気設計者・機器メーカーと具体的に確認しながら決めるのが実務の進め方です。この記事で示した適用の目安は一般的な考え方であり、実際の閾値や適用条件は案件ごとに異なります。


力率と進相コンデンサによる力率改善

電動機のようなコイル(巻線)を持つ負荷には、電圧と電流の位相にずれが生じる性質があります。このずれの度合いを表す指標が力率で、実際に仕事をする有効電力と、電源側から見た皮相電力(電圧×電流で単純に求まる電力)の比として表されます。力率が低いほど、同じ有効電力を送るのにより大きな電流が必要になり、配電設備の損失増加や電圧降下の拡大につながります。

三相誘導電動機は遅れ力率(電流が電圧より遅れる性質)の負荷になりやすく、建物全体で見ても動力設備が力率悪化の主な要因になりやすい設備です。そこで一般的に行われるのが、進相コンデンサを設置して力率を改善する方法です。進相コンデンサは、電動機側で生じる遅れの無効電力を打ち消す方向に働き、結果として電源から見た力率を改善します。

力率改善には、受変電設備の受電点にまとめて進相コンデンサを設置する方式と、個々の電動機の近くに専用の進相コンデンサを設置する方式があります。受電点での一括設置は施工が簡単でコストを抑えやすい一方、電動機ごとの改善効果までは得られません。電動機個別に設置する方式は、その電動機が動いているときだけ確実に力率が改善される利点がありますが、設置台数が増える分コストもかさみます。実務では、建物全体の力率改善は受電点側の進相コンデンサでまとめて対応し、特に容量の大きい電動機だけ個別に対応する、という組み合わせが多く採られます。

高圧で受電している建物では、電力会社との契約上、力率に応じて基本料金が割引・割増される制度が設けられていることが一般的です。力率改善は電気料金の面でもメリットがあるため、動力設備の計画段階から意識しておく価値があります。ただし、コンデンサの容量を過剰に設置すると、逆に進み力率となって別の弊害を招くこともあるため、適切な容量選定が必要です。この受電点側の力率改善・進相コンデンサの位置づけは受変電設備の基礎でも触れているので、あわせて確認してください。


動力盤と分岐回路の構成

動力盤とは、動力設備向けの分岐回路をまとめて収めた盤のことで、住宅の分電盤にあたるものを動力負荷向けに拡張した設備と考えると分かりやすいです。分電盤が照明・コンセントなど比較的容量の小さい負荷を扱うのに対し、動力盤はポンプ・ファン・エレベーターなど出力の大きいモーター負荷を扱う、という役割分担が一般的です。分電盤・動力盤それぞれの基本的な考え方は分電盤とブレーカーの基礎でも解説しています。

動力盤内の分岐回路は、単に電気を分けるだけでなく、電動機ごとの始動方式・運転方式に応じた制御機能を持たせて構成されます。全電圧始動であれば電磁開閉器(マグネットスイッチ)で入り切りするだけの単純な構成になりますが、スターデルタ始動であれば結線を切り替えるための複数の開閉器とタイマーが、インバータ始動であればインバータ本体とその制御回路が、それぞれ分岐回路に組み込まれます。

動力盤の設置場所は、保守・点検のしやすさを考慮して決めます。電動機は運転時間が長く、経年劣化や異常の兆候(異音・振動・過熱など)が現れやすい機器であるため、点検担当者が定期的にアクセスしやすい位置に動力盤を配置しておくことが、竣工後の維持管理のしやすさに直結します。また、動力設備の監視・制御は、故障時の警報表示なども含めて、施設の規模や重要度に応じた仕組みを設けることが求められます。


電動機の保護(サーマルリレー・電動機保護ブレーカー)

電動機は、負荷が増えすぎたり、三相のうち1相が欠けた状態(欠相)になったりすると、巻線に過大な電流が流れ続け、最終的に焼損に至る危険があります。この過負荷から電動機を守るために設けられるのが、サーマルリレーや電動機保護用のブレーカーです。

サーマルリレーは、バイメタル(膨張率の異なる2種類の金属を貼り合わせた部品)が電流による発熱で湾曲する性質を利用し、過負荷状態が一定時間続くと接点を動作させて電動機を停止させる機器です。動作の設定は、定格電流付近では動作せず、始動時の一時的な過電流でも誤って動作しないようにしつつ、実際の過負荷状態は確実に検知できるよう調整されます。

配線用の遮断器(ブレーカー)は、主に短絡(ショート)のような大電流を瞬時に遮断する目的で使われますが、そのままでは電動機の細かな過負荷を検知する用途には向きません。そこで、電動機用に過負荷検知の機能を組み込んだ電動機保護用ブレーカーが使われることもあり、サーマルリレーと組み合わせる、あるいはその機能を1つの機器にまとめる、といった構成が実務では取られます。どの保護方式を採用するかは、電動機の容量・重要度・求められる保守性を踏まえて選定するのが基本です。


インバータによる可変速制御と省エネ

近年の動力設備では、始動方式としてだけでなく、運転中の回転数を連続的に変えられる装置としてインバータが広く使われています。インバータは、商用電源の交流を一度直流に変換し、そこから任意の周波数の交流を作り出すことで、電動機の回転数を自在に調整できる仕組みです。

給水ポンプや空調用ファンのように、必要な流量・風量が時間帯や季節によって変動する設備では、インバータによる回転数制御が大きな省エネ効果を生みます。遠心式のポンプやファンには、圧力(揚程)が回転速度のおおむね2乗に、流量が回転速度にほぼ比例するという関係があり、その結果、電動機に必要な動力は回転速度のおおむね3乗に比例するという性質があります。たとえば流量を20%絞るために回転速度を20%落とすと、動力はおよそ半分近くまで減る計算になり、弁やダンパーで流量を絞る方法に比べて、消費電力の削減効果がはるかに大きくなります。

ただし、インバータの導入には初期コストがかかること、また高調波電流を発生させる性質があり、他の機器や電源系統への影響に配慮が必要なことにも注意が必要です。必要に応じてフィルタの設置や高調波流出量の検討を行うことが求められます。導入の可否は、負荷変動の大きさ・想定される稼働時間・投資回収の見通しを踏まえて、設計者と施主が早い段階ですり合わせておくとよい判断ができます。


実務での判断・よくある誤解

動力設備の計画では、「容量の大きい電動機だから高機能な始動方式にすればよい」という単純な話ではなく、系統全体とのバランスで判断が変わる点に注意が必要です。たとえば、始動頻度が低く連続運転が中心の設備であれば、多少始動時の電圧変動があっても全電圧始動で十分なケースもあります。逆に、頻繁に発停を繰り返す設備や、流量変動が大きい設備では、始動時の負担軽減よりも運転中の可変速制御によるメリットのほうが大きく、インバータ導入が優先されることもあります。

また、力率改善についても「進相コンデンサを付ければ付けるほどよい」というものではありません。過剰な容量のコンデンサは進み力率という別の問題を招くため、実際の負荷の力率実測値や運転パターンをもとに、適切な容量を選定する必要があります。この点は所轄の電力会社や設計者との確認が前提になります。

いずれの判断も、電動機単体の仕様書だけを見て決められるものではなく、建物全体の受電容量・他設備への影響・維持管理体制まで含めた総合判断であるという点が、動力設備計画の実務上のポイントです。


まとめ

  • 動力設備はポンプ・ファンなどのモーター負荷に電力を供給する設備で、始動時に大きな電流が流れる点が電灯設備との大きな違い
  • 三相誘導電動機の始動方式には全電圧始動・スターデルタ始動・リアクトル始動・インバータ始動があり、容量や求める始動特性に応じて選定する
  • 力率改善には進相コンデンサを用い、受電点での一括設置と電動機個別の設置を組み合わせるのが実務上多い進め方
  • 動力盤は始動方式・運転方式に応じた制御機能を分岐回路に組み込み、保守性を考慮した位置に配置する
  • 電動機の過負荷保護にはサーマルリレーや電動機保護用ブレーカーが使われ、始動電流での誤動作を避けつつ過負荷を検知する
  • インバータによる可変速制御は、ポンプ・ファンで特に大きな省エネ効果を持つが、初期コストと高調波対策も踏まえて導入を判断する

動力設備は目立たない存在ですが、建物の中で最も電力を消費する機器群を支える基盤です。始動方式・力率改善・保護・省エネという4つの視点を早い段階で整理しておくことが、竣工後の安定運用とランニングコストの両立につながります。


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