自動制御・BEMSの基礎|中央監視との違いとエネルギー管理
自動制御という言葉は、空調機を自動で動かす仕組み全般を指すこともあれば、個々の弁やダンパーを開け閉めする細かい制御ロジックを指すこともあり、話す相手によって指している範囲が違うことがよくあります。BEMS(ビルエネルギー管理システム)や中央監視設備という似た言葉と合わせて使われる場面も多く、実施設計の段階でこれらの役割分担を整理しておかないと、どの盤に何を監視させ、どこまでを自動で動かすのかという仕様の詰めが曖昧なまま進んでしまいます。
自動制御は、大きく分けて「機器そのものを動かす仕組み」と「その動きをどう組み立てるか」という2つの階層で考えると整理しやすくなります。この記事では、フィードバック制御とシーケンス制御という制御方式の基本、DDC(デジタル直接制御)と呼ばれる現在主流の制御装置の仕組み、そしてBEMS・中央監視設備との関係を、実施設計で仕様を詰める視点から解説します。中央監視設備の全体像は中央監視設備と幹線設備の計画で扱っていますので、あわせてご覧ください。
フィードバック制御とシーケンス制御|2つの基本方式
自動制御の方式は、大きくフィードバック制御とシーケンス制御の2つに分けて説明されることが一般的です。
フィードバック制御は、センサーで測った実際の状態(室温や水位など)と目標値を比較し、その差を小さくするように機器の動きを調整し続ける制御方式です。空調機の温度調整弁を例にすると、室温センサーが「目標より少し高い」と検知すれば冷水弁を開き気味にし、目標に近づいたら弁の開度を戻す、というように、結果を見ながら動きを修正し続けるのが特徴です。目標値に対して精度よく追従できる一方、センサーや調整のロジックが複雑になりやすい面もあります。
シーケンス制御は、あらかじめ決めた手順に従って、段階を追って機器を動かしていく制御方式です。「ポンプAが起動してから一定時間後にポンプBを起動する」「弁を開いてから送風機を動かす」といった、順序と条件があらかじめ決まっている制御に向いています。国土交通省の『建築設備設計基準』でも、熱源機器とその附属機器(冷水ポンプ・冷却水ポンプ・冷却塔ファンなど)は原則として連動運転とし、起動・停止の順序に一定時間の間隔を設けることが基本的な考え方として示されており、これはシーケンス制御が担う典型的な役割にあたります。結果を測定しながら微調整するフィードバック制御に対し、シーケンス制御は「順序を守って確実に動かす」ことに重点があると理解すると分かりやすくなります。
実際の建物では、この2つは排他的なものではなく組み合わせて使われます。熱源機器の起動・停止の順序はシーケンス制御で組み立て、起動後の温度・流量の細かい調整はフィードバック制御で行う、というのが一般的な構成です。
DDC(デジタル直接制御)とは
かつての自動制御は、電磁リレーや空気圧式の調節器を組み合わせたアナログ的な仕組みが中心でしたが、現在の建物ではDDC(Direct Digital Control、デジタル直接制御)と呼ばれるコントローラが主流になっています。DDCは、センサーからの信号をデジタル値として読み取り、あらかじめ組み込まれた制御プログラムに従って弁やダンパー、送風機の発停などを演算・出力する装置です。
DDCコントローラの入出力は、一般に次の4種類の信号で扱われます。
| 信号の種類 | 略称 | 内容 |
|---|---|---|
| デジタル入力 | DI | 発停状態やスイッチのON/OFFなど、2値の情報を取り込む |
| デジタル出力 | DO | 機器への発停指令など、2値の指令を出す |
| アナログ入力 | AI | 温度・湿度・流量などの連続的な値を取り込む |
| アナログ出力 | AO | 弁の開度や送風機の回転数など、連続的な指令を出す |
実施設計の段階では、対象となる空調機・熱源機器・ポンプ・送風機などについて、それぞれ何をDI/DO/AI/AOとして扱うかを整理した「制御点数表」を作成し、DDCコントローラの台数配置や、監視・制御の対象範囲(ポイント数)を詰めていく作業が発生します。この点数表が、後述するBEMS・中央監視設備側でどこまでのデータを扱えるかの土台にもなります。プログラムの内容を機器ごとに個別に組み替えられるため、増改築や運用方法の見直しがあった際にも、配線をほとんど変えずにロジックの変更だけで対応しやすいのがDDCの実務上の利点です。
自動制御・中央監視設備・BEMSの階層関係
自動制御・中央監視設備・BEMSという3つの言葉は、扱う範囲の大きさで階層的に整理すると理解しやすくなります。
| 階層 | 主な役割 | 扱う範囲の目安 |
|---|---|---|
| 自動制御(DDC等) | 個々の機器・系統を実際に動かす | 空調機1台、熱源機器1系統など機器・系統単位 |
| 中央監視設備(BAS) | 建物内の設備の運転状態・警報を1か所に集約して監視・遠隔操作する | 建物全体の空調・電気・給排水・防災など |
| BEMS | 建物のエネルギー使用量を計測・分析し、省エネ運用につなげる | 建物全体のエネルギー収支 |
自動制御は「機器を動かす」層、中央監視設備は「建物全体の状態を見張る」層、BEMSは「エネルギーの使われ方を見える化し、改善につなげる」層と役割が分かれています。ただし実務上は、この3つが別々のシステムとして独立しているとは限りません。中央監視設備の機能の一部としてエネルギー計測・見える化の機能を持たせ、BEMSと呼ぶケースも多く、案件によって呼び方や範囲の線引きが異なる点には注意が必要です。国土交通省の『建築設備設計基準』でも、自動制御設備(空調機系・熱源機器系・換気送風機系・給排水衛生設備系などの監視及び制御)と、中央監視制御設備(建物全体の設備システムを管理する場所に集約する装置)は、章立て自体が分けて整理されています。実施設計では、どの機能をどのシステムに持たせるかを、施主・維持管理担当者と早い段階ですり合わせておくことが重要です。
省エネにつながる自動制御の代表例
自動制御は、単に機器を「動かす・止める」だけでなく、運転の仕方そのものを工夫することで省エネルギーに直結します。実施設計でよく検討される代表的な制御を整理すると、次のとおりです。
| 制御の名称 | 考え方 | 主な効果 |
|---|---|---|
| 外気冷房 | 外気温度・湿度が室内より低く快適な条件のとき、冷凍機を使わず外気を取り入れて冷房する | 中間期を中心に熱源機器の運転時間・エネルギー消費を削減 |
| 最適起動停止制御 | 過去の運転実績や室温・外気温から、設定した時刻に室内条件が整うよう起動時刻を自動で計算する | 早すぎる予熱・予冷による無駄な運転時間を削減 |
| CO2濃度制御 | 室内のCO2濃度をセンサーで計測し、在室人数の変動に応じて外気導入量を増減させる | 換気に伴う空調負荷を必要な分だけに抑える |
| デマンド制御 | 30分ごとの平均使用電力(デマンド値)が目標値に近づいた際に、優先順位の低い設備の出力を一時的に抑制する | 契約電力(基本料金)の上昇を防ぐ |
| 変流量制御 | 送風機・ポンプの回転数をインバータ等で調整し、必要な風量・水量に応じて流量を変化させる | 送風機・ポンプの搬送動力を削減 |
このうちCO2濃度制御は、建築物衛生法に基づく建築物環境衛生管理基準で、室内のCO2含有率をおおむね1,000ppm以下に維持することが求められている点と関係が深く、この基準を満たしながら換気量を必要最小限に抑えるための手法として位置づけられます。デマンド制御は、電力会社との契約電力が過去一定期間のデマンド値の最大値によって決まる仕組みを踏まえ、瞬間的な使用電力のピークを抑えることで基本料金の上昇を防ぐ狙いがあります。いずれも、フィードバック制御やシーケンス制御を土台に、センサーからの情報をもとにDDCが判断・出力する形で実現されています。
実務での判断|実施設計で詰めておきたいポイント
実施設計の段階では、どの制御をどこまで作り込むかによってイニシャルコストとランニングコストのバランスが大きく変わってきます。外気冷房やCO2濃度制御のように、センサーの追加設置とロジックの作り込みが必要な制御は、導入コストに対して省エネ効果がどの程度見込めるかを、建物の用途・運転時間・在室人数の変動幅などをもとに検討することが実務上のポイントです。
また、制御点数表の作成にあたっては、監視・制御の対象を増やすほど初期費用と保守の手間が増える一方、対象を絞りすぎると将来の運用改善やトラブル対応の際に必要な情報が得られない、というトレードオフがあります。竣工後にどの部署が維持管理を担うのか、どの程度の頻度で運転条件を見直す運用体制があるのかを、設計の早い段階で施主側と確認しておくと、過不足のない仕様に落とし込みやすくなります。
DDCコントローラの台数配置も、実施設計で詰めるべき項目の1つです。機械室ごと・系統ごとにコントローラを分散配置する構成が一般的ですが、配置が細かくなるほど通信ネットワークの配線ルートも増えるため、EPSや機械室のスペース、将来の増設余地とあわせて検討する必要があります。中央監視設備との通信方式(専用回線か、汎用的な通信プロトコルを使うか)についても、既存設備との親和性や将来の更新のしやすさを踏まえて選定するのが実務上のポイントです。
よくある誤解|自動制御を入れれば自動的に省エネになるわけではない
自動制御やBEMSを導入すれば自動的に省エネが実現する、と捉えられることがありますが、これは正確ではありません。自動制御はあくまで「決められた条件に従って機器を動かす仕組み」であり、その条件(設定温度、起動停止のスケジュール、CO2濃度の閾値など)が実態に合っていなければ、期待した省エネ効果は得られません。
特にBEMSによるエネルギー計測は、数値を記録するだけでは効果を生みません。計測されたデータをもとに「どの時間帯・どの系統で無駄な運転が起きているか」を分析し、制御の設定値やスケジュールを見直すという運用サイクルがあって初めて、省エネにつながります。竣工時に作り込んだ制御ロジックを、運用開始後も定期的に見直す体制を整えておくことが、自動制御・BEMSを活かすうえでの前提になります。
BEMSとZEB・省エネ基準との関係
BEMSによるエネルギーの見える化は、建物の省エネ性能を評価するうえでも重要な役割を持ちます。設計段階では、BEI(Building Energy Index、建物の一次エネルギー消費量を基準値と比較して評価する指標)などの計算値によって省エネ性能が評価されますが、竣工後の運用段階でその計算どおりの性能が実際に発揮されているかを確認するには、BEMSによる実測データが欠かせません。
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を目指す建物では、設計時の省エネ計算だけでなく、竣工後も継続的にエネルギー使用量を計測・分析し、制御の設定を改善していく運用体制が求められます。自動制御によって個々の機器の動きを効率化し、その結果をBEMSで見える化して継続的に改善する、という一連の流れが、ZEBの実現を支えるインフラの1つになっています。ZEBの区分や設備分野別の省エネ手法については建築物のZEBとはで詳しく解説しています。
まとめ
- 自動制御は、結果を見ながら調整するフィードバック制御と、決めた手順で動かすシーケンス制御の組み合わせで成り立っている
- 現在の主流はDDC(デジタル直接制御)で、DI/DO/AI/AOという入出力信号をもとに制御プログラムが機器を動かす
- 自動制御(機器を動かす層)・中央監視設備(建物全体を見張る層)・BEMS(エネルギーを見える化する層)は役割の階層が異なるが、実務では機能が重なって扱われることも多い
- 外気冷房・最適起動停止制御・CO2濃度制御・デマンド制御・変流量制御などが、省エネにつながる代表的な自動制御の例
- 自動制御やBEMSは導入するだけで省エネが実現するわけではなく、設定値の見直しと運用の継続が効果を左右する
- BEMSによるエネルギー計測は、ZEBや省エネ基準の「運用段階での裏付け」としての役割も担う
自動制御・中央監視設備・BEMSは、それぞれが独立した設備というより、機器を動かす・建物全体を見張る・エネルギーを見える化するという役割の連なりとして捉えると全体像がつかみやすくなります。実施設計では、どこまでの範囲を自動化し、どのデータを誰が使うのかを、竣工後の運用体制まで見据えて施主・維持管理担当者とすり合わせておくことが望まれます。
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