高調波対策の基礎|発生源・障害・抑制対策ガイドライン
建物の電気設備を計画していると、インバータ機器やLED照明器具が増えるほど「高調波」という言葉に出会う機会が増えてきます。高調波は、電圧・電流の波形が本来の正弦波からゆがむ現象で、目に見える不具合として現れにくい分、進相コンデンサの焼損や機器の誤動作といった形で突然表面化しやすい厄介な性質を持っています。
高調波の発生源となる機器は、インバータ・整流器・UPS(無停電電源装置)・LED照明の電源部など、電力を一度変換して使う「パワーエレクトロニクス機器」に共通しています。省エネや制御性の向上を目的にこうした機器の導入が進むほど、建物側で流出する高調波電流も増える傾向にあり、基本設計の段階から発生源の見積もりと対策の要否を検討しておくことが望ましい分野です。
この記事では、高調波の基本的な考え方(何次の高調波がなぜ生じるか)から、主な発生源、高調波が引き起こす障害、高圧・特別高圧で受電する需要家を対象とした「高調波抑制対策ガイドライン」の枠組み、直列リアクトル付きコンデンサやフィルタといった具体的な対策、計画段階でのチェックポイントまでを整理します。ガイドラインに基づく数値計算は個別の設備構成によって変わるため、実際の要否判定・対策の選定は電気設計者・電気主任技術者・電力会社との確認が前提になります。
早見まとめ
| 項目 | 考え方・目安 |
|---|---|
| 高調波の定義 | 基本波(商用周波数50Hz/60Hz)の整数倍の周波数を持つ電圧・電流成分。何倍かを示す数を「次数」と呼ぶ |
| 主に問題となる次数 | 三相ブリッジ(6パルス)整流回路からは第5次・第7次が代表的に発生しやすい |
| 主な発生源 | インバータ、整流器、UPS、LED照明の電源部など、電力変換を行うパワーエレクトロニクス機器 |
| 引き起こす障害の代表例 | 進相コンデンサ・直列リアクトルの過熱・焼損、制御機器の誤動作、三相4線式の中性線過電流 |
| ガイドラインの正式名称 | 「高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン」(平成6年制定、平成16年改正) |
| 対象となる場面 | 高圧・特別高圧受電の需要設備の新設、高調波発生機器の新設・増設・更新、契約電力相当値や受電電圧の変更時 |
| 判定の考え方 | 高調波発生機器ごとの「等価容量」を求め、受電電圧区分の限度値以下なら検討終了。超える場合は流出電流の計算に進む |
| 等価容量の限度値(目安) | 6.6kV:50kVA/22・33kV:300kVA/66kV以上:2,000kVA(技術指針による) |
| 主な抑制対策 | 直列リアクトル付き進相コンデンサ、ACリアクトル・DCリアクトルの挿入、整流回路の多パルス化(12パルス化等)、パッシブ/アクティブフィルタの設置 |
高調波とは何か
高調波とは、電力系統の基本波(日本では50Hzまたは60Hz)の整数倍の周波数を持つ、電圧・電流のひずみ成分のことです。基本波の何倍の周波数かを表す数を「次数」と呼び、たとえば基本波の5倍の周波数を持つ成分を「第5次高調波」と呼びます。
正弦波を出力しない負荷、すなわちスイッチング動作を伴う半導体を使った機器では、電流波形が正弦波からゆがみ、この結果として高調波成分を含む電流を電力系統に流出させます。三相のブリッジ整流回路(6パルス整流)を持つ機器では、理論上「6の倍数±1」の次数、つまり第5次・第7次・第11次・第13次…という順に高調波が発生し、このうち振幅が大きく実務上の対策対象になりやすいのが第5次・第7次です。単相の整流回路や、複数の単相負荷が三相4線式の各相に分散して接続される場合には、第3次のような奇数次の高調波も問題になることがあります。
高調波は、契約電力や皮相電力とは別の指標で管理される点が実務上の特徴です。基本波の有効電力・無効電力を扱う力率の話とは区別して考える必要があり、高調波対策と力率改善は目的も評価方法も異なりますが、後述するとおり設置する機器(進相コンデンサと直列リアクトル)は共通する部分が多く、実務では一体で検討されることが一般的です。
高調波の主な発生源
高調波を発生させる機器は、電力を一度別の形(直流や別の周波数)に変換してから使う「パワーエレクトロニクス機器」に共通しています。建物の電気設備で代表的な発生源を整理すると次のとおりです。
| 発生源 | 高調波が生じる理由(考え方) |
|---|---|
| インバータ(可変速制御装置) | 交流を整流回路で直流に変換したのち、スイッチング素子で再び任意の周波数の交流に変換する過程で、入力側の整流回路が非正弦波電流を発生させる |
| UPS(無停電電源装置) | 常時インバータ給電方式など、内部で整流・インバータ変換を行う方式は入力電流がひずみやすい |
| LED照明・その他の電源装置 | スイッチング電源が交流を整流・平滑してから使うため、入力電流がパルス状になりやすい |
| サーボアンプ、溶接機、電気炉など | いずれも整流回路や高速なスイッチング制御を含み、高調波発生機器に分類される |
ポンプ・ファンなど動力設備の省エネ制御にインバータを採用するケースが増えており、動力設備の計画で扱う電動機の制御方式の選定は、高調波の発生量にも直結する検討事項になります。近年は照明のLED化に伴い、単体では容量の小さいLED電源が建物全体で多数台まとまることで、無視できない高調波発生源になる点にも注意が必要です。
高調波が引き起こす障害
高調波が電力系統や建物内の設備に流れ込むと、電圧・電流波形がひずみ、次のような障害を引き起こすことがあります。
| 障害 | 内容 |
|---|---|
| 進相コンデンサ・直列リアクトルの過熱・焼損 | コンデンサのインピーダンスは周波数が高いほど小さくなるため、高調波電流が優先的に流れ込みやすく、過電流による発熱・異常振動・焼損事故につながるおそれがある |
| 保護装置・制御機器の誤動作 | 波形ひずみにより、電流・電圧の実効値やゼロクロス点を基準に動作する保護継電器・制御機器が正しく動作しないことがある |
| 中性線の過電流 | 三相4線式でLED電源など単相の非線形負荷が各相に分散していると、第3次のような「零相性」の高調波電流が中性線で打ち消し合わずに加算され、中性線が相電流以上に発熱するおそれがある |
| 電圧ひずみ率の悪化 | 需要家からの高調波流出電流が積み重なると、電力系統側の電圧ひずみが増大し、同じ系統に接続する他の需要家の設備にも影響が及ぶ |
| 変圧器・ケーブルの損失増加 | 高調波電流が流れることで、渦電流損の増加など、通常の基本波電流だけでは想定しない追加の損失・発熱が生じる |
このうち、進相コンデンサ・直列リアクトルの焼損は建物の電気設備で実際に発生報告のある障害であり、受変電設備の基礎や力率改善と進相コンデンサの基礎で扱う設備の保守点検項目としても重要な視点になります。中性線過電流は、LED化改修などで単相の非線形負荷が急増した既存建物で見落とされやすいため、改修計画の際は中性線の容量・接続構成を確認しておくことが望まれます。
高調波抑制対策ガイドラインの枠組み
高圧・特別高圧で受電する需要家の高調波流出を管理する枠組みとして、「高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン」(平成6年制定、平成16年改正)が定められています。このガイドラインは、需要設備を新設する場合、高調波発生機器を新設・増設・更新する場合、契約電力相当値や受電電圧を変更する場合に、電力系統へ流出する高調波電流が上限値を超えないことを求めるものです。
判定の考え方は、大きく2段階に分かれます。
- 第1ステップ(等価容量による判定):高調波発生機器ごとに、回路種別に応じた「換算係数」を用いて、三相ブリッジ6パルス変換装置に換算した容量(等価容量)を求め、合計します。この等価容量の合計が、受電電圧区分ごとの限度値(6.6kVで50kVA、22・33kVで300kVA、66kV以上で2,000kVA、いずれも技術指針による目安)以下であれば、原則として検討は終了します。
- 第2ステップ(高調波流出電流による判定):等価容量が限度値を超える場合は、機器ごとの高調波発生電流を積み上げ、需要家の受電点から系統に流出する高調波電流を計算します。これを「契約電力1kWあたりの高調波流出電流上限値」に契約電力を乗じた上限値と比較し、超過していれば直列リアクトル付きコンデンサへの流入分の低減効果などを反映した詳細計算を行い、それでも超える場合に抑制対策を検討します。
上限値そのものは受電電圧・次数ごとに個別の値が定められており(技術指針の詳細な数値表による)、実際の判定・計算はこの技術指針に沿って電気設計者が行うのが一般的です。基本設計の段階では、「インバータやLED電源を多く採用する計画では、この等価容量による簡易判定が必要になる可能性がある」ということを認識し、契約電力の想定と合わせてデマンド監視とスマートメーターの基礎で扱う契約電力の考え方とあわせて早い段階から電力会社・電気主任技術者と協議しておくことが望まれます。
具体的な抑制対策
高調波流出電流が上限値を超える、あるいは超えるおそれがある場合には、次のような対策が検討されます。いずれも効果・コストの特性が異なるため、発生源の種類・容量・既存設備の構成によって組み合わせて選定するのが実務上の考え方です。
| 対策 | 考え方・特徴 |
|---|---|
| 直列リアクトル付き進相コンデンサ | コンデンサに直列リアクトルを組み合わせることで回路を誘導性側に保ち、コンデンサへの高調波電流の集中的な流入を抑える。力率改善と共通する設備であり、力率改善と進相コンデンサの基礎で扱う直列リアクトルと同じ考え方に基づく |
| ACリアクトル・DCリアクトルの挿入 | インバータなど整流回路の交流入力側(ACリアクトル)や直流中間部(DCリアクトル)にインダクタンスを追加し、入力電流の急峻な変化を緩やかにして高調波成分を低減する |
| 整流回路の多パルス化(12パルス化等) | 位相を異にする巻線構成(Δ結線とY結線の組み合わせなど)を持つ変圧器を用い、複数の整流回路の出力を合成することで、6パルス整流で生じる第5次・第7次のような低次の高調波成分を打ち消す方式。12パルス化では理論上、第11次・第13次以降が残る |
| パッシブフィルタ | リアクトルとコンデンサを組み合わせた受動素子で、特定の次数の高調波に対して低インピーダンスの経路を作り、その次数の電流を吸収する方式 |
| アクティブフィルタ | 高調波電流をリアルタイムに検出し、それを打ち消す逆位相の電流を半導体スイッチングで発生させる能動的な方式。複数の次数に対応でき、負荷変動にも追従しやすい |
対策の選定にあたっては、発生源となる機器の容量・稼働パターン、既存の進相コンデンサ・直列リアクトルの仕様、系統への影響度合いを踏まえた費用対効果の検討が欠かせません。多パルス化やアクティブフィルタは効果が高い一方でコストも大きくなる傾向があるため、まずは直列リアクトル付きコンデンサでの対応可否を確認し、それでも不足する場合に上位の対策を検討する、という段階的な進め方が実務では一般的です。
計画段階でのチェックポイント
基本設計の段階で高調波対策を検討する際は、次のような点をあらかじめ整理しておくと、後工程での手戻りを防ぎやすくなります。
- 高調波発生機器の洗い出し:インバータ、UPS、LED電源、サーボアンプなど、パワーエレクトロニクス機器を含む設備を漏れなくリストアップし、容量・台数を把握する
- 契約電力・受電電圧の想定:等価容量による判定は受電電圧区分(6.6kV/22・33kV/66kV以上)で限度値が変わるため、契約電力相当値の想定と合わせて早期に確認する
- 既存の進相コンデンサの仕様確認(改修の場合):直列リアクトル付きかどうかで判定の考え方・低減効果が変わるため、既存設備の仕様書・銘板を確認する
- 単相負荷の分散状況:LED化改修などで単相の非線形負荷が三相4線式の各相にどう分散しているかを確認し、中性線容量の余裕を確かめる
- 電力会社・電気主任技術者との早期協議:等価容量が限度値を超える可能性がある計画では、詳細計算・対策の要否について早い段階から専門家・電力会社に相談する
よくある誤解
「進相コンデンサに直列リアクトルを付ければ高調波は解決する」という理解は、よくある誤解のひとつです。直列リアクトル付きコンデンサは、コンデンサへの高調波電流の集中的な流入を抑え、電力系統からの流入分を低減する効果を持ちますが、これはあくまで需要家の高調波流出を軽減する要素のひとつであり、発生源そのものの高調波発生量を減らす対策ではありません。発生機器の容量が大きい計画では、多パルス化やフィルタといった発生源側・系統側の対策とあわせて検討する必要があります。
また、「低圧の設備だから高調波は関係ない」という考え方も一面的です。高調波抑制対策ガイドラインは高圧・特別高圧受電の需要家を対象とした制度ですが、低圧の建物内でもLED電源やインバータが多数台稼働する環境では、中性線過電流や機器の誤動作といった構内の障害は同様に起こり得ます。契約電力の規模にかかわらず、発生源となる機器の構成を把握しておくことは基本設計の段階から意味があります。
まとめ
- 高調波は基本波の整数倍の周波数を持つ波形ひずみ成分で、三相ブリッジ整流回路からは第5次・第7次が代表的に発生する
- 主な発生源は、インバータ・整流器・UPS・LED電源など電力変換を伴うパワーエレクトロニクス機器
- 引き起こす障害の代表例は、進相コンデンサ・直列リアクトルの過熱焼損、機器の誤動作、三相4線式の中性線過電流
- 「高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン」は、等価容量による簡易判定と高調波流出電流による詳細判定の2段階で対策要否を確認する枠組み
- 対策には直列リアクトル付きコンデンサ、ACリアクトル・DCリアクトル、多パルス化、パッシブ/アクティブフィルタがあり、発生源の規模に応じて段階的に選定する
- 基本設計の段階から発生機器の洗い出しと契約電力・受電電圧の想定を行い、超過のおそれがあれば早期に電力会社・電気主任技術者と協議することが望ましい
高調波対策は、力率改善と設備を共有する部分がありながらも、評価の考え方も判定の枠組みも異なる独立したテーマです。具体的な等価容量の計算、流出電流の判定、対策機器の選定は、電気設計者・電気主任技術者・電力会社との確認を前提に、技術指針に沿って進めることが基本になります。
あわせて読みたい
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