受電方式の基礎|1回線・本線予備線・ループ・スポットネットワークの使い分け
高圧・特別高圧で電気を受ける建物では、電力会社の配電線から敷地内にどう電気を引き込むかという「受電方式」の選定が、設計の初期段階で必要になります。受電方式は、大きく分けると「回線を何本使うか」「事故が起きたときにどう切り替わるか」という2つの軸で整理でき、この組み合わせによって建物の停電リスクとコストが大きく変わってきます。
この記事では、もっとも一般的な1回線受電から、予備の回線を備える本線予備線受電、常時2回線で受ける方式、都心の大規模建物で使われるスポットネットワーク受電まで、受電方式の種類と信頼性の違いを整理します。あわせて、建物の用途によって求められる信頼性の水準が変わること、そして受電方式だけでは守りきれない停電に対して非常用発電機・UPSがどう役割分担しているかについても触れます。受変電設備そのものの構成・単線結線図の読み方は 受変電設備の基礎|キュービクルの構成と単線結線図の読み方 で扱っているため、本記事では引込み・受電方式の信頼性比較に絞って整理します。
なお、実際にどの受電方式が選べるかは、建物が立地する地域の配電系統の構成(電力会社がその地域でループ方式やネットワーク方式の配電線を整備しているか)によって決まる部分が大きく、最終的には電力会社との協議で確定します。この記事はあくまで方式ごとの考え方の整理であり、個別の建物での採否は電力会社・設計者との協議が前提になります。
早見まとめ
| 受電方式 | 回線構成 | 保護・切替の考え方 | コスト目安(相対) | 信頼性目安(相対) |
|---|---|---|---|---|
| 1回線受電 | 1回線 | 回線事故時は切替手段がなく停電する | 最小 | 低い |
| 本線予備線受電 | 常時1回線+予備1回線 | 本線事故時に予備線へ切替(手動・自動) | 中程度 | 中程度 |
| ループ受電 | 常時2回線(環状) | パイロットワイヤーリレー等で事故区間を選択遮断 | やや大きい | 高い |
| スポットネットワーク受電 | 常時2〜3回線並列 | ネットワークプロテクタが逆潮流を検知し自動選択遮断 | 最大 | 最も高い |
※コスト・信頼性はあくまで方式間の相対比較の目安です。実際の工事費・供給条件は建物の受電容量・地域・電力会社によって異なるため、具体的な数値は個別に確認してください。
受電方式とは何か
受電方式とは、電力会社の配電線・送電線から建物の受変電設備まで、どのような回線構成で電気を引き込むかを決める方式のことです。低圧で受電する小規模な建物であれば、電力会社の配電線から1本の引込線を受けるだけで済みますが、高圧・特別高圧で受電する規模の建物になると、回線事故が起きたときにどこまで停電の影響を受け入れるかという「信頼性」の設計が必要になります。
電気は高圧が600Vを超え7,000V以下、特別高圧が7,000Vを超える区分とされており、建物の受電容量が大きくなるほど、より上位の電圧・より高い信頼性の受電方式が検討対象になります。受電方式の選定は、単に「回線を増やせば安全」という単純な話ではなく、回線を増やすほど工事費・維持管理コストが増える一方で、その建物が停電によって受ける影響の大きさ(人命・事業継続・機会損失)とのバランスで決めるものです。
受電方式を理解するうえでのポイントは、「常時何回線で受けているか」と「事故が起きたときにどういう仕組みで切り替わるか(あるいは切り替わらないか)」の2つを分けて考えることです。この2つの軸を押さえておくと、以降で紹介する4つの方式の違いが整理しやすくなります。なお、引き込んだ電気を受ける電気室・キュービクルの設置スペースそのものの計画は本記事では扱わないため、位置・広さ・搬入経路の考え方は 電気室・EPSの計画|位置・広さの目安・搬入経路・浸水対策の考え方 を参照してください。
1回線受電方式
1回線受電は、電力会社の配電線から1回線だけを引き込む、もっとも基本的な受電方式です。工事費・設備費が他の方式に比べて最小で済むため、高圧受電を行う建物の中ではもっとも広く採用されています。
一方で、引込みの回線に事故(断線・地絡・電力会社側の配電線の事故など)が発生すると、切り替える予備の回線がないため、その建物は停電します。停電からの復旧は、電力会社側の事故の復旧作業や、自社側の設備の点検が完了するまで待つことになります。1回線受電は、コストを重視する一般的な事務所・店舗・共同住宅など、停電による影響が事業継続に致命的な影響を及ぼしにくい建物に適した方式です。
なお、1回線受電の引込み方式にも、電力会社の配電線から専用に1回線を引く「専用線方式」と、既存の配電線の途中から分岐して引き込む「T分岐方式」があります。どちらを選べるかは、その建物周辺の配電設備の状況によって決まるため、電力会社との協議が必要です。
本線予備線受電方式
本線予備線受電は、常時は1回線(本線)で受電しつつ、もう1回線を予備線として確保しておき、本線に事故が発生した場合や、電力会社側の保守作業で本線を停止する必要がある場合に、予備線へ切り替える方式です。
切替の仕組みには、運転員が手動で開閉器を操作する方式と、事故を検知して自動的に予備線へ切り替わる自動切替方式があります。自動切替方式のほうが停電時間を短縮できますが、その分、切替用の制御設備・保護継電器が追加で必要になり、コストは手動方式より高くなります。
本線予備線受電は、1回線受電に比べて回線事故時の停電リスクを下げられる一方、切替が完了するまでの一定時間は停電が発生する点に留意が必要です。瞬時の停電も許容できない設備(医療機器・精密製造ラインなど)を抱える建物では、この切替時間そのものが課題になることがあり、その場合は後述するUPS等との組み合わせが検討されます。
ループ受電方式
ループ受電は、電力会社の配電系統がループ(環状)状に構成されている地域で採用できる方式で、常時2回線で受電します。ループ状の配電線のどこかで事故が発生しても、パイロットワイヤーリレーなどの保護継電方式によって事故区間だけを選択的に切り離し、健全な区間を通じて電気の供給を継続できる点が特徴です。
ループ受電が成立するには、その建物が立地するエリアの配電系統がループ方式に対応している必要があるため、どの建物でも自由に選べる方式ではありません。採用できるかどうかは、電力会社への確認が前提になります。本線予備線受電と比べると、常時2回線を使って供給を継続する仕組みであるため、切替に伴う停電時間をより短く抑えやすいとされていますが、実際の切替・保護の動作時間は設備構成によって異なるため、個別の設計協議で確認する必要があります。
スポットネットワーク受電方式
スポットネットワーク受電は、同一の変電所から供給される複数回線(一般的に2〜3回線)を常時並列で受電し、各回線に接続された変圧器の二次側に設置した「ネットワークプロテクタ」が、事故発生時に健全な回線から事故点へ電力が逆流するのを検知して、自動的にその回線だけを切り離す方式です。
ネットワークプロテクタは、プロテクタ遮断器・プロテクタヒューズ・電力方向継電器などで構成され、一般に「逆電力遮断」「無電圧投入」「差電圧投入」という3つの動作特性を持ちます。逆電力遮断は前述した事故時の自動切り離し、無電圧投入・差電圧投入は停止していた回線が復旧した際に、これを自動的に検知して再投入する動作です。事故の検知・切り離しから復旧後の再投入までを人手を介さず自動で行うことで、他の回線からの供給を止めることなく電力供給を継続できます。この仕組みにより、紹介した4方式の中でもっとも高い信頼性を持つ方式とされ、瞬時電圧低下や停電の影響を極めて小さく抑えられる点が特徴です。
その反面、複数回線・複数の変圧器・ネットワークプロテクタ一式を必要とするため、初期費用・維持管理コストは4方式の中でもっとも大きくなります。また、スポットネットワーク受電は電力会社がネットワーク方式の配電線を整備している地域(都心部の高密度地域など)でなければ選択できないため、採用の可否は電力会社との協議で確認する必要があります。
コストと信頼性のトレードオフ
ここまで紹介した4つの受電方式は、回線数と保護・切替の仕組みが高度になるほど信頼性が上がる一方で、初期費用・維持管理コストも上がるという関係にあります。この関係を整理すると、次のようになります。
| 観点 | 1回線受電 | 本線予備線受電 | ループ受電 | スポットネットワーク受電 |
|---|---|---|---|---|
| 事故時の供給継続性 | 継続しない(停電) | 切替完了まで停電 | 事故区間のみ切離し・継続性が高い | 継続性が最も高い |
| 採用できる地域条件 | 制約が少ない | 制約が少ない | ループ配電エリアに限られる | ネットワーク配電エリアに限られる |
| 設備規模・維持管理の手間 | 最小 | 中程度 | やや大きい | 最大 |
このトレードオフを踏まえると、受電方式の選定は「その建物にとって、停電・瞬時電圧低下が発生したときの影響がどれだけ大きいか」を最初に整理し、そこから許容できるコストとのバランスで方式を絞り込んでいく進め方になります。信頼性の高い方式を選べば安心という単純な話ではなく、過剰な信頼性はコストの無駄になり得る点も、実務上は意識しておきたいところです。
建物用途別の選定の考え方
受電方式の選定は、建物の用途によって求められる信頼性の水準が異なるため、用途ごとの考え方を押さえておくと検討が進めやすくなります。
- 病院:手術室・ICU等では瞬時の電圧低下・停電が人命に直結するため、受電方式単体での信頼性向上に加えて、非常用自家発電設備・無停電電源装置(UPS)との多重の備えが前提になります。
- データセンター:システムの無停止稼働が事業そのものの価値に直結するため、スポットネットワーク受電やループ受電など高信頼度の方式が検討対象になりやすい用途です。あわせて自家発電設備・UPSによる多重化も一般的に組み合わされます。
- 超高層ビル・大規模複合施設:受電容量自体が大きくなるため特別高圧受電となることが多く、テナントの事業継続性への影響も大きいことから、本線予備線受電やループ受電が検討されることが多い用途です。
- 一般の事務所・店舗ビル:停電による影響が限定的であれば、コストを抑えられる1回線受電で計画されることが一般的です。
いずれの用途でも、最終的にどの方式が選べるか・どの水準まで信頼性を高めるかは、建物の受電容量・立地の配電系統の状況・事業者の投資判断を踏まえて、設計者・電力会社との協議で確定させる必要があります。
電力会社との協議
受電方式は、建物側の希望だけで自由に選べるものではなく、その土地の配電系統の構成(ループ方式やネットワーク方式の配電線が整備されているかどうか)によって、選択肢そのものが変わってきます。同じ受電容量の建物であっても、都心の高密度エリアと郊外とでは選べる受電方式の選択肢が異なることは珍しくありません。
そのため、受電方式の検討は設計の初期段階で電力会社に相談し、その建物の立地で実際にどの方式が供給可能か、必要な手続き・工事範囲・概算費用がどの程度になるかを確認しながら進めるのが実務上の基本の流れです。供給条件・費用負担の考え方は電力会社・地域によって異なるため、この記事で示した内容は一般的な考え方の整理として捉え、個別の建物での判断は必ず電力会社・設計者との協議を経てください。
非常用発電機・UPSとの役割分担
受電方式の信頼性をどれだけ高めても、それだけでは守りきれない停電のリスクが残ります。たとえば、電力会社側の上流系統(発電所・変電所を含む広域の送配電網)で大規模な事故・災害が発生した場合や、建物側の受変電設備そのものの点検・改修で計画的に電気を止める必要がある場合は、受電方式による多重化だけでは供給を継続できません。
このような、受電方式だけではカバーできない停電に備えるのが、非常用自家発電設備と無停電電源装置(UPS)です。非常用自家発電設備は、停電発生後に自動的に起動し、消防法・建築基準法で定められた非常用の負荷(非常用照明・排煙設備・消火ポンプなど)や、事業継続上重要な負荷に電力を供給する設備です。起動には数十秒程度のタイムラグが生じるのが一般的であるため、その間の電源途絶が許容できない負荷(サーバー・医療機器など)には、蓄電池による無停電電源装置(UPS)を組み合わせて、発電機が立ち上がるまでの橋渡しを担わせる構成が広く採られています。非常用自家発電設備の種類・容量計画の考え方は 予備電源・非常用自家発電設備の計画|発電機・蓄電池・UPSの使い分け で整理しているため、あわせて参照してください。
つまり、受電方式は「電力会社側の配電系統の事故に対する備え」、非常用発電機・UPSは「それでも起きる停電・電源途絶に対する建物側の最後の備え」という役割分担で捉えると、全体の電源計画が整理しやすくなります。信頼性の高い受電方式を選んだからといって非常用発電機・UPSが不要になるわけではなく、両者は補完関係にあるという点を、計画段階で関係者間で共有しておくことが実務上のポイントです。
まとめ
- 受電方式は「常時何回線で受けるか」「事故時にどう切り替わるか」の2軸で整理でき、1回線受電・本線予備線受電・ループ受電・スポットネットワーク受電の順で信頼性とコストが上がる傾向がある
- 1回線受電はコスト最小だが回線事故時は停電し、切替手段を持たない
- 本線予備線受電は予備回線への切替(手動・自動)で信頼性を高めるが、切替完了までの停電は残る
- ループ受電・スポットネットワーク受電は常時複数回線で供給を継続する仕組みを持つが、いずれも電力会社側の配電系統がその方式に対応している地域でなければ採用できない
- 建物用途によって求められる信頼性の水準は異なり、病院・データセンター・超高層ビルほど高信頼度の方式や多重化が検討されやすい
- 受電方式の選択肢・供給条件は電力会社・地域によって異なるため、設計初期段階での電力会社との協議が不可欠
- 受電方式だけでは守りきれない停電があるため、非常用自家発電設備・UPSとの役割分担を前提に電源計画全体を組み立てる必要がある
受電方式の選定は、建物がどれだけの停電リスクを許容できるかという判断と、それに見合うコストをどこまでかけられるかという判断の掛け合わせで決まります。まずは自分が関わる建物の用途・重要度を整理したうえで、電力会社への相談を早い段階から進めておくことが、後戻りのない電源計画につながります。
あわせて読みたい
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