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基本設計電気設備

電気室・EPSの計画|位置・広さの目安・搬入経路・浸水対策の考え方

電気室とEPS(電気シャフト)の計画は、受変電設備そのものの選定と同じくらい、建物の電気系統の使い勝手を左右する検討事項です。配置がまずければ日常の点検動線が悪くなり、広さが足りなければ将来の機器更新ができず、EPSの位置が各階でずれれば幹線のルートが遠回りになってコストが膨らみます。しかもこれらの多くは、建築計画がある程度固まった後では手戻りが大きく、基本設計の早い段階で電気設計者と建築設計者が一緒に検討しておく必要がある項目です。

この記事では、電気室の配置を決める際の負荷重心・浸水リスクという視点、広さや保有距離の目安、機器の搬入経路と将来更新への備え、換気・冷房による発熱処理、そして各階を垂直に貫くEPSの計画、最後に騒音・振動・漏れ磁束への配慮までを、基本設計段階で押さえておきたい考え方として整理します。受変電設備そのものの構成は受変電設備の基礎|キュービクルの構成と単線結線図の読み方、電気室からEPSを通って各階に電気を届ける幹線設備の考え方は中央監視設備と幹線設備の計画幹線サイズと電圧降下の基礎で扱っていますので、あわせて参照してください。なお、具体的な保有距離や換気量、EPSの断面寸法は建物の受電方式・規模・用途によって変わるため、この記事では考え方の骨格を示すにとどめ、最終的な数値は電気設計者・電気主任技術者・所轄消防署との協議を前提としています。


早見まとめ

項目 考え方・目安
配置 建物内の負荷重心に近い場所を基本としつつ、地下設置は浸水リスクを踏まえて可否を検討する
広さ・保有距離 キュービクル前面(操作面)・点検面・換気口面それぞれに必要な離隔距離を確保し、そこに搬入・作業動線を加味する
天井高さ 数値の一律基準はなく、機器高さに点検・換気・配線引き回しの余裕を積み上げて決める
搬入経路 変圧器等の重量物が入る開口・通路・床の耐荷重と、将来の更新時にも同じ経路が使えるかを確認する
換気・冷房 変圧器等の発熱を排出できる換気経路を確保し、自然換気で足りない場合は空調・強制換気を組み合わせる
EPS 各階で同一位置に配置し、貫通部は防火区画の措置を行い、将来増設の余裕を持たせる
騒音・振動・漏磁 変圧器等の振動源には防振対策を、居室や精密機器の近くでは配置と離隔をあわせて検討する

電気室の配置計画:負荷重心と地下設置のリスク

電気室をどこに置くかを検討するときの基本的な考え方は、建物内の電気負荷の重心にできるだけ近い場所を選ぶというものです。受変電設備から各階の分電盤・動力盤まで電気を届ける幹線は、こう長(電線の長さ)が長くなるほど電圧降下や電線サイズの増大、EPS断面の圧迫といった問題につながりやすくなります。電気室の位置を負荷重心に近づけておくことは、幹線コストと将来の増設余地の両方に効いてくる検討です。

一方で、実際の建物では地下1階や地下2階に電気室を設ける計画が数多く見られます。地下は建築計画上、機械室として使いやすい床面積が確保しやすく、搬入経路や振動・騒音の面でも上層階より扱いやすいという事情があるためです。ただし、地下設置には浸水リスクという重要な論点が伴います。

2019年の台風19号では、川崎市内のタワーマンションで地下に設置されていた電気設備が浸水し、長期の停電・断水が発生する事例がありました。これを受けて国土交通省住宅局建築指導課と経済産業省産業保安グループ電力安全課は、2020年6月に「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」を公表し、想定される浸水深に対して電気室の床レベルを上げる、開口部に止水板・防水扉を設ける、といった対策の考え方を整理しています。電気室を地下に計画する場合は、このガイドラインや自治体のハザードマップ・浸水想定区域図を確認したうえで、次のような対策の組み合わせを検討するのが実務の基本です。

  • 電気室の床レベルを想定浸水深より高く設定する(かさ上げ)
  • 電気室の出入口・換気口に止水板や防水性能を持つ扉・ダンパーを設ける
  • やむを得ず低い階に設置する場合は、受変電設備自体を高床式の架台に載せる
  • 排水ポンプ・警報装置など、浸水の兆候を早期に検知する設備を合わせて計画する

いずれの対策も、建物の立地・想定される浸水深・費用のバランスで選び方が変わります。設計の初期段階で「この敷地は浸水想定区域に該当するか」を確認し、該当する場合は電気室を地下以外の階に計画する選択肢も含めて建築設計者と検討することが望ましいといえます。


電気室の広さ・天井高さの目安と保有距離

電気室の広さを決める出発点は、設置するキュービクルや変圧器といった機器そのものの寸法に、保守・点検・操作のために確保すべき「保有距離(離隔距離)」を積み上げていく考え方です。屋内に設置する高圧受電設備の保有距離は、一般に次のような区分で整理されます。

面の種類 保有距離の考え方
操作を行う面(前面) 人が操作・点検作業を行うための距離を確保する(扉の開閉・計器の確認ができる幅)
点検を行う面(背面・側面) 扉を開けての内部点検ができる程度の距離を確保する
換気口を有する面 通気を妨げない程度の距離を確保する

具体的な数値は設備の電圧・仕様やメーカーの取扱説明書、内線規程などの関連規程によって定められているため、この記事では区分の考え方のみを示します。実務では、これらの保有距離に加えて、機器の搬出入経路や作業員の通行動線も同じ室内で確保する必要があるため、単純に機器の外形寸法だけで部屋の広さを決めることはできません。

天井高さについては、保有距離のような明確な数値基準があるわけではありません。決める際の視点としては、次のようなものが挙げられます。

  • 機器本体の高さに、上部の点検・配線引き回しに必要な余裕を加える
  • 換気口・ダクトを天井付近に設ける場合は、その分の高さも見込む
  • 将来、より大型の機器に更新する可能性がある場合は、その高さも視野に入れる

電気室の広さ・天井高さは、後から拡張しにくい部類の空間です。基本設計の段階で、現在計画している機器だけでなく、将来の増設・更新まで見越した余裕を持たせておくことが実務上のポイントになります。


機器搬入経路・搬入口・将来更新への備え

キュービクルや変圧器は大型・重量物になることが多く、搬入経路の確保は電気室計画のなかでも特に手戻りが大きい項目です。検討すべき視点を整理すると、次のようになります。

検討項目 主なポイント
搬入口の位置・寸法 屋外から電気室まで、機器が通過できる開口幅・高さを確保できているか
搬入経路の耐荷重 通路床・スロープ・エレベーターなどが重量物の搬入に耐えられるか
揚重計画 クレーンや台車が使えるスペース、作業時の安全対策が確保できているか
将来の更新 竣工後に機器を入れ替える際、竣工時と同じ経路で搬出入できるか(内装や設備の後付けで塞がれていないか)

搬入経路は竣工時の一度きりの検討で終わらせず、「将来この経路をもう一度使えるか」という視点を持っておくことが実務上重要です。竣工後に電気室の周囲へパーティションや什器が設置され、いざ更新工事となったときに搬入経路が塞がっていた、という手戻りは珍しくありません。基本設計の段階で搬入経路を図面上に明記し、関係者間で共有しておくことが有効な対策になります。


換気・冷房:機器の発熱処理

変圧器をはじめとする受変電設備の機器は、稼働中に相応の熱を発生します。電気室内の温度が過度に上昇すると、機器の絶縁性能の低下や誤動作、寿命の短縮につながるため、発生した熱を室外へ逃がす計画が欠かせません。

熱処理の方式は、大きく分けて自然換気・強制換気・空調(冷房)の3つに整理できます。

  • 自然換気:給気口・排気口の高低差や外気との温度差を利用する方式。設置コストは抑えられるが、外気温が高い時期には効果が限定的になる
  • 強制換気:換気扇で強制的に空気を流通させる方式。自然換気だけでは熱がこもる場合に組み合わせて用いられる
  • 空調(冷房):外気温に左右されずに一定の室温を維持できる方式。精密な温度管理が必要な設備が同居する場合や、換気経路の確保が難しい室で採用される

どの方式を選ぶにしても、機器の発熱量に対して十分な熱処理能力を持たせることが前提になります。特に地下や建物中央部など、外気に面していない場所に電気室を計画する場合は、自然換気だけに頼らず、機械換気や空調を組み合わせる前提で室内の設備スペース(ダクト・配管ルート)をあらかじめ確保しておく必要があります。


EPS(電気シャフト)の計画

EPSとは、電気室から各階の分電盤・動力盤まで幹線を通すための、建物を垂直に貫く配管・配線用のスペースのことです。建物の血管にあたる幹線が通る「通り道」であり、EPSの計画が不十分だと、竣工後の増設・更新のたびに配線ルートの確保に苦労することになります。

EPSを計画するうえでの基本的な考え方は、次のとおりです。

  • 各階で同一位置に配置する:階によってEPSの位置がずれると、上下階をつなぐ配線を横引きせざるを得ず、施工性・保守性の両面で不利になる
  • 将来の増設余地を持たせる:竣工時点の負荷だけでなく、将来のテナント入替えや設備更新による幹線の増設を見込んだ余裕を確保する
  • 防火区画の貫通処理を徹底する:EPSは各階の床・壁を貫通する経路であるため、貫通部には防火区画を成立させるための耐火措置(耐火パテ・耐火材による処理など)が必要になる。防火区画の考え方全般は防火・耐火と防火区画の基礎もあわせて参照してほしい
  • 点検・増設のための開口を確保する:扉や点検口を各階に設け、竣工後も配線状況を確認・増設できるようにしておく

EPSの必要な面積は、建物の規模・用途・幹線の本数によって大きく変わるため一律の数値では語れませんが、基準階の面積や幹線の系統数から必要断面を積み上げて検討するという考え方は共通しています。基本設計の段階では、想定される幹線の本数とケーブルラックの占有幅から必要な断面を概算し、将来増設分の余裕を上乗せしたうえで、建築計画上の柱・梁の位置と整合を取りながら位置を決めていくことになります。


騒音・振動・漏れ磁束への配慮

電気室に設置される変圧器やコンデンサ類は、稼働中にうなり音や振動を発生させます。特に建物の居室に電気室が隣接・近接する配置になる場合は、次のような視点での配慮が必要です。

  • 振動源への対策:変圧器等の機器そのものに防振ゴムや防振架台を組み込み、床スラブへの振動伝達を抑える
  • 配置の工夫:可能であれば、居室・会議室・宿泊室など静粛性が求められる室の直下・隣接を避けた配置とする
  • 遮音・区画:やむを得ず隣接する場合は、壁・床の遮音性能を確保する

防振・遮音の考え方の詳細(空気伝搬音と固体伝搬音の違い、防振ゴム・たわみ継手などの具体的な対策)は、設備機器の防振・騒音対策の基礎で整理していますので、電気室特有の対策を検討する際にもあわせて参照してほしい。

また、変圧器のような大型の電磁機器の周囲には、動作にともなう漏れ磁束(変圧作用に直接寄与しない、機器の外部にわずかに漏れ出る磁束)が生じます。日常生活で問題になる場面は多くありませんが、精密な計測・分析を行う機器や磁気の影響を受けやすい設備を計画する建物では、電気室・変圧器の配置と、それらの室との離隔を設計段階で確認しておくと安心です。具体的な許容値は機器メーカー・設計者による個別の検討が前提になるため、該当する用途がある場合は早い段階で相談しておくことをお勧めする。


実務での判断:優先順位の付け方

電気室・EPSの計画では、負荷重心・浸水リスク・広さ・搬入経路・換気・EPSの整合など、検討すべき項目が同時並行で出てきます。すべてを完璧に満たす配置は現実には見つからないことが多く、実務ではどの条件を優先するかの判断が必要になります。

一般的な優先順位の考え方としては、まず「安全上譲れない条件」(浸水リスクの高い場所を避ける、保有距離を確保する、防火区画を成立させる)を先に固定し、そのうえで「使い勝手・コストに関わる条件」(負荷重心との近さ、搬入経路の合理性、将来の増設余地)を調整していく、という順番が実務的です。基本設計の早い段階でこの優先順位を電気設計者・建築設計者の間で共有しておくと、後工程での手戻りを減らしやすくなります。


まとめ

  • 電気室の配置は負荷重心に近い場所が基本だが、地下設置には浸水リスクが伴うため、ハザードマップの確認や2020年公表の浸水対策ガイドラインを踏まえた検討が必要
  • 電気室の広さは、キュービクルの保有距離(操作面・点検面・換気口面)に搬入・作業動線を加えて決める。天井高さに一律の数値基準はなく、機器高さと余裕から個別に検討する
  • 変圧器等の重量物の搬入経路は、竣工時だけでなく将来の更新時にも使えるかという視点で計画する
  • 電気室内の発熱は自然換気・強制換気・空調の組み合わせで処理し、地下や外気に面さない室では機械換気・空調の前提でスペースを確保する
  • EPSは各階で同一位置に配置し、防火区画の貫通処理と将来の増設余地を確保することが基本
  • 騒音・振動・漏れ磁束への配慮は、居室との配置関係や精密機器の有無を踏まえて設計段階で検討する
  • いずれの数値・基準も建物の規模・用途・所轄消防署や電気主任技術者との協議で最終的に決まるため、基本設計の早い段階で関係者間の合意を取っておくことが実務上のポイントになる

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