耐火配線・耐熱配線の基礎|消防用設備等の電源・操作回路を守る工事方法
スプリンクラー設備や排煙設備、非常用エレベーターといった消防用設備等の多くは、火災そのものが起きている最中にこそ働く必要があります。ところが、これらの設備に電気を送るケーブルが火災の熱で焼き切れてしまえば、どれほど優れた設備でも電源を失って止まってしまいます。この「火災中でも配線だけは切れさせない」という要求に応えるために定められているのが、耐火配線・耐熱配線という特別な工事方法です。
この記事では、耐火配線と耐熱配線がそれぞれどの回路を対象にしているのか、どの消防用設備等が対象になるのか、そして電線の種類ごとにどのような工事方法が認められているのかを、消防庁の点検要領に示された考え方を軸に整理します。防火区画そのものの貫通処理については防火区画と設備の取り合い|区画貫通処理・ファイヤーダンパーの基礎、幹線の配線ルート全般の考え方はケーブルラック・電線管等の配線ルート計画の基礎であわせて扱っていますので、あわせて参照してください。
図で見る(全体像)
早見まとめ
| 項目 | 考え方の要点 |
|---|---|
| 耐火配線の対象 | 消防用設備等の「電源回路」。受変電設備・非常用発電機から末端機器までの給電ルート |
| 耐熱配線の対象 | 電源回路以外の「操作回路・表示灯回路・警報回路・感知器回路」等 |
| 電線での対応 | 一般電線(600V二種ビニル絶縁電線等)は金属管等に収め、耐火構造の壁・床等に埋設するのが基本 |
| 露出配線での対応 | 耐火電線(FPケーブル等)・MIケーブルを使う場合は、埋設せずケーブル工事等で露出配線できる |
| 区画・PS内での扱い | 不燃専用室、耐火性能を持つパイプシャフト・ピット内で他配線と15cm以上離す等の措置があれば、埋設を省略できる場合がある |
| 根拠 | 消防法施行規則に基づく基準。具体的な適合の可否は所轄消防署への確認が前提 |
※上表は消防庁「消防用設備等点検要領」に示された考え方の要点整理です。実際の設計・施工にあたっては、必ず所轄消防署・消防設備士と個別に確認してください。
なぜ配線だけ特別な保護が必要なのか
自動火災報知設備の受信機や誘導灯のように、機器本体に蓄電池を内蔵しているものであれば、外部からの給電が火災で途絶えても、内蔵電池でしばらくの間は機能を維持できます。しかし、スプリンクラーポンプ・消火栓ポンプ・排煙機・非常用エレベーターのように、機器そのものに蓄電池を持たず、受変電設備や非常用発電機から常時ケーブルで給電を受けている設備は事情が異なります。これらの機器がどれほど優秀でも、給電ケーブルが火災の熱で焼損して断線すれば、電源を失ってその場で停止してしまいます。
そこで、消防用設備等の電源・操作系統に使われる配線には、一般の配線とは別の基準として、火災の熱にさらされても一定時間は機能を保てるようにする「耐火配線」「耐熱配線」という工事方法が定められています。単に「燃えにくい電線を使う」ということではなく、電線の種類と、それをどう保護して敷設するかという工事方法の組み合わせで基準を満たす、という考え方である点が実務上のポイントです。
耐火配線と耐熱配線の違い:対象になる回路
耐火配線と耐熱配線は、どちらも「火災時に配線の機能を保つための工事方法」という点では共通していますが、対象になる回路の性格が異なります。
- 耐火配線:消防用設備等を動かす電源回路が対象。受変電設備・非常用発電機・非常電源から、ポンプや排煙機といった負荷機器までの給電ルートにあたる
- 耐熱配線:電源回路以外の操作回路・表示灯回路・警報回路・感知器回路等が対象。制御盤からの起動指令や、感知器からの信号を伝える配線にあたる
電源回路のほうが「電気を送る本流」であり途絶えた場合の影響が大きいため、耐火配線には耐熱配線よりも厳しい工事方法が求められる、という位置づけで整理すると理解しやすいと筆者は考えています。
対象となる消防用設備等
耐火配線・耐熱配線による保護が求められる消防用設備等の範囲は、消防庁の点検要領で例示されています。代表的なものを挙げると、次のとおりです。
| 分類 | 対象設備の例 |
|---|---|
| 消火設備 | 屋内消火栓設備、屋外消火栓設備、スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備、不活性ガス消火設備、ハロゲン化物消火設備、粉末消火設備 |
| 警報設備 | 自動火災報知設備、ガス漏れ火災警報設備、非常ベル・自動式サイレン、放送設備 |
| 避難・安全設備 | 誘導灯、排煙設備、非常コンセント設備、無線通信補助設備 |
| その他 | 連結送水管(ポンプ方式の場合の電源系統等) |
これらの設備のうち、蓄電池を内蔵せず外部電源に依存する部分(給電ケーブル)が、耐火配線・耐熱配線の対象になります。自動火災報知設備の感知器選定については自動火災報知設備の警戒区域と感知器選定の考え方、非常用照明・誘導灯の電源方式の違いについては非常用照明と誘導灯の計画であわせて整理しています。
耐火配線の工事方法:電線の種類と施工方法
耐火配線として認められる工事方法は、使用する電線の種類によって大きく2通りに分かれます。
- 一般的な電線(600V二種ビニル絶縁電線・架橋ポリエチレン絶縁電線等)を使う場合:金属管、二種金属製可とう電線管、または合成樹脂管に収め、耐火構造でつくられた壁・床等に埋め込む(埋設する)のが基本の工事方法。ただし、不燃専用室や耐火性能を持つパイプシャフト・ピット内に設ける場合で、他の配線と15cm以上隔離するか不燃性の隔壁を設けている場合には、埋設を省略できるとされている
- 耐火電線(FPケーブル等)・MIケーブルを使う場合:ケーブル工事等により施工すればよく、埋設は必須ではない
つまり、一般の電線を使う場合は「埋め込んで保護する」、耐火性能そのものを電線側が備えている耐火電線・MIケーブルを使う場合は「露出配線でよい」という住み分けになっています。天井裏の限られたスペースで埋設工事が難しい改修工事などでは、後者の耐火電線・MIケーブルを選ぶ実務判断が取られることが多いと筆者は理解しています。
耐熱配線の工事方法:操作回路・表示灯回路等の保護
耐熱配線の対象となる操作回路・表示灯回路・警報回路等についても、考え方の骨格は耐火配線と似ています。
- 一般的な電線を使う場合:金属管工事、可とう電線管工事、金属ダクト工事、または不燃性のダクトに敷設するケーブル工事によって施工する
- 耐熱電線・耐火電線・MIケーブル・耐熱光ファイバーケーブルを使う場合:ケーブル工事等により施工すればよい
耐火配線が「埋設」を基本形としているのに対し、耐熱配線は金属管工事・金属ダクト工事といった、埋設までは求めない工事方法が基本形になっている点が違いです。電源回路そのものではなく、制御信号を伝える回路であることから、求められる保護の水準に段階が設けられていると理解すると整理しやすくなります。
実務での判断・よくある誤解
「耐熱電線を使えば耐火配線の代わりになる」というのは誤解です。 耐火電線・MIケーブルは耐火配線・耐熱配線のどちらにも使える万能な電線として整理されていますが、逆に耐熱配線用の電線(耐熱電線等)だけでは、耐火配線が求められる電源回路の基準を満たせない場合があります。回路の性格(電源回路か、それ以外か)を先に見極めたうえで、対応する電線と工事方法を選ぶという順序を守ることが実務上のポイントです。
もう一つの誤解として、「機器に近い配線だから一般の配線でよい」という判断があります。耐火配線・耐熱配線が求められるかどうかは、配線の長さや場所ではなく、その配線がどの回路(電源回路か操作回路等か)に属するかで決まります。受変電設備からポンプ直近までの短い区間であっても、電源回路である以上は耐火配線としての工事方法が必要です。
なお、耐火配線・耐熱配線の適用範囲や、建物の構造・用途による細かな取り扱いは、所轄消防署の判断や消防用設備等の設置基準によって個別に確認が必要な部分が残ります。設計段階では、消防用設備等の系統図を作成する早い段階で、どの区間が耐火配線・耐熱配線の対象になるかを消防設備士・所轄消防署と共有しておくことが望ましいと筆者は考えています。
まとめ
- 耐火配線は消防用設備等の「電源回路」、耐熱配線は「操作回路・表示灯回路・警報回路等」を対象とする工事方法
- 対象となる消防用設備等には、消火設備・警報設備・誘導灯・排煙設備・非常コンセント設備など幅広い設備が含まれる
- 耐火配線は、一般の電線なら耐火構造への埋設、耐火電線(FPケーブル等)・MIケーブルなら露出配線でよいという住み分けがある
- 耐熱配線は、一般の電線なら金属管工事等、耐熱電線・耐火電線・MIケーブル等ならケーブル工事等でよい
- 適用の可否は配線の場所や長さではなく、その配線が属する回路の性格で決まる
- 具体的な適合・工事方法の最終判断は、所轄消防署・消防設備士との協議が前提になる
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