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防火区画と設備の取り合い|区画貫通処理・ファイヤーダンパーの基礎

防火区画は、壁と床さえ耐火構造にしておけば成立する、という単純な話ではありません。給排水管・ダクト・電線管・ケーブルラックは、それぞれの機能上、階をまたぎ、部屋をまたいで配置されるため、防火区画を素通りすることは物理的にできず、必ずどこかで区画の壁・床を貫通します。この「設備が区画を貫通する部分」の処理が甘いと、せっかく耐火構造で組んだ壁・床があっても、そこに空いた隙間が煙と炎の通り道になってしまいます。

本記事では、防火区画を設備が貫通する際に何が求められるかという全体像から始め、配管・ケーブルの区画貫通処理(モルタル充填・耐火キャップ等の認定工法)ダクトに設けるファイヤーダンパー(FD・SFD・SD・PD)の違いと作動温度防火戸・防火シャッターと設備(感知器)の連動、そして施工・検査で確認すべきポイントまでを、建築設備士・消防設備士・電気工事士の実務目線で整理します。防火区画そのものの種類・目的については防火・耐火と防火区画の基礎で、ダクト設計全般についてはダクト設備の基礎で扱っていますので、あわせて読むと理解がつながりやすくなります。


図で見る(全体像)

防火区画を配管・ダクト・ケーブルが貫通する断面模式図と、FD・SD・SFD・PDのファイヤーダンパー種類整理図


なぜ「設備の貫通部」が防火区画の弱点になりやすいのか

防火区画は、火災時に炎と煙をその区画内にとどめることを目的とした、壁・床・防火設備(防火戸・防火シャッターなど)の組み合わせです。しかし、区画の壁・床そのものがどれだけ高い耐火性能を持っていても、そこに配管・ダクト・ケーブルを通すための孔(貫通孔)を開けた時点で、区画には物理的な穴が生まれます。

この穴を放置すれば、火災時に炎・熱・煙がその隙間を通じて隣の区画へ回り込み、区画分けの意味そのものが失われてしまいます。さらに厄介なのは、貫通処理の不備は竣工直後には発見しにくいという点です。壁の中・天井裏に隠れてしまう箇所であり、見た目には配管やダクトが壁を通っているだけに見えるため、施工段階でしっかり記録・確認しておかないと、後から手直しすることが難しくなります。

貫通する設備 貫通部で問題になりやすい点
給排水管・冷媒配管 管とスリーブ(さや管)の隙間、管が可燃性材料(樹脂管など)の場合の燃焼・変形リスク
ダクト 断面積が大きく隙間が生じやすい、ダクト自体が延焼経路になりうる
電線・ケーブル、ケーブルラック 本数が多く密集しやすい、将来の増設で隙間が再び生じやすい
電線管・配管の集合部(EPS・PS等) 複数の設備が1か所に集中し、貫通処理が複雑になりやすい

実務上のポイントは、設計段階で「どこを何が貫通するか」を平面図・断面図の重ね合わせで洗い出し、貫通処理の方法をあらかじめ決めておくことです。現場で行き当たりばったりに孔を開けて後から埋める、という進め方は、処理の抜け漏れや不適切な材料の使用につながりやすくなります。


建築基準法上の要求:貫通部の措置は3パターンで考える

給水管・配電管その他の管が防火区画等を貫通する場合の措置は、建築基準法施行令112条の防火区画の規定を軸に定められています(学校・共同住宅の界壁など、区画に準じた扱いを受ける部分についても、112条の考え方が114条系の規定を通じて準用される構成になっています)。細かな条項番号・数値は改正されることがあるため、実務では必ず最新の法令・特定行政庁への確認を前提としますが、考え方の骨格としては、貫通する管の構造を次の3パターンのいずれかに適合させる、という整理がされています。

パターン 考え方
不燃材料で造る 貫通する管そのものを不燃材料(金属管など)で造る
外径を一定値未満に抑える 管の材質・用途に応じて国土交通大臣が定める外径の数値未満とする(樹脂管などで用いられる考え方)
大臣認定工法を用いる 通常の火災による加熱を受けても、一定時間、加熱側と反対側に火炎の原因となる亀裂・損傷を生じないものとして国土交通大臣の認定を受けた工法とする

加えて、管と防火区画(壁・床)とのあいだに生じる隙間そのものについては、モルタルその他の不燃材料で埋めることが求められる、という考え方が示されています。管の構造をどのパターンで満たすにせよ、「管の周囲の隙間を埋める」という処理は共通して必要になる、と理解しておくと実務で迷いにくくなります。

具体的にどの管種・どの区画でどのパターンを選ぶかは、管の材質(金属管か樹脂管か)、区画の種別(面積区画・竪穴区画など)、使用する認定工法のメーカー仕様によって変わるため、設計図書・大臣認定書・所轄行政庁への確認が前提になります。


配管・ケーブルの区画貫通処理:認定工法の考え方

実際の現場では、上記の「大臣認定工法」を用いて配管・ケーブルの貫通部を処理するケースが多く見られます。認定工法にはメーカーごとに複数の種類がありますが、代表的な処理の考え方には次のようなものがあります。

処理方法 概要
モルタル充填 貫通孔と管の隙間をモルタルで埋め、不燃材料で塞ぐ最も基本的な方法
耐火キャップ・耐火シート 熱膨張性の材料を管の周囲やスリーブ内に取り付け、火災時に膨張して孔をふさぐ方式
耐火パテ ケーブル・配管が密集する部分の細かな隙間を、練り込み式の耐火材で埋める方式
ロックウール充填+けい酸カルシウム板等 ダクトのように断面積が大きい貫通部で、ロックウール保温材を所定の密度・厚さで充填し、両面をけい酸カルシウム板や鉄板でふさぐ方式

いずれの工法も、国土交通大臣認定を取得した仕様(充填材の密度・厚さ、板材の種類、施工手順)に忠実に従うことが前提です。認定工法は「この材料をこの厚さ・密度で、この手順どおりに施工した場合に限り、認定どおりの性能が担保される」というものであり、現場の都合で材料や厚みを勝手に変更すると、認定条件を外れて防火性能が保証されなくなります。

実務での注意点として、次のようなケースは特に見落とされやすいポイントです。

  • 竣工後の増設・改修で新たに配管・ケーブルを追加した際、貫通孔の再処理が行われず隙間が放置される
  • ケーブルラックのように将来の増線を見込んで余裕を持たせた貫通孔が、そのまま未処理で残る
  • 樹脂管(給排水用の合成樹脂管など)を用いる場合、耐火性能を持つ専用の措置(管の外径抑制や専用の耐火継手など)が必要になるにもかかわらず、通常の配管と同じ扱いで施工してしまう

貫通処理は「新築時に1回やれば終わり」ではなく、その後の増改修のたびに再確認が必要な、維持管理の対象であるという理解を持っておくことが重要です。


ダクトのファイヤーダンパー:FD・SFD・SD・PDの違い

ダクトが防火区画を貫通する部分には、区画の耐火性能を保つために「ファイヤーダンパー」と総称されるダンパー類が設けられます。似た略称が複数あり混同しやすいため、それぞれの作動の仕組みを区別して理解しておくことが実務上重要です。

略称 名称の目安 作動のきっかけ 主な設置場所の考え方
FD 防火ダンパー 温度ヒューズが一定温度で溶断し、自動的に閉鎖する 一般の換気・空調ダクトが防火区画を貫通する箇所
SD 防煙ダンパー 煙感知器と連動した電気信号で閉鎖する 排煙関連など、煙の伝播を防ぐことが求められる箇所
SFD 煙感知器連動防火ダンパー(防煙防火ダンパー) 温度ヒューズによる作動に加え、煙感知器の信号でも閉鎖する 防火・防煙の両方の機能が求められる箇所
PD(PFD) ガス系消火設備連動ダンパー ガス系消火設備(不活性ガス消火設備等)の消火ガス放出圧力と連動して作動する 電算室・電気室などガス系消火設備を設置する室の給排気ダクト

FDの作動温度は、平常時の空気温度が誤作動を招かないよう、用途に応じて使い分けられるのが実務の考え方です。一般の換気・空調用ダクトでは温度ヒューズ72℃が広く用いられ、厨房排気のように平常時から高温の空気が流れるダクトでは120℃程度のヒューズが使われる、排煙ダクトでは280℃程度のより高温のヒューズが使われる、という傾向がよく知られています。ただし、具体的な作動温度・機種の選定は、建物用途・ダクトの系統・所轄消防署の指導によって定められる事項であり、設計・施工にあたっては最新の設計図書・メーカー仕様・所轄官署への確認が欠かせません。

SD・SFDのように電気信号で作動するダンパーは、防火戸の煙感知器連動と同じ考え方で、火災受信機からの信号を受けて閉鎖するという点でFDの温度ヒューズ式とは仕組みが異なります。ダクト設計全般で扱う風量調整ダンパー(VD)は火災とは無関係に風量バランスを調整するための部品であり、防火・防煙に関わるFD・SD・SFD・PDとは役割がまったく別物である点も、図面を読む際に混同しないよう注意が必要です。


防火戸・防火シャッターと設備の連動

防火区画の開口部(廊下・EPS前などの扉、大空間の防火シャッターなど)は、平常時は開放されていて火災時に自動的に閉鎖する「随時閉鎖式」で計画されることが多く、この自動閉鎖の仕組みには設備(感知器・制御盤)が深く関わります。

要素 役割
防火戸連動用感知器 煙・熱を感知し、防火戸・防火シャッターの閉鎖信号を出す専用の感知器。設置位置はシャッター・戸から一定の距離の範囲内とされる
連動制御盤 感知器からの信号を受け、防火戸・シャッターの閉鎖回路を制御する盤
くぐり戸 大型の防火シャッターが閉鎖すると通行できなくなるため、シャッターに隣接して設ける小型の防火戸。避難経路を確保する役割を持つ
危害防止装置(障害物感知装置) シャッター閉鎖中に人や物が挟まれることを防ぐため、障害物を感知すると閉鎖を停止・反転させる装置

防火戸・防火シャッターの連動は、設備側(感知器・配線・制御盤)が正常に機能して初めて、区画としての性能が発揮されるという点で、単体の建築部材とは性格が異なります。竣工時に一度正しく調整されていても、感知器の劣化・配線の断線・制御盤の設定変更などによって、経年で連動不良が生じることがあるため、防火戸・シャッターの自動閉鎖機能は定期的な作動試験の対象として位置づけられます。感知器の選定・警戒区域の考え方については自動火災報知設備の警戒区域と感知器選定で扱っていますので、あわせて確認しておくと連動の仕組み全体がつながりやすくなります。

なお、随時閉鎖式の防火戸を、日常の使い勝手を優先して開放状態でくさび・ロープなどで固定してしまう運用は、区画性能そのものを無効化してしまう重大な不備です。設計・施工段階の性能だけでなく、竣工後の使われ方まで含めて区画性能が保たれているかを確認する視点が欠かせません。


施工・検査で確認すべきポイント

区画貫通処理・ファイヤーダンパー・防火戸連動は、いずれも竣工後には見えにくくなる、または動作させてみないと分からない箇所が多いため、施工中の記録と検査時の確認が特に重要になります。

施工段階

  • 貫通処理を行う前に、貫通する管・ダクトの位置と使用する認定工法の仕様(充填材・厚さ・施工手順)を図面・認定書で確認したか
  • 施工後、隠蔽される前に貫通処理箇所の写真記録(処理前・処理中・処理後)を残しているか
  • ダンパーの取付け向き(気流方向)、点検口の位置・アクセス性を確認したか
  • 防火戸連動用感知器の設置位置が、対象のシャッター・戸から適切な距離の範囲内にあるか

検査段階

  • 完了検査・消防検査の前に、FD・SFD・SDが正しく作動する(ヒューズ溶断/信号連動)ことを試験したか
  • 防火戸・防火シャッターの自動閉鎖・くぐり戸・危害防止装置が、それぞれ正常に作動するか実際に動かして確認したか
  • 貫通処理箇所の記録写真・認定書の写しが、検査・引渡し書類として整理されているか

維持管理段階

  • 増改修で配管・ケーブルを追加した際、貫通処理の再施工が行われているか
  • 定期点検で防火戸・シャッターの連動試験、ダンパーの作動確認が実施されているか
  • 随時閉鎖式の防火戸が、開放状態で固定される等の不適切な運用になっていないか

実務チェックリスト

  • 平面図・断面図を重ね、防火区画を貫通する配管・ダクト・ケーブルの位置を洗い出しているか
  • 貫通する管の構造(不燃材料で造る/外径を抑える/大臣認定工法による)のどのパターンで適合させるかを決めているか
  • 認定工法を用いる場合、認定書どおりの材料・厚さ・密度・施工手順を守っているか
  • ダクトの貫通部にFD・SFD・SD・PDのどれが必要かを、系統・用途ごとに整理できているか
  • FD等の作動温度(用途に応じた温度ヒューズの選定)を設計図書・所轄消防署の基準で確認しているか
  • 防火戸・防火シャッターの連動用感知器・連動制御盤・くぐり戸・危害防止装置が計画されているか
  • 貫通処理・ダンパー・防火戸連動それぞれについて、施工記録(写真)を隠蔽前に残しているか
  • 完了検査・消防検査で、ダンパーの作動・防火戸の自動閉鎖を実際に試験しているか
  • 竣工後の増改修時に、貫通処理の再確認・再施工が運用フローに組み込まれているか

よくある質問

防火区画を貫通する配管がすべて金属管であれば、隙間の処理は不要ですか?

いいえ、管そのものが不燃材料(金属管)であっても、管と防火区画(壁・床)とのあいだに生じる隙間は別途、モルタルその他の不燃材料で埋める必要があります。「管の材質」と「管まわりの隙間の処理」は別の要求事項であり、どちらか一方だけでは区画性能が確保できません。

防火ダンパー(FD)と風量調整ダンパー(VD)は見分けがつきにくいのですが、何が違いますか?

FDは防火区画を貫通するダクトに設けられ、火災時に閉鎖して延焼を防ぐための部品です。VDは火災とは無関係に、各系統・各室への風量バランスを手動または自動で調整するための部品です。役割がまったく異なるため、図面の記号を混同しないよう注意が必要です。

樹脂製の給排水管は防火区画を貫通できませんか?

貫通させること自体は可能ですが、樹脂管は金属管と異なり、火災時に軟化・溶融するおそれがあるため、外径を一定値未満に抑える、または専用の耐火継手・大臣認定工法を用いるといった、樹脂管に応じた措置が必要になります。金属管と同じ感覚で処理してよいわけではない点に注意してください。具体的な措置は管の材質・メーカー仕様に応じて確認が必要です。

増改修でケーブルを追加する際、防火区画の貫通部はどう扱えばよいですか?

既存の貫通処理を一度撤去してケーブルを追加した後は、必ず認定工法どおりに貫通処理を再施工する必要があります。増設のたびに処理が後回しにされ、隙間が放置されたままになっているケースは実務でも少なくないため、増改修工事の完了検査項目に貫通処理の再確認を含めておくことが望まれます。


まとめ

  • 配管・ダクト・ケーブルは機能上、防火区画を必ずどこかで貫通するため、貫通部の処理が区画性能を左右する
  • 建築基準法上、貫通する管の構造は「不燃材料で造る」「外径を抑える」「大臣認定工法による」の3パターンのいずれかで適合させ、管まわりの隙間はモルタル等の不燃材料で埋める
  • 配管・ケーブルの貫通処理には、モルタル充填・耐火キャップ・耐火パテ・ロックウール充填など複数の認定工法があり、認定条件どおりの施工が前提になる
  • ダクトのファイヤーダンパーにはFD・SD・SFD・PD(PFD)があり、作動のきっかけ(温度ヒューズか、感知器・消火ガス圧との連動か)が異なる
  • 防火戸・防火シャッターの自動閉鎖は、感知器・連動制御盤という設備側の機能があって初めて成立し、竣工後の維持管理まで含めて性能が確保される
  • 貫通処理・ダンパー・防火戸連動はいずれも隠蔽される、または動作させないと確認できない箇所が多く、施工記録と検査時の作動試験が欠かせない

防火区画は「壁と床の性能」だけで語られがちですが、実際にはそこを貫通する設備の処理が伴って初めて、区画としての性能が成立するという視点を持つことが、設計・施工・検査のいずれの立場でも重要です。具体的な工法・数値・機種の選定は、必ず最新の法令・大臣認定書・所轄消防署・メーカー仕様で確認してください。


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