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実施設計消防設備

非常コンセント設備・無線通信補助設備の基礎|消防隊の活動を支える設備

非常コンセント設備と無線通信補助設備は、名前だけを見ると別々の分野の設備に見えますが、どちらも「建物の中にいる人が使う設備」ではなく「駆けつけた消防隊が現場で使う設備」という共通点を持っています。前者は消防隊が持ち込む投光器や排煙用送風機などの電源を確保するための設備、後者は電波が届きにくい地階・地下街で消防隊の無線連絡を確保するための設備で、いずれも消防法令上「消火活動上必要な施設」というグループに位置づけられます。

この2つは、設置対象になる建物の条件(階数・面積)が個別に定められている点、構成する機器がまったく異なる点で別物ですが、「平常時はほとんど使われず、火災時に消防隊が外部から接続・操作して初めて機能する」という設計思想は共通しています。実施設計の段階でこの2つをまとめて理解しておくと、電気設備・弱電設備の図面上での取り扱いが整理しやすくなります。

本記事で挙げる階数・面積・寸法の基準は、実施設計の初期段階で押さえておきたい一般的な考え方の整理であり、最終的な設置要否・仕様は建物の規模・構造・所轄消防署の運用によって変わります。具体的な計画は必ず所轄消防署との事前協議で確認してください。

非常コンセント設備と無線通信補助設備の模式図。左は高層部分の各階段室付近に赤色表示灯付き保護箱を設置し非常電源から幹線で電源供給する構成、右は地下通路の天井に漏えい同軸ケーブル(LCX)を敷設し地上の接続端子から消防隊が無線機を接続する構成を示す。

図:非常コンセント設備は高層階の電源、無線通信補助設備は地下の無線通信を、それぞれ消防隊のために確保する


早見まとめ

項目 非常コンセント設備 無線通信補助設備
目的 消防隊の資機材(投光器・送風機・破壊器具等)用の電源確保 地階・地下街で消防隊の無線連絡を確保
設置対象の目安 11階以上の階/地下街等で延べ面積が一定規模以上/地階の床面積合計が一定規模以上 地下街・準地下街等で延べ面積が一定規模以上
主な構成 非常コンセント(100V・15A系)、保護箱、表示灯、非常電源 漏えい同軸ケーブル(LCX)またはアンテナ、接続端子
設置位置の考え方 階段室・非常用エレベーターの乗降ロビー等、消防隊が活動しやすい場所 地上(消防隊が接続しやすい場所)および防災センター等
前提 所轄消防署との事前協議が必須 所轄消防署との事前協議が必須

「消火活動上必要な施設」の中での位置づけ

消防法令が定める消防用設備等は、大きく「消防の用に供する設備」「消防用水」「消火活動上必要な施設」の3つに分かれ、非常コンセント設備・無線通信補助設備はいずれも「消火活動上必要な施設」に属します。同じグループには連結送水管・連結散水設備・排煙設備も含まれ、共通するのは「建物の設備単体では完結せず、消防隊が現場に到着して初めて機能する」という点です(このグループ全体の考え方は連結送水管・連結散水設備の基礎で整理しています)。

非常コンセント設備は連結送水管と並んで「消防隊の活動を電源・給水の面から支える設備」、無線通信補助設備は「消防隊同士の連絡を支える設備」というイメージで捉えると位置づけがはっきりします。屋内消火栓や自動火災報知設備のように在館者が日常的に触れる設備とは想定利用者が異なるため、設計・点検のいずれの場面でも「誰が使う設備か」を混同しないことが出発点になります。


非常コンセント設備|どこに設置が必要か

非常コンセント設備の設置対象は、大きく分けて「高層部分」と「地下部分」の2つの考え方で整理されています。ひとつは、地階を除く階数が11階以上となる建築物で、その11階以上の各階が対象になるという考え方です。もうひとつは、地下街のように地階を有する一定規模以上の防火対象物(延べ面積がおおむね1,000平方メートル以上のもの)や、地下階の床面積の合計が一定規模以上になる建築物の地階が対象になるという考え方です。

各階に設ける非常コンセントの数は、その階のどの場所からも近くの非常コンセントまで到達できるよう、水平距離でおおむね50メートル以下となるように配置するのが基本の考え方とされています。床面積が大きい階では複数の非常コンセントが必要になり、それに応じて非常電源からの回路数も1回路では足りず複数回路とする、という整理がなされる場合があります。ただし、具体的な階数・面積の閾値や回路数の考え方は建築物ごとに個別判断が必要なため、実施設計では必ず最新の消防法令と所轄消防署の運用で確認してください。

設置対象の考え方 イメージ
高層部分 地階を除く階数が11階以上の建築物の、11階以上の各階
地下街等 延べ面積が一定規模以上の地下街・地階を有する防火対象物
地下の深い階 地階の床面積の合計が一定規模以上になる建築物の地階

非常コンセント設備の構成と仕様

非常コンセント設備は、電源・配線・非常コンセント・保護箱・表示灯という要素で構成されます。非常コンセントの回路は単相交流100V・15A系の容量で計画されるのが一般的な考え方で、プラグ受けの規格に適合したコンセントが、鋼板製の保護箱に収められます。保護箱の上部には赤色の表示灯が設けられ、非常用照明・屋内消火栓の表示灯と同様、消防隊が暗い煙の中でも位置を視認できるようにする狙いがあります。

電源は、停電時にも給電できるよう非常電源(自家発電設備・蓄電池設備など)から供給される専用回路とし、平常時の照明・OA機器用のコンセントとは明確に系統を分けます。接地についても、一般の電気設備とは別に、感電防止の観点から所定の接地工事を施すのが基本です。これらの数値・仕様は建物規模や所轄消防署の運用によって扱いが変わることがあるため、詳細は電気設備設計者と所轄消防署との協議で確定させます。

構成要素 役割の目安
非常コンセント 単相100V・15A系の容量。消防隊の資機材の電源口
保護箱 鋼板製。コンセント・開閉器等を収め、破損・いたずらを防ぐ
表示灯 赤色。煙の中でも設置位置を視認できるようにする
非常電源 自家発電設備・蓄電池設備等。停電時も給電できる専用回路
接地 感電防止のための接地工事(詳細は協議で確定)

非常コンセント設備の設置位置の考え方

非常コンセントは、階段室・特別避難階段の附室・非常用エレベーターの乗降ロビーなど、火災時に消防隊が活動拠点にしやすい場所に設けるのが基本の考え方です。これは非常用エレベーターの設置位置の考え方とも共通しており、「消防隊が建物に入り、垂直移動しながら活動する経路上に電源を確保しておく」という発想に基づいています。

在館者が使う一般のコンセントとは明確に区別されるべき設備であり、平常時の清掃機器・イベント機材の電源として流用されることは想定されていません。保護箱の表示や設置場所が在館者の目線からは「使ってよい電源」に見えてしまうことがあるため、竣工後の運用説明・表示の徹底も設計段階で意識しておきたいポイントです。


無線通信補助設備|なぜ地下に必要なのか

地階や地下街は、コンクリートや土に囲まれているため地上に比べて電波が届きにくく、消防隊が使う無線機がつながらない、聞こえにくいという問題が起こりやすい空間です。火災現場では、指揮本部と現場の隊員、あるいは隊員同士の無線連絡が途切れることが活動の安全性に直結するため、これを補うのが無線通信補助設備です。

無線通信補助設備は、地下街・準地下街など延べ面積が一定規模以上(おおむね1,000平方メートル以上)の防火対象物を対象に設置が求められる考え方が基本とされています。使用される周波数は消防・救急活動用の無線帯(従来の150MHz帯や、更新が進む260MHz帯のデジタル方式など)で、一般の携帯電話回線とは別の、消防機関専用の無線システムを前提にしています。


無線通信補助設備の構成と接続端子

無線通信補助設備の代表的な構成方式は、大きく「漏えい同軸ケーブル方式」と「アンテナ方式」の2つに分けられます。漏えい同軸ケーブル(LCX:Leaky Coaxial Cable)は、同軸ケーブルの外部導体に電波を漏らすための加工を施したケーブルで、これを地下通路や地下街の天井裏などに延長して敷設することで、ケーブル沿いのどこでも電波を送受信できるようにする方式です。アンテナ方式は、区画ごとにアンテナ(空中線)を分散配置して電波を届ける方式で、空間の形状や規模に応じて漏えい同軸ケーブル方式と使い分け、あるいは併用されます。

消防隊が地上の無線機をこの設備に接続するための「接続端子」は、消防隊が現場で扱いやすい場所(地上および防災センター等)に設けられ、床面または地面からおおむね0.8メートルから1.5メートル程度の高さに、防塵・防水性能を備えた保護箱に収めて設置する考え方が基本とされています。ふだんは目立たない設備ですが、大規模な地下空間を持つ建物では消防隊の活動安全性を左右する重要な設備として位置づけられています。

構成方式 特徴
漏えい同軸ケーブル方式(LCX) ケーブルを敷設した経路沿いで広く均一に送受信できる。地下通路・地下街に多い
アンテナ方式 区画ごとにアンテナを分散配置。空間形状に応じて選択・併用
接続端子 地上・防災センター等に設置。防塵防水の保護箱に収める

携帯電話の電波不感対策との違い

地下街や地下駐車場では、無線通信補助設備とは別に、携帯電話事業者が構内アンテナ設備を設置して電波の不感対策を行っている場合があります。この2つは見た目(ケーブルやアンテナが天井裏・壁面に這っている点)が似ているため混同されやすいのですが、目的・所管・運用のいずれも別物です。

無線通信補助設備は消防法令に基づき消防機関の無線連絡を確保するための設備で、所轄消防署との協議・検査の対象になります。一方、携帯電話用の構内アンテナ設備は、電気通信事業者が自社の通信サービスの電波を届けるために設置するもので、消防法令上の設置義務とは別の枠組みで計画されます。建物の設計段階では、両者が同じ電気シャフト(EPS)やケーブルラックのスペースを取り合うことがあるため、弱電・通信設計の担当者と消防設備設計の担当者が別々に検討を進めがちな点に注意し、スペース計画の段階で両者の存在を早めにすり合わせておくことが実務上のポイントになります。


設計・施工の留意点とチェックリスト

  • 非常コンセント設備・無線通信補助設備とも、設置要否の判定は建物の階数・延べ面積・地階の構成によって変わるため、実施設計の早い段階で所轄消防署に事前相談し、対象・仕様を確定させる。
  • 非常コンセントの回路・非常電源は、照明・一般コンセント回路と混同しない専用系統として計画し、電気設備設計者と消防設備設計者の間で系統図の整合を確認する。
  • 非常コンセントの設置位置は、階段室・非常用エレベーター乗降ロビーなど消防隊の活動動線上にあるかを、意匠図・避難計画図と突き合わせて確認する。
  • 無線通信補助設備は、漏えい同軸ケーブル方式かアンテナ方式かによって敷設ルート・天井裏スペースの取り方が変わるため、空調ダクト・配管等との干渉を早期に調整する。
  • 接続端子の位置は、**消防隊が到着してすぐ扱える場所(地上・防災センター等)**になっているか、防災センターの運用計画とあわせて確認する。
  • 携帯電話用の構内アンテナ設備とスペースを取り合う可能性があるため、通信キャリア設備の計画と消防設備の計画を早期にすり合わせる。
  • いずれの設備も、竣工後の点検・報告(消防用設備等点検)の対象であることを前提に、点検経路・点検スペースを確保しておく。

まとめ

  • 非常コンセント設備・無線通信補助設備は、いずれも在館者ではなく消防隊のための「消火活動上必要な施設」であり、連結送水管等と同じグループに位置づけられる
  • 非常コンセント設備は、11階以上の高層部分や地下街等の地下部分を対象に、単相100V・15A系の専用回路・保護箱・赤色表示灯・非常電源で構成される
  • 非常コンセントは階段室・非常用エレベーター乗降ロビーなど、消防隊が活動しやすい場所に、一定の水平距離内で配置する考え方が基本
  • 無線通信補助設備は地階・地下街での消防無線の不感対策で、漏えい同軸ケーブル方式・アンテナ方式で構成され、接続端子は地上・防災センター等に設ける
  • 携帯電話の電波不感対策(構内アンテナ設備)とは目的・所管が別物であり、スペースが競合しやすい点に注意が必要
  • 具体的な設置対象・仕様・寸法は建物規模・構造によって変わるため、実施設計段階での所轄消防署との事前協議が欠かせない

非常コンセント設備・無線通信補助設備は、日常的に目にする機会がほとんどないぶん、設計の初期段階で見落とされがちな設備です。しかし建物の階数・地階構成によって設置要否や仕様の考え方が変わり、弱電・通信設備との調整も必要になるため、意匠・電気・機械の各担当者が早い段階からその存在を意識しておくことが、後工程での手戻りを防ぐうえで重要になります。


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