消防用設備の非常電源の基礎|専用受電・自家発電・蓄電池の使い分け
消防用設備等の非常電源は、「発電機を置けばよい」という単純な話ではなく、消防法施行規則が定める非常電源専用受電設備・自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備という4種類のうち、対象建物の規模・用途によって使える種類が絞り込まれるという枠組みで理解する必要があります。特に延べ面積1,000㎡以上の特定防火対象物では、もっとも手軽な非常電源専用受電設備そのものが使えなくなるという制限があり、この条件を見落としたまま計画を進めると、実施設計の後半で電気室のレイアウトごと見直しになりかねません。
この記事では、消防設備士・建築設備士の実務目線で、消防法上の非常電源4種類の仕組みと違い、非常電源専用受電設備が使える条件・使えない条件、消防用設備等ごとに求められる作動時間の代表値、キュービクル式非常電源専用受電設備の認定制度、そして維持管理段階での点検の考え方までを整理します。停電対策としての予備電源全般(非常用自家発電設備・蓄電池設備・UPSの使い分けや、BCPの観点を含む建物側の広い話)については予備電源・非常用自家発電設備の計画|発電機・蓄電池・UPSの使い分けで扱っており、本記事はそのうち消防法が消防用設備等に対して要求する「非常電源」そのものに絞って、一段階詳しく掘り下げる位置づけです。
図で見る(全体像)
非常電源とは何か:予備電源との違い
「非常電源」という言葉は、停電時に電気を補うための設備全般を指す「予備電源」と混同されがちですが、消防法上は明確に区別された概念です。非常電源とは、屋内消火栓・スプリンクラー・自動火災報知設備といった消防用設備等を、常用電源が停電した際にも法令が定める時間だけ確実に作動させ続けるために、消防法令が種類・容量・切替方式まで規定している専用の電源を指します。
事務所のOA機器や一般照明のための予備電源とは目的がまったく異なり、非常電源は「火災発生時に、命を守るための最低限の設備を止めない」という一点に特化した仕組みです。そのため、使用できる方式(電源の種類)・必要な作動継続時間・常用電源からの自動切替のいずれについても、消防法施行規則および告示で細かく規定されています。
非常電源4種類の仕組みと特徴
消防法令上、消防用設備等の非常電源として認められているのは、次の4種類です。
| 非常電源の種類 | 仕組み | 特徴・留意点 |
|---|---|---|
| 非常電源専用受電設備 | 一般の商用電源の受電設備とは別系統で、消防用設備等専用の受電回路(多くはキュービクル式)を設ける方式 | 発電機や蓄電池を必要としないため設置・維持のコストが小さい一方、電力会社側の停電(送電線側の事故等)には対応できない |
| 自家発電設備 | ディーゼルエンジンやガスエンジン等の原動機で発電機を駆動し、電気を作り出す方式 | 長時間・大容量の給電に強いが、始動までに一定の時間を要する。燃料備蓄・排気/騒音対策・設置スペースの検討が必要 |
| 蓄電池設備 | あらかじめ充電しておいた蓄電池から電気を供給する方式 | 切替が速く、始動待ちがほぼ発生しない一方、容量は電池の大きさに依存するため大容量・長時間の給電には不向きな場合がある |
| 燃料電池設備 | 水素等の燃料と酸素の化学反応によって電気を作り出す方式 | 発電時の騒音・振動が小さいという特徴を持つが、消防用設備等の非常電源としての採用例は自家発電設備・蓄電池設備に比べると限られる |
非常電源専用受電設備は、「発電機や蓄電池を持たず、商用電源の受電経路そのものを専用化することで信頼性を高める」という発想の方式です。停電の原因が建物内の配線・分電盤側にある場合には有効ですが、電力会社側の送電が完全に止まってしまうケースには対応できないという性格上、後述のとおり一定規模以上の建物では単独での採用が認められていません。
非常電源専用受電設備が使える条件・使えない条件
非常電源専用受電設備は4種類の中でもっとも設置コストが小さい方式ですが、どの建物でも自由に選べるわけではありません。消防法施行規則第12条第4号等の規定により、特定防火対象物で延べ面積1,000㎡以上のもの(小規模特定用途複合防火対象物を除く)では、非常電源専用受電設備を非常電源とすることが認められておらず、自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備のいずれかを設置しなければなりません。
| 建物の条件 | 非常電源専用受電設備の可否 | 求められる非常電源 |
|---|---|---|
| 非特定防火対象物、または延べ面積1,000㎡未満の建物 | 使用可能 | 非常電源専用受電設備、自家発電設備、蓄電池設備、燃料電池設備のいずれか |
| 特定防火対象物で延べ面積1,000㎡以上(小規模特定用途複合防火対象物を除く) | 使用不可 | 自家発電設備、蓄電池設備、燃料電池設備のいずれか |
実務での判断として押さえておきたいのは、「特定防火対象物」(不特定多数の人が出入りする百貨店・飲食店・病院・ホテル等の用途)に該当するかどうかと、延べ面積1,000㎡という2つの条件をあわせて判定する必要がある点です。特定防火対象物・非特定防火対象物の区分そのものについては消防用設備等の全体像|防火対象物の区分と設置が必要な設備の考え方で整理しています。増築や用途変更によって延べ面積・用途区分が変わり、それまで使えていた非常電源専用受電設備が使えなくなるケースもあるため、既存建物の改修計画では現況の用途・延べ面積を必ず確認してから非常電源の方式を検討する必要があります。
なお、対象となる消防用設備等の種類(屋内消火栓・スプリンクラー・自動火災報知設備等)によって、非常電源として認められる方式の組み合わせが個別に規定されている部分もあるため、具体的な適用の可否は所轄消防署への事前相談を前提としてください。
消防用設備等ごとの必要な作動時間(代表値)
非常電源には、「電気を供給できること」だけでなく、消防用設備等の種類ごとに定められた時間だけ継続して作動させられる容量が求められます。代表的な作動時間の目安は次のとおりです。
| 消防用設備等 | 必要な作動継続時間の目安 |
|---|---|
| 屋内消火栓設備 | 30分以上 |
| スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備、屋外消火栓設備 | 30分以上 |
| 排煙設備(機械排煙)、非常コンセント設備 | 30分以上 |
| 不活性ガス消火設備、ハロゲン化物消火設備、粉末消火設備 | 60分以上 |
| 自動火災報知設備 | 監視状態を60分間継続した後、2警戒区域を10分間有効に作動できる容量 |
| ガス漏れ火災警報設備 | 2回線を10分間有効に作動させ、かつ他の回線を10分間監視状態にできる容量 |
この表からも分かるとおり、水系の消火設備(屋内消火栓・スプリンクラー等)や排煙設備・非常コンセント設備は30分以上、ガス系消火設備は60分以上と、「放水・放出を伴う設備」は比較的長い作動時間が求められる傾向があります。一方、自動火災報知設備・ガス漏れ火災警報設備は、火災発生前の「監視」という状態を長く維持したうえで、実際の警報作動はごく短時間という組み立てになっている点が特徴です。これは、火災報知設備が常時監視し続けることを主な役割としており、実際に警報を鳴動させる時間そのものは短くて済むという設備の性格を反映しています。
実務での判断としては、これらの作動時間はあくまで代表的な目安であり、対象建物の用途・規模、設置される消防用設備等の組み合わせによって、より詳細な条件(同時に作動する設備の組み合わせ方等)が加わる場合があります。非常電源の容量計算そのものは、消防設備士・電気設備設計者が個別に行う専門的な作業であり、本記事は「どのくらいの時間が求められる設計思想なのか」という全体像の把握を目的としています。
キュービクル式非常電源専用受電設備の認定制度
非常電源専用受電設備のうち、キュービクル式(金属製の箱に受電設備一式を収めた形式)のものについては、日本電気協会が実施する認定制度があります。これは昭和50年の消防庁告示第7号「キュービクル式非常電源専用受電設備の基準」に基づく制度で、認定を受けたキュービクルには、消防用設備等へ電気を送る回路の周囲を赤色の隔壁で区画し、非常電源である旨を示す赤色の表示灯を設けるなど、外観・構造の両面で識別しやすい仕様が求められています。
認定品を採用することで、個別の構造計算・試験によらずに技術基準への適合性を示しやすくなるため、実務上は認定キュービクルを選定するケースが一般的です。ただし、認定キュービクルであっても、前述のとおり特定防火対象物で延べ面積1,000㎡以上の建物では非常電源専用受電設備そのものが使えないため、「認定品だから使える」わけではなく、そもそも非常電源専用受電設備という方式を選べる建物かどうかを先に確認するという順番を崩さないことが重要です。
維持管理段階での点検の考え方
非常電源は、設置して終わりではなく、消防用設備等の一部として定期的な点検の対象になります。非常電源専用受電設備・自家発電設備・蓄電池設備のいずれについても、常用電源から非常電源への自動切替が確実に作動するか、自家発電設備であれば始動から電圧確立までの時間が基準内に収まっているか、蓄電池であれば経年劣化による容量の低下がないかといった点が、点検の主な確認項目になります。
消防用設備等全体の点検制度(機器点検・総合点検の周期や報告義務)については消防用設備等の点検・報告の基礎|機器点検・総合点検と報告義務で整理していますが、非常電源はその点検対象の中でも特に、「いざというときに確実に切り替わり、必要な時間だけ動き続けるか」という実効性の検証が欠かせない部分です。自家発電設備の負荷運転(実際に消防用設備等相当の負荷をかけて運転する試験)や、蓄電池の容量測定は、書類上の外観確認だけでは分からない劣化・不具合を発見するための重要な機会になります。
実務チェックリスト
消防用設備等の非常電源を計画・確認する際に、抜け漏れを防ぐための確認項目です。
方式選定
- 対象建物が特定防火対象物に該当するか、延べ面積1,000㎡以上かを確認し、非常電源専用受電設備の使用可否を判定したか
- 増築・用途変更の予定がある場合、将来の延べ面積・用途区分の変化による非常電源方式への影響を検討したか
- 対象となる消防用設備等(屋内消火栓・スプリンクラー・自火報等)ごとに、認められる非常電源の組み合わせを所轄消防署に確認したか
容量・作動時間
- 水系消火設備・排煙設備・非常コンセント設備で30分以上、ガス系消火設備で60分以上という代表値を踏まえて容量を検討したか
- 自動火災報知設備・ガス漏れ火災警報設備で、監視状態の継続時間と警報作動時間を区別して容量を算定したか
- 複数の消防用設備等が同時に非常電源を必要とする場合の合計容量を確認したか
キュービクル・機器選定
- 非常電源専用受電設備を採用する場合、日本電気協会の認定キュービクルを選定しているか
- 自家発電設備・蓄電池設備を採用する場合、始動時間・容量が対象設備の必要作動時間を満たしているか
維持管理
- 常用電源から非常電源への自動切替が確実に作動する計画になっているか
- 自家発電設備の負荷運転、蓄電池の容量測定など、実効性を検証する点検が計画に含まれているか
よくある質問
非常電源専用受電設備は、なぜ延べ面積1,000㎡以上の特定防火対象物で使えないのか?
非常電源専用受電設備は、商用電源の受電経路を専用化するだけの方式であり、電力会社側の送電が完全に停止するような大規模な停電には対応できません。不特定多数の人が出入りする特定防火対象物のうち、一定規模以上の建物では、より確実に電気を供給できる自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備のいずれかを備えることが求められています。
非常電源専用受電設備と、非常用自家発電設備の予備電源としての役割は何が違うのか?
非常電源専用受電設備は消防法上の「非常電源」の一種であり、あくまで消防用設備等を法令上の時間だけ動かすことに特化した仕組みです。一方、予備電源・非常用自家発電設備の計画で扱っているような自家発電設備・蓄電池設備・UPSは、消防用設備等に限らず、事業継続(BCP)の観点から建物全体の機能維持を目的に計画される場合があります。同じ発電機を非常電源と一般の予備電源とで兼用する計画も実務ではよく見られますが、まず消防法が求める非常電源としての容量・系統を確保したうえで、余力の範囲で他の負荷を追加するという優先順位が基本です。
自動火災報知設備の非常電源が「監視60分・作動10分」となっているのはなぜか?
自動火災報知設備は、火災が発生していない平常時も含めて常時監視し続けることが主な役割であり、停電中であっても長時間にわたって監視状態を維持できる必要があります。一方で、実際に警報を鳴動させる作動状態は、火災発生後の短い時間で足りるという設備の性格を反映して、監視状態の継続時間(60分)と警報作動時間(10分)を分けて容量が算定される考え方になっています。
非常電源の容量は誰が計算するのか?
非常電源の具体的な容量計算は、対象建物に設置される消防用設備等の種類・数量・同時作動の組み合わせを踏まえた専門的な作業であり、消防設備士・電気設備設計者が個別に行う事項です。本記事で紹介した作動時間の代表値は全体像を把握するための目安であり、実際の設計・審査は所轄消防署との協議を前提としてください。
まとめ
- 消防法上の非常電源には、非常電源専用受電設備・自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備の4種類がある
- 非常電源専用受電設備は設置コストが小さい一方、特定防火対象物で延べ面積1,000㎡以上(小規模特定用途複合防火対象物を除く)の建物では使用が認められていない
- 消防用設備等ごとに必要な作動継続時間が定められており、水系消火設備・排煙設備・非常コンセント設備で30分以上、ガス系消火設備で60分以上が代表的な目安
- 自動火災報知設備・ガス漏れ火災警報設備は、監視状態の継続時間と警報作動時間を分けて容量が算定される
- キュービクル式非常電源専用受電設備には日本電気協会による認定制度があり、実務では認定品の採用が一般的
- 非常電源は設置して終わりではなく、自動切替の作動確認・負荷運転・容量測定といった実効性の検証を伴う点検が欠かせない
非常電源の計画は、「発電機か蓄電池か」という機器選定の前に、まず対象建物が非常電源専用受電設備を選べる規模・用途なのかを確認することが出発点になります。この前提を早い段階で押さえておくと、電気室のレイアウトや受変電設備の計画全体を後戻りなく進めやすくなります。最終的な方式・容量は、所轄消防署・消防設備士との協議のうえで確定してください。
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