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設備のIoT・クラウド型遠隔監視の基礎|中央監視との違いと小規模建物への導入

筆者が維持管理の相談を受けていて増えていると感じるのが、「うちの規模で中央監視設備を入れるのは大げさだが、漏水や機器停止に気づかず被害が広がるのは避けたい」という悩みです。テナントビルや店舗、倉庫、賃貸マンションのように、常駐の管理人員も専用の監視室もない建物では、中央監視設備と幹線設備の計画で扱ったような大規模施設向けの中央監視設備をそのまま導入するのは費用・体制の両面で現実的でないことが多いためです。

こうした建物で近年広がっているのが、センサーとモバイル通信・クラウドを組み合わせ、異常があればスマホに通知が届く「IoT・クラウド型の遠隔監視」です。この記事では、中央監視設備との役割の違い、実際によく監視される項目、通信方式の使い分け、そして導入後に困りやすい落とし穴を、維持管理の実務目線で整理します。自動制御・BEMSとの階層関係は自動制御・BEMSの基礎で扱っていますので、あわせてご覧ください。


図で見る(全体像)

中央監視設備とIoT・クラウド型遠隔監視の構成比較、および監視対象の代表例(デマンド・漏水・温度・ポンプ発停異常・空調異常・開閉)を示す模式図


中央監視設備とIoT・クラウド型遠隔監視の違い

中央監視設備とIoT・クラウド型遠隔監視は、どちらも「設備の状態を離れた場所で把握する」という目的は同じですが、想定している建物規模や仕組みが大きく異なります。

比較項目 中央監視設備(BAS/BEMS) IoT・クラウド型遠隔監視
主な対象 延床面積が大きく設備数の多い大規模施設 中小規模のビル・店舗・倉庫・集合住宅など
監視拠点 建物内の中央監視室・防災センター クラウド上のサーバー(社外のデータセンター)
通知先 監視室の盤面・常駐担当者 管理担当者のスマホ・PC(場所を問わない)
配線 建物新築時に専用の弱電配線を計画 既設の建物にも後付けしやすい無線センサーが中心
導入費用の性質 設計・工事費が主体の初期投資型 初期費用は抑えめで月額利用料がかかるサブスク型が多い
想定する体制 専任・常駐の監視担当者を置ける建物 巡回・兼任の管理者がスマホで随時確認する建物

中央監視設備は建物新築時の基本設計段階で幹線・弱電配線とあわせて計画する「作り込み型」の仕組みであるのに対し、IoT・クラウド型遠隔監視は既存の建物に後から追加しやすい「後付け型」の仕組みという整理をすると分かりやすくなります。両者は対立するものではなく、中央監視設備を持たない規模の建物が、その一部の機能(異常の早期発見)だけを低コストで実現するための選択肢がIoT・クラウド型遠隔監視だと捉えると、中央監視設備と幹線設備の計画との関係が整理しやすくなります。


何を監視するか|代表的な監視対象

IoT・クラウド型遠隔監視で扱われる監視対象は、建物の用途や設備構成によって異なりますが、代表的なものを整理すると次のとおりです。

監視対象 使われるセンサー・信号の例 主な狙い
受変電設備のデマンド(使用電力) 電力量計・パルス出力、CT(変流器)による電流計測 契約電力の超過防止、使用量の見える化
漏水 床面や機械室に置く漏水検知センサー ポンプ室・給水管まわりでの被害拡大の早期発見
温度 温度センサー(機械室、冷蔵倉庫、サーバー室など) 空調停止や異常発熱への早期対応
ポンプ・送風機の発停状態 動力盤の運転信号(DI)を無線ユニットで取り込む 予定外の停止・連続運転の検知
空調機の異常 室内機・室外機の異常信号、フィルター詰まりの間接的な兆候(電流値など) 故障の予兆把握、修理対応の前倒し
ドア・シャッターの開閉 開閉センサー 防犯・入退室管理を兼ねた運用

これらの多くは、大規模施設の中央監視設備であればDDCコントローラ経由でDI/DO/AI/AOとして扱う信号(自動制御・BEMSの基礎で解説)と性質は同じです。違うのは、配線を新たに引くのではなく、既存の盤や機器に後付けできる無線センサー・パルス変換器を使って信号を取り出す点にあります。

デマンド監視については、契約電力が一定期間の使用電力(デマンド値)の最大値をもとに決まる仕組みと関わりが深く、需要率・負荷率の考え方は需要率・負荷率・不等率の基礎で扱っています。IoT・クラウド型のデマンド監視は、この仕組みを小規模な受変電設備でも低コストで見える化する手段として使われることが多くなっています。


通信方式の使い分け|LTE・LPWA・Wi-Fi

IoT・クラウド型遠隔監視の実装で必ず検討することになるのが、センサーからクラウドまでデータをどう飛ばすかという通信方式の選定です。主な選択肢を整理すると次のとおりです。

通信方式 特徴 向いている用途
LTE(携帯回線・LTE-Mを含む) 建物内の既存ネットワークに依存せず単独で通信可能。回線契約が必要で月額の通信費がかかる 建物にWi-Fi環境がない、あるいは複数拠点をまとめて集中管理したい場合
LPWA(省電力広域無線) 消費電力が小さく、電池のみで数年単位の運用がしやすい。データ量は少なめで頻繁な大容量通信には不向き 発停状態・温度など、数分〜数十分おきの少量データで足りる監視項目
Wi-Fi 建物内の既設ネットワークを利用でき、通信費が別途かからないことが多い 建物内に安定したWi-Fi環境があり、機械室などにも電波が届く場合

LPWAはLoRaWANなどの規格が920MHz帯を使い、電池のみでおおむね数年から10年程度動作する製品もあるとされ、配線工事を避けたい後付け案件でよく採用されます。ただしデータを送る頻度や1回あたりの通信量には制約があるため、常時の細かい波形監視のような用途には向きません。一方でLTEは通信量・頻度の自由度が高い反面、回線契約とそれに伴う月額費用が発生し、Wi-Fiは通信費を抑えられる反面、機械室やポンプ室など電波の届きにくい場所への設置が課題になりやすい、という具合に一長一短があります。実務では、監視したい項目のデータ量・頻度と、設置場所の電波環境・電源の有無を突き合わせて、複数の方式を建物内で使い分けることも珍しくありません。


導入時に見落としやすい落とし穴

IoT・クラウド型遠隔監視は初期費用を抑えて導入しやすい一方、運用を始めてから気づく課題も少なくありません。代表的なものを整理します。

  • 通信費が積み上がる: センサー1台ごと、あるいは通信キャリアの回線ごとに月額の通信費がかかる場合、監視項目を増やすほどランニングコストが積み上がる。導入前に台数×月額のシミュレーションをしておくことが望ましい
  • 電池切れの管理体制が抜ける: LPWA機器の電池寿命は数年単位と長いものの、いずれは交換が必要になる。台数が多くなると交換時期の管理自体が新たな維持管理業務になる
  • セキュリティ対策の確認不足: クラウドサービスへのアクセス権限管理、通信の暗号化、外部からの不正アクセス対策がベンダーごとにどう実装されているかを、契約前に確認しておく必要がある
  • クラウドサービス終了・サービス改廃のリスク: 月額課金のクラウドサービスは、提供事業者の都合でサービス内容が変更・終了する可能性がある。長期間使う前提の建物設備としては、サービス終了時のデータの取り扱いや代替手段を契約時に確認しておきたい
  • 既存の防災設備との役割の混同: 遠隔監視の漏水・温度センサーはあくまで早期発見を助ける補助的な仕組みであり、自動火災報知設備やスプリンクラー設備など法令で設置が義務付けられた防災設備の代わりにはならない点を、施主・利用者に誤解なく伝える必要がある

このうちクラウドサービス終了のリスクは見落とされがちですが、建物は数十年単位で使われる一方、IoTサービスは事業者の統廃合や料金プラン変更が起こりやすい分野でもあります。契約時にはデータのエクスポート可否や、サービス終了時の通知期間についても確認しておくと安心です。


既設建物への後付け|新築時の中央監視との違い

中央監視設備は新築時の基本設計段階で幹線・弱電配線とあわせて計画するのが基本ですが、IoT・クラウド型遠隔監視は、既に稼働している建物に後から追加しやすい点が実務上の大きなメリットです。

無線を使うセンサーであれば、配電盤や機械室に大掛かりな配線工事をせずに設置でき、既存の動力盤・分電盤の運転信号を後付けの変換ユニットで取り出す製品も増えています。このため、新築時には予算の都合で中央監視・自動制御を見送った建物や、竣工から年数が経ち老朽化リスクが高まってきた建物に対して、必要な監視項目だけを絞って段階的に導入する、という進め方がしやすくなっています。

一方で、後付けであるがゆえに、電源の確保(電池式か、近くにコンセントがあるか)、電波の届きやすさ、既存の動力盤・制御盤の信号をどう安全に取り出すかといった現地調査が導入の成否を左右します。特に既存の制御盤から信号を取り出す作業は、盤内の配線に手を加えることになるため、電気主任技術者や設備会社と相談のうえで進めることが望まれます。


実務チェックリスト

  • 建物の規模・体制に対して、中央監視設備ではなくIoT・クラウド型遠隔監視で十分か(あるいはその逆か)を整理したか
  • 監視したい対象(デマンド・漏水・温度・発停状態など)を優先順位付けし、必要な項目だけに絞って導入計画を立てたか
  • 設置場所ごとの電源の有無・電波環境を現地調査し、通信方式(LTE・LPWA・Wi-Fi)を使い分けたか
  • センサー台数×月額通信費、電池交換のサイクルを含めたランニングコストを試算したか
  • クラウドサービスの契約内容(データのエクスポート可否、サービス終了時の対応、セキュリティ対策)を確認したか
  • 遠隔監視のセンサーが、自動火災報知設備など法令で義務付けられた防災設備の代替にはならないことを関係者に周知したか
  • 既存の動力盤・制御盤から信号を取り出す作業について、電気主任技術者・設備会社と相談したか

よくある質問

中央監視設備とIoT・クラウド型遠隔監視は、どちらを選べばよいですか

延床面積が大きく設備の種類・数が多い建物、常駐の管理担当者を置ける建物であれば中央監視設備の導入効果が大きくなります。一方、中小規模のビルや店舗・倉庫のように、専任の監視担当者を置きにくい建物では、必要な項目に絞ったIoT・クラウド型遠隔監視のほうが費用対効果に優れることが多くなります。設備の規模・重要度・維持管理体制を踏まえて、設計者や設備会社と相談しながら判断するのが基本です。

既設のビルにも後付けできますか

多くのIoT・クラウド型遠隔監視製品は、無線通信を使うセンサーを中心に設計されており、既設の建物にも比較的後付けしやすいのが特長です。ただし電源の確保や電波の届きやすさ、既存の動力盤・制御盤からの信号の取り出し方法については現地調査と設備会社への相談が必要になります。

通信方式はどれを選べばよいですか

監視したい項目のデータ量・頻度と、設置場所の電源・電波環境で判断します。発停状態や温度など少量データを数分〜数十分おきに送る用途で配線工事を避けたい場合はLPWA、建物内にWi-Fi環境があり通信費を抑えたい場合はWi-Fi、単独で確実に通信させたい、あるいは複数拠点をまとめて管理したい場合はLTEが向いている、という目安で使い分けます。迷う場合は複数方式に対応した機器・サービスを選び、設置後に調整できる余地を残しておくと安心です。

クラウド型のサービスがなくなったらどうなりますか

提供事業者の都合でサービス内容が変更・終了する可能性はゼロではありません。契約前に、サービス終了時のデータのエクスポート可否や通知期間、代替サービスへの移行のしやすさを確認しておくことが望まれます。特定のクラウドサービスに依存しすぎず、監視データを自社側でも定期的に確認・保存できる運用にしておくと、サービス終了時の影響を小さくできます。


まとめ

  • 中央監視設備は大規模施設向けの「作り込み型」、IoT・クラウド型遠隔監視は中小規模の建物にも後付けしやすい「後付け型」という役割の違いがある
  • 監視対象の代表例は、受変電のデマンド・漏水・温度・ポンプの発停状態・空調異常など
  • 通信方式はLTE・LPWA・Wi-Fiの特徴(通信費・消費電力・データ量・電波環境)を踏まえて使い分ける
  • 通信費の積み上がり、電池交換の管理、セキュリティ対策、クラウドサービス終了リスクが導入後に見落としやすい落とし穴になる
  • 遠隔監視のセンサーは、法令で義務付けられた防災設備の代替にはならない点に注意が必要
  • 既設建物への後付けは電源・電波環境の現地調査と、既存盤からの信号取り出し方法の検討が成否を左右する

IoT・クラウド型遠隔監視は、中央監視設備を持てない規模の建物でも「異常に気づける」状態をつくれる有力な選択肢ですが、導入すれば安心というわけではなく、通信費・電池管理・セキュリティ・サービス継続性まで含めた運用設計が欠かせません。建物の規模と体制に合った監視の形を、設計者・設備会社とすり合わせながら選んでいくことが大切です。


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