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非常用発電機の容量計算と始動方式の基礎|負荷選定・燃料・冷却方式の考え方

非常用発電機の容量決定は、大きく分けて2つの判断の積み重ねでできています。ひとつは「停電時にどの負荷を、どれだけの時間動かす必要があるか」を洗い出す判断、もうひとつは「その負荷を実際に起動・運転できるだけの出力を発電機に持たせるか」という判断です。前者を誤ると法令上必要な設備が動かず、後者を誤ると発電機が起動した瞬間に電圧が落ち込み、モーター負荷が始動できない、あるいは制御機器が誤動作するといった不具合につながります。

この記事では、予備電源・非常用自家発電設備の計画|発電機・蓄電池・UPSの使い分けで扱った「予備電源全体の中で発電機をどう位置づけるか」という話の続編として、非常用発電機そのものの容量計算の考え方と機種選定に軸足を置いて掘り下げます。消防法が要求する非常電源の作動時間・方式の詳細は消防用設備の非常電源の基礎で整理済みのため、本記事では重複を避け、容量を積み上げる際の負荷の整理、原動機・始動方式・冷却方式の選び方、燃料備蓄と危険物規制の関係、維持管理の考え方に絞って解説します。基本設計の段階で発電機の機種・容量の方向性を決めておきたい設計者・施主担当者向けの内容です。


早見まとめ

まず全体像を先に示します。詳しい考え方は本文で順に解説します。

項目 考え方の要点
容量算定の軸 消防負荷・建築基準法上の負荷・保安負荷(BCP含む)を洗い出し、同時に必要となる最大容量を積み上げる
容量の考え方 (1)連続運転をまかなう定格出力容量、(2)最大負荷起動時の電圧・周波数変動を許容範囲に収める始動時容量、の2段階で検討する
原動機 中小規模はディーゼルエンジンが主流。ガスタービンは大容量・低振動低騒音に強い一方、機器価格・燃費では不利になりやすい
始動方式 小容量機はセルモータ式(電気始動)が広く採用され、大容量機では圧縮空気式も用いられる
消防用途の始動時間 自家発電設備の基準(昭和48年消防庁告示第1号)で、常用電源停電後の電圧確立・投入は原則40秒以内
冷却方式 ラジエータ方式(空冷)と、クーリングタワー等を用いる冷却水槽方式(水冷)。設置場所・容量規模で選定
燃料備蓄 備蓄量を増やすほど危険物の指定数量・少量危険物への該当に近づくため、容量計画と危険物規制をセットで検討する
維持管理 負荷運転または内部観察等を、予防的な保全策を講じていれば6年に1回、講じていなければ1年に1回実施(ガスタービン機は負荷運転そのものが不要)

非常用発電機が支える3つの負荷:消防負荷・建築基準法負荷・保安負荷

発電機容量を積み上げる最初の一歩は、「停電時に何を動かす必要があるか」を性格の異なる3つの負荷に分けて洗い出すことです。

負荷の種類 主な内容 求められる根拠
消防負荷 屋内消火栓・スプリンクラー・自動火災報知設備等、消防用設備等を動かすための負荷 消防法令が定める非常電源の基準
建築基準法負荷 非常用の照明装置、非常用エレベーター等、建築基準法令が予備電源の設置を求める負荷 建築基準法令
保安負荷 法令上は必須でないが、事業継続(BCP)上どうしても止められない負荷(サーバー室、重要な生産設備等) 事業者の判断・BCP方針

消防負荷の作動継続時間・非常電源としての方式は消防用設備の非常電源の基礎で扱ったとおり、対象設備ごとに代表的な目安が定められています。一方、建築基準法負荷(非常用の照明装置や非常用エレベーターの予備電源等)は、対象設備・建物規模によって求められる容量・時間の考え方が異なるため、本記事では数値そのものへの深入りは避け、所轄の特定行政庁への確認を前提とします。

実務での判断として重要なのは、消防負荷と建築基準法負荷は「法令上必ず動かさなければならない最低限」であるのに対し、保安負荷は事業者の判断で追加される部分だという優先順位の違いです。発電機容量は、まず消防負荷・建築基準法負荷を同時にまかなえることを前提に検討し、余力の範囲で保安負荷をどこまで組み込むかを事業者と合意していく、という順番を崩さないことが計画のぶれを防ぎます。


容量算定の基本的な考え方:定格出力容量と始動時容量

非常用発電機の容量は、性格の異なる2つの検討を経て決まります。

(1) 定格出力容量:連続運転をまかなえるか

停電時に同時に動かす負荷をすべて足し合わせた電力(有効電力・無効電力)を、発電機が連続して供給し続けられるかを確認する検討です。すべての負荷が常に同時に最大出力で動くとは限らないため、実務では負荷ごとの需要率・不同時率を踏まえて必要な容量を積算しますが、この積算は建物ごとの負荷構成に依存する専門的な作業であり、本記事では「単純な足し算ではなく、同時性を踏まえて積み上げる」という考え方の紹介にとどめます。

(2) 始動時容量:起動の瞬間に電圧・周波数が落ち込みすぎないか

発電機容量のもう一つの論点が、負荷(特に大容量のモーター)が起動する瞬間に流れる大きな始動電流によって、発電機の出力電圧が一時的に落ち込む現象への対応です。この電圧降下が大きすぎると、同時に運転している他の機器の制御回路が誤動作したり、その負荷自体が始動しきれなかったりする不具合につながります。そのため発電機容量は、定格出力を満たすだけでなく、もっとも厳しい条件で負荷が起動したときの瞬時電圧降下を、許容できる範囲に収められる出力を確保する必要があります。

実務での判断:この始動時容量の検討には、始動電流の大きさ・発電機の過渡的なインピーダンス特性・許容できる電圧降下率など、複数の専門的な係数を用いた計算が必要です。(一社)日本内燃力発電設備協会が定める出力算定に関する基準など、専門の算定方法に基づいて電気設備設計者・発電機メーカーが個別に計算する事項であり、係数の具体的な数値は建物・機種ごとに異なります。本記事ではこの計算そのものには立ち入らず、「容量は定格出力だけでなく、最大負荷の始動時条件でも検討する」という2段階の考え方を押さえておくことを目的とします。受変電設備側の負荷分岐・系統構成は受変電設備の基礎|単線結線図で見る電気の流れと主要機器とあわせて検討すると、どの負荷を発電機系統に含めるかの整理がしやすくなります。


原動機の種類:ディーゼルエンジンとガスタービン

非常用発電機の原動機(動力源)として広く使われているのは、ディーゼルエンジンとガスタービンの2種類です。

項目 ディーゼルエンジン ガスタービン
採用規模の傾向 中小規模を中心に、民間建物での採用実績が多い 大容量帯で採用されることがある
機器価格・燃費 比較的安価で燃費も良い傾向 機器価格が高く、燃料消費量も相対的に大きくなりやすい
振動・騒音 エンジン特有の振動・騒音がある 振動・騒音が小さく、機器も比較的コンパクトな傾向
負荷試験の扱い 負荷運転または内部観察等の点検が必要 消防庁の改正により、負荷運転そのものが不要とされている

ディーゼルエンジンは価格・燃費のバランスから、中小規模の建物では主力の選択肢になりやすい原動機です。一方でガスタービンは、振動・騒音を抑えたい立地や、後述する点検負担を軽減したい場合の選択肢になりますが、機器価格・燃料消費量の面では不利になりやすいため、建物の規模・立地条件・維持管理コストの許容度を踏まえた総合判断が必要です。どちらを採用するにしても、最終的な機種選定は発電機メーカーとの協議・詳細な容量計算を経て確定する事項であり、本記事の比較はあくまで計画初期段階での方向性を掴むための目安です。


始動方式と始動時間の考え方

発電機は、常用電源が停電した瞬間から自動的に起動し、短時間で電圧を確立して負荷に電気を送り出す必要があります。この起動の仕組みが「始動方式」です。

セルモータ式(電気始動方式)

バッテリーに接続したセルモータで原動機を回転させ、始動させる方式です。小容量の発電機を中心に広く採用されています。バッテリーの状態が始動の信頼性に直結するため、点検では始動用蓄電池の状態確認が重要な項目になります。

圧縮空気式(空気始動方式)

あらかじめ圧縮しておいた空気を、始動の際にシリンダ内へ送り込んでピストンを動かし、原動機を始動させる方式です。大容量の発電機で採用されることがあります。

始動時間の考え方

消防用設備等の非常電源として設置される自家発電設備については、自家発電設備の基準(昭和48年消防庁告示第1号)により、常用電源が停電してから電圧確立・投入までの所要時間は原則40秒以内とされています(停電後40秒が経過するまでの間を蓄電池設備で補う構成の場合はこの限りではありません)。この40秒という時間は、発電機が「止まっている状態」から「負荷に電気を送り出せる状態」まで到達するのに許容される限度であり、始動方式・原動機の選定はこの時間内に収まることが大前提になります。建築基準法負荷側で求められる始動・切替時間は対象設備によって考え方が異なるため、個別には所轄行政庁への確認が必要です。


冷却方式:ラジエータ方式と冷却水槽方式

エンジンを動力源とする発電機は、稼働中に大量の熱を発生させるため、この熱を確実に逃がす冷却系統の計画が欠かせません。代表的な方式は次の2つです。

方式 仕組み 主な特徴
ラジエータ方式(空冷) エンジン内を循環する冷却水を、ラジエータで外気と熱交換して放熱する 給水設備が不要でシステムがシンプル。屋上等、外気に開放しやすい設置場所に向く
冷却水槽方式(水冷・クーリングタワー等) 冷却水槽やクーリングタワーとの間で冷却水を循環させ、放熱する 大容量機で採用されることがある。補給水の確保・水質管理が必要になる

どちらの方式を選ぶかは、発電機の容量規模、設置場所(屋上・地下等)、給水設備との位置関係によって変わります。特に地下に発電機を設置する場合は、ラジエータ方式であっても外気を取り込む給排気ダクトの経路が長くなりやすく、機械室のレイアウトを早い段階で建築・設備の各分野と調整しておく必要があります。冷却系統の外気取入れ口・排気筒の出口位置が、居室の開口部や近隣への影響と干渉しないかという論点は、予備電源・非常用自家発電設備の計画でも触れているとおり、発電機容量の検討と並行して詰めておくべき事項です。


燃料備蓄と危険物規制の関係

非常用発電機は、燃料が尽きれば運転を続けられません。そのため「何時間分の燃料を備蓄しておくか」は容量計画と切り離せない論点ですが、この備蓄量を増やすほど、消防法上の危険物規制に近づいていくという点に注意が必要です。

発電機の燃料として一般に使われる軽油・重油は、消防法別表第一の第4類(引火性液体)に区分される危険物であり、その貯蔵・取扱量が指定数量の1/5を超えると少量危険物として市町村条例の規制対象になり、指定数量以上になると危険物施設としての許可が必要になります。BCPの観点から長時間運転を狙って燃料タンクを大型化するほど、この規制段階が切り替わりやすくなるため、燃料タンクの容量を決める前に、指定数量・少量危険物のどの段階に該当するかを試算しておくことが実務上のポイントです。指定数量・倍数計算の考え方、屋内タンク貯蔵所・地下タンク貯蔵所の概要は危険物と建築設備の基礎|指定数量・少量危険物と発電機の燃料タンクで詳しく整理していますので、燃料備蓄量を検討する際にはあわせて確認してください。

実務での判断として、非常用発電機の容量(=消費燃料量)と燃料備蓄時間(=タンク容量)は、電気設備側の要求だけで決められるものではなく、危険物規制・タンクの設置スペース・補給ルートの確保まで含めた総合的な検討が必要です。容量を大きくすればするほど良いわけではなく、法令上必要な最低限とBCP上の目標時間を分けて考え、後者については危険物規制とのバランスで現実的な水準に落とし込む、という進め方が無理のない計画につながります。


維持管理:負荷試験と予防的な保全策

非常用発電機は、設置して終わりではなく、いざというときに確実に立ち上がることを継続的に検証する点検が求められます。自家発電設備の点検基準(昭和50年消防庁告示第14号)に基づく総合点検では、運転性能の確認方法として負荷運転(実際に負荷をかけて運転する試験)または内部観察等(過給器・排気管内部の目視観察、潤滑油・冷却水の成分分析等)のいずれかを実施することとされています。

点検の実施周期については、平成30年6月1日施行の改正により、運転性能の維持に係る予防的な保全策(消耗部品のメーカー指定交換期間内での交換、始動用蓄電池等の年次確認など)を講じている場合は、負荷運転または内部観察等の実施周期を6年に1回まで延長できる扱いになっています。予防的な保全策を講じていない場合は、従来どおり1年に1回の実施が原則です。また、原動機にガスタービンを用いる自家発電設備については、負荷運転による確認と機械的・熱的負荷に差が見られないことが検証データで確認されたことから、負荷運転そのものが不要とされています。

実務での判断として押さえておきたいのは、この6年に1回という延長は「点検をしなくてよい」という意味ではなく、「負荷運転・内部観察等という重い試験の間隔を延ばせる代わりに、毎年の予防的な保全策を確実に実施する」という条件付きの仕組みだという点です。機器点検(半年に1回)・総合点検(1年に1回)そのものの実施義務は変わらないため、負荷運転・内部観察等の周期だけを切り離して理解しないよう注意が必要です。


まとめ

  • 発電機容量は「消防負荷・建築基準法負荷・保安負荷」を洗い出し、法令上必須の負荷を優先して積み上げるのが基本の順番
  • 容量算定は、連続運転をまかなう定格出力容量と、最大負荷の始動時でも電圧・周波数変動を許容範囲に収める始動時容量の2段階で検討する
  • 原動機はディーゼルエンジンが中小規模で主流、ガスタービンは低振動低騒音に強いが機器価格・燃費で不利になりやすい
  • 消防用途の自家発電設備は、常用電源停電後の電圧確立・投入が原則40秒以内という始動時間の基準がある
  • 冷却方式はラジエータ方式(空冷)と冷却水槽方式(水冷)があり、設置場所・容量規模に応じて選定する
  • 燃料備蓄量は危険物の指定数量・少量危険物への該当と直結するため、電気設備側の要求だけでなく危険物規制も含めて検討する

非常用発電機の容量計算は、発電機そのものの性能表だけを見て決められるものではなく、「どの負荷を、どの根拠で、どれだけの時間動かすか」という整理と、始動時の電圧降下という物理的な制約、燃料備蓄に伴う危険物規制、そして維持管理の負担までを一体で検討して初めて成立します。具体的な容量の数値・係数は建物ごとの負荷構成に大きく左右されるため、最終的な算定は電気設備設計者・発電機メーカーとの協議、所轄消防署・特定行政庁への確認を前提に進めてください。


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