雨水排水・浸透・流出抑制の基礎|敷地の雨水処理と調整
敷地の雨水処理は、「どれだけの雨水が敷地から出ていくかを見積もること」と「それをどこまで敷地内でさばき、どこから先を下水道や河川に委ねるか」という2つの判断で組み立てられています。屋根や駐車場に降った雨は放っておいても地面や排水管をつたって流れていきますが、その量と速さを何も考えずに敷地の外へ流してしまうと、下流の下水道や河川の能力を超え、道路冠水や浸水の一因になりかねません。
実施設計の段階では、雨水排水管のルートや管径だけでなく、浸透施設や調整池、雨水貯留槽をどこまで計画に盛り込むかという判断が必要になります。これは単なる配管設計ではなく、都市計画法の開発許可や自治体の下水道条例、河川管理者の指導とも密接に関わる分野です。この記事では、雨水排水量の考え方から、雨水浸透施設、雨水流出抑制施設、雨水利用、自治体の指導までを一通り整理します。建物内部の排水・通気の考え方については排水通気設備の計画、建築設備全体の位置づけは建築設備とは何かもあわせてご覧ください。
なお、雨水排水・浸透・流出抑制に関する具体的な数値基準は自治体ごとに大きく異なります。本記事は考え方の整理であり、実際の計画では必ず所轄の下水道管理者・河川管理者・設計者に最新の基準を確認してください。
雨水排水量の考え方――降雨強度・流出係数・排水面積
雨水排水設備を計画する第一歩は、「その敷地からどれくらいの雨水が、どれくらいの勢いで流れ出るか」を見積もることです。実務では、次の3つの要素を組み合わせて計画雨水流出量を求める考え方が広く使われています。
| 要素 | 内容 | 計画上の考え方 |
|---|---|---|
| 降雨強度 | 単位時間あたりの降雨量(mm/hr) | 一定の確率年(何年に一度程度の強い雨を想定するか)に基づき、地域ごとに定められた降雨強度式から求める |
| 流出係数 | 降った雨のうちどれだけが排水として流出するかを示す係数 | 屋根や舗装面のように水を通さない面は係数が大きく、緑地や透水性の高い地面は小さくなる |
| 排水面積 | その排水系統が受け持つ集水範囲の面積 | 屋根面・駐車場・緑地など、地表の被覆状況ごとに分けて計算するのが基本 |
この3つを組み合わせて計画雨水流出量を求める代表的な考え方の一つに、下水道の雨水管きょ設計などで広く使われている算定式(いわゆる合理式)があります。降雨強度に流出係数と排水面積を掛け合わせ、単位換算のための係数で割ることで、その排水系統が受け持つべきピーク時の流出量を求める、という組み立てです。実際に用いる降雨強度式・確率年・流出係数の値は自治体の下水道基準や設計資料によって異なるため、実務では所轄の基準をそのまま採用するのが原則です。
流出係数については、屋根やアスファルト舗装のように雨水がほとんどそのまま流れ出る面は大きめの値、芝生や砂利敷きのように地面に浸み込みやすい面は小さめの値になる、という傾向で理解しておくと、浸透施設を計画する際の判断にもつながります。敷地の地表がどのような被覆(屋根・舗装・緑地・砂利など)で構成されているかを整理し、面積ごとに流出係数を割り当てて合成するのが実務での基本の進め方です。
合流式と分流式――下水道への流し方の違い
敷地から出た雨水と汚水(便所や台所などからの排水)を、公共下水道までどう流すかには、大きく分けて「合流式」と「分流式」の2つの考え方があります。
| 方式 | 概要 | 計画上の留意点 |
|---|---|---|
| 合流式 | 汚水と雨水を同じ下水道管でまとめて流す方式 | 古くから整備された都市部に多いが、大雨時に処理能力を超えると未処理の下水が河川に流出するリスクがあり、多くの自治体で改善が進められている |
| 分流式 | 汚水は汚水管、雨水は雨水管(または雨水路・河川)へと系統を分けて流す方式 | 現在の下水道整備では基本的な方式とされ、新規開発や再開発ではこちらが原則になることが多い |
建物内部の排水管をどう系統分けするかという計画については排水通気設備の計画で扱っていますが、敷地の外に出す段階でも、接続先の公共下水道が合流式か分流式かによって、雨水をどこへ・どういう形で放流できるかが変わってきます。合流式の区域では雨水も汚水管に接続することが前提になっている場合がある一方、分流式の区域では雨水を汚水管に混入させることが禁止されているのが一般的です。どちらの方式の区域に敷地があるかは、計画の初期段階で下水道管理者に確認しておくべき事項です。
雨水を汚水系統に混ぜてしまうと、大雨のたびに下水処理場や中継ポンプ場の処理能力を圧迫し、未処理放流や浸水の原因になります。逆に、分流式の区域で誤って雨水管と汚水管を取り違えて接続してしまうと、河川や水路に汚水が流れ込む重大な誤接続になるため、実施設計・施工の両方で系統の確認が欠かせません。
雨水浸透施設――浸透桝・浸透トレンチ・透水性舗装
敷地に降った雨水を、下水道や河川にすぐに流すのではなく、いったん地面に浸み込ませて処理する施設が雨水浸透施設です。都市化が進むと、地表がアスファルトや建物で覆われて雨水が浸透しにくくなり、その分だけ下水道や河川に流れ込む水量が増えてしまいます。浸透施設は、この「浸透しにくくなった分」をできるだけ敷地内で地面に還す役割を持っています。
| 浸透施設の種類 | 概要 | 主な設置場所の例 |
|---|---|---|
| 浸透桝(浸透ます) | 底面や側面に穴を設け、集めた雨水を地中に浸透させる桝 | 屋根雨水の集水箇所、駐車場の隅など |
| 浸透トレンチ | 砕石を詰めた溝の中に有孔管を通し、線状に雨水を浸透させる施設 | 敷地境界沿い、駐車場・通路の下 |
| 透水性舗装 | 雨水が舗装面を通り抜けて下の路盤・地面に浸透する舗装 | 駐車場、歩道、広場 |
浸透施設を計画する際には、どこにでも設置できるわけではない点に注意が必要です。急傾斜地や崖地に近接する敷地、盛土造成地、地下水位が高い土地などでは、浸透させた雨水が地盤の安定性に悪影響を及ぼす可能性があるため、浸透施設の設置が制限されたり、慎重な検討が求められたりします。設置の可否や必要な離隔は、自治体の技術指針や地盤調査の結果を踏まえて判断することになります。
また、浸透桝や浸透トレンチは、周囲の土砂や落ち葉が目詰まりを起こすと浸透能力が徐々に低下していきます。計画段階から、点検・清掃がしやすい配置にしておくことと、竣工後も定期的な維持管理が必要であることを設計に反映しておくことが実務上のポイントです。
雨水流出抑制施設――調整池と雨水貯留槽(オンサイト貯留)
浸透させきれない雨水についても、下水道や河川にそのまま一気に流すのではなく、いったん貯めてから時間をかけて少しずつ放流する、という考え方があります。これが雨水流出抑制施設で、代表的なものに調整池と雨水貯留槽(オンサイト貯留)があります。
| 施設の種類 | 概要 | 目的 |
|---|---|---|
| 調整池(調節池) | 敷地内に池状の空間を設け、大雨時の雨水を一時的に貯留する施設 | ピーク流出量を平準化し、下流の下水道・河川への負荷集中を避ける |
| 雨水貯留槽(オンサイト貯留) | 地下や建物内、駐車場の下などに設けるタンク状の貯留施設 | 敷地の使い勝手を保ちながら、限られたスペースで貯留機能を確保する |
| 校庭・駐車場貯留 | 校庭や駐車場そのものを一時的に浅く冠水させて貯留機能を持たせる方式 | 大規模な貯留施設を新設せずに既存の空間を活用する |
これらの施設に共通する考え方は「ピークカット」です。大雨が降っても、敷地から一気に大量の雨水が流出すると、下流の下水道・河川が処理しきれなくなります。調整池や貯留槽でいったん雨水を受け止め、あらかじめ定められた流量に絞って少しずつ放流することで、下流側の負担を平準化するのが目的です。
調整池の容量や放流量の基準は、敷地の面積・地域の降雨特性・接続する下水道や河川の能力によって決まり、自治体の技術指針で細かく規定されているのが一般的です。地下式のオンサイト貯留槽は、地上の敷地利用を圧迫しない利点がある一方で、点検・清掃のためのマンホールや進入経路の確保、満水時の警報・排水ポンプの計画など、建築設備としての検討事項も多くなります。
雨水利用――散水・トイレ洗浄水への活用
貯留した雨水は、そのまま放流するだけでなく、散水やトイレ洗浄水として利用することもできます。雨水の利用は水資源の有効活用になるだけでなく、貯留した分だけ下水道や河川への集中的な流出を抑える効果も期待できるため、流出抑制と両立する取り組みとして位置づけられています。
雨水の利用については「雨水の利用の推進に関する法律」で、国や地方公共団体の責務や基本方針の策定などが定められており、貯留した雨水を水洗トイレや散水などの用途に使うことが「雨水の利用」として位置づけられています。国土交通省の官庁施設向けの設計基準においても、雨水利用設備は雨水の集水量・利用用途・建築物の用途や特性・経済性などを考慮して計画する、という考え方が示されています。
実務では、次のような点を踏まえて雨水利用設備を計画します。
- 利用用途と必要水量のバランス: トイレ洗浄水や散水は上水ほど高い水質を必要としませんが、必要な水量に対して集水できる雨水量が見合っているかを事前に検証する必要があります。
- 上水系統との明確な分離: 雨水利用系統は、誤って飲用や上水系統に混入することがないよう、配管・器具を明確に区分し、系統がひと目で分かるように色分けや表示を行うのが基本です。
- 災害時の活用: 公共性の高い建築物では、平常時の散水・トイレ洗浄に加えて、災害時に上水道が使えない状況でもトイレ用水などとして活用できる点が評価されることがあります。
- 経済性の検討: 貯留槽やろ過設備の設置・維持管理コストに対して、上水の使用量削減や流出抑制の効果が見合うかどうかを、建物の用途・規模に応じて検討します。
自治体の開発行為における雨水流出抑制指導
一定規模以上の敷地で建築や造成を行う場合、都市計画法の開発許可や、自治体が独自に定める雨水流出抑制の指導要綱の対象となることがあります。これは、開発によって地表が舗装や建物で覆われ、雨水が浸透しにくくなった結果、下流の下水道や河川に流れ込む雨水量が増えてしまうことを防ぐための仕組みです。
多くの自治体では、一定規模以上(自治体や区域によって面積基準は異なります)の開発行為に対して、調整池や雨水貯留浸透施設の設置を求める指導要綱・基準を定めています。求められる内容は自治体ごとに異なりますが、おおむね次のような流れで検討が進みます。
- 開発前後で、敷地からの雨水流出量がどれだけ増加するかを算定する
- 増加分をどこまで浸透施設で処理し、どこまで調整池・貯留槽で抑制するかを計画する
- 放流先の下水道・水路の能力を踏まえた放流量の上限を確認する
- 自治体の技術指針に沿った容量・構造で施設を設計し、事前協議・許可手続きを行う
浸水被害の対策を強化した区域(特定都市河川に指定された流域など)では、通常の開発許可に加えて、より厳格な雨水流出抑制の基準が課される場合もあります。適用される制度や基準は敷地の所在地によって大きく異なるため、計画のごく初期段階で、所轄の都市計画部局・下水道部局・河川管理者に確認し、必要な協議のスケジュールを実施設計の工程に織り込んでおくことが重要です。
実務での判断とよくある誤解
雨水排水・浸透・流出抑制の計画では、次のような誤解や見落としが起きやすいところです。
- 「浸透施設を設ければ流出抑制は不要」という誤解: 浸透施設はあくまで雨水の一部を地面に還すものであり、大雨時にすべての雨水を吸収しきれるわけではありません。地域の降雨特性や自治体の基準によっては、浸透施設と調整池・貯留槽を組み合わせて計画することが求められます。
- 「雨水は敷地の外に流せば終わり」という誤解: 敷地の外に流した雨水は、下流の下水道や水路、河川の能力に影響を与えます。自分の敷地さえ浸水しなければよい、という考え方では、下流域での浸水被害の一因になりかねません。
- 合流式区域と分流式区域の取り違え: 前述のとおり、雨水を接続してよい系統は下水道の方式によって異なります。既存の下水道台帳や自治体への確認を怠ると、誤接続や許可条件違反につながります。
- 浸透施設の適地判断を後回しにする: 浸透施設は地盤条件によって設置の可否が左右されます。基本設計・実施設計の早い段階で地盤調査結果と照らし合わせておかないと、後から浸透施設を諦めて貯留槽に変更せざるを得なくなり、スペースやコストの手戻りが生じます。
いずれも、雨水排水を単体の配管設計として捉えず、敷地全体の土地利用・地盤条件・下水道や河川の状況とあわせて計画することで防げる誤解です。
まとめ
- 雨水排水量は、降雨強度・流出係数・排水面積を組み合わせて見積もるのが基本の考え方で、具体的な数値・確率年は自治体の下水道基準に従う
- 公共下水道には合流式と分流式があり、雨水を接続できる系統が異なるため、敷地がどちらの区域かを早期に確認する
- 雨水浸透施設(浸透桝・浸透トレンチ・透水性舗装など)は雨水を地面に還す役割を持つが、地盤条件によって設置の可否が左右される
- 雨水流出抑制施設(調整池・雨水貯留槽・オンサイト貯留)は、雨水をいったん貯めてピークカットし、下流への負荷集中を避けるための施設
- 雨水利用(散水・トイレ洗浄水など)は、水資源の有効活用と流出抑制を両立できる取り組みとして位置づけられている
- 一定規模以上の開発行為には自治体の雨水流出抑制指導が及ぶことがあり、計画の初期段階で所轄部局との協議スケジュールを確保しておく必要がある
雨水排水・浸透・流出抑制の計画は、建物単体の設備というより、敷地と周辺の下水道・河川を含めた「まちの水の流れ」の一部を設計するという側面が強い分野です。本記事の内容は執筆時点における一般的な考え方の整理であり、実際の計画にあたっては必ず所轄の下水道管理者・河川管理者・設計者に最新の基準を確認しながら進めてください。
あわせて読みたい
- #雨水排水
- #雨水浸透
- #流出抑制
- #調整池
- #土木設備
- #実施設計
参考書籍でさらに学ぶ
※ この欄は書籍のアフィリエイト広告(Amazon・楽天)を含みます。価格・在庫・最新の年度版はリンク先でご確認ください。
建築設備士 必携テキスト
建築一般知識・建築法規・建築設備の3科目を1冊で。分野全体の土台づくりに。
関連記事
浄化槽の基礎|合併処理浄化槽の仕組みと維持管理
下水道が整備されていない地域の生活排水処理を担う浄化槽は、微生物の働きで汚水をきれいにする仕組みと、設置後の保守点検・清掃・法定検査という3本柱の維持管理が一体になった設備です。基本の考え方を整理します。
構内(外構)電気設備の基礎|屋外照明・引込・受電点
建物本体の電気設備が話題になりやすい一方、敷地内の引込・構内配電・屋外照明・屋外コンセントといった「構内(外構)電気設備」は見落とされがちです。受電点から屋外設備までの考え方と、現場での腐食トラブルの見分け方を整理します。
屋外給排水設備の基礎|敷地内の給水引込・排水桝・公設枡
屋外給排水設備は、道路の水道本管から敷地内への給水引き込みと、建物から出た排水を公共下水道へつなぐ排水桝までの区間を担います。分岐・止水栓・量水器、排水桝の種類と設置間隔、勾配の考え方を整理します。