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テレビ共同受信設備の基礎|地デジ・BS/CS・レベル設計

結論から言うと、テレビ共同受信設備は**「1本(または少数)のアンテナで受けた電波を、増幅・分配しながら建物内の隅々まで届ける」ための仕組み**です。各住戸・各部屋に個別のアンテナを立てるのではなく、屋上などにまとめて設置したアンテナから電波を引き込み、途中で弱まった信号をブースター(増幅器)で補いながら、分配器・分岐器を経由して末端のテレビコンセントまで届けます。

この記事では、共同受信設備の全体構成、アンテナ・ヘッドエンドの役割、増幅器と分配器・分岐器の違い、そして実務で最も判断が分かれやすい「受信レベル(dBμV)設計」の考え方を整理します。集合住宅の直列ユニットやCATV引込との関係にも触れているので、建築設備士・電気工事士はもちろん、マンションの管理組合や施設管理者が仕組みを理解する助けにもなるはずです。

なお、数値の目安は一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の公開資料などをもとにした業界の一般的な考え方であり、実際の設計値は建物条件・使用機器・所轄事業者の仕様によって変わります。最終的な数値決定は、設計者・機器メーカー・工事業者との確認が前提です。


共同受信設備とは何か:全体の流れ

共同受信設備は、大まかに次の順序で電波を建物内に届けています。

段階 主な役割
受信 屋上・屋外のアンテナで地上デジタル放送・BS/CS放送の電波を受ける
混合 地デジとBS/CSなど、複数の電波を1本の同軸ケーブルに混ぜ合わせる
増幅 ブースターで信号を増幅し、ケーブルの距離による減衰を補う
分配・分岐 分配器・分岐器で信号を枝分かれさせ、各住戸・各室に振り分ける
引込 各住戸のテレビコンセント(直列ユニット等)まで届け、テレビに接続する

戸建て住宅であれば「アンテナ1本→テレビ1〜数台」という単純な構成で済みますが、集合住宅やオフィスビルのように受け口が多い建物では、この一連の流れを building 全体で成立させる必要があります。特に、末端の一番遠いテレビコンセントでも必要な信号の強さが確保できているか、という点が設計の核心になります。


アンテナとヘッドエンド

アンテナは電波を受け取る入口です。地上デジタル放送用のUHFアンテナと、BS/CS放送用のパラボラアンテナ(あるいは複合機能を持つアンテナ)を組み合わせて使うのが一般的な構成です。設置場所は、周辺建物による電波の遮へい(いわゆる電波障害)や、方位・仰角の確保がしやすい屋上・屋外が選ばれます。

ヘッドエンドは、アンテナで受けた複数系統の電波(地デジ・BS/CS)をひとつの伝送路にまとめて送り出す、共同受信設備の起点にあたる装置群を指します。混合器で信号を合成するだけでなく、必要に応じて信号レベルを整えたり、チャンネルごとの調整を行ったりする役割を持ちます。集合住宅では、このヘッドエンドの出力から先が、ブースター・分配器・分岐器を経て各住戸へと枝分かれしていく構成になります。


ブースター(増幅器)の役割

信号は同軸ケーブルを流れる間に必ず減衰します。ケーブルが長くなるほど、また分配器・分岐器を通るたびに信号は弱くなっていくため、建物の規模が大きくなるほど、途中で信号を増幅する工程が欠かせなくなります。この役割を担うのがブースター(増幅器)です。

ブースターの設計で実務上ポイントになるのは、次の2点です。

  • 増幅しすぎない:ブースターの利得(増幅の度合い)を上げすぎると、末端で信号レベルが高くなりすぎ、かえって映像の乱れ(ひずみ)の原因になることがあります。ブースターは「弱い信号を持ち上げる」ためのものであり、闇雲に強くすればよいわけではありません。
  • 増幅段数と設置位置:建物が大きく、分配・分岐の段数が多くなる場合は、1か所のブースターで建物全体をまかなうのではなく、途中の系統ごとに増幅を挟む(多段構成にする)検討が必要になることがあります。

ブースターは屋外・屋上に設置されることが多く、風雨や紫外線にさらされる環境で長期間使われる機器です。また、屋外のアンテナ・ブースターは落雷による過電圧の影響を受けやすい位置にあるため、避雷設備(SPDなどの内部雷保護)の考え方と合わせて検討されることもあります。


分配器と分岐器の違い

共同受信設備の設計でしばしば混同されやすいのが、分配器と分岐器の違いです。どちらも信号を枝分かれさせる部品ですが、目的と信号の分け方がまったく異なります。

項目 分配器 分岐器
目的 信号を均等に複数方向へ分ける 幹線を流れる信号の一部だけを分けて取り出す
出力側の信号レベル 出力数が増えるほど、各出力の信号は均等に弱くなる 分岐した信号は弱いが、幹線側(通過側)の信号はあまり弱くならない
主な用途 建物内の系統を枝分かれさせる起点、住戸内で複数のテレビに分ける場合など 幹線(送り配線)を延ばしながら、途中の各住戸に少しずつ信号を配る場合

イメージとしては、分配器は「信号を2つ・4つに均等に割る」もの、分岐器は「太い幹線を流れる大きな信号から、ごく一部だけを取り出して脇道に流し、本線はそのまま先へ送る」ものと捉えると整理しやすくなります。集合住宅の各階を縦に貫く幹線から、各住戸へ信号を配る場面では分岐器が使われることが多く、住戸の中でテレビが複数台ある場合の枝分かれには分配器が使われる、という使い分けが一般的です。


受信レベル(dBμV)設計の考え方

共同受信設備の設計で最も実務判断が問われるのが、末端(テレビのアンテナ差込口)で必要な受信レベルをどう確保するかという点です。受信レベルはdBμV(デシベルマイクロボルト)という単位で表され、大きいほど信号が強いことを意味します。

一般的な考え方として、業界資料(JEITAの受信システム計算事例集など)では、テレビ端子(コンセント)における目安として、おおむね次のような範囲が示されています。

放送 端子レベルの目安 補足
地上デジタル放送 おおむね50〜81dBμV程度が推奨、34〜89dBμVの範囲で視聴可能とされる 望ましいレベルとしてはおおよそ46〜47dBμV以上を確保する考え方が一般的
BS/CS放送 おおむね47〜81dBμV程度が推奨 新4K8K衛星放送はやや高めの水準(48dBμV程度以上)が求められる

これらの数値はあくまで一般的な目安であり、実際の推奨値は使用する機器・年度・メーカーの資料によって幅があります。設計段階では「上限」と「下限」の両方を意識するのが実務のポイントです。

  • 下限を下回ると:映像のブロックノイズ・音声の途切れ、最悪の場合は映らないといった受信障害につながる
  • 上限を上回ると:信号が強すぎることによる映像のひずみ(過大入力によるレベルオーバー)が発生する

建物の中で最も条件が厳しい(=アンテナから最も遠い、または分配・分岐の段数が最も多い)末端のテレビコンセントを基準に、ブースターの利得と分配・分岐の段数を組み立てていくのが基本の考え方です。この「最も条件が厳しい末端」の見極めを誤ると、一部の住戸・部屋だけ映りが悪いという不具合につながりやすくなります。

実務での判断

新築時の設計だけでなく、既存建物への設備更新・増設でも受信レベルの再計算は欠かせません。例えば住戸を増築したり、幹線の途中に新たな分岐を追加したりすると、その先の各住戸で受信レベルが下限を割り込む可能性があります。竣工時に問題がなかった系統でも、後から機器を追加・変更する際は、末端レベルへの影響を必ず確認する必要があります。


地上デジタルとBS/CSの違いが設計に与える影響

地上デジタル放送とBS/CS放送は、周波数帯が異なるため、共同受信設備の設計上も別々に考慮する必要があります。地デジはUHF帯、BS/CSはより高い周波数帯を使うため、同じ距離のケーブルを通っても減衰の度合いが異なり、対応できるブースター・分配器・分岐器の周波数特性(対応帯域)も揃える必要があります。

また、近年の新4K8K衛星放送への対応では、従来のBS/CS用設備よりも広い周波数帯域(3224MHz対応など)に対応した機器・配線への更新が必要になる場合があります。既存の共同受信設備がどの周波数帯まで対応しているかは、機器の仕様書・配線の対応帯域を確認しないと分からないため、新4K8K放送への対応を検討する際は、まず既存設備の対応状況を調査するところから始めるのが実務上の順序です。


集合住宅の直列ユニットとCATV引込

直列ユニット

集合住宅では、各階を貫く幹線(送り配線)に沿って、住戸ごとのテレビコンセント(アウトレット)を数珠つなぎに接続していく配線方式がよく用いられます。この配線方式で使われるのが直列ユニットです。直列ユニットは、幹線を流れる信号の一部を自室用に取り出しながら、残りの信号を次の住戸へそのまま送り出す(通過させる)機能を持つ部品で、内部的には分岐器に近い働きをします。

直列ユニットには、送り配線の途中に設置する「中継用」と、幹線の末端(それ以上先に配線が続かない箇所)に設置する「端末用」があり、端末用は反射(信号の跳ね返り)を防ぐための終端処理(ダミー抵抗など)が組み込まれています。この使い分けを誤ると、末端での映像の乱れや反射による画質劣化の原因になるため、竣工図・系統図で「どこが末端か」を正しく把握しておくことが実務上重要です。

CATV引込

自前でアンテナを設置せず、ケーブルテレビ(CATV)事業者の幹線から信号を引き込んで建物内に配る方式もあります。この場合、建物の入口(引込点)から先は、CATV事業者の信号レベル・周波数仕様に合わせて、自前のアンテナ方式と同様にブースター・分配器・分岐器を組み合わせて建物内に配ることになります。CATV引込の場合は、事業者側の仕様・契約内容によって末端で確保すべき受信レベルの考え方が変わることがあるため、自前アンテナ方式と同じ感覚で設計せず、事業者の技術資料を確認しながら進める必要があります。


実務チェックリスト

共同受信設備の計画・更新で、抜け漏れを防ぐための確認項目です。

受信・増幅

  • アンテナの設置位置で、周辺建物による電波障害(遮へい)の影響を受けていないか
  • ブースターの利得は、末端レベルが上限を超えない範囲に収まっているか
  • 屋外設置のブースター・アンテナについて、防水・防雷(SPD等)の対策が取られているか

分配・分岐

  • 分配器と分岐器を目的どおりに使い分けているか(幹線の通過側を不要に弱めていないか)
  • 分岐の段数が多い系統で、末端レベルが下限を割り込んでいないか

受信レベル

  • 最も条件の厳しい末端(アンテナから最も遠い、または分岐段数が最も多いコンセント)を基準に計算しているか
  • 地上デジタルとBS/CSそれぞれの周波数帯に対応した機器・配線になっているか
  • 新4K8K衛星放送に対応する場合、既存設備の対応帯域(3224MHz対応等)を確認したか

集合住宅・引込

  • 直列ユニットの中継用・端末用が竣工図・系統図どおりに設置されているか(末端の終端処理漏れがないか)
  • CATV引込の場合、事業者側の技術仕様・契約内容を確認したうえで設計しているか
  • 増改築・住戸増設の際に、末端の受信レベルへの影響を再計算したか

よくある誤解

  • 「ブースターは強ければ強いほど良い」:誤りです。強すぎる信号は映像のひずみの原因になり、末端での適正レベルを超えないよう調整することが必要です。
  • 「分配器と分岐器はどちらを使っても同じ」:誤りです。用途が異なる部品であり、幹線の途中に分配器を使うと通過側の信号が必要以上に弱まるなど、意図しない受信障害の原因になります。
  • 「一度設計すれば増改築後も安心」:誤りです。住戸の増築や配線変更があった場合は、末端の受信レベルへの影響を必ず再確認する必要があります。

まとめ

  • 共同受信設備は「受信→混合→増幅→分配・分岐→引込」という流れで、屋上のアンテナから各住戸のテレビコンセントまで信号を届ける仕組み
  • ヘッドエンドは地デジ・BS/CSなど複数系統の電波をまとめる起点、ブースターはケーブルの減衰を補う増幅器
  • 分配器は信号を均等に分けるもの、分岐器は幹線を流しながら一部だけを取り出すものという役割の違いがある
  • 受信レベル(dBμV)は、末端のテレビコンセントで下限・上限の両方に収まるよう設計するのが基本(目安値は業界資料により幅があり、確定値は個別確認が前提)
  • 集合住宅では幹線に直列ユニットを数珠つなぎにする配線方式が一般的で、中継用と端末用の使い分けを誤らないことが重要
  • CATV引込の場合は事業者の仕様に合わせた設計が必要で、自前アンテナ方式と同じ感覚で進めないこと

共同受信設備は、ふだん意識されることの少ない裏方の設備ですが、末端の受信レベルという「数字」で状態を確認できる設備でもあります。仕組みと数値の考え方を押さえておくと、竣工後に「一部の部屋だけ映りが悪い」といった不具合が起きたときにも、どこを確認すればよいかの見当がつけやすくなります。実際の設計値・機器選定は、所轄の事業者・設計者・機器メーカーとの確認を前提に進めてください。


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