電気主任技術者の選任と外部委託承認制度の基礎|自家用電気工作物の保安体制
一定規模以上の電気を高圧で受けている建物には、その電気設備の保安を監督する「電気主任技術者」を置くことが義務づけられています。この義務をどう満たすかには、社員として自社で選任する方法、複数の事業場を1人が兼任する方法、そして外部の専門家・法人に保安管理業務を委ねる「外部委託」という方法があり、建物の規模や管理体制によって選べる選択肢が変わってきます。
この記事では、自家用電気工作物と電気主任技術者の選任義務という基本の枠組みから、選任・兼任・外部委託の3つの違い、実務で広く使われている「保安管理業務外部委託承認制度」の対象となる設備規模の考え方、委託先となる電気保安協会・電気管理技術者の役割、そして月次点検・年次点検で一般的に行われる内容までを、建築設備士の実務目線で整理します。テナントビルやオフィス・商業施設のオーナー・管理担当者として、電気主任技術者や電気管理技術者とどう付き合えばよいかを知りたい方にも分かるように書いています。なお、受変電設備そのものの構成や仕組みは 受変電設備の基礎|キュービクルの構成と単線結線図の読み方 で解説していますので、あわせて参照してください。
早見まとめ
まず、この記事で扱う内容の要点を1枚の表にまとめます。数値はいずれも制度の対象を判断するための「目安」であり、個別の建物への適用可否は所轄の産業保安監督部・電気主任技術者・電気管理技術者への確認が前提です。
| 項目 | 内容の目安 |
|---|---|
| 選任義務の対象 | 高圧以上で受電する自家用電気工作物を設置する事業場 |
| 選任の原則 | 電気主任技術者免状を持つ者を、自社の従業員などから選任する |
| 兼任 | 一定の要件を満たせば、1人が複数事業場を兼任することが可能 |
| 外部委託 | 一定の要件を満たし所轄産業保安監督部長の承認を受けると、選任をせずに外部委託にできる |
| 外部委託承認制度の対象の目安 | 受電電圧7,000V以下の需要設備(発電所は出力規模に応じた別基準) |
| 委託先 | 電気管理技術者(個人)または電気保安法人(電気保安協会等) |
| 点検頻度の目安 | 月次点検:おおむね毎月1回以上/年次点検:年1回以上 |
| 判断の軸 | 確認のポイント |
|---|---|
| 自社に有資格者がいるか | いる場合は自社選任・兼任、いない場合は外部委託が現実的な選択肢になりやすい |
| 受電電圧・設備容量 | 外部委託承認制度の対象規模に収まっているか |
| 緊急時の対応体制 | 委託先が事業場に一定時間内で到達できる体制になっているか |
| 保安規程の整備 | 点検頻度・項目・異常時の連絡体制が保安規程に定められているか |
自家用電気工作物と電気主任技術者の選任義務
電力会社から供給される電気には、大きく分けて低圧で受け取る契約と、高圧以上で受け取る契約があります。契約電力がある水準を超える建物では高圧受電となり、その建物の電気設備は「自家用電気工作物」という区分に入ります。自家用電気工作物を設置する者には、電気事業法の枠組みの中で、その工事・維持・運用に関する保安を監督させるために電気主任技術者を選任する義務が課されています。細かな条文の番号よりも、まず押さえておきたいのは「一定規模以上の自家用電気工作物を持つ以上、保安を監督する有資格者を置く義務が発生する」という原則です。
電気主任技術者には第一種・第二種・第三種の区分があり、扱える電気工作物の電圧・規模に応じて必要な資格の種類が変わります。一般的なテナントビルや中小規模の工場であれば第三種で対応できる範囲に収まることが多いですが、大規模施設や特別高圧で受電する建物では上位の資格が必要になる場合があります。どの区分の資格が必要かは、建物の受電電圧・設備容量によって決まるため、設計・契約の段階で電気主任技術者や電力会社と確認しておくことが実務上のポイントです。
なお、電気主任技術者の選任は「誰か1人を書類上置いておけばよい」というものではありません。実際に保安規程に基づいた点検・監督を行い、異常時には適切な指示・対応を行う実務上の役割を担う立場です。建物のオーナー・管理担当者にとっては、この電気主任技術者(または委託先の電気管理技術者)が「自分たちの建物の電気の安全を実質的に見てくれている人」であるという認識を持っておくことが大切です。
選任・兼任・外部委託の違い
電気主任技術者を確保する方法は、大きく分けて「自社選任」「兼任」「外部委託」の3つに整理できます。それぞれの違いを表にまとめます。
| 方法 | 概要 | 主に選ばれる場面 |
|---|---|---|
| 自社選任 | 自社の従業員の中から電気主任技術者免状を持つ者を選任し、原則としてその事業場に常駐させる | 有資格者を自社で確保でき、常時の保安監督体制を敷ける規模の事業者 |
| 兼任 | 一定の要件(受電電圧・最大電力・管理する事業場数などの目安)を満たす場合に、1人の電気主任技術者が複数の事業場を兼ねて選任される | グループ会社や系列の複数事業場をまとめて保安管理したい場合 |
| 外部委託 | 自社で電気主任技術者を選任せず、外部の電気管理技術者・電気保安法人と保安管理業務の委託契約を結び、所轄産業保安監督部長の承認を受ける | 自社に有資格者がいない、または常駐させるほどの規模ではない事業場 |
このうち「兼任」は、あくまで自社(またはグループ)の従業員である電気主任技術者が、常駐する事業場以外の別の事業場も兼ねて受け持つ仕組みです。対象となる事業場の受電電圧・最大電力や、1人が受け持てる事業場数には目安となる基準があり、常駐しない事業場からの到達時間についても一定の要件が設けられています。具体的な適用可否は、事業場の規模や配置によって変わるため、電気主任技術者制度の解釈・運用に詳しい専門家や所轄産業保安監督部への確認が前提になります。
一方の「外部委託」は、自社の従業員ではなく、外部の個人事業者(電気管理技術者)や法人(電気保安法人)と保安管理業務そのものを委託契約する仕組みです。多くの中小規模のビル・店舗・工場では、この外部委託承認制度を利用して保安管理業務を専門家に委ねるケースが一般的になっています。次の章で、この制度の対象となる設備規模の考え方を整理します。
保安管理業務外部委託承認制度とは
保安管理業務外部委託承認制度は、一定の要件に該当する自家用電気工作物について、電気主任技術者を自社で選任する代わりに、外部の電気管理技術者・電気保安法人に保安管理業務を委託し、所轄産業保安監督部長の承認を受けることで、自社選任をしなくてもよいとする制度です。
対象となる事業場の規模には目安があり、代表的なものを整理すると次のようになります。
| 事業場の種類 | 対象規模の目安 |
|---|---|
| 需要設備(一般的なビル・工場など) | 受電電圧7,000V以下 |
| 発電所(水力・火力・風力) | 電圧7,000V以下で連系等をする出力2,000kW未満 |
| 発電所(太陽電池・蓄電所) | 電圧7,000V以下で連系等をする出力5,000kW未満 |
| 発電所(上記以外) | 電圧7,000V以下で連系等をする出力1,000kW未満 |
| 配電線路 | 電圧600V以下 |
一般的なテナントビルやオフィス、店舗、中小規模の工場の多くは「需要設備」に該当し、受電電圧が7,000V以下(一般的な高圧引込みの範囲)であれば、外部委託承認制度の対象になりうる規模だと考えられます。ただし、これはあくまで対象規模の「目安」であり、実際に承認が下りるかどうかは、委託先の実務経験・体制や、事業場ごとの個別事情も含めて所轄産業保安監督部が審査します。数値の細部や自社の建物が対象になるかどうかは、必ず委託予定先の電気管理技術者・電気保安法人や所轄産業保安監督部に確認してください。
委託先となる電気管理技術者・電気保安法人にも要件があります。保安管理業務に従事する者は、電気主任技術者免状を持ったうえで、資格の種類に応じた一定期間の実務経験を積んでいることが求められ、点検に必要な絶縁抵抗計・接地抵抗計などの機械器具を保有していることも要件のひとつです。また、1人の電気管理技術者・保安業務担当者が受け持てる事業場の数にも、設備の規模に応じた上限の考え方があり、際限なく事業場を抱えられる仕組みにはなっていません。
電気保安協会・電気管理技術者の役割
外部委託承認制度のもとで実際に保安管理業務を担うのが、電気管理技術者(個人事業者)と、電気保安協会などの電気保安法人です。両者の基本的な役割は共通しており、委託を受けた自家用電気工作物について、保安規程に基づいた点検・測定・問診を行い、技術基準への不適合のおそれがあると判断した場合には、設置者(建物のオーナーなど)に修理・改善を指示または助言することです。
電気保安協会は各地域に組織されている電気保安法人で、複数の保安業務従事者を抱え、組織として点検・報告・緊急対応の体制を維持している点が特徴です。個人の電気管理技術者は、個人事業者として自ら保安業務に従事し、他の職業との兼務がないかなども審査の対象になります。どちらを選ぶかは、建物の規模、求める対応スピード、既存の取引関係などによって決まることが多く、一概にどちらが優れているというものではありません。
建物のオーナー・管理担当者側にも役割があります。委託契約の相手方(電気管理技術者等)に、電気工作物の工事・維持・運用に関する保安のために必要な事項を連絡する「連絡責任者」を選任しておくことが、制度上の前提になっています。日常的な窓口を誰にするかを社内・館内であらかじめ決めておくと、点検結果の報告や異常時の連絡がスムーズになります。
月次点検・年次点検の一般的な内容
外部委託契約のもとで行われる点検は、大きく「月次点検」と「年次点検」に分けられます。それぞれで一般的に行われる内容を整理すると、次のようになります。
| 区分 | 頻度の目安 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 月次点検 | おおむね毎月1回以上 | 電気工作物の異音・異臭・損傷・汚損の有無の確認、電線と周囲の物との離隔距離の確認、機械器具・配線の取付け状態や過熱の有無の確認、電圧・負荷電流の測定、低圧回路の絶縁状態を確認するための漏えい電流測定、設置者への問診 |
| 年次点検 | 年1回以上 | 月次点検の内容に加え、低圧・高圧電路の絶縁測定、接地抵抗測定、保護継電器の動作特性試験や遮断器との連動動作試験、非常用予備発電装置の起動確認、蓄電池設備の状態確認など、より精密な測定・試験項目 |
月次点検は、日常の運転を大きく妨げない範囲で行われる巡視・測定が中心です。一方、年次点検は保護継電器の動作試験や絶縁測定など、より踏み込んだ確認を行うため、点検内容によっては設備の一部を一時的に切り離す作業が伴うことがあります。実施の具体的な方法・タイミングは、建物の用途や運用状況を踏まえて電気管理技術者等と設置者側であらかじめ調整するのが基本です。
これらの点検で異常や技術基準への不適合のおそれが見つかった場合、電気管理技術者等は設置者に対して修理・改善を指示または助言します。逆に言えば、点検結果の報告を受け取って終わりにするのではなく、指摘された事項にどう対応するかまでを設置者側が確認・記録しておくことが、保安体制を実質的に機能させるうえで欠かせません。
建物オーナーが知っておきたい実務ポイント
自家用電気工作物を持つ建物のオーナー・管理担当者にとって、電気主任技術者・電気管理技術者との関係は「専門的すぎてよく分からないので任せきり」になりやすい領域です。しかし、次のような点は実務上押さえておく価値があります。
- 自分の建物の電気主任技術者(または委託先の電気管理技術者・電気保安法人)が誰なのかを把握し、連絡先をすぐに確認できる状態にしておく
- 保安規程の内容(点検頻度・項目・異常時の連絡体制)を、少なくとも概要レベルで理解しておく
- 点検結果の報告を受け取ったら、指摘事項の有無とその対応状況を記録・保管しておく
- 増改修やテナント入替えで電気設備に変更が生じる場合は、事前に電気主任技術者・電気管理技術者に相談し、保安規程や設備容量への影響を確認する
- 委託契約先を変更する場合は、承認手続きや引き継ぎに一定の時間がかかることを見込んで早めに動く
よくある誤解
「電気主任技術者を外部委託すれば、電気に関することは何もしなくてよい」という理解は誤解です。外部委託はあくまで保安管理業務という専門的な監督機能を委ねる仕組みであり、設置者としての保安確保の責任そのものがなくなるわけではありません。連絡責任者の選任や、点検結果への対応、増改修時の事前相談といった設置者側の役割は、外部委託の有無にかかわらず必要になります。
まとめ
- 高圧以上で受電する自家用電気工作物には、電気主任技術者による保安監督が義務づけられている
- 確保の方法には「自社選任」「兼任」「外部委託」の3つがあり、規模・体制に応じて選ばれる
- 保安管理業務外部委託承認制度は、受電電圧7,000V以下の需要設備などを目安の対象とし、所轄産業保安監督部長の承認を受けることで自社選任をしなくてもよくなる制度
- 委託先となる電気管理技術者・電気保安法人には、実務経験や点検機器の保有など一定の要件がある
- 点検は月次点検(日常的な巡視・測定)と年次点検(より精密な測定・試験)に分かれ、いずれも保安規程に基づいて行われる
- 外部委託を選んでも設置者側の責任がなくなるわけではなく、連絡責任者の選任や点検結果への対応は建物側の役割として残る
電気主任技術者の選任・兼任・外部委託のどれを選ぶかは、建物の規模や管理体制によって最適解が変わります。まずは自分の建物がどの方式を取っているのかを確認し、委託先や保安規程の内容を一度整理しておくことが、保安体制を実質的に機能させる第一歩になります。個別の判断は、必ず所轄産業保安監督部や電気主任技術者・電気管理技術者に確認しながら進めてください。
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