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庁舎(市役所)の設備計画|防災拠点としての非常電源・BCP・執務空間の考え方

結論から言うと、庁舎(市役所・区役所などの行政庁舎)の設備計画で最も特徴的なのは、「平常時は不特定多数の来庁者と多数の執務者が使う公共建築」でありながら、「災害時には業務を止められない防災拠点」に切り替わるという二面性です。一般の事務所ビルであれば災害時に一時的に業務を停止しても許容される場合が多いのに対し、庁舎は災害対応の司令塔そのものになるため、電源・通信・給排水のいずれも「止まらないこと」を前提に計画する必要があります。

この記事では、建築設備とは何かで触れた4分野の視点を庁舎という具体的な建物に当てはめ、非常用自家発電を中心とした防災電源の考え方免震・耐震とBCP(事業継続計画)の関係、そして議場や電算室といった庁舎特有の特殊室の設備要求を、基本設計段階の実務目線で整理します。


庁舎という建物の特性

庁舎は、来庁者対応の窓口・執務室・会議室といった一般の事務所ビルに近い空間と、議場・委員会室・電算室(サーバー室)・防災対策本部室といった庁舎特有の空間が同居する建物です。さらに、災害時には災害対策本部が設置され、平常時とはまったく異なる人員配置・使われ方になる点が大きな特徴です。

設備計画の視点で整理すると、庁舎には次のような性格が重なっています。

  • 不特定多数の来庁者対応:窓口・待合スペースは、バリアフリー動線や分かりやすいサインとあわせて、快適な温熱環境と十分な換気量が求められる
  • 執務空間としての機能性:OA機器・情報端末が多く、コンセント容量やLAN配線の柔軟性、情報漏えい防止の観点からのセキュリティ区画も重要になる
  • 防災拠点としての業務継続:災害時には庁舎自体が被災しながらも、災害対策本部としての機能を維持し続ける必要がある
  • 象徴性・公共性:地域のシンボルとしての意匠性も求められるため、設備機器やダクト・配管を意匠計画とどう整合させるかも計画上の論点になる

このうち、防災拠点としての業務継続性は、他の用途の建物にはあまり見られない庁舎独自の要求であり、以降のセクションで中心的に扱います。


防災拠点としての電源計画

庁舎の設備計画で最も重視されるのが、災害時にも電力を確保し続けるための電源計画です。停電が発生しても、防災行政無線・災害対策本部の照明や情報機器・エレベーター(一部)・給排水ポンプなどを動かし続けられるかどうかが、庁舎としての機能を左右します。

非常用自家発電設備

非常用自家発電設備は、庁舎における防災電源の中心です。一般の建物では消防用設備(スプリンクラーポンプなど)を動かすための短時間運転を想定した発電機で足りる場合もありますが、庁舎では災害対策本部としての活動を一定期間支え続けられるだけの長時間運転が求められる点が実務上の大きな違いです。

長時間運転を実現するためには、発電機本体の容量だけでなく、燃料をどれだけ備蓄できるかが計画の核心になります。燃料タンクの容量、燃料の補給ルート(災害時に燃料供給が滞る可能性を踏まえた備蓄日数の設定)、そして発電機の排気・給気・騒音への配慮まで、企画段階から関係者間で目標水準をすり合わせておくことが重要です。非常用自家発電の基本的な考え方については、予備電源・非常用自家発電で詳しく整理していますので、あわせて確認してください。

無停電電源装置(UPS)と受変電の信頼性

発電機は起動までにわずかながら時間を要するため、その間の電力の空白を埋めるのが無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply、瞬時の停電でも電力を途切れさせずに供給する装置)です。庁舎では、サーバー室(電算室)や防災設備の制御盤など、瞬時の停電も許容できない機器にUPSを介した給電を計画するのが基本の考え方です。

また、そもそも停電を起こしにくくするという観点から、受変電設備(電力会社から受けた高圧電力を庁舎内で使える電圧に変換する設備)自体の信頼性を高めることも重要です。引込回路の二重化や、変圧器・遮断器の点検性を確保した計画とすることで、日常時の停電リスクそのものを下げておくことが、非常用電源に頼りすぎない堅実な計画につながります。受変電設備の基礎的な考え方は受変電設備の基礎(単線結線図)を参照してください。

太陽光発電・蓄電池による予備電源の多重化

近年は、非常用自家発電に加えて太陽光発電と蓄電池を組み合わせ、防災電源を多重化する庁舎も増えています。太陽光発電は燃料の補給が不要という利点がある一方、天候や日照時間に左右されるため、単独では防災電源として頼りきれません。蓄電池と組み合わせることで、発電機の起動までの橋渡しや、燃料切れ時の補完的な電源として活用できます。それぞれの特性を踏まえた組み合わせ方は、発電・予備電源に関する記事で扱う内容と重なりますので、あわせて検討してください。


BCP・耐震の考え方

庁舎は建物自体が被災しながらも機能を維持する必要があるため、構造体の耐震性能だけでなく、設備が構造の揺れにどう追従するかまで含めたBCP(事業継続計画)の視点が欠かせません。

免震・制震構造と設備配管の追従

近年の庁舎では、建物の揺れそのものを抑える免震構造(建物と基礎の間に積層ゴムなどの免震装置を設け、地震動を建物に伝えにくくする構造)や制震構造(建物内にダンパーなどの制振部材を組み込み、揺れを吸収する構造)を採用する例が増えています。これらの構造を採用する場合、設備配管・ダクトは建物の揺れ方に合わせて、免震層をまたぐ部分にフレキシブル継手(変位を吸収できる可とう性のある継手)を設けるなど、構造の変位に追従できる納まりが不可欠です。

免震構造は「建物が大きく水平方向に動く」ことを前提とした構造であるため、免震層を貫通する配管・ダクト・電気配線のすべてについて、想定される変位量に対応した余裕(クリアランス)を確保しておく必要があります。この調整は構造設計・意匠設計と早い段階からすり合わせておくべき事項です。

受水槽の耐震・緊急遮断弁

給水の確保もBCPの重要な要素です。受水槽(水道水を一時的にためておくタンク)は、地震時にタンク本体や配管が破損すると断水につながるため、耐震性能を満たした架台・基礎への設置が基本になります。また、大きな揺れを検知した際に給水配管を自動的に遮断する緊急遮断弁を設けることで、タンクや配管の破損による漏水被害を最小限に抑える計画も広く採用されています。

災害時のトイレ・給水の確保

災害対策本部として機能し続けるためには、電源だけでなく水回りの確保も欠かせません。断水時にもトイレを使用できるよう、受水槽やマンホールを活用した災害用トイレの整備、給水車からの受水口の設置など、平常時の設計段階から災害時利用を見込んだ計画をしておくことが実務上のポイントです。給排水設備のBCP・耐震に関するより詳しい考え方は、給排水設備のBCP・耐震を参照してください。

庁舎のBCP・耐震対策を整理すると、次のようになります。

対策項目 目的 実務上のポイント
免震・制震構造 建物本体の被害を抑える 設備配管・ダクトの追従性(フレキシブル継手等)を構造計画と整合させる
非常用自家発電(長時間運転) 災害対策本部の機能維持 燃料備蓄日数の目標設定、燃料補給ルートの検討
無停電電源装置(UPS) 瞬時停電からの機器保護 サーバー室・防災設備の制御盤を優先的にカバー
受水槽の耐震・緊急遮断弁 断水・漏水被害の防止 耐震架台、地震時自動遮断の仕組み
災害用トイレ・受水口 断水時の衛生環境維持 平常時の計画段階から災害時利用を想定

執務空間・議場・電算室の空調計画

庁舎の空調計画は、一般の執務室と、庁舎特有の特殊室とで求められる考え方が大きく異なります。

執務室のゾーニング

執務室は、部署ごとに繁忙期や在席人数が変動するため、フロア全体を単一の空調系統でまとめるのではなく、部署・エリアごとにある程度きめ細かく制御できるゾーニングが実務上の基本になります。窓口カウンター周りは来庁者の出入りによる外気の影響を受けやすいため、内部の執務スペースとは別系統として計画することも多く見られます。

議場(本会議場)の空調

議場は、傍聴席を含む大空間でありながら、開会中は多数の人が長時間在室するという特殊な使われ方をします。通常は閉鎖されているが、開会時には短時間で在室人数が急増するという運転パターンのため、あらかじめ設定した換気量・空調能力を常時確保するのではなく、開会予定に応じて先行運転できる制御計画が求められます。また、傍聴席と議員席・執行部席とで温熱環境の感じ方が異なる場合もあるため、吹出し口の配置や気流の検討も丁寧に行う必要があります。

電算室(サーバー室)の空調

電算室は、庁舎の中でも特に24時間365日、年間を通じて安定した冷房運転が求められる特殊室です。サーバー機器は一般の執務室よりも高い発熱密度を持つため、執務室と同じ空調系統に含めるのではなく、独立した専用空調(多くの場合は二重化された空調機)を計画するのが基本の考え方です。停電時にもサーバーを保護できるよう、電算室の空調も非常用電源系統に含めておくかどうかは、システム部門と早期にすり合わせるべき重要な論点です。

主要な諸室の空調上の違いを整理すると、次のようになります。

諸室 運転パターン 空調上の要求 電源計画上の留意点
一般執務室 執務時間中は概ね安定、部署ごとに変動 快適性重視、ゾーンごとの制御性 通常の商用電源で対応する場合が多い
窓口・待合スペース 来庁者の出入りによる外気負荷の変動 外気負荷に強い系統分け、換気量の確保 通常の商用電源
議場(本会議場) 開会時のみ在室人数が急増 先行運転できる制御、傍聴席の気流配慮 開会中は非常用電源のバックアップ対象とする例もある
電算室(サーバー室) 24時間365日安定運転 高発熱密度への対応、専用・二重化空調 非常用電源・UPSでの保護が原則
災害対策本部室 平常時は未使用、災害時に急遽稼働 迅速な立ち上げ、情報機器への電源確保 非常用電源の最優先系統として計画

情報・通信と中央監視による省エネ・運用管理

庁舎は執務用のLAN・電話・防災行政無線・各種業務システムなど、情報通信のインフラが多岐にわたる建物です。これらの配線・機器を集約するEPS(電気配線用シャフト)・MDF室(主配線盤室)は、将来の増設やシステム更新を見込んで、余裕を持った計画としておくことが実務上のポイントです。

また、庁舎全体の空調・電気設備の稼働状況を一元的に把握し、遠隔監視・制御する中央監視設備を導入することで、日常の省エネ運用と、災害時の設備状態の即時把握の両方に役立てることができます。庁舎は諸室の使われ方が多様であるため、中央監視によって「今どの系統が稼働しているか」「非常用発電機が正常に立ち上がったか」を一目で把握できる仕組みは、防災拠点としての運用面でも大きな意味を持ちます。中央監視設備の基礎的な考え方は、中央監視設備と幹線設備を参照してください。


環境配慮(ZEB・BEI)の考え方

公共建築である庁舎は、率先して環境配慮に取り組む建物として位置づけられることが多く、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル:省エネと創エネによって建物の一次エネルギー消費量を実質的にゼロに近づける考え方)やBEI(Building Energy Index:省エネ基準に対する一次エネルギー消費量の比率を表す指標)を踏まえた計画が広く求められます。

ただし庁舎の場合、省エネ性能の追求と、防災拠点としての電源・空調の余裕確保は、時に相反する側面があります。たとえば非常用発電機や電算室用の専用空調は、平常時の稼働率が低くても防災上必要な設備であり、省エネ性能の数値だけでは評価しにくい部分です。基本設計の段階では、省エネ目標(ZEB・BEIの達成水準)と、防災拠点として譲れない設備余裕とを、企画段階から関係者間で整理しておくことが実務上重要になります。太陽光発電を庁舎の屋上等に導入する場合は、平常時の省エネと、災害時の予備電源という両方の役割を意識した計画とすることが望ましいでしょう。ZEB・BEIの基本的な考え方は、別記事で詳しく整理していますので、あわせて確認してください。

なお、実際に求められる非常用電源の容量・燃料備蓄日数、免震構造の採用可否、省エネ基準の達成水準などは、庁舎の規模・立地・自治体の地域防災計画によって大きく異なります。具体的な計画にあたっては、必ず設計者・所轄官署・自治体の防災担当部局に確認しながら進めてください。


実務チェックリスト

  • 非常用自家発電の運転継続時間・燃料備蓄日数について、自治体の地域防災計画との整合を確認したか
  • サーバー室・防災設備制御盤など、瞬時停電も許容できない機器へのUPS計画があるか
  • 免震・制震構造を採用する場合、設備配管・ダクトの追従性(フレキシブル継手等)を構造計画と整合させたか
  • 受水槽の耐震架台・緊急遮断弁の設置を検討したか
  • 断水時のトイレ・給水確保(災害用トイレ・受水口)を平常時の計画段階から見込んでいるか
  • 電算室の空調が独立系統かつ非常用電源でカバーされているか
  • 議場の空調が開会時の急激な在室人数増加に対応できる制御計画になっているか
  • EPS・MDF室が将来のシステム更新・増設を見込んだ余裕を持っているか
  • 中央監視設備で非常用発電機の起動状態など防災上重要な情報を把握できる計画になっているか
  • 省エネ目標(ZEB・BEI)と防災拠点としての設備余裕の両立について、企画段階で関係者間の合意が取れているか

よくある質問

庁舎の非常用発電機は、一般の事務所ビルよりも大きくする必要がありますか

一律に大きくすべきとは言い切れませんが、庁舎は災害対策本部としての機能を一定期間維持する必要があるため、燃料備蓄日数や運転継続時間の目標を、一般の事務所ビルよりも高く設定する例が多く見られます。具体的な容量・備蓄日数は、自治体の地域防災計画や想定災害の規模を踏まえて設計者と協議する必要があります。

免震構造にすれば設備側の耐震対策は不要になりますか

免震構造は建物本体の揺れを抑える効果がありますが、免震層をまたぐ配管・ダクト・配線には別途、変位に追従できる納まり(フレキシブル継手等)が必要です。免震構造の採用は設備の耐震対策を不要にするのではなく、対策の内容を変える(追従性を重視する)と理解しておくのが実務上のポイントです。

議場の空調はなぜ執務室と別系統にすることが多いのですか

議場は普段は使われず、開会時にのみ多数の人が長時間在室するという特殊な運転パターンを持つためです。執務室と同じ系統にすると、開会時の急激な負荷変動に対応しづらく、逆に平常時は過剰な能力を持て余すことにもなりかねません。独立した系統として、開会予定に応じた先行運転ができる計画とするのが基本の考え方です。

太陽光発電と蓄電池だけで非常用自家発電の代わりにできますか

太陽光発電は天候や日照時間に発電量が左右され、蓄電池も容量に限りがあるため、単独で非常用自家発電の代替とするのは難しいのが実情です。多くの庁舎では、非常用自家発電を防災電源の中心に据えたうえで、太陽光発電・蓄電池を平常時の省エネと非常時の電源多重化の両面で補完的に活用する計画が採られています。


まとめ

  • 庁舎は「不特定多数の来庁者対応と執務空間」という平常時の性格と、「災害対策本部としての業務継続」という非常時の性格を併せ持つ建物である
  • 非常用自家発電は長時間運転・燃料備蓄が実務上の核心であり、UPSと受変電の信頼性向上によって非常用電源に過度に依存しない多重化を図る
  • 免震・制震構造を採用する場合は、設備配管・ダクトの追従性を構造計画と早期にすり合わせる必要がある
  • 受水槽の耐震・緊急遮断弁、災害用トイレ・受水口の整備は、給排水設備のBCPの中心的な対策
  • 議場・電算室・災害対策本部室は、一般執務室とは異なる運転パターン・電源計画を必要とする特殊室である
  • 省エネ目標(ZEB・BEI)と防災拠点としての設備余裕は、企画段階から両立の道筋を関係者間で共有しておくことが重要

庁舎の設備計画は、平常時の快適性・省エネ性と、非常時の業務継続性という、時に相反する2つの要求を1つの建物の中で成立させる作業です。電気・空調・給排水それぞれの分野の最適化にとどまらず、「災害時にも止まらない庁舎」という上位の目標を関係者全体で共有しながら計画を進めることが、後工程での手戻りを防ぐ最大のポイントになります。


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