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基本設計管工事(空調・給排水)

手術室・クリーンルーム空調の基礎|清浄度クラスと気流方式の使い分け

手術室やクリーンルームの空調は、快適さのための空調とは目的が根本的に違うと筆者は考えています。事務所や住宅の空調が「暑い・寒い」を解消するための設備であるのに対して、手術室・クリーンルームの空調は「空気中の微粒子や微生物をどこまで少なくできるか」を数値で管理する設備です。同じ「クリーンルーム」という言葉でも、半導体工場のクリーンルームと病院の手術室とでは管理したい対象が違い、清浄度の考え方や気流のつくり方も変わってきます。

この記事では、清浄度クラスの基本的な考え方、バイオクリーンルームと工業用クリーンルームの違い、手術室空調で使われる気流方式(乱流・垂直層流・水平層流)、室圧管理とHEPA/ULPAフィルタ、温湿度条件、維持管理・検収の考え方までを、基本設計の段階で押さえておきたい範囲として整理します。医療施設全体の空調ゾーニングや陰圧室・感染対策については医療施設の空調ゾーニングと陰圧室の基礎で詳しく扱っていますので、本記事では手術室・クリーンルームの清浄度と気流方式という範囲に絞って解説します。酸素・吸引などの医療ガス設備については医療ガス設備の基礎、住宅・事務所を含む一般的な換気の仕組みについては換気の基礎であわせて扱っています。

手術室・クリーンルームの空調基準は患者の安全と製品の品質に直結するため、本記事で示す数値はあくまで一般的な考え方の目安です。実際の設計・運用にあたっては、日本医療福祉設備協会のHEAS-02(病院設備設計ガイドライン空調設備編)等の最新版と、病院側の感染管理部門・設計者との協議で必ず確認してください。


早見まとめ

手術室・クリーンルーム空調を理解するうえでの基本的な考え方を先にまとめます。詳細な考え方は本文で解説します。

項目 考え方の要点
清浄度クラスの基準 ISO 14644-1(クリーンルーム及び関連制御環境の空気清浄度クラス分け)が国際的な物差し。数値が小さいほど清浄
クリーンルームの2区分 工業用クリーンルーム(ICR・粉じん等の微粒子のみ管理)とバイオクリーンルーム(BCR・微粒子に加え浮遊菌・落下菌も管理)
一般手術室 高性能フィルタ+乱流方式が基本。清潔区域として陽圧に管理
バイオクリーン手術室 HEPAフィルタ+層流(垂直または水平)方式。高度清潔区域として陽圧に管理
気流方式の使い分け 乱流=拡散混合型で一般手術室向き/層流=一方向流で創部への直接汚染を避けたい高度清潔区域向き
室圧・フィルタ 清浄に保ちたい区域は陽圧、HEPAは99.97%(0.3µm)以上、ULPAはさらに高性能
維持管理 気流速度測定・パーティクルカウント(浮遊粒子測定)・室圧差確認・温湿度測定を定期的に実施

以下で示す数値・分類は一般的な考え方の目安として理解し、確定値は最新のHEAS-02等のガイドラインと病院側・施主側の関係部門に必ず確認してください。


清浄度クラスの考え方(ISO 14644)

清浄度クラスとは、空気1立方メートルあたりに浮遊する微粒子の数を基準にして、空間の清浄さの程度を段階的に区分したものです。国際的な物差しとして広く使われているのがISO 14644-1で、空気清浄度をISO Class 1からISO Class 9までの9段階に区分し、クラスの数字が小さいほど清浄度が高い(浮遊粒子が少ない)という関係になっています。

ISO 14644-1では、粒径0.1µmから5µmまでの範囲で、各クラスごとに許容される粒子数の上限が定義されています。たとえば0.5µm以上の粒子で比較すると、ISO Class 5は1立方メートルあたり数千個程度、ISO Class 7は数十万個程度、ISO Class 8は数百万個程度が上限の目安とされており、クラスが上がるごとに桁違いに許容粒子数が増えていく(=清浄度が下がっていく)関係にあります。半導体工場の精密工程ではISO Class 5前後の極めて高い清浄度が求められる一方、病院の手術室で求められる清浄度はそこまで極端ではなく、用途に応じて必要十分な清浄度クラスを選ぶという考え方が実務の出発点になります。

なお、日本国内の病院設備分野では、ISO 14644のような国際規格の考え方を踏まえつつ、実務ではHEAS-02(病院設備設計ガイドライン空調設備編)が示す「高度清潔区域」「清潔区域」といった区分・換気回数・フィルタ効率の目安を使って設計するのが一般的です。清浄度クラスと病院の区域区分(高度清潔区域・清潔区域等)の対応関係、および陽圧・陰圧の考え方については医療施設の空調ゾーニングと陰圧室の基礎で整理していますので、あわせて参照してください。


バイオクリーンルームと工業用クリーンルームの違い

「クリーンルーム」とひとくくりに呼ばれる空間ですが、管理したい対象によって大きく2つに分けて考えるとわかりやすいと筆者は考えています。

区分 略称 管理対象 主な用途
工業用クリーンルーム ICR(Industrial Clean Room) 空気中に浮遊する微粒子(粉じん等) 半導体・液晶・精密機械の製造工程
バイオクリーンルーム BCR(Biological Clean Room) 微粒子に加えて浮遊菌・落下菌などの微生物 手術室・医薬品製造・食品製造

工業用クリーンルームは、粒子そのものが製品の歩留まりを下げる原因になるため、微粒子の数を管理することが目的です。一方でバイオクリーンルームは、微粒子の数に加えて空気中を漂う微生物(浮遊菌)や、床などに落下・堆積する微生物(落下菌)の数まで管理対象に含める点が大きな違いです。手術室は、術中に創部(手術で切開した部分)へ細菌が侵入すると手術部位感染につながるため、微粒子の数だけでなく、生きた微生物の量そのものを抑える必要がある、バイオクリーンルームの代表的な用途のひとつと位置づけられます。

浮遊菌・落下菌の測定には、空気を一定量吸引して培養する方式(エアサンプラー)や、シャーレを一定時間開放して落下してくる菌を培養する方式(落下菌測定)が使われますが、具体的な測定方法・基準値は施設の用途や病院の感染管理方針によって異なるため、採用する清浄度クラスに応じて必要な測定項目を設計・維持管理の両段階で確認しておくことが実務上のポイントです。


手術室空調の考え方(一般手術室とバイオクリーン手術室)

手術室の空調は、扱う手術の種類によって求められる清浄度の水準が異なり、大きく「一般手術室」と「バイオクリーン手術室(高度清潔手術室)」の2段階で考えるのが実務上の基本です。

一般手術室は、通常の外科手術に対応する標準的な手術室で、高性能フィルタ(粒子捕集率がおおむね98%程度とされるクラスのフィルタ)を用いた空調を基本とし、一般的な目安として換気回数はおおむね15回/h以上(うち外気はおおむね3回/h以上)とされることが多いと整理されています。気流の方式は、天井から給気して壁際等から排気する、いわゆる乱流(拡散混合)方式が一般的です。

バイオクリーン手術室(高度清潔手術室)は、人工関節置換術・臓器移植など、術部への感染が重大な結果を招きやすい手術に用いられる、より高い清浄度が求められる手術室です。フィルタはHEPAフィルタを用い、気流は一方向に流す層流方式(垂直層流または水平層流)を採用し、外気量もおおむね5回/h以上といった、一般手術室より厳しい水準が目安として示されることが一般的です。かつては「バイオクリーン手術室」という呼び方が広く使われていましたが、定義の明確化が進む中で「超清浄手術室」という呼び方に整理されてきている経緯もあり、呼称・具体的な基準値は使用するガイドラインの版によって異なる点に注意が必要です。

すべての手術室をバイオクリーン仕様にする必要はなく、病院が扱う手術の種類・件数を踏まえて、どの手術室を高度清潔仕様にするかを企画・基本設計の早い段階で病院側と決めておくことが、コストと性能のバランスを取るうえで重要になります。


気流方式(乱流・垂直層流・水平層流)

手術室・クリーンルームの気流方式は、大きく「乱流方式」と「層流方式」の2種類に分けられます。

気流方式 特徴 主な採用場面
乱流方式 天井から給気し室内で拡散・混合させてから排気する方式 一般手術室、一般的な清浄度で足りる区域
垂直層流方式 天井全面(または手術台上部)から下向きに一様な速度で給気し、床面近くで排気する一方向流 バイオクリーン手術室(人工関節置換術等)
水平層流方式 壁面から水平方向に一様な速度で給気し、反対側の壁面で排気する一方向流 バイオクリーン手術室(採用例は垂直層流より少ない)

乱流方式は、給気された清浄な空気を室内で混ぜ合わせることで清浄度を保つ考え方で、設備が比較的シンプルな反面、室内の気流に淀み(空気の流れがよどんで粒子が滞留しやすい場所)が生じやすいという弱点があります。一般手術室ではこの水準で実務上十分とされることが多いですが、創部への直接的な汚染をできる限り避けたい高度清潔手術室では不十分になる場合があります。

層流方式は、給気から排気までを一方向の流れとして設計することで、室内の空気を混ぜずに押し流し、粒子が滞留する時間を最小限にする考え方です。垂直層流は手術台の真上から清浄な空気を下向きに吹き下ろし、創部周辺の清浄度を重点的に高める発想で、現在のバイオクリーン手術室では垂直層流が主流とされています。水平層流は、給気側にいるスタッフの微生物を下流側(患者側)に運んでしまう可能性があるため、垂直層流に比べて採用例は少ないと理解されています。

いずれの方式でも、吹出し風速が速すぎると室内に乱れが生じて逆効果になり、遅すぎると一方向流としての効果が得られないため、風速の設計値はメーカー・設計者との協議のうえで慎重に決める必要があります。


室圧管理(陽圧)とHEPA/ULPAフィルタ

手術室・クリーンルームの室圧は、周囲より室内を高い圧力に保つ「陽圧」を基本とするのが実務上の原則です。手術室のドアの隙間や搬入口から、清浄度の低い廊下側の空気が室内に流れ込むことを防ぐため、給気量を排気量よりわずかに多くして、常に室内から室外へ空気が押し出される向きをつくります。一般手術室・バイオクリーン手術室のいずれも、清潔・高度清潔区域として陽圧管理が基本になる点は共通していますが、感染症患者の隔離を目的とする陰圧室とは目的も圧力の向きも正反対になるため、混同しないよう注意が必要です(陰圧室の仕組みは医療施設の空調ゾーニングと陰圧室の基礎で解説しています)。

フィルタについては、清浄度クラスに応じてHEPAフィルタまたはULPAフィルタを使い分けます。

フィルタ種別 捕集性能の目安(JIS規格) 主な用途
HEPAフィルタ 粒径0.3µmの粒子に対して99.97%以上の捕集率 バイオクリーン手術室、一般的なクリーンルーム
ULPAフィルタ 粒径0.15µmの粒子に対して99.9995%以上の捕集率 半導体製造等、より高い清浄度が求められる工業用途

病院の手術室で採用されるのはほとんどの場合HEPAフィルタで、ULPAフィルタは半導体製造など桁違いに高い清浄度が求められる工業用クリーンルームで使われることが多いのが実務の実感です。フィルタは使用とともに目詰まりして性能が変化していくため、設置して終わりではなく、定期的な差圧の確認・清掃・交換計画を維持管理の段階から組み込んでおくことが必要です。


温湿度条件

手術室の温湿度は、清浄度の管理とは別に、患者の低体温防止・医療スタッフの作業環境・結露やカビの防止という複数の観点から目安が示されています。一般的な目安として、手術室の室温はおおむね22〜26℃、相対湿度はおおむね45〜60%程度の範囲でコントロールすることが多いとされていますが、扱う手術の内容(新生児・熱傷患者向けなど室温を高めに保ちたい場合)や季節によって運用が変わるため、確定値は施設ごとに医療スタッフ・感染管理部門と協議して決める必要があります。

湿度については、低すぎると医療機器の静電気トラブルやスタッフの皮膚・粘膜の乾燥、高すぎると結露やカビの発生リスクにつながるため、清浄度の管理と同じくらい丁寧な制御が求められる項目です。特に清浄度の高いバイオクリーン手術室では、フィルタや層流用のチャンバー内で結露が起きると微生物の温床になりかねないため、除湿・加湿の能力を清浄度要求と合わせて設計段階から検討しておくことが重要になります。


維持管理・検収(気流測定・パーティクルカウント)

手術室・クリーンルームは、竣工時の検収と、稼働後の定期的な維持管理の両方で性能を確認し続ける必要がある設備です。主な確認項目を整理すると、次のようになります。

確認項目 内容
気流速度測定 層流方式の吹出し風速が設計値どおりに保たれているかを風速計で確認
パーティクルカウント パーティクルカウンター(浮遊粒子測定器)で室内の粒子数を測定し、目標とする清浄度クラスを満たしているか確認
室圧差測定 周囲区域との圧力差が設計どおりの陽圧を保っているか、マノメーター等で確認
温湿度測定 室温・相対湿度が目安の範囲に収まっているか確認
フィルタの目詰まり確認 フィルタ前後の差圧を測定し、交換時期を判断

これらの確認は、竣工時の検収で初期性能を確かめるだけでなく、運用開始後も定期的に繰り返して性能の劣化を早期に把握することが重要です。フィルタの目詰まりや経年劣化で、竣工時には基準を満たしていた清浄度が徐々に低下することは珍しくありません。確認の頻度・合格基準は病院の感染管理方針や使用状況で異なるため、施設ごとの維持管理計画を運用担当部門・設計者とあらかじめ取り決めておくことがポイントです。


実務での判断とよくある誤解

手術室・クリーンルームの空調計画を進めるうえで、筆者が特に注意したいと考えている点を整理します。

「清浄度は高ければ高いほど良い」ではない誤解。 清浄度クラスを不必要に高く設定すると、フィルタの性能・気流方式・空調機の能力すべてが過大になり、イニシャルコスト・ランニングコストが跳ね上がります。病院が実際に行う手術の種類・件数を踏まえて、必要十分な清浄度クラスを見極めることが企画・基本設計段階での重要な判断になります。

層流方式にすれば安心、ではない。 層流方式は正しく設計・維持管理されて初めて効果を発揮する方式で、風速の設定を誤ったり手術台の配置が給気パターンとずれたりすると、期待した清浄度が得られないことがあります。層流の吹出し範囲と手術台・スタッフの動線が一致しているかを、レイアウト計画の段階からあわせて検討する必要があります。

清浄度クラスとバイオ(微生物)管理は別軸で確認する。 微粒子の清浄度クラスを満たしていても、清掃・手指衛生・器材の滅菌管理などの運用面が伴わなければ微生物学的な清浄度は確保できません。空調設備はあくまで感染対策の一部であり、運用ルールとセットで初めて機能するという前提を関係者間で共有しておくことが実務上大切だと筆者は考えています。


まとめ

  • 清浄度クラスはISO 14644-1が国際的な物差しで、数字が小さいほど清浄度が高い
  • クリーンルームは微粒子のみを管理する工業用クリーンルーム(ICR)と、微生物も管理するバイオクリーンルーム(BCR)に大別され、手術室はBCRの代表例
  • 一般手術室は高性能フィルタ+乱流方式、バイオクリーン手術室(高度清潔手術室)はHEPAフィルタ+層流方式(垂直または水平)が基本の使い分け
  • 手術室は周囲より高い圧力を保つ陽圧管理が基本で、目的も圧力の向きも正反対の陰圧室と混同しないよう注意する
  • HEPAは0.3µmで99.97%以上、ULPAは0.15µmで99.9995%以上の捕集率がJIS規格の目安
  • 竣工時の検収だけでなく、気流速度・パーティクルカウント・室圧差・温湿度の定期確認を運用開始後も継続することが維持管理の要点

手術室・クリーンルームの空調は、患者の安全と手術の質に直結する分野であるだけに、一般的な考え方の理解と、個別プロジェクトごとの専門的な確認の両方が欠かせません。この記事で示した「清浄度クラス」「気流方式の使い分け」という基本の骨格を押さえたうえで、具体的な数値・運用は必ず最新のガイドラインと専門家との協議で詰めていただければと思います。


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