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基本設計管工事(空調・給排水)

医療ガス設備の基礎|酸素・吸引・圧縮空気と配管端末の考え方

医療ガス設備は、酸素・亜酸化窒素・治療用空気・吸引などのガスを、供給源から配管を通じて病室や手術室のベッドサイドまで届ける設備です。電気設備の停電が非常用発電機でバックアップされるのと同じように、医療ガスも供給が止まれば患者の生命に直結するため、「止まらない供給源」と「間違えようがない端末」の両方を同時に成立させることが計画の骨格になります。給排水衛生設備が「量・圧力・衛生」を同時に満たす必要があるのと似た構造ですが、医療ガスの場合は「誤接続すれば即座に患者に影響する」という点で、さらに一段階厳しい安全設計が求められます。

この記事では、医療ガスの種類と用途、供給源設備(マニフォールド・液化酸素・コンプレッサー)、配管とアウトレット(配管端末器)の誤接続防止、区域別に必要なガス種、そして医療ガス設備の保守点検体制までを整理します。医療・福祉施設の計画全体(部門構成や動線分離)については医療・福祉施設の計画、建物のガス設備(都市ガス・LPガス)の考え方についてはガス設備の計画であわせて扱っていますので、本記事は「病院内で使われる医療用のガスをどう配管・供給するか」という、より専門的な範囲に絞って解説します。


図で見る(全体像)

医療ガス設備の系統模式図。液化酸素マニフォールド・ボンベマニフォールド・医療用コンプレッサー・真空ポンプなどの供給源が配管シャフトを介して病室・手術室のアウトレットへ分岐する図と、酸素(緑)・亜酸化窒素(青)・治療用空気(黄)・吸引(黒)・二酸化炭素(橙)の配管識別色を示す図


医療ガス設備とは何か、なぜ配管で供給するのか

医療ガス設備は、酸素・亜酸化窒素・治療用空気・吸引・二酸化炭素・窒素といった、診療に必要なガスを一か所の供給源に集約し、配管を通じて病室・手術室・ICUなどの末端(アウトレット)まで届ける設備です。ボンベを患者のベッドサイドまで運んで使う方法と比べると、配管化することで次のようなメリットが生まれます。

  • 供給の安定性: 供給源を集約し予備系統を持たせることで、個々のボンベ交換のタイミングに左右されず、連続した供給を確保しやすくなる
  • スペースの有効活用: 病室ごとに大きなボンベを置く必要がなくなり、ベッドサイドのアウトレットだけで済む
  • 管理のしやすさ: 供給源の一元管理により、残量監視や点検を集中して行いやすい

一方で、配管化することで新たに生じるリスクもあります。代表的なものが、複数のガス種の配管が1つの建物内に併存することによる誤接続・誤使用のリスクです。酸素と間違えて別のガスを患者に投与してしまえば重大な事故につながるため、医療ガス設備の計画では「供給を止めない」ことと同じくらい、「間違った系統につながらない」ことが重視されます。この誤接続防止の考え方は、日本産業規格 JIS T 7101(医療ガス設備)に技術的な要求事項として整理されており、設計・施工・維持管理に関わる関係者が共通の前提として理解しておく必要があります。


医療ガスの種類と用途

医療ガス設備で扱う代表的なガスには、それぞれ異なる用途と配管・アウトレットの識別色が定められています。ボンベの塗色(高圧ガス保安法に基づく色)と、配管・端末器の識別色は別の体系である点に注意が必要です。たとえば酸素ボンベは黒色に塗られていますが、配管・アウトレットの識別色は緑色というように、両者は一致しません。過去にこの違いを取り違えたことが一因となった医療事故も報告されており、現場ではボンベの色と配管の色を別物として扱う意識が欠かせません。

ガス種 配管・端末器の識別色 主な用途
酸素 酸素吸入療法、人工呼吸療法、麻酔時の酸素供給
亜酸化窒素(笑気) 全身麻酔における吸入麻酔薬の補助
治療用空気(圧縮空気) 人工呼吸器・麻酔器の駆動用空気、新生児への清浄な空気供給
吸引(バキューム) 気道内分泌物、創部・体液の吸引
二酸化炭素 腹腔鏡下手術における気腹(腹腔を膨らませ視野を確保)、混合ガス吸入

このほか、外科手術用のエアツール(骨切り器等の駆動源)として窒素を配管で供給する施設もあります。窒素の識別色や送気圧力は、上表のガスとは別に規格・メーカー資料で定められているため、採用する場合は個別に確認することが前提になります。

治療用空気は「圧縮空気」と呼ばれることもありますが、一般の空調・換気で扱う空気とは異なり、油分・水分・微粒子を厳しく除去した清浄な空気である点が特徴です。人工呼吸器の駆動ガスとしてだけでなく、酸素と混合して患者ごとに必要な酸素濃度に調整する用途でも使われるため、供給の安定性と清浄度の両方が求められます。


供給源設備:マニフォールド・液化酸素・コンプレッサー

医療ガスの供給源は、扱うガスの種類・使用量・施設の規模によって使い分けられます。代表的な供給方式を整理すると次のとおりです。

供給源 概要 主な対象ガス 冗長化の考え方
液化酸素供給装置(マニフォールド) 可搬式超低温液化ガス容器(LGC)を第一供給・第二供給の2系統に分けて設置し、自動切換器で連続供給する 酸素 一方の系統の残量が低下すると自動でもう一方に切り替わり、供給を止めずに容器交換ができる
定置式超低温液化タンク(CE) 大規模施設で採用される、屋外に定置した大容量の液化酸素タンク 酸素 大量消費に対応できる反面、設置スペース・保安距離の確保が必要
ボンベマニフォールド 高圧ガスボンベを複数本まとめて設置し、自動切換装置で連続供給する 亜酸化窒素、二酸化炭素、窒素等 使用量が酸素ほど多くないガスで採用されることが多く、予備ボンベ本数は消費量に応じて計画する
医療用コンプレッサー 空気を圧縮し、フィルター・除湿・除油等で清浄化して供給する 治療用空気 複数台を交互運転させ、1台に不具合が生じても他の機器で供給を継続できるよう構成する
真空ポンプ(吸引装置) 配管内を減圧し、各アウトレットで吸引を可能にする 吸引 複数台構成とし、機械室の位置・騒音対策もあわせて検討する

供給源の選定は、施設の規模だけでなく、将来の増床・増築の可能性、保守点検のしやすさ、そして地震・停電時にも供給を継続できるかという観点から検討します。とくに酸素は、供給が止まると人工呼吸器を使用中の患者に即座に影響するため、2系統以上の予備を確保し、一方が停止しても自動的にもう一方へ切り替わる構成を基本とするのが実務の考え方です。治療用空気のコンプレッサーや吸引の真空ポンプについても同様に、複数台構成による冗長化が前提になります。

なお、供給源設備の設置スペース・保安距離・換気などは、高圧ガス保安法や消防法など複数の法令に関わるため、具体的な仕様・離隔距離は所轄官署・ガス供給事業者・医療ガス安全管理委員会に確認しながら計画を進める必要があります。


配管とアウトレット(配管端末器)の誤接続防止

医療ガス配管の安全設計でもっとも重視されるのが、異なるガス種の配管・端末器が誤って接続されない仕組みです。ベッドサイドや手術室の壁面に設置される配管端末器(アウトレット)には、ガスごとに異なる形状のプラグ・ソケットを組み合わせる「ガス別特定機能」が備わっており、酸素用の器具を亜酸化窒素の端末に差し込めない、あるいはその逆ができないよう物理的に構造で防いでいます。

このガス別特定機能には、ピン方式・シュレーダ方式・DISS方式など複数の方式がありますが、同一施設内では方式を統一することがJIS T 7101で定められています。同じ建物の中に異なる方式が混在すると、かえって現場が混乱し、誤接続のリスクを高めてしまうためです。改修や増築で医療ガス設備を追加する際は、既存部分と同じ方式で統一することが計画上の前提になります。

配管そのものについても、ガス種ごとに配管の識別色を表示し、系統を色とラベルの両方で判別できるようにすることが基本です。天井裏や壁内に配管が集約される部分では、竣工後に系統を目視で追いにくくなるため、施工段階での配管系統図の整備・記録が特に重要になります。


区域別に必要な医療ガスの考え方

病院内のすべての区域に同じガス種が必要なわけではなく、部門ごとに求められるガス種・アウトレットの数は異なります。代表的な区域の傾向を整理すると次のとおりです。

区域 主に必要なガス種 計画上の留意点
一般病室 酸素、吸引 病床ごとにアウトレットを設置するのが基本で、病棟の性格(内科・外科等)によって必要度が変わる
ICU・CCU(集中治療室) 酸素、治療用空気、吸引 人工呼吸器の常時使用を想定し、供給停止時のバックアップ体制をとくに重視する
手術室(麻酔を行う区域) 酸素、亜酸化窒素、治療用空気、吸引(腹腔鏡手術対応室では二酸化炭素、エアツールを使う場合は窒素) ガス別特定機能を徹底し、手術の内容に応じて必要なガス種をあらかじめ計画する
回復室(PACU) 酸素、吸引 麻酔からの覚醒管理に必要な最小限のガス種を基本としつつ、急変時の対応も見込む

このように、一般病室では酸素・吸引の2種が基本になる一方、手術室では扱うガス種が一気に増えます。とくに麻酔を行う区域は、患者の生命維持に直結する複数のガスが同時に使われる場所であるため、アウトレットの配置・本数・ガス別特定機能のいずれについても、他区域以上に慎重な検討が求められます。具体的にどの区域にどのガス種をどれだけ配置するかは、診療科の方針や手術内容によって施設ごとに異なるため、医療ガス安全管理委員会・医療スタッフと設計者が早期にすり合わせておくことが実務上のポイントです。


医療ガス設備の保守点検体制

医療ガス設備は、竣工後の維持管理体制が設計と同じくらい重要な設備です。麻酔器や人工呼吸器等を設置し医療ガスを使用する病院等の管理者は、医療法施行規則に基づき、医療ガス安全管理委員会の設置など、安全管理のための体制を確保することが求められています。委員会が担う代表的な業務は次のとおりです。

  • 医療ガス設備の日常点検・定期点検の実施と記録の管理
  • 医療ガス設備の新設・増設工事、部分的な改造・修理等における施工監理
  • 医療ガスの取り扱いに関する職員研修
  • 供給源の残量監視、警報発生時の対応手順の整備

設計者・施工者の役割は竣工・引き渡しで完結するものではなく、その後の点検・改修工事のたびに医療ガス安全管理委員会と連携する場面が続きます。とくに増築・改修時に既存の配管系統へ新しいアウトレットを追加する工事では、既設の配管を誤って別系統に接続してしまうと重大な事故につながるため、施工中・施工後の系統確認(クロスコネクションチェック等)を確実に行う体制が欠かせません。具体的な点検頻度・確認方法は、関連通知や医療ガス安全管理委員会の定める規程によって施設ごとに異なるため、実際の計画・施工にあたっては最新の法令・所轄官署・医療ガス安全管理委員会に確認することが前提になります。


実務チェックリスト

  • 施設の規模・使用量に応じて、酸素の供給源(液化酸素マニフォールド、定置式タンク、ボンベマニフォールド)を比較検討したか
  • 酸素・治療用空気・吸引について、供給源を複数系統・複数台構成とし、1系統停止時も供給を継続できる冗長化を計画したか
  • ガス別特定機能(ピン方式・シュレーダ方式・DISS方式等)を施設内で統一する方針を確認したか
  • 配管の識別色・ラベル表示を系統ごとに整備し、竣工図書に配管系統図を残す体制を整えたか
  • 病室・ICU・手術室・回復室など区域ごとに必要なガス種とアウトレット数を、診療科・医療スタッフと確認したか
  • 手術室では扱うガス種が多くなることを踏まえ、アウトレットの配置・本数を余裕をもって計画したか
  • 医療ガス安全管理委員会の設置状況と、新設・増設工事における施工監理の役割分担を確認したか
  • 改修・増築時に既設配管への誤接続が起きないよう、施工中・施工後の系統確認体制を計画したか
  • 供給源設備の設置スペース・保安距離について、高圧ガス保安法等の関連法令・所轄官署に確認したか

よくある質問

医療ガスの配管・端末器の識別色と、ボンベの色はなぜ違うのですか

ボンベの塗色は高圧ガス保安法に基づく別の体系で定められており、医療ガス配管・端末器の識別色(JIS T 7101系)とは一致しません。たとえば酸素ボンベは黒色ですが配管・端末器の識別色は緑色というように、両者は別物として扱う必要があります。この違いを取り違えたことが一因となった医療事故も報告されているため、現場ではボンベの色と配管の色を混同しない意識が重要です。

治療用空気と、空調・換気で扱う一般の空気は同じものですか

異なります。治療用空気は、油分・水分・微粒子を厳しく除去した清浄な空気で、人工呼吸器や麻酔器の駆動、酸素との混合による濃度調整などに使われます。空調・換気で扱う一般の室内空気とは求められる清浄度が異なるため、専用のコンプレッサー・フィルター系統で供給されます。

すべての病室に医療ガス設備が必要なのですか

必ずしもすべての病室に同じ構成が必要というわけではありません。一般病室では酸素・吸引の2種が基本になることが多い一方、手術室やICUではより多くのガス種・アウトレットが必要になります。どの区域にどのガス種をどれだけ配置するかは、診療科の方針や施設の運営体制によって異なるため、施設ごとに医療ガス安全管理委員会・医療スタッフと確認しながら計画する必要があります。

改修工事で医療ガス配管を増設する際、とくに注意すべき点は何ですか

既存の配管系統へ新しいアウトレットを接続する工事では、誤って別のガス系統に接続してしまうと重大な事故につながります。施工中・施工後にガス種ごとの系統確認(クロスコネクションチェック等)を確実に行うことが不可欠です。既存部分と同じガス別特定方式で統一することもあわせて確認し、具体的な確認手順は医療ガス安全管理委員会・所轄官署に確認することをおすすめします。


まとめ

  • 医療ガス設備は、供給源から配管を通じて酸素・亜酸化窒素・治療用空気・吸引などをベッドサイドまで届ける設備で、「供給を止めない」ことと「誤接続を防ぐ」ことの両立が計画の骨格になる
  • 主な医療ガスには酸素(緑)・亜酸化窒素(青)・治療用空気(黄)・吸引(黒)・二酸化炭素(橙)という配管識別色が定められており、ボンベの塗色(例: 亜酸化窒素のボンベはねずみ色)とは別体系である点に注意が必要
  • 供給源は液化酸素マニフォールド・定置式タンク・ボンベマニフォールド・コンプレッサー・真空ポンプがあり、いずれも複数系統・複数台での冗長化が基本
  • 配管端末器(アウトレット)はガス別特定機能により誤接続を防ぐ構造になっており、同一施設内では方式を統一することがJIS T 7101で定められている
  • 一般病室・ICU・手術室・回復室では必要なガス種・アウトレット数が異なり、とくに手術室は扱うガス種が多く慎重な検討が必要
  • 医療ガス設備の維持管理には医療ガス安全管理委員会の設置が求められ、点検・改修工事のたびに設計者・施工者との連携が続く

医療ガス設備は、電気設備・空調換気設備・給排水衛生設備とは異なる専門性が求められる分野であり、誤りが直接患者の生命に関わる点が最大の特徴だと筆者は考えています。具体的な数値・規格・点検体制については、必ずJIS T 7101等の規格、関連法令、そして施設の医療ガス安全管理委員会に確認しながら計画を進めてください。


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