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基本設計管工事(空調・給排水)

ビル用マルチエアコン(VRF)の基礎|個別分散空調と中央熱源方式の使い分け

事務所ビルの空調計画で最初に検討されることが多い方式の一つが、ビル用マルチエアコン(VRF:Variable Refrigerant Flow、可変冷媒流量方式)です。1台(または複数台を組み合わせた1系統)の室外機に、冷媒配管を介して多数の室内機をぶら下げ、各室の熱負荷に応じて冷媒の流れる量を細かく配分することで、フロアや部屋ごとに独立した温度調整を可能にする方式です。中央に大きな熱源機械室を構える中央熱源方式とは、熱の運び方も、機械室のつくり方も、更新の考え方も大きく異なります。

この記事では、VRFの基本的な仕組み(冷媒配管による多数接続と流量制御)、個別分散空調と中央熱源方式の比較、冷媒配管を計画するうえでの設計上の注意点、フロン排出抑制法に基づく点検義務と冷媒漏えい時の酸欠対策の考え方、そして外気処理(全熱交換器・外調機との組み合わせ)までを、基本設計の段階で押さえておきたい範囲で整理します。冷凍サイクルそのものの原理は冷凍機の種類|ターボ・吸収式・チリングユニットの使い分け、中央熱源の対極にある地域単位の熱供給は地域冷暖房(DHC)と受入設備の基礎、空調・給排水衛生設備全体の学習マップは空調・給排水衛生設備の学習ガイドもあわせてご覧ください。


早見まとめ

VRF(ビル用マルチエアコン)の要点を1枚に凝縮します。配管長・高低差などの許容値はメーカー・機種により大きく異なるため、必ずカタログ・技術資料での確認が前提です。

項目 要点
方式の位置づけ 個別分散空調の代表格。1系統の室外機に複数〜数十台の室内機を冷媒配管で接続し、各室の熱負荷に応じて冷媒流量を配分する
流量制御の要 インバーター制御の圧縮機(回転数を変えて能力を調整)+各室内機の電子膨張弁(冷媒流量を個別に絞る)
主な長所(傾向) 機械室が小さく済む・室ごとの個別運転/個別制御性が高い・段階的な増設や部分更新がしやすい
主な短所(傾向) 大空間・大風量の一室には不向きな場合がある・冷媒配管が長大化しやすい・冷媒漏えい時の安全確保が設計事項になる
冷媒配管の制約 総配管長・実長・高低差(室外機と室内機、室内機どうし)に上限がある。数値は機種・容量帯ごとにメーカーカタログで確認
冷媒漏えい対策の枠組み フロン排出抑制法(簡易点検・定期点検)+日本冷凍空調工業会のガイドライン(機械室・シャフトの換気、検知・警報)
外気処理との関係 VRF自体は換気機能を持たないため、全熱交換器や外調機と組み合わせて外気負荷を処理するのが基本

VRFの仕組み:冷媒配管で室内機を多数接続する

VRFの最大の特徴は、1系統の冷媒回路で多数の室内機をまかなうという発想です。屋上や屋外に設置した室外機(複数台を組み合わせて1系統とすることも多い)から、冷媒分岐ユニット(分岐ジョイント・ヘッダー)を介して枝分かれした冷媒配管が各階・各室の室内機まで伸び、1本の冷媒回路の中で複数の熱交換が同時に行われます。

この方式が「個別分散空調」と呼ばれるのは、各室内機がそれぞれ独立したリモコンやセンサーを持ち、室ごとに運転・停止、設定温度を変えられるためです。ある会議室は冷房、隣の事務室は送風のみ、といった運用も、機種・系統構成によっては同時に成立します。この個別制御性を実現しているのが、次の2つの仕組みです。

仕組み 役割
インバーター制御の圧縮機 室外機側で圧縮機の回転数を連続的に変え、系統全体で必要とされる冷媒循環量(能力)を調整する
電子膨張弁(各室内機) 室内機ごとに冷媒の絞り量を個別に制御し、その室の熱負荷に見合った冷媒流量だけを配分する

系統全体の需要(各室内機からの要求能力の合計)に応じて圧縮機の回転数が変わり、そのうえで各室内機が自分の膨張弁を調整して必要な分だけ冷媒を受け取る、という二段構えの制御によって、部分負荷にきめ細かく追従できるのがVRFの技術的な核心です。同じ蒸気圧縮式の冷凍サイクルを使っている点では通常の冷凍機と共通ですが(原理は冷凍機の種類を参照)、「1台の熱源で多数の末端機器を個別制御する」という発想がVRF特有の設計思想です。


個別分散空調(VRF)と中央熱源方式の比較

VRFのような個別分散空調と、冷凍機・ボイラーなどを機械室に集約する中央熱源方式(多くは水配管でエアハンドリングユニット等に熱を送る)は、建物の用途・規模・運用によって向き不向きが分かれます。基本設計段階で比較検討する観点を整理します。

観点 個別分散空調(VRF) 中央熱源方式
初期費用 中小規模では割安になりやすい傾向。大規模・高層になると系統数・室外機台数が増え、単純比較しにくくなる 熱源機・ポンプ・配管・搬送設備一式が必要で初期投資は大きくなりやすいが、大規模になるほど1USRt(冷凍トン)あたりの単価は下がりやすい
運転費(傾向) 使っている室だけ運転する部分負荷追従性が高く、在室率の低いフロアでは有利になりやすい。ただし建物全体の同時使用率・電力契約の条件次第 大型熱源機は高効率な機種を選びやすく、台数制御・蓄熱などの最適化余地が大きい
機械室・シャフトスペース 室外機置き場(屋上・バルコニー等)と冷媒配管用のシャフト・スリーブが中心で、中央熱源機械室のような大空間は不要 冷凍機・ボイラー・ポンプ・冷却塔を収める機械室、太い水配管を通すシャフトなど、まとまった専用スペースが必要
個別制御性 室単位・階単位で高い。テナントビルで貸室ごとに運転条件を分けたい場合に適する 系統(ゾーン)単位の制御が基本で、末端はエアハンドリングユニットやファンコイルの制御に依存する
更新性 室外機・室内機単位で段階的な更新がしやすい。系統の一部だけを先行更新する運用もできる 熱源機の更新は大掛かりな工事になりやすいが、熱源側だけを丸ごと入れ替えれば末端設備はそのまま使える場合もある
大空間適性 大風量・大空間(劇場・体育館・大規模吹き抜けなど)には室内機の設置形態・台数の面で不向きなことがある 大型のエアハンドリングユニットで大風量を一括処理でき、大空間の空調に適する
冷媒管理 冷媒配管が長大・複雑になりやすく、フロン排出抑制法・漏えい対策の管理対象も広がる 熱源側は集約されているため冷媒管理の範囲は限定的(水系統は水質管理が別途必要)

どちらか一方が常に優れているわけではなく、テナントビルのように貸室単位で運転を分けたい建物ではVRFが選ばれやすく、大規模な大空間や高い同時使用率が見込まれる用途では中央熱源方式が選ばれやすい、という傾向で捉えるのが実務的です。実際の建物では、基準階はVRF、大空間の共用ロビーやホールは別系統の空調機、というように両方式を併用する計画も少なくありません。


冷媒配管の設計上の注意:配管長・高低差の考え方

VRFは1系統の冷媒回路を建物の縦横に長く延ばして使う方式のため、冷媒配管の総配管長(系統全体の配管の合計長さ)、実長(室外機から最遠の室内機までの経路長)、そして高低差(室外機と室内機の間、室内機どうしの間の設置高さの差)に、機種・容量帯ごとの許容範囲が定められています。

これらの許容値は、圧縮機の能力・冷媒の油戻り性能・制御方式によってメーカー・機種ごとに大きく異なり、大規模な系統では総配管長が数百メートル規模まで対応する機種もありますが、高低差や実長の限度、配管サイズのランクアップが必要になる境界値なども機種ごとに細かく規定されています。基本設計の段階で押さえておくべきは、次のような考え方です。

  • 配管が長く・高低差が大きくなるほど、冷媒の圧力損失や油戻りの余裕が減るため、系統の組み方(室外機の配置階、室内機のグルーピング)を工夫して負担を分散させる
  • 配管長・高低差が一定の基準を超える場合、主管の配管径を1ランク太くするなどの補正が必要になることがある
  • 高層ビルでは、室外機を各階または数階ごとに分散配置する(系統を縦に分割する)ことで、1系統あたりの配管長・高低差を抑える計画がとられることが多い
  • 冷媒配管用のシャフト・スリーブは、後施工での配管追加・更新のしやすさも考慮して余裕を持たせておく

具体的な最大配管長・最大高低差・配管径の補正条件は機種・容量帯によって異なるため、実施設計の段階で必ず採用機種のメーカー技術資料(施工要領書・選定ソフト)で確認することが前提になります。基本設計の段階では、系統分割の方針と室外機の設置階・スペースの確保を優先して検討しておくと、後工程での見直しを減らせます。


冷媒漏えい時の安全:フロン排出抑制法の点検と酸欠対策の考え方

VRFは冷媒配管が建物内を縦横に走るため、冷媒漏えい時の安全確保が設計・維持管理の両面で重要な検討事項になります。ここでは大きく2つの枠組みを押さえておきます。

フロン排出抑制法に基づく点検義務

一定規模以上の業務用エアコン・冷凍冷蔵機器の管理者には、フロン類(冷媒)の大気放出を防ぐため、フロン排出抑制法に基づく点検が義務づけられています。

点検の種類 頻度・対象 内容
簡易点検 すべての対象機器で3か月に1回以上 管理者自身が、外観の異常・異音・異臭などを目視・聴覚で確認する日常点検
定期点検 圧縮機の定格出力が7.5kW以上50kW未満の機器は3年に1回以上、50kW以上の機器は1年に1回以上 専門知識を有する者(有資格者)が、より詳細な機器診断を行う

VRFの室外機は、系統構成によって圧縮機の合計出力がこの基準を超えることが多く、定期点検の対象になるケースが一般的です。該当するかどうか・点検頻度の具体的な当てはめは、機器の仕様と最新の法令・ガイドラインに基づいて個別に確認する必要があります。

酸欠対策の考え方

VRFで使われる冷媒の多くは不燃性(一部の新冷媒は微燃性)ですが、共通して注意すべきなのが、密閉性の高い室内で大量に漏えいした場合の酸素濃度低下(酸欠)リスクです。冷媒ガスは空気より重いものが多く、機械室・シャフト・地下ピットなど換気の乏しい空間に滞留すると、酸素濃度が低下し人体に危険が及ぶおそれがあります。

日本冷凍空調工業会は、この種の事故を防ぐための施設ガイドラインを制定しており、機械室・室内機設置スペースの換気開口部の確保、機械換気装置の設置、冷媒漏えい検知センサーと警報の設置といった対策の考え方を示しています。微燃性冷媒を採用する機種では、これに加えて燃焼下限界濃度に基づく安全対策(検知・警報、冷媒遮断や機械換気)が求められる場合もあります。基本設計の段階では、次のような点をチェックしておくとよいでしょう。

  • 室外機・冷媒配管シャフト・機械室が、換気の乏しい密閉空間にならないよう計画されているか
  • 冷媒量の多い系統・狭小な室内機設置スペースについて、採用機種のメーカー基準・ガイドラインに沿った換気・検知対策が必要かどうか
  • 冷媒の種類(不燃性・微燃性)によって求められる安全対策のレベルが異なることを設計者・専門業者と確認したか

具体的な必要換気量・検知装置の要否は、冷媒の種類・充填量・室容積によって個別に決まるため、採用機種のメーカー技術資料と、必要に応じて専門業者・所轄機関への確認を前提に計画することが基本です。


外気処理との組み合わせ:全熱交換器・外調機

VRFの室内機は、あくまで室内の空気を循環させて冷やす・暖めるための機器であり、外気を取り入れて換気する機能は持っていません。建築物衛生法などで求められる必要換気量を確保するには、別途、外気を処理する設備を組み合わせる必要があります。

外気処理方式 概要 VRFとの組み合わせでの位置づけ
全熱交換器(ロスナイ等) 排気と外気の間で温度・湿度(全熱)を熱交換し、外気負荷の一部を回収したうえで室内へ導入する 外気の温湿度を室内空気に近づけたうえでVRFの室内機に負荷を渡す、比較的コンパクトな方式。外気そのものを完全に処理しきるわけではない
外気処理ユニット(直膨コイル内蔵タイプ) 全熱交換器に加えて、冷媒配管(直膨コイル)による冷却・除湿・加熱機能を内蔵し、外気をある程度調整した状態で供給する VRFの系統に組み込んで外気負荷そのものを処理し、室内機側の潜熱負荷(湿度処理)の負担を軽くできる
外調機(外気調和機、水コイル・蒸気加湿等) 中央熱源からの冷温水・蒸気を使い、外気を目標の温湿度まで調整してから各室・各系統へ送る 中央熱源方式との併用や、大規模建物でVRFと組み合わせて外気処理だけを別系統にする計画で採用される

外気処理を軽視して全熱交換器(換気機能のみ)だけで済ませると、夏季の高湿度な外気がそのままVRFの室内機に流れ込み、室内機側で処理しきれない潜熱負荷(除湿しきれない湿気)が残ってジメジメ感や結露リスクにつながることがあります。用途・地域の外気条件・室内の湿度要求水準に応じて、全熱交換器だけで足りるのか、直膨コイル付き外気処理ユニットや外調機による能動的な処理が必要なのかを、負荷計算に基づいて判断することが基本設計段階の重要な検討事項です。


実務での判断とよくある誤解

「VRFは中央熱源方式より必ず安い」という誤解――中小規模の事務所ビルでは初期費用が抑えられる傾向がありますが、大規模・高層になるほど系統数・室外機台数が増え、機械室が不要な分のメリットが目減りすることがあります。運転費も、在室率・同時使用率・電力契約の条件によって優劣が入れ替わるため、規模と用途ごとに個別の比較が必要です。

「VRFなら換気は考えなくてよい」という誤解――前述のとおり、VRFの室内機自体には外気を取り入れる機能がなく、全熱交換器や外気処理ユニットとの組み合わせが前提です。換気設備の計画を後回しにすると、必要換気量の確保や外気負荷の処理で後工程の見直しが発生しやすくなります。

「冷媒漏えいの心配は小規模な家庭用エアコンだけの話」という誤解――VRFは冷媒配管が長く、系統内の冷媒充填量も家庭用機器より多くなる傾向があるため、密閉空間での漏えい時のリスクはむしろ大きくなり得ます。機械室・シャフトの換気計画や検知・警報の要否は、基本設計の早い段階で検討しておくべき事項です。

これらの判断はいずれも、建物の規模・用途・在室パターン・所轄消防署や設計者との協議を前提に、個別の条件に即して行うのが基本です。


まとめ

  • ビル用マルチエアコン(VRF)は、1系統の室外機に多数の室内機を冷媒配管で接続し、インバーター圧縮機と各室内機の電子膨張弁で冷媒流量を個別配分する個別分散空調である
  • 中央熱源方式との比較軸は、初期費用・運転費・機械室スペース・個別制御性・更新性・大空間適性の6つで、貸室単位の個別制御を重視するテナントビルではVRFが、大空間・高同時使用率の用途では中央熱源方式が選ばれやすい
  • 冷媒配管の総配管長・実長・高低差には機種ごとに許容範囲があり、系統分割や室外機の分散配置で負担を抑える計画が基本設計段階で重要になる
  • フロン排出抑制法により、簡易点検(3か月に1回以上)と、圧縮機の定格出力に応じた定期点検(7.5kW以上50kW未満は3年に1回以上、50kW以上は1年に1回以上)が義務づけられている
  • 冷媒漏えい時の酸欠・燃焼リスクへの対策は、日本冷凍空調工業会のガイドライン等に基づき、機械室・シャフトの換気や検知・警報の要否を機種・冷媒量ごとに確認する
  • VRFの室内機自体には換気機能がないため、全熱交換器や外気処理ユニット・外調機との組み合わせによる外気負荷の処理が必須の検討事項になる

VRFは「熱源を各室に分散させる」という発想の設備であり、個別制御性と省スペース性というメリットと引き換えに、冷媒配管の設計・安全管理・外気処理という別の検討事項を背負うことになる方式です。採用の可否や系統構成は建物ごとに条件が異なるため、具体的な機種選定・配管計画・安全対策は、設計者・メーカー・所轄消防署との協議のうえで進めることが前提になります。


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