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基本設計管工事(空調・給排水)

湧水槽・排水槽と排水ポンプの基礎|ビルピット対策と維持管理

地下階を持つ建物の排水は、その多くを重力(自然流下)で公共下水道まで流すことができません。地下階の床は道路や公共下水道の管底より低い位置にあることが多いためで、こうした場所の排水は、いったん地下の槽に貯留してからポンプでくみ上げ、地上または道路レベルの排水系統に送り込むという計画が必要になります。この「槽にためて、ポンプで送る」という仕組みを担うのが排水槽と排水ポンプです。

排水槽は一つにまとめて何でも受け入れればよいわけではなく、排水の性質によって槽を分けることが原則とされています。また、排水が槽内に長時間とどまると腐敗が進み、悪臭や有害ガスの発生につながるため、槽の構造や運転方法にも独特の配慮が求められます。この記事では、排水槽を種類ごとに分ける考え方、地下階特有の湧水槽の仕組み、いわゆるビルピット対策の考え方、排水ポンプの選定と運転方式、点検・清掃の実務までを、基本設計の段階で押さえておきたい水準で整理します。具体的な数値・基準は自治体の指導要綱や所轄下水道部局の基準によって異なるため、実際の計画では必ず所轄部局・設計者との確認を前提としてください。


早見まとめ

地下階の排水計画を検討する際に、まず押さえておきたい考え方を1枚にまとめます。あくまで一般的な整理であり、具体的な数値・運用は自治体・建物条件によって異なります。

項目 考え方 代表値・目安
排水槽の区分 汚水・雑排水・湧水(・雨水)は原則として別系統の槽に分ける 汚水槽(し尿を含む排水)/雑排水槽(厨房・洗面等)/湧水槽(地下浸透水)が基本区分
湧水槽の起動水位 二重スラブ床面以下を目安に、湧水の滞留時間を短くする 具体の水位は槽容量・ポンプ能力から個別に設定(要設計確認)
ビルピット対策 槽内排水の滞留による腐敗・硫化水素の発生を抑える運転を行う 水位制御にタイマー制御を併用した強制排水が代表的な改善策
ポンプの自動交互運転 2台設置し交互に起動、高水位時は同時運転で排水能力を上げる フロート等3〜4段のレベル検知(起動・停止・交互・満水警報)が一般的
排水槽の清掃 建築物衛生法の対象建物では清掃頻度が定められている 6か月以内ごとに1回(特定建築物の建築物環境衛生管理基準)
非常時対応 停電・満水時の対応手順をあらかじめ定めておく 満水警報の発信先、バキューム車手配等の手順を維持管理計画に明記

排水槽を分ける原則――汚水槽・雑排水槽・湧水槽

排水槽は、自然流下で公共下水道等に排水できない場所(多くは地下階)の排水を、いったん貯留してポンプでくみ上げるための設備です。建物全体の排水系統をどう組み立てるかという計画の全体像は排水通気設備の計画で扱っていますが、この記事では地下階の排水槽そのものに絞って整理します。

排水槽は、受け入れる排水の性質によって次のように区分するのが原則です。

槽の種類 受け入れる排水
汚水槽 大便器・小便器など、し尿を含む排水(汚水)
雑排水槽 厨房排水、洗面・浴室等の生活雑排水、機械設備の冷却水・凝縮水など
湧水槽 地下外壁・床からの浸透水(湧水)

なぜわざわざ槽を分けるのかというと、第一に、性質の異なる排水を混ぜると腐敗が進みやすくなるためです。し尿を含む汚水は有機物濃度が高く腐敗しやすい一方、湧水は地下水がしみ出したものであり、本来はし尿とは無縁の比較的清浄な水です。この清浄な湧水を汚水や雑排水と混合してしまうと、槽内の総量が増えて滞留時間が延びるだけでなく、湧水そのものも腐敗した排水に汚染されてしまい、結果として槽全体の悪臭・害虫のリスクを高める方向に働きます。第二に、放流先や必要な処理が異なる場合がある点も理由です。湧水は汚水と異なり、条件によって公共下水道以外の系統に排水できる場合があり、また厨房排水を多く扱う建物では油脂分を分離する阻集器の要否など、雑排水と汚水とで求められる処理が変わってきます。

したがって、地下階を計画する際には、まず「この排水はどの槽に入るのか」を系統ごとに整理し、汚水・雑排水・湧水(建物によってはさらに雨水)をそれぞれ独立した槽に分けて計画することが基本になります。小規模な建物では、厨房排水がほとんどない、あるいは槽の設置スペースに制約があるといった事情から、汚水槽と雑排水槽を一つの槽(合併排水槽)として扱う例もありますが、その場合でも湧水槽だけは別系統とするのが一般的な考え方です。湧水は水量・水質が汚水・雑排水と大きく異なるため、同じ槽で扱うとポンプの運転計画そのものが立てにくくなるためです。


湧水槽のしくみ――釜場・二重スラブと地下外壁からの浸透水処理

地下階を持つ建物では、地下外壁や底盤(耐圧盤)を通して、周辺の地下水がわずかにしみ出してくることがあります。この浸透水(湧水)をそのまま放置すると、地下ピットに水がたまり、コンクリートの劣化や設備機器の浸水につながるため、専用の湧水槽で受け止めてポンプアップする計画が必要になります。

湧水を効率よく槽まで導くための構法として、地下の床を二重構造にする「二重スラブ」がよく用いられます。上側のスラブを実際の床として使い、下側のスラブとの間の空間に浸透水を集め、勾配をつけてその空間を湧水槽(または湧水槽に至る集水経路)へ導く仕組みです。湧水槽自体の底部にも、ポンプが排水を吸い込みやすいようにわずかな窪み(釜場)を設け、そこに向かって勾配をつけるのが一般的な考え方です。

湧水槽の運転で意識しておきたいのが、ポンプの起動水位です。湧水は本来清浄な水ですが、槽内に長くとどまるとやはり腐敗が進み、悪臭や衛生害虫の発生源になり得ます。そのため、湧水槽ではポンプの起動水位を低め(二重スラブの床面付近以下)に設定し、水がたまりすぎる前にこまめにくみ上げて、槽内の滞留時間を短く保つという考え方が基本になります。具体的な起動水位は槽の容量やポンプの能力から個別に設定する事項であり、設計段階で条件をすり合わせておく必要があります。


ビルピット対策――槽内の腐敗と悪臭・硫化水素

排水槽は密閉された地下空間に排水を一時的にため込む構造であるため、汚水・雑排水が槽内に長時間滞留すると、嫌気的な環境の中で腐敗が進み、硫化水素をはじめとする悪臭物質が発生します。この排水槽やその周辺(いわゆるビルピット)が発生源となって、ポンプの排水時に公共汚水ますや周辺の道路から悪臭が漏れ出す問題は「ビルピット問題」と呼ばれ、都市部の下水道行政における課題の一つになってきました。

東京都は、こうしたビルピットからの悪臭問題を受けて「建築物における排水槽等の構造、維持管理等に関する指導要綱」(通称:ビルピット対策指導要綱)を昭和61年(1986年)に定め、排水槽の構造や維持管理のあり方について指導を行っています。同様の考え方に基づく指導・要綱は、他の自治体でも整備されている場合があります。指導要綱の趣旨は、槽内に排水をため込みすぎず、腐敗が進む前に計画的にくみ上げることで、悪臭の発生そのものを抑えるという点にあります。

具体的な改善の考え方として代表的なのが、ポンプの運転を水位(レベル)制御だけに任せず、一定時間ごとに強制的に排水するタイマー制御を併用する方式です。水位制御のみだと、排水量が少ない時間帯には水位がなかなか上限に達せず、結果として排水が長時間槽内にとどまってしまうことがあります。タイマー制御を併用しておけば、たとえ水位が上限まで達していなくても一定周期で強制排水が行われるため、滞留時間の上限を管理しやすくなります。このほか、油脂分を減らすための阻集器の設置、ばっ気・撹拌による腐敗抑制、補助ポンプの追加なども、既存の排水槽で悪臭が問題になった場合の改善策として挙げられています。東京都下水道局は公共汚水ますにおける気相中硫化水素濃度について指針値を示しており、こうした指針を踏まえて運転方法の見直しが求められる場合もあります。具体的な数値・運用は自治体ごとに異なるため、所轄の下水道部局への確認が前提になります。


排水ポンプの選定――用途別の羽根形状と自動交互運転

排水槽に設置するポンプは、受け入れる排水の性質に応じて羽根車の形状が使い分けられます。

用途 主な羽根車の考え方
汚物用(汚水槽) 固形物を含む排水を詰まらせずに通過させるため、羽根枚数を少なくし羽根の高さを大きくして通過空間を広くとった、いわゆるノンクロッグ形の羽根車が用いられることが多い
雑排水用(雑排水槽) 汚物用ほど大きな固形物は想定しないが、繊維くずや異物の通過性が求められるため、羽根車が直接異物に接触せず渦の力で送り出す渦流形(ボルテックス形)などが用いられる場合がある
湧水用(湧水槽) 固形物をほとんど含まない清水に近い水を扱うため、一般的な渦巻ポンプでも対応しやすい

口径・揚程の考え方そのものは他のポンプと同様で、必要な排水量に対する口径の選定や、実揚程に配管損失を加えた全揚程を基準に機種を選ぶという基本は、ポンプ・送風機の基礎で整理した考え方に準じます。排水槽の場合はこれに加えて、固形物・異物の通過性という観点が用途ごとの機種選定に強く関わってくる点が特徴です。

運転方式については、排水槽には通常2台のポンプを設置し、片方を主、もう片方を予備として、起動のたびに交互に運転させる自動交互運転とするのが一般的です。1台に運転が偏ると摩耗や故障のリスクが高まる一方、常に片方を待機させておくことで、点検・故障時にも排水機能を維持しやすくなります。さらに、流入量が多く水位が想定以上に上昇した場合には、2台を同時に運転して排水能力を引き上げ、満水・溢水を防ぐという制御も組み合わせるのが実務上の基本です。

水位の検知には、フロート式と電極式の2つの方式が使われます。フロート式は浮力で水位を検知するしくみで、構造が単純で広く普及していますが、繊維くずや油脂分が絡まると誤作動につながるおそれがあります。電極式は電極棒への通電の有無で水位を検知するしくみで、フロートのような可動部の絡まりは生じにくい一方、電極への油脂・スケールの付着による誤検知には注意が必要です。どちらの方式にも一長一短があり、扱う排水の性質(汚水・雑排水・湧水)や、維持管理のしやすさを踏まえて選定するという考え方になります。


通気設備と点検マンホール

排水槽は密閉された構造であるため、槽内で発生する臭気ガスや、ポンプの運転・停止に伴う水位変動による空気の出入りを逃がすための通気管を、単独で設ける必要があります。通気管は、他の系統と安易に兼用せず、居室の開口部や近隣の建物からできるだけ離れた、屋外の安全な位置まで立ち上げることが基本です。通気管の開口位置が不適切だと、せっかく槽内の腐敗を抑える運転をしていても、臭気が居室内や隣地に流れ込んでしまう原因になります。

点検マンホールは、ポンプやフロート・電極といった水位検知機器の点検・修理、清掃業者の出入りのために設ける開口部です。開閉や取り外しがしやすい構造とし、点検・清掃に支障のない有効な大きさを確保することが求められます。あわせて、臭気やねずみ・害虫の侵入を防ぐ密閉性の高い蓋を選ぶことも、実務では重視されるポイントです。

なお、排水槽内部の点検・清掃作業は、槽内に酸素濃度の低い空気や硫化水素が滞留している場合があり、酸欠や中毒のおそれがある危険な作業になり得ます。作業前の換気・酸素濃度や硫化水素濃度の測定など、労働安全衛生の観点からの対策が別途必要になる点も、維持管理計画を立てる際に押さえておきたい事項です。


建築物衛生法に基づく排水槽の清掃

「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(建築物衛生法、通称ビル管理法)では、一定規模以上の用途の建物を「特定建築物」と定め、建築物環境衛生管理基準の中で、排水に関する設備の維持管理について定めています。この基準では、排水に関する設備(排水槽を含む)の掃除を、6か月以内ごとに1回、定期的に行うことが求められています。

特定建築物に該当しない建物であっても、排水槽内の腐敗・悪臭・害虫の発生を抑えるという実務上の目的から、同程度の頻度で定期清掃を行うことが一般的です。清掃では、専門業者による槽内の汚泥・スカムの除去に加えて、ポンプやフロート・電極といった水位検知機器の点検もあわせて行われることが多く、清掃・点検の記録を保存しておくことも維持管理上重要です。浄化槽の維持管理における保守点検・清掃・法定検査という3本柱の考え方は浄化槽の基礎でも整理していますが、排水槽についても「設置して終わり」ではなく、定期的な清掃・点検が機能維持の前提になっている点は共通しています。


非常時対応――停電・満水警報

排水槽は、停電時にもポンプが停止することなく機能してこそ意味を持つ設備です。停電でポンプが止まっても槽への流入は止まらないため、水位は上昇を続け、対応が遅れれば最終的に溢水するおそれがあります。地下に電気室・機械室を持つ建物では、槽の溢水がそのまま電気設備の浸水被害につながりかねないため、非常用発電機の負荷にポンプを含めるかどうか、あるいは停電中の一定時間の滞留をどこまで許容できる容量にしておくかは、建物の重要度や地下階の用途に応じて計画段階から検討しておくべき事項です。

満水警報は、フロートまたは電極の最上位の検知点を使って、槽内の水位が危険な高さまで上がったことを中央監視室や管理人室などへ知らせる仕組みです。警報が発信された際にどう対応するか(ポンプの緊急点検、必要に応じたバキューム車の手配など)をあらかじめ維持管理マニュアルに定めておくことで、実際に警報が鳴ったときの初動対応が遅れずに済みます。地下階を持つ建物の維持管理計画では、日常の点検・清掃の頻度だけでなく、こうした非常時のシナリオと対応手順を具体的に決めておくことが実務上重要になります。


実務チェックリスト

  • 汚水・雑排水・湧水(・雨水)を、原則どおり別系統の槽に分けて計画しているか
  • 湧水槽は二重スラブ・釜場からの集水経路を確保し、滞留時間を短くする水位設定になっているか
  • 槽内排水の腐敗・悪臭を抑えるため、水位制御に加えてタイマー制御の併用など強制排水の考え方を取り入れているか
  • 排水ポンプは、汚物用・雑排水用・湧水用それぞれの用途に応じた羽根形状・通過性能で選定しているか
  • ポンプは自動交互運転とし、高水位時の同時運転・満水警報までを含めた制御を計画しているか
  • 通気管は他系統と兼用せず、居室・近隣から離れた屋外の安全な位置まで立ち上げているか
  • 点検マンホールは有効な大きさ・密閉性を確保し、点検・清掃作業の安全対策(換気・ガス濃度測定等)を維持管理計画に含めているか
  • 特定建築物に該当する場合、排水槽の清掃を6か月以内ごとに1回行う体制を整えているか
  • 停電時のポンプ停止・満水時の対応手順を維持管理マニュアルに具体的に定めているか

まとめ

  • 地下階の排水は自然流下できないため、排水槽にためてポンプでくみ上げる計画が基本になる
  • 排水槽は汚水槽・雑排水槽・湧水槽に分けるのが原則で、性質の異なる排水を混ぜないことが腐敗・悪臭の抑制につながる
  • 湧水槽は二重スラブ・釜場を通じて地下浸透水を集め、滞留時間を短くする水位設定で運転する
  • ビルピット対策では、水位制御にタイマー制御を併用した強制排水など、槽内滞留を短くする運転が悪臭・硫化水素対策の柱になる
  • 排水ポンプは用途別の羽根形状で選定し、自動交互運転・満水時同時運転・フロートや電極式の水位検知を組み合わせて計画する
  • 排水槽は建築物衛生法上、6か月以内ごとに1回の清掃が求められ、停電・満水といった非常時対応もあわせて維持管理計画に含めておく必要がある

地下階の排水計画は、槽を正しく分けること、湧水を早めに処理すること、槽内の滞留を短く保つこと、そして日常の点検・清掃を継続することという、いくつかの基本の積み重ねで成り立っています。具体的な槽の容量・水位設定・自治体の指導要綱への対応は現場条件によって異なるため、計画にあたっては所轄下水道部局・設計者との確認を前提に進めてください。


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