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工業用クリーンルームの基礎|清浄度クラスと気流方式の考え方

工場やラボの設備計画で「クリーンルームにしてほしい」と要望を受けたとき、その言葉が指している内容は現場によって大きく異なります。半導体工場が求める清浄度と、食品工場や医薬品工場が求める清浄度、精密機械の組立室が求める清浄度は、それぞれ管理したい対象(微粒子か、微生物か、静電気か)も求める精度も違うためです。工業用クリーンルームの設計は「何を・どのレベルで・どこまで」除去するのかを最初に定義することから始まる、と筆者は捉えています。

この記事では、清浄度クラスの考え方(ISO 14644-1・JIS B 9920)、乱流方式と一方向流方式という2つの気流方式の使い分け、室圧差によるゾーニングの基本、建築側・空調側それぞれに求められる仕様の要点を、建築設備士・施工管理の実務目線で整理します。医療施設の手術室・バイオクリーンルームについては、求められる管理の性質が異なるため、手術室・クリーンルーム空調の基礎で別途扱っています。この記事は半導体・電子部品・精密機械・食品・医薬品といった産業用途のクリーンルームを対象にしています。

なお、クリーンルームは対象業種・製品ごとに要求仕様が大きく異なる分野であり、実際の設計にあたっては発注者・設備メーカーとの綿密な打ち合わせが前提になります。この記事はあくまで基礎的な考え方の整理であり、具体的な清浄度クラス・室圧差の数値は必ず個別プロジェクトの要求仕様書で確認してください。


図で見る(全体像)

工業用クリーンルームの清浄度クラスの考え方と、乱流方式・一方向流方式の気流構成を示した模式図


早見まとめ

項目考え方・目安
清浄度クラスの表し方ISO 14644-1(JIS B 9920-1)でクラス1〜9に区分。数値が1つ上がるごとに許容粒子数のオーダーが1桁大きくなる(=クラス数字が小さいほど清浄)
気流方式乱流方式(非一方向流)と一方向流方式(層流)の2系統。高い清浄度を求めるほど一方向流方式が使われる傾向にある
室圧差によるゾーニング清浄度の高い室を周囲より陽圧にし、外部からの汚染空気の流入を防ぐのが基本の考え方
建築側の対応気密性の高い壁・天井、パーティクルの発生源になりにくい仕上げ材、段差のない床(バイオクリーンルームでは特に)
空調側の対応HEPA/ULPAフィルタによる高度なろ過、温湿度の高精度制御、頻繁な換気

清浄度クラスとは何を表しているか

クリーンルームの清浄度クラスは、単位体積の空気中に含まれる微粒子の数を基準にした分類です。国際規格のISO 14644-1、およびそれに整合する形で改訂されたJIS B 9920-1では、クラス1からクラス9までの区分が設けられており、クラスの数字が小さいほど清浄度が高い(許容される粒子数が少ない)ことを意味します。クラス数字が1つ上がるごとに、許容される粒子数のオーダーがおおむね1桁ずつ大きくなる、という考え方で整理しておくと理解しやすいと筆者は考えています。

半導体工場のように微細な回路パターンを扱う工程では非常に高い清浄度クラスが要求される一方、精密機械の組立や食品の充填工程では、それよりも緩やかなクラスで十分なケースもあります。どのクラスが必要かは業種・製品・工程によって大きく異なるため、発注者側の要求仕様書(あるいは製品の品質保証部門からの指示)を必ず確認したうえで設計に反映することが実務上の前提になります。


気流方式の使い分け:乱流方式と一方向流方式

クリーンルームの気流方式は、大きく乱流方式(非一方向流方式)一方向流方式(層流方式)の2つに分けて考えることができます。

乱流方式は、室内に給気した清浄空気を天井や壁の吹出口から供給し、室内で拡散・撹拌させながら粒子を薄めていく方式です。比較的緩やかな清浄度クラスの部屋で採用されることが多く、通常の空調システムに近い構成で実現できるため、イニシャルコスト・ランニングコストの面で扱いやすいという特徴があります。

一方向流方式は、天井全面または壁面から一定方向に空気を送り、室内の空気を一様な流れとして押し流すことで、発生した粒子がすぐに排気側へ運ばれるようにする方式です。天井全面からのダウンフロー(垂直層流)と、壁面からの水平層流があり、より高い清浄度クラスを求める場合や、作業者・設備からの発塵源が室内に多く存在する場合に採用される傾向にあります。一方向流方式は乱流方式に比べて必要な送風量が大きくなりやすく、設備コスト・エネルギーコストの両面で負担が大きくなる点も踏まえて、清浄度クラスと気流方式のバランスを検討する必要があります。

どちらの方式を選ぶかは、要求される清浄度クラスだけでなく、室内での発塵源の多さ(人の作業が多いか、自動化された設備中心か)、扱う製品のサイズ、コストの制約などを総合して判断されるものです。


室圧差によるゾーニングの基本

クリーンルームの汚染管理は、フィルタでろ過した清浄空気を送り込むだけでなく、室間の圧力差(室圧差)を利用して、汚染された空気が清浄度の高い室へ逆流しないようにするという考え方でも成り立っています。

基本的な考え方は、清浄度の高い室ほど周囲よりも室内圧力を高く(陽圧に)保ち、扉の開閉時や隙間からの空気の流れを「清浄な室から汚染度の高い室へ」向かわせることです。クリーンルームへの入退室動線には前室(エアシャワーや更衣室を兼ねる緩衝空間)を設け、清浄度の異なる区画のあいだで段階的に圧力を変化させる多段階ゾーニングが一般的な考え方になります。

一方で、可燃性ガスや溶剤を扱う工程など、室内で発生する物質を外部に漏らしたくない場合には、逆に室内を周囲より低い圧力(負圧)に保つ設計になることもあります。陽圧にするか負圧にするかは、何を室内に入れたくないか、何を室外に出したくないかという目的によって逆転しうるという点は、設計初期に発注者と必ずすり合わせておきたいポイントです。


建築・空調それぞれに求められる仕様

工業用クリーンルームの実現には、空調設備だけでなく建築側の仕上げ・構造にも独自の配慮が求められます。

分野求められる配慮
壁・天井気密性が高く、目地・継ぎ目からの粒子の発生や空気の漏れが少ない仕上げ(パネル方式が多用される)
帯電防止性能や、清掃のしやすさ、段差のなさ(特にウェハ搬送などがある半導体工場)
開口部扉・窓の気密性、エアシャワーなど前室での粒子除去の仕組み
空調HEPAフィルタ・ULPAフィルタによる高度なろ過、温湿度の高精度制御、室圧差を維持するための給排気バランスの管理
電気・弱電静電気対策(帯電防止床・除電設備)、精密機器のノイズ対策としての電源品質管理

これらは単独の設備分野で完結するものではなく、建築・空調・電気の各担当者が清浄度クラスという共通の目標に向けて仕様をすり合わせていく、分野横断的な調整が前提になる分野だと筆者は考えています。加えて、クリーンルームは竣工後の維持管理も重要です。フィルタの目詰まりは送風量の低下や室圧差の乱れにつながるため、定期的な差圧計・粒子カウンタでの確認と、フィルタ交換のサイクルをあらかじめ運用計画に組み込んでおく必要があります。人の出入りが多い前室・更衣室のエアシャワー時間や、搬入出時のパスボックス運用のルール化も、清浄度を長期的に維持するうえで欠かせない要素です。


実務での判断

クリーンルームの計画は、初期の要求仕様の決め方によってその後のコストとメンテナンス性が大きく左右されます。実務では、要求される清浄度クラスを「必要以上に厳しく」設定してしまうと、初期投資・運用コストの両方が跳ね上がるため、本当に必要なクラスがどこまでかを、製品品質・歩留まりへの影響という観点から発注者と丁寧にすり合わせることが重要になります。また、将来の生産ラインの増設・変更を見込んで、空調設備にどの程度の余裕を持たせておくかも、計画段階で議論しておきたい論点です。

よくある誤解

「クリーンルーム=清浄な空気を送り込む部屋」という理解は間違いではありませんが、それだけでは不十分です。清浄な空気を送り込んでも、室内で作業する人や設備が粒子を発生させ続ける限り清浄度は維持できません。クリーンルームの設計は「発塵源をどう管理するか」と「発生した粒子をどう排出するか」をセットで考える必要があるという点は、押さえておきたい基本です。また、「清浄度クラスの数字が小さいほど良い部屋」という理解も、目的次第では誤解につながります。過剰な清浄度は不要なコストを生むだけであり、あくまで製品・工程が求める水準に合わせることが設計の出発点です。


コスト・エネルギーの考え方

工業用クリーンルームは、一般の空調設備と比べて送風量・フィルタのグレード・温湿度制御の精度がいずれも高くなるため、イニシャルコスト・ランニングコストの両面で負担が大きくなりやすい設備です。特に一方向流方式を採用する場合、室内の空気を頻繁に入れ替える必要があるため、搬送動力(ファン)にかかるエネルギーが室全体のエネルギー消費の中で大きな割合を占める傾向があります。

近年は、清浄度クラスを室全体で一律に高く保つのではなく、本当に高い清浄度が必要な工程だけを局所的なクリーンブース・アイソレータで囲い、周辺の室は緩やかなクラスにとどめるという「ミニエンバイロメント」の考え方も広く使われるようになっています。室全体を高クラス化するよりも初期投資・運用コストを抑えられる場合があるため、計画の初期段階で検討する価値のある選択肢の一つです。空調の搬送動力を抑える工夫としては、当サイトの全熱交換器の基礎で扱っている排熱回収の考え方も参考になります。

よくある質問

清浄度クラスは施工後に測定して確認するのですか?

清浄度クラスは、施工が完了し、必要な設備が稼働した状態で実際に浮遊粒子数を測定して確認するのが基本です。空室の状態、設備は稼働しているが人がいない状態、実際に稼働・作業している状態など、複数の条件で清浄度を評価する考え方があり、どの状態を基準にするかは発注者の要求仕様によって異なります。測定方法の詳細はJIS B 9920-1などの規格に基づいて行われるため、実務では専門の測定業者に依頼するのが一般的です。

温湿度の管理はクリーンルームでも必要ですか?

多くの工業用クリーンルームでは、清浄度だけでなく温湿度の高精度な管理も同時に求められます。半導体製造のように寸法精度がわずかな温度変化の影響を受ける工程や、静電気の発生が湿度に左右される工程では、清浄度クラスと同じくらい温湿度の安定性が重要になります。要求仕様書に清浄度クラスしか記載がない場合でも、温湿度の許容範囲について発注者に確認しておくことをおすすめします。


まとめ

  • 清浄度クラスはISO 14644-1(JIS B 9920-1)でクラス1〜9に区分され、数字が小さいほど清浄度が高い
  • 気流方式には乱流方式(非一方向流)と一方向流方式(層流)があり、要求される清浄度クラスや発塵源の多さで使い分けられる
  • 室圧差によるゾーニングは、清浄度の高い室を陽圧に保つのが基本だが、可燃性ガス等を扱う室では逆に負圧設計になることもある
  • 建築側の気密性・仕上げ材、空調側の高度なろ過・温湿度制御、電気側の静電気対策など、複数分野の調整が前提になる
  • 要求される清浄度クラスは業種・製品・工程で大きく異なるため、発注者の要求仕様書を必ず確認したうえで設計に反映する必要がある

あわせて読みたい

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