加圧防煙システムの基礎|特別避難階段の付室・非常用エレベーターロビーの給気加圧
排煙設備というと、火災で発生した煙を屋外へ吸い出す「機械排煙」や「自然排煙」をイメージする方が多いのではないでしょうか。しかし特別避難階段の附室や、非常用エレベーターの乗降ロビーでは、これとは発想の異なる「加圧防煙」という仕組みが使われることがあります。煙を吸い出すのではなく、階段室や附室の中に空気を送り込んで室内の気圧を周囲より高く保ち、煙が入り込む隙をつくらないという考え方です。
この記事では、加圧防煙がどのような場所で使われる仕組みなのか、機械排煙との発想の違い、建築基準法令上の位置づけ、そして仕様ルート・大臣認定による方法という2つの適合の考え方を、一級建築士試験の環境・設備科目でも扱われる基礎知識として整理します。排煙設備そのものの仕組みは排煙設備の計画、避難施設全体の考え方は避難施設の基礎で扱っていますので、あわせて参照してください。数値・条文の解釈が絡む部分は、実際の設計にあたって必ず特定行政庁・確認検査機関、設計者との協議で確認してください。
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早見まとめ
| 項目 | 考え方の要点 |
|---|---|
| 加圧防煙の考え方 | 附室・ロビーに給気して周囲より気圧を高く保ち、煙の侵入そのものを防ぐ方式 |
| 機械排煙との違い | 排煙は煙を「吸い出す」、加圧防煙は空気を「送り込んで押し返す」という逆方向の発想 |
| 主な対象箇所 | 特別避難階段の階段室・附室、非常用エレベーターの乗降ロビー |
| 根拠法令の位置づけ | 建築基準法施行令第123条(特別避難階段の構造)、第129条の13の3(非常用の昇降機の構造)に関連する国土交通大臣が定める構造方法・認定 |
| 適合方法 | 定められた仕様どおりに設ける方法と、大臣認定を受けた加圧防排煙設備による方法の大きく2通りがある |
加圧防煙とは何か:排煙とは逆方向の発想
火災時に階段や避難経路へ煙が流入すると、視界が奪われて避難が困難になるだけでなく、消防隊の活動の妨げにもなります。この煙の流入を防ぐための考え方には、大きく分けて2つの方向性があります。
1つは、煙が発生した室・区画の中にとどめて、機械や自然の力で屋外へ排出する排煙の考え方です。防煙区画で煙をせき止め、排煙口・排煙機で吸い出すという仕組みで、排煙設備の計画で扱っている内容がこれにあたります。排煙は、煙が発生した居室・廊下側で完結する対策であり、隣接する避難経路までは踏み込まない考え方だといえます。
もう1つが、この記事で扱う加圧防煙です。階段室や附室、非常用エレベーターのロビーといった「避難・消防活動のための逃げ道」となる空間に、送風機で外気を給気し続けることで、その空間の気圧を周囲の廊下・居室よりわずかに高く保ちます。気圧の高い場所から低い場所へ空気が流れるという原理を利用し、煙を含んだ空気が附室・階段室の中へ入り込もうとしても、内側から押し返される形になり、煙の侵入自体を防ぐという発想です。
排煙が「発生した煙をどう外へ出すか」という後始末の発想であるのに対し、加圧防煙は「そもそも煙を入れない」という予防的な発想である点が、両者の大きな違いです。
加圧防煙が使われる代表的な場所
避難経路の安全性は、単に「歩ける空間があるか」だけでなく、「その空間に煙が入り込まずに、視界と呼吸できる空気が確保され続けるか」という点に大きく左右されます。加圧防煙の考え方が使われる代表的な箇所は、次の2つです。
特別避難階段の附室は、高層建築物や地下階の避難経路として設けられる特別避難階段の一部です。建築基準法施行令第123条では、屋内と階段室とをバルコニーまたは附室を通じて連絡させること、そして附室を通じて連絡する場合には、通常の火災で生じる煙が附室を通じて階段室に流入することを有効に防止できる構造とすることが求められています。この「有効に防止できる構造」の具体的な方法の1つが、加圧防煙です。
非常用エレベーターの乗降ロビーも同様の考え方が求められる箇所です。非常用エレベーターは、火災時に消防隊が消火・救助活動の拠点として使う設備であり、建築基準法施行令第129条の13の3で構造の基準が定められています。乗降ロビーに煙が流入すると、消防隊の活動拠点としての機能が損なわれるため、こちらでも排煙上有効な開口や排煙設備、あるいは加圧防煙による煙の侵入防止が求められます。
いずれも「人が一時的に煙から守られながら避難・活動できる場所を確保する」という目的は共通しており、対象が階段室・附室か、エレベーターロビーかという違いがあると捉えると理解しやすくなります。
適合方法:仕様に沿う方法と大臣認定による方法
附室・階段室・乗降ロビーの煙侵入防止をどう実現するかについては、大きく分けて次の2つの方向性があります。
| 方法 | 考え方 |
|---|---|
| 定められた仕様に沿う方法 | 国土交通大臣が定める構造方法(告示)に示された、排煙上有効な開口の面積や、天井・壁の仕上げを不燃材料とするといった仕様にそのまま適合させる方法 |
| 大臣認定による加圧防排煙設備 | 送風機による給気加圧を用いた加圧防排煙設備として、個別に国土交通大臣の認定を受けた設備を設ける方法 |
告示で示された仕様に単純に適合させる方法は、排煙上有効な開口(バルコニーに面する開口など)を確保できる計画であれば選びやすい方法です。一方、高層建築物や地下階などで、こうした開口を十分に確保できない計画の場合には、送風機を用いた加圧防排煙設備を設け、大臣認定を受けるという方法が選ばれます。加圧防排煙設備を設ける場合、附室に設ける給気口などの煙に接する部分は不燃材料でつくることが求められるなど、材料面での基準もあわせて定められています。
どちらの方法を選ぶかは、建物の階数・規模、開口を確保できる立地条件、意匠計画との整合によって変わるため、基本設計の早い段階で構造・意匠・設備・確認検査機関を交えて方針を決めておく必要があります。
設備実務での注意点
加圧防煙システムを計画する際、実務で押さえておきたい視点をいくつか挙げます。
- 送風機と給気風道の確保:加圧防排煙設備には給気用の送風機と、そこから附室・ロビーまで空気を導く給気風道(ダクト)が必要です。機械室や竪穴区画のスペースを、意匠・構造計画の早い段階で確保しておく必要があります。
- 非常電源との連携:加圧防煙のための送風機は、火災時に確実に作動する必要があるため、非常電源(自家発電設備等)からの給電が前提になります。非常用の電源計画については予備電源・非常用自家発電の基礎もあわせて確認してください。
- 他設備との区画調整:附室・乗降ロビーは、他の空調・換気ダクトとは独立した系統として計画されるのが一般的で、天井裏のスペース配分や防火区画の貫通処理を含めて、早期に関連設備と調整しておくことが望ましいと筆者は考えています。
- 維持管理:加圧防煙のための送風機・ダンパー類は、火災時にしか作動しない設備であるため、定期的な点検・作動試験によって、いざというときに確実に機能する状態を維持する必要があります。
加圧防煙は仕様・数値の判断が専門的で、条文の解釈も建物の条件によって幅があるため、実際の設計にあたっては特定行政庁・確認検査機関、構造・意匠設計者との早期の協議が欠かせません。
竪穴区画・他の防煙設備との関係
附室・階段室・非常用エレベーターロビーは、いずれも建物の中で火災時に上下階へ煙や炎が広がることを防ぐ「竪穴区画」の考え方とも密接に関わる空間です。竪穴区画の防火戸・防火設備がしっかり機能していても、区画の中に煙が侵入してしまえば、避難経路としての安全性は損なわれてしまいます。加圧防煙は、この竪穴区画の防火性能を、煙の侵入という切り口から補完する仕組みと捉えると理解しやすくなります。
また、建物全体では、居室や廊下の排煙設備、附室・階段室の加圧防煙、そして自動火災報知設備・非常放送設備といった他の防災設備が、それぞれ異なる役割を持ちながら連携して避難安全を支えています。加圧防煙だけを単独で検討するのではなく、建物全体の防災計画の中でどう位置づけられるかを、意匠・構造・電気・機械の各設計者が共有しておくことが重要です。
実務チェックリスト
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象箇所の洗い出し | 特別避難階段の附室、非常用エレベーターロビーのうち、加圧防煙の検討が必要な箇所を早期に特定する |
| 適合方法の方針決定 | 排煙上有効な開口を確保できるか、大臣認定の加圧防排煙設備が必要かを基本設計段階で判断する |
| 機械室・風道スペースの確保 | 給気送風機・風道に必要なスペースを構造・意匠計画に反映する |
| 非常電源との連携 | 送風機が非常電源から給電される計画になっているか確認する |
| 材料仕様の確認 | 給気口等の煙に接する部分が不燃材料で計画されているか確認する |
| 維持管理体制 | 竣工後の定期点検・作動試験の実施体制を管理計画に組み込む |
よくある質問
排煙設備と加圧防煙は両方とも同じ建物に必要になりますか
居室や廊下には排煙設備、特別避難階段の附室や非常用エレベーターロビーには加圧防煙(または排煙上有効な開口)というように、場所によって求められる防煙の考え方が異なります。同じ建物の中で両方の仕組みが併存するのが一般的で、それぞれの対象箇所・目的を混同しないことが実務上のポイントです。
加圧防煙設備は竣工後どのように維持管理すればよいですか
加圧防煙のための送風機・ダンパー類は、火災時以外はほとんど作動しない設備であるため、法定の点検・維持管理計画に基づいて定期的な作動確認を行い、いざというときに確実に機能する状態を保つ必要があります。具体的な点検周期・方法は、設備の仕様や所轄消防署・特定行政庁の指導内容に従って計画してください。
まとめ
- 加圧防煙は、附室・階段室・非常用エレベーターロビーに給気して気圧を高く保ち、煙の侵入そのものを防ぐ仕組みである
- 煙を吸い出す排煙設備とは、発想の方向が逆である点が最大の違い
- 特別避難階段の附室(施行令第123条)と非常用エレベーターの乗降ロビー(施行令第129条の13の3)が代表的な対象箇所
- 適合方法には、告示で定められた仕様に沿う方法と、送風機を用いた加圧防排煙設備として大臣認定を受ける方法がある
- 送風機・給気風道のスペース確保、非常電源との連携、他設備との区画調整、竣工後の定期点検が実務上のポイントになる
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