動力消防ポンプ設備の基礎|屋内消火栓等に代わる消火設備の考え方
消火設備というと、建物に固定された屋内消火栓やスプリンクラー設備をイメージする方が多いと思いますが、消防法令上は、これらとは性格の異なる「動力消防ポンプ設備」という消火設備も定められています。動力消防ポンプ設備は、建物に固定配管された設備ではなく、可搬式のポンプを消防水利のそばに据え付けて放水するという、屋内消火栓等とは異なる考え方の設備です。消火設備の全体像の中では出番の少ない存在ですが、駐車場や倉庫、臨時的な使用形態の建物など、固定配管になじみにくい場面で選択肢に入ってくる、実務上知っておきたい設備の一つです。
この記事では、動力消防ポンプ設備がどのような位置づけの消火設備なのか、消防法施行令第20条に基づく放水量の区分と水源までの距離基準、そしてどのような建物・場面で採用が検討されるのかを整理します。屋内消火栓・屋外消火栓との違いや消火設備全体の使い分けについては消火設備の使い分けの基礎、消防水利・防火水槽の基礎については消防水利・防火水槽の基礎であわせて扱っていますので、この記事では動力消防ポンプ設備そのものの仕組みと基準に絞って解説します。
図で見る(全体像)
早見まとめ
| 項目 | 考え方の要点 |
|---|---|
| 位置づけ | 消防法施行令上、屋内消火栓設備等に代えて設置が認められる消火設備の一つ |
| 構成 | 可搬式(または車載式)の動力消防ポンプ、消防用ホース、消防水利(防火水槽・プール等)の組み合わせ |
| 放水量の基準 | 令別表第一の対象物に応じ、規格放水量0.2㎥/分以上または0.4㎥/分以上であることが求められる(消防法施行令第20条) |
| 水源までの水平距離 | 規格放水量0.5㎥/分以上は100m以下、0.4〜0.5㎥/分未満は40m以下、0.4㎥/分未満は25m以下が目安 |
| 水源の水量 | 規格放水量で20分間放水できる量(上限20㎥)以上を確保することが求められる |
動力消防ポンプ設備とは何か
動力消防ポンプ設備は、消防法令が定める消火設備の一区分で、建物に固定配管された消火栓とは異なり、可搬式の動力ポンプを消防水利のそばに据え付けて放水するという考え方の設備です。屋内消火栓設備やスプリンクラー設備が、あらかじめ建物内に配管・水源・ポンプ一式を固定して備えるのに対して、動力消防ポンプ設備は、いざというときにポンプを消防水利まで運び、そこから消防用ホースを延長して放水するという運用が前提になります。
消防法令上、一定規模以下の防火対象物では、屋内消火栓設備等の代わりに動力消防ポンプ設備を設置することが認められています。固定式の消火設備を設けるほどの規模ではない建物や、駐車場・倉庫のように大規模な配管設備を常設しにくい用途で、代替の消火手段として選択肢に入る設備です。この「代替」という位置づけを理解しておくと、なぜ屋内消火栓設備の解説の中で動力消防ポンプ設備が登場するのか、法令の建て付けが見えやすくなります。
消防法施行令第20条の基準:放水量と水源距離
動力消防ポンプ設備の技術上の基準は、消防法施行令第20条に定められています。ポイントは大きく分けて「放水量の区分」と「消防水利までの距離」の2つです。
放水量の区分は、対象となる防火対象物・建築物の区分に応じて、規格放水量が0.2立方メートル毎分以上、または0.4立方メートル毎分以上であることが求められます。規格放水量は、動力消防ポンプの技術上の規格を定める省令に基づいて定められた性能値で、対象物の用途・規模によってどちらの基準が適用されるかが変わります。
水源までの水平距離は、規格放水量の大きさに応じて次のように区分されています。
| 規格放水量 | 水源までの水平距離の目安 |
|---|---|
| 0.5㎥毎分以上 | 100m以下 |
| 0.4㎥毎分以上0.5㎥毎分未満 | 40m以下 |
| 0.4㎥毎分未満 | 25m以下 |
これは、防火対象物の各部分から消防水利までの距離を、ホースを延長して届く範囲として定めたものです。規格放水量が大きいポンプほど、より長いホースで遠くの水利からでも放水できるという考え方が背景にあります。
さらに、水源そのものの水量についても基準があり、規格放水量で20分間放水し続けられる水量(その量が20立方メートルを超える場合は20立方メートル)以上を確保することが求められます。20分間という時間は、初期消火から後続の消防隊の到着・活動開始までを見込んだ目安といえます。
動力消防ポンプ設備が選ばれる場面
動力消防ポンプ設備は、次のような場面で検討されることがあります。
- 屋内消火栓設備等の設置義務がある建物のうち、一定の要件を満たす場合の代替手段として。固定配管の設置・維持コストを抑えたい場合や、既存建物の改修で大規模な配管更新を避けたい場合に選択肢となります。
- 駐車場・資材置場・臨時的な使用形態の建物など、常設の消火配管になじみにくい用途で。
- 消防水利が敷地内・近隣に確保しやすい立地であること。防火水槽やプール、河川・海などの自然水利が近くにある場合、動力消防ポンプ設備の運用がしやすくなります。
一方で、動力消防ポンプ設備は、火災発生時に人がポンプを運び、ホースを延長して活動を開始するという運用が前提になるため、初期消火の即応性という点では固定式の屋内消火栓設備等に劣る面があります。ポンプの搬送・接続・始動に一定の時間がかかることや、操作に習熟した人員が現場に居合わせる必要があることを踏まえると、在館者の人数が多く初期消火の即応性が重視される建物では、固定式の設備の方が適していると判断されるケースも少なくありません。どちらの設備を選ぶかは、建物の用途・規模・利用形態、そして所轄消防署との協議によって判断されるべき事項であり、一律に優劣を決められるものではありません。
実務での注意点
動力消防ポンプ設備を計画・維持管理する際に押さえておきたい点を整理します。
- 消防水利の確保と表示:動力消防ポンプ設備の前提となる消防水利(防火水槽・プール等)が、実際にホースの延長範囲内に確保されているかを、敷地計画の段階で確認する必要があります。消防水利の基準は消防水利・防火水槽の基礎で扱っています。
- 保管場所とホースの管理:可搬式のポンプ・ホースは、常設の消火栓のように壁の中に収まっているわけではないため、すぐに取り出せる保管場所を確保し、定期的な点検・整備を行う必要があります。
- 操作要員の確保:固定式の消火設備よりも、始動・接続・放水までの操作に人手と手順の習熟が必要になるため、防火管理・自衛消防訓練の中で操作方法を確認しておくことが望まれます。防火管理制度全体の考え方は防火管理・防炎規制の基礎であわせて確認してください。
- 所轄消防署との事前協議:動力消防ポンプ設備の設置が認められる要件は、対象物の用途・規模によって細かく分かれるため、計画段階で所轄消防署に確認し、設置届出等の手続きを適切に進める必要があります。
動力消防ポンプの種類と点検の考え方
動力消防ポンプには、可搬式(人力で運搬するタイプ)のほか、車両に積載した状態で運用する車載式もあります。可搬式は倉庫や機械室に保管しておき、必要なときに人力で消防水利のそばまで運搬するのに対し、車載式は自衛消防組織の車両にあらかじめ積載しておく形で運用されます。建物の規模・自衛消防組織の体制によって、どちらの運用形態が現実的かが変わってきます。
いずれの形式でも、動力消防ポンプは消防用設備等の一つとして、法定の点検・報告の対象になります。点検の種類や報告の周期といった全体の枠組みは消防用設備等の点検・報告の基礎で扱っていますので、あわせて確認してください。ポンプ本体はエンジンやモーターで駆動する機械設備であるため、消防用設備の点検に加えて、燃料・オイル・始動性といった原動機そのものの保守も定期的に行う必要があります。
実務チェックリスト
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象物の適用区分 | 動力消防ポンプ設備の設置が認められる要件に該当するか、所轄消防署に確認する |
| 規格放水量の選定 | 対象物の区分に応じた放水量(0.2または0.4㎥毎分以上)を満たす機種を選定する |
| 水源までの距離 | 防火対象物の各部分から消防水利までの水平距離が、規格放水量に応じた基準以内に収まっているか確認する |
| 水源の水量 | 規格放水量で20分間放水できる水量(上限20㎥)を確保しているか確認する |
| 保管・搬出動線 | ポンプ・ホースの保管場所から消防水利までの搬出経路が確保されているか確認する |
| 操作訓練の実施 | 自衛消防組織による定期的な操作訓練・点検体制が計画されているか確認する |
よくある質問
動力消防ポンプ設備があれば屋内消火栓設備はまったく不要になりますか
一律に不要になるわけではありません。動力消防ポンプ設備が屋内消火栓設備等の代替として認められるのは、対象物の用途・規模等が一定の要件を満たす場合に限られます。実際にどちらの設備が必要か、あるいは代替が認められるかは、所轄消防署による個別の判断・協議が前提になります。
消防水利が敷地内になくても動力消防ポンプ設備は設置できますか
消防水利までの距離基準を満たす必要があるため、敷地内または近隣に、基準を満たす消防水利(防火水槽・プール・河川等)が確保できることが前提になります。近隣に適した水利がない場合は、動力消防ポンプ設備の採用自体が難しくなるため、計画の早い段階で消防水利の有無を確認しておく必要があります。
まとめ
- 動力消防ポンプ設備は、可搬式のポンプと消防水利を組み合わせて放水する、屋内消火栓設備等に代わる消火設備の一区分である
- 消防法施行令第20条で、規格放水量の区分(0.2または0.4㎥毎分以上)と、水源までの水平距離基準(100m/40m/25m)が定められている
- 水源の水量は、規格放水量で20分間放水できる量(上限20㎥)以上を確保することが求められる
- 固定配管の設置コストを抑えたい場合や、駐車場・資材置場など常設配管になじみにくい用途で代替手段として検討される
- ポンプ・ホースの保管管理、操作要員の習熟、所轄消防署との事前協議が実務上のポイントになる
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