空気環境測定の基礎|建築物衛生法の基準と2か月ごとの測定
事務所ビルや百貨店などの大きな建物では、2か月に1回のペースで室内の空気を測定し、決められた基準の範囲に収まっているかを確認する義務があります。これは建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)が定める仕組みで、対象になるのは延べ面積が一定規模以上の「特定建築物」です。
この測定は、CO2濃度や温度・湿度など、日常業務ではあまり意識しない項目を定期的に数値で確認する制度です。実務では「なぜ2か月ごとなのか」「なぜこの項目が不適合になりやすいのか」を理解していないと、測定結果が出ても対応の優先順位を判断しづらくなります。この記事では、特定建築物の対象範囲、空気環境6項目の基準値(2022年の改正内容を含む)、測定の実務、不適合が多い項目とその改善の考え方、そして測定・維持管理を統括する建築物環境衛生管理技術者の役割までを整理します。
早見まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度の根拠 | 建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律) |
| 対象(特定建築物) | 事務所・店舗・百貨店・興行場・集会場・図書館・博物館・美術館・遊技場・旅館・学校(研修所含む)等の用途で延べ面積3,000㎡以上 |
| 対象(学校)※学校教育法第1条の学校・幼保連携型認定こども園 | 延べ面積8,000㎡以上 |
| 測定頻度 | 2か月以内ごとに1回(年6回程度) |
| 測定項目 | 浮遊粉じん・一酸化炭素(CO)・二酸化炭素(CO2)・温度・相対湿度・気流の6項目+ホルムアルデヒド |
| 測定場所 | 通常の使用時間中に、各階ごと・居室の中央部(床上0.75〜1.5m)を基本とする |
| 統括する資格者 | 建築物環境衛生管理技術者(免状保有者から選任義務) |
特定建築物とは:対象になる用途と延べ面積
建築物衛生法が適用される「特定建築物」は、すべての建物が対象になるわけではありません。用途と延べ面積の両方が条件を満たした建物だけが対象になります。
| 区分 | 対象用途の例 | 延べ面積の基準 |
|---|---|---|
| 一般の特定建築物 | 事務所、店舗、百貨店、興行場、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場、旅館、学校(研修所を含む) | 3,000㎡以上 |
| 学校教育法第1条の学校・幼保連携型認定こども園 | 幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、高等専門学校 | 8,000㎡以上 |
同じ「学校」という言葉でも、学校教育法第1条に規定される正規の学校(幼稚園〜大学等)は基準が緩和されて8,000㎡以上とされている一方、研修所のように学校教育法第1条の学校に該当しない教育施設は、一般の用途と同じ3,000㎡以上の基準が適用されます。この違いは実務でも見落としやすいポイントで、対象になるかどうかの判断は所轄の保健所(自治体の生活衛生担当部署)への確認が前提になります。
また、1棟の建物に複数の用途が混在する複合ビルでは、特定用途に供される部分の延べ面積を合算して判定するのが基本的な考え方です。テナントの入れ替わりで用途構成が変わり、特定建築物の要件を新たに満たす(あるいは外れる)こともあるため、竣工時だけでなく用途変更のたびに該当性を確認する必要があります。
なお、建築基準法第12条に基づく建築設備・防火設備の定期検査(建築基準法12条の定期報告の基礎)は、建築物衛生法の空気環境測定とは根拠法も対象も異なる別制度です。どちらも「定期的な検査・測定」という点で似ているため実務では混同されがちですが、対象建物や報告先が異なる点に注意が必要です。
空気環境の管理基準:6項目と2022年改正の内容
特定建築物の所有者等には、「建築物環境衛生管理基準」に沿って空気環境を維持する義務があります。この基準の中核が、次の空気環境6項目です。
| 項目 | 基準値 |
|---|---|
| 浮遊粉じんの量 | 0.15mg/m³以下 |
| 一酸化炭素(CO)の含有率 | 6ppm以下 |
| 二酸化炭素(CO2)の含有率 | 1,000ppm以下 |
| 温度 | 18℃以上28℃以下 |
| 相対湿度 | 40%以上70%以下 |
| 気流 | 0.5m/s以下 |
これに加えて、新築・増築・大規模の修繕または模様替えを行った建物では、ホルムアルデヒドの量(0.1mg/m³以下)も基準の対象です。ただしホルムアルデヒドは、他の6項目のように2か月ごとに継続測定する項目ではなく、建物の使用を開始した直後の一定期間(6月1日から9月30日までの間)に1回測定すれば足りる、という扱いになっている点が実務上の大きな違いです。
これらの基準値は、2022年4月の施行規則改正で一部が見直されています。一酸化炭素の基準は、それまでの10ppm以下から6ppm以下へ強化され、温度の下限も17℃以上から18℃以上へ引き上げられました。いずれもWHO(世界保健機関)の室内空気質に関する知見などを踏まえた見直しとされています。過去の資料や試験問題集には改正前の数値(CO 10ppm、温度17℃)が残っていることがあるため、実務・学習のいずれでも、参照している資料が改正後の基準に対応しているかを必ず確認してください。
なお、CO2濃度がなぜ管理指標として重視されるのかという考え方は、室内空気環境の基礎で整理した「在室者の呼吸量を反映する代理指標」という考え方がそのまま当てはまります。
測定の実務:頻度・測定場所・測定方法
空気環境測定は、2か月以内ごとに1回(年6回程度)の頻度で実施することが定められています。測定は、特定建築物の通常の使用時間中に、各階ごとに、居室の中央部、床上おおむね0.75m以上1.5m以下の高さで行うのが基本的な考え方です。1つの階に複数の居室がある場合、居室の用途や面積構成をふまえて代表となる測定点を選ぶことになります。
浮遊粉じん・一酸化炭素・二酸化炭素の3項目は、1日のうち2回(始業から中間の時間帯に1回、中間から終業前の時間帯に1回など)測定し、その平均値を基準値と照らし合わせて適合性を判定する扱いです。温度・相対湿度・気流についても、実務では同様のタイミングで測定・記録されることが多いものの、測定回数の細かな運用は建物や測定業者によって差があるため、具体的な測定計画は測定を委託する事業者・所轄保健所の指導内容に沿って確認するのが確実です。
測定を実施するのは、多くの場合、空気環境測定の実績を持つ専門業者です。測定結果は記録として保存し、保健所からの報告徴収や立入検査の際に提示できるようにしておく必要があります。測定結果が基準に適合しない場合は、原因を調べたうえで改善措置を講じ、その記録も残しておくことが、実務上のトラブルを避けるポイントになります。
不適合が多い項目とその背景:CO2と湿度
空気環境測定の結果を建物ごとに見ていくと、6項目すべてが一様に不適合になるわけではなく、特定の項目に不適合が偏る傾向があります。実務でとくに注意が必要とされるのが、二酸化炭素(CO2)と相対湿度です。
CO2が基準(1,000ppm以下)を超えやすいのは、在室人数に対して換気量が不足している場合です。会議室や研修室のように、短時間に人が集中する部屋では、設計時に想定した換気量を在室密度が上回り、一時的にCO2濃度が基準を超えることがあります。改善の基本的な考え方は、外気導入量そのものを見直すか、CO2濃度に応じて換気量を増減させる制御(CO2連動換気)を取り入れることです。
相対湿度は、とくに冬季に下限の40%を下回る不適合が目立つ傾向があります。冬の外気はもともと含む水蒸気量(絶対湿度)が少なく、これを暖房で温めると相対湿度はさらに下がります。この現象と、加湿設備の能力不足・維持管理上の課題との関係については、加湿・除湿設備の基礎で詳しく整理しています。温度は比較的コントロールしやすい一方、湿度は基準を満たし続けることが難しい項目である、という認識を持っておくと、測定結果を見たときの優先順位づけがしやすくなります。
改善の考え方:外気量の見直しと加湿設備の維持管理
空気環境測定で不適合が続く場合、対症療法的に一時しのぎの対応をするのではなく、原因に応じた設備側の見直しを検討することが基本になります。
CO2の不適合に対しては、まず現状の外気導入量が在室人数に対して十分かを確認します。設計時と現在の使用実態(レイアウト変更・在室人数の増加など)にずれが生じていないかを点検し、必要に応じて外気量の見直しや換気設備の増強を検討します。外気を取り入れる際の熱負荷を抑えたい場合には、全熱交換器の基礎で整理した熱回収の考え方も、換気量確保と省エネの両立を検討するうえで参考になります。
湿度の不適合に対しては、加湿設備の能力そのものが導入外気量に見合っているかの確認に加え、原水の水質管理や加湿エレメント・ノズルの清掃といった日常の維持管理が、実際に発揮できる加湿能力を大きく左右します。加湿方式ごとの特徴や、冬季に加湿不足が起きやすい仕組みの詳細は、加湿・除湿設備の基礎を参照してください。過加湿による結露リスクとのバランスも含め、目標湿度を基準の下限(40%)付近に置きながら、外気条件・断熱性能とセットで検討するのが実務の考え方です。
いずれの改善策も、設備の増強だけで解決するとは限らず、外気導入量・在室密度・維持管理体制のいずれに問題があるのかを切り分けて考えることが、遠回りに見えて確実な対応につながります。
建築物環境衛生管理技術者の役割
特定建築物の所有者等には、その建物の維持管理が環境衛生上適正に行われるよう監督させるため、建築物環境衛生管理技術者免状を持つ者を選任する義務があります。空気環境測定の実施計画や結果の確認、不適合時の改善指示など、建物の衛生的な維持管理全般を統括する立場です。
管理の対象は空気環境だけでなく、給水・排水の水質、清掃、ねずみ・昆虫等の防除など、建築物衛生法が定める維持管理基準の全体に及びます。空気環境測定はそのうちの一分野であり、測定結果を受けて必要な改善につなげる判断は、この管理技術者の重要な役務のひとつという位置づけです。
なお、令和3年12月の制度改正により、一定の条件のもとで管理技術者が複数の特定建築物を兼任できる範囲が広がっています。兼任する場合でも、選任する側が「業務の遂行に支障がないこと」を確認する前提が置かれており、兼任すれば管理の質を落としてよいという趣旨ではない点に注意が必要です。
よくある質問
空気環境測定を怠るとどうなりますか
建築物衛生法では、特定建築物の所有者等に空気環境測定の実施と記録の保存が義務づけられています。実施していない、または記録が確認できない場合、所轄保健所からの指導や報告徴収、改善命令の対象になり得ます。具体的な罰則・手続きは法令・所轄保健所の運用によるため、詳細は所轄官署に確認してください。
すべての階を毎回測定する必要がありますか
測定は各階ごとに行うのが基本的な考え方です。同一フロアに複数の居室がある場合は、用途・面積構成をふまえて代表的な測定点を選定します。具体的な測定計画(測定点の数・選び方)は、測定を委託する事業者や所轄保健所の指導内容に沿って確認することをおすすめします。
ホルムアルデヒドは毎回測定しなくてよいのですか
新築・増築・大規模の修繕または模様替えを行った建物では、使用を開始した最初の6月1日から9月30日の間に1回測定すれば足りるとされています。他の6項目のように2か月ごとに継続して測定する項目ではない点が実務上のポイントです。
測定結果が基準に適合しない場合、すぐに改修が必要ですか
不適合が確認されたら、まず原因(換気量不足・加湿能力不足・運用上の問題など)を特定することが先決です。原因によっては、大がかりな改修をせずに運用の見直し(外気量の調整、加湿装置の清掃・調整など)で改善できる場合もあります。改善の方向性は、建築物環境衛生管理技術者や設計者・設備業者と相談しながら判断するのが実務の進め方です。
まとめ
- 空気環境測定は建築物衛生法に基づく制度で、対象は延べ面積3,000㎡以上(学校教育法第1条の学校等は8,000㎡以上)の特定建築物である
- 空気環境6項目(浮遊粉じん・CO・CO2・温度・相対湿度・気流)とホルムアルデヒドの基準値が定められており、2022年4月改正でCOと温度の基準が強化・見直しされている
- 測定は2か月以内ごとに1回、通常の使用時間中に各階ごと・居室中央部で行うのが基本の考え方である
- 不適合はCO2(換気量不足)と相対湿度(とくに冬季の加湿不足)に偏りやすい傾向がある
- 改善は、外気導入量の見直しと加湿設備の維持管理(水質・清掃)の両面から原因を切り分けて検討するのが実務の基本である
- 測定・維持管理全体は建築物環境衛生管理技術者が統括し、令和3年改正で一定の条件下での兼任も可能になっている
空気環境測定は、単なる法令上の義務としてではなく、「その建物の換気・空調・加湿が実際に機能しているか」を定点観測する仕組みとして捉えると、測定結果の活用の仕方が見えてきます。基準値・改正内容は今後も見直される可能性があるため、実務にあたっては必ず最新の法令・所轄保健所の資料を確認してください。
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