グリース阻集器と厨房排水の基礎|選定の考え方・設置場所・維持管理
業務用厨房から出る排水は、一般の洗面所やキッチンの排水とは性質が大きく異なります。調理油や食材の残渣が大量に含まれており、そのまま下水道に流すと配管内で油脂が冷えて固まり、詰まりや悪臭、下水道施設の機能障害につながります。この負荷を建物側でいったん受け止め、油脂と残渣を取り除いてから排水するための設備が、グリース阻集器(グリーストラップ)です。
この記事では、厨房排水の特性から説き起こし、グリース阻集器の役割と3槽式の構造、容量選定の考え方、設置場所の判断、下水道法上の位置づけ、清掃・維持管理と悪臭・害虫対策までを一続きで整理します。厨房まわりの設備は換気・排水・法規制が絡み合う分野なので、給排水設備全体の計画は排水通気設備の計画|排水の種類・通気方式・地階の汚水槽の考え方、厨房換気は厨房換気・排気フードの基礎|必要換気量・グリスフィルタ・給気バランスであわせて押さえておくと理解がつながりやすくなります。
早見まとめ
| 項目 | 考え方 | 代表値・目安 |
|---|---|---|
| 設置対象 | 業務用厨房(飲食店・給食施設・食品加工場等)からの排水 | 一般住宅のキッチンは対象外とされることが多い(自治体条例により異なる) |
| 構造の基本 | 3槽式(バスケット層/オイル分離層/排出前の最終層)で残渣・油脂を段階的に除去 | 各自治体・SHASE-S規格に沿った形式が主流 |
| 容量選定の規格 | 空気調和・衛生工学会規格「SHASE-S217 グリース阻集器」 | 店舗全面積または利用人数に基づく方法で流入流量を算定 |
| 設置場所 | 屋内床置き型、屋外埋設型(マンホール型)のいずれか | 厨房に近い位置・清掃動線を確保できる位置が原則 |
| 法的位置づけ | 下水道法上の「除害施設」の代表例 | 具体的な排除基準・設置義務は自治体条例による |
| 清掃頻度の目安 | 槽ごとに頻度が異なる | 残渣層は毎日〜、油脂層は週1回程度、内部トラップは数か月に1回程度が目安とされることが多い |
※上表は一般的な考え方の目安です。実際の容量・仕様・清掃頻度は、所轄下水道部局の条例・基準、建物用途・厨房の稼働状況に応じて個別に確認してください。
厨房排水の特性と、なぜ阻集器が必要か
一般の生活排水にも多少の油脂は含まれますが、業務用厨房の排水はその量・濃度がまったく異なります。揚げ物・炒め物で使う調理油、食材を洗浄した際に出る野菜くずや肉片、食器洗浄で流れる油分を含んだ洗剤水などが、営業時間中継続して大量に排出されるためです。
これらをそのまま下水道に流すと、主に次のような問題が起きます。
- 配管の閉塞: 排水中の油脂は、温かいうちは液体でも、配管内で温度が下がると再び固まり、配管の内壁に付着・堆積して断面を狭めていく。長期間放置すると完全に詰まることもある
- 下水道施設への負荷: 大量の油脂・残渣が下水道本管や処理場に流れ込むと、下水道施設側の機能に支障をきたす
- 悪臭・害虫: 配管内に堆積した油脂・残渣は腐敗しやすく、悪臭の発生源やゴキブリ・害虫の発生源になりやすい
グリース阻集器は、これらの負荷を建物側でいったん受け止め、比重差を利用して油脂を分離・浮上させ、固形の残渣をこし取ったうえで、油脂・残渣を大幅に減らした排水だけを下水道側に流す役割を担っています。厨房の給排水計画を立てる際は、換気・給排水と並んで、この阻集器の設置を早い段階から織り込んでおく必要があります。
グリース阻集器の構造:3槽式の流れ
業務用のグリース阻集器は、一般的に排水の流れに沿って複数の槽(コンパートメント)を経由させる構造になっています。よく用いられる考え方が、次のような3槽式です。
| 槽 | 主な役割 | 溜まるもの |
|---|---|---|
| 第1槽(バスケット層) | 流入直後の排水から、比較的大きな固形の残渣(野菜くず・食材片等)をバスケットでこし取る | 生ゴミ・残渣 |
| 第2槽(オイル分離層) | 水と油の比重差を利用し、油脂分を水面に浮上させて分離・貯留する。沈殿する汚泥もここに溜まる | 油脂の浮上層・底部の汚泥 |
| 第3槽(排出前の最終層・トラップ部) | 分離しきれなかった残りの油脂・浮遊物を最終的に阻集し、封水を保持したうえで下水道側へ排水する | 微量の油脂・封水 |
排水はこの3つの槽を順番に通過することで、固形物と油脂を段階的に取り除かれていきます。前段の槽で大きな残渣・多量の油脂をあらかじめ除去しておくことで、後段の槽・下水道側への負荷を減らす、という積み重ねの考え方です。実際の製品では、槽の数・配置・容量は機種によって異なり、家庭用の小型のものから、店舗規模に応じた業務用の据置型・埋設型までさまざまなバリエーションがあります。
容量選定の考え方
グリース阻集器の容量は、「とりあえず大きめにしておく」のではなく、厨房の規模・使用状況から必要な処理能力を算定して選定するのが原則です。
日本では、空気調和・衛生工学会規格「SHASE-S217 グリース阻集器」が、容量算定の代表的な規格として広く参照されています。この規格では、大きく分けて次のような選定方法が示されています。
- 店舗全面積に基づく選定方法: 厨房を含む店舗全体の面積や、業種ごとの単位面積あたりの使用水量、営業時間などから、流入流量を算定する方法
- 利用人数に基づく選定方法: 想定される利用人数(客席数・食数等)が把握できる場合に、それをもとに流入流量を算定する方法
いずれの方法も、算定した流入流量に対して、阻集すべき油脂量・堆積する残さ量を見込んだうえで、必要な槽の容量を決定するという流れになります。具体的な計算式・係数は規格に定められていますが、業種(レストラン・給食施設・ファストフード等)によって単位面積あたりの油脂発生量の想定が異なるため、実際の設計では規格の最新版と、機器メーカーが提供する容量計算書・選定ソフトを用いて算定するのが実務上の進め方です。
容量が過小だと、槽の中で油脂・残渣を十分に分離しきれないまま排水されてしまい、下流の配管や下水道側への負荷軽減という本来の目的を果たせません。逆に過大だと、設置スペース・コストの面で無駄が生じます。厨房の業種・規模・想定される稼働状況を踏まえ、規格に沿って適切な容量を選ぶことが、実施設計段階での重要な判断になります。
設置場所の考え方:屋内/屋外・床置き/埋設
グリース阻集器の設置場所は、大きく分けて「屋内に床置きする方式」と「屋外に埋設する方式」の2通りがあります。
| 方式 | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 屋内床置き型 | 厨房内または厨房に隣接するバックヤードに、槽本体を床の上に据え付ける | 厨房内に設置スペースを確保できる、日常の清掃動線を短くしたい場合 |
| 屋外埋設型(マンホール型) | 建物外の地中に槽を埋設し、地上のマンホールから点検・清掃を行う | 厨房内にスペースの余裕がない、大容量の阻集器が必要な場合 |
屋内床置き型は、厨房スタッフが日常的に点検・清掃しやすい反面、厨房内の限られたスペースを占有すること、油脂・残渣特有のにおいが厨房内で発生しやすいことがデメリットになります。屋外埋設型は厨房内のスペースを圧迫しない一方、清掃業者の作業動線(搬出経路・車両の進入可否)を設計段階から確保しておく必要があります。
いずれの方式でも共通して重要なのが、清掃のしやすさを設計段階から織り込んでおくことです。槽のふたを開けて内部の残渣・油脂を取り出す作業が定期的に発生するため、ふたの上に物が置かれない配置、清掃業者が機材を運び込める通路幅、汚水を一時的に受けられるスペースなどを、平面計画の段階からあわせて検討しておくことが実務上望まれます。
下水道法・水質規制との関係(除害施設)
グリース阻集器は、下水道法上の「除害施設」の代表例として位置づけられています。
下水道は、公共用水域の水質を保全する役割も担っているため、下水道施設の機能に支障をきたすおそれのある下水(油脂分を多く含む下水もその一つ)については、あらかじめ一定の基準まで処理したうえで下水道に排出することが求められます。この基準に適合させるために事業者側が設ける施設が「除害施設」であり、業務用厨房におけるグリース阻集器は、その最も身近な例といえます。
具体的にどの規模・業種の厨房に設置義務が生じるか、排水中の油脂分をどこまで下げる必要があるかといった排除基準の細部は、国の法令だけでなく、各自治体の下水道条例・要綱で個別に定められているのが実情です。そのため、実施設計の段階では、所轄の下水道担当部局(多くは市区町村の下水道局・下水道課)に、対象となる厨房の業種・規模を伝えたうえで、設置の要否・容量算定方法・届出手続きを個別に確認することが欠かせません。設置後も、排水の水質を基準内に保つ責任は施設側(事業者)にあるため、日常の清掃・維持管理が法令順守の観点からも重要になります。
清掃頻度と維持管理、悪臭・害虫対策
グリース阻集器は、設置して終わりではなく、定期的な清掃を続けて初めて本来の性能を発揮する設備です。清掃を怠ると、各槽が残渣・油脂で満杯になり、阻集能力が落ちるだけでなく、悪臭や害虫の発生源、配管の詰まりの原因にもなります。
槽ごとに汚れの溜まり方が異なるため、清掃頻度も槽によって使い分けるのが実務上の一般的な考え方です。
| 対象 | 清掃頻度の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 第1槽(バスケット・残渣) | 毎日〜数日に1回程度 | 生ゴミが腐敗しやすく、放置すると悪臭・害虫の発生源になりやすいため |
| 第2槽(油脂分離層) | 週1回程度 | 油脂の浮上層が厚くなると分離性能が落ち、下流への流出リスクが高まるため |
| 第3槽・配管内部 | 数か月に1回程度(厨房の稼働状況により変動) | 内部に付着した油脂の蓄積は目視しにくく、定期的な専門業者による清掃が必要なため |
※上表の頻度はあくまで一般的な目安です。油の使用量が多い業態(揚げ物中心の店舗等)ほど頻度を上げる必要があり、実際の頻度は厨房の稼働状況・業種・所轄下水道部局の指導を踏まえて個別に設定してください。
維持管理の実務上のポイントとしては、次のような点が挙げられます。
- 清掃記録の保管: 清掃日・清掃業者・廃棄物の処理状況を記録しておくと、行政の立入検査や自主点検の際に説明しやすい
- 油脂の廃棄方法: 阻集器から回収した廃食用油・残渣は、産業廃棄物として適正に処理する必要がある。下水道や生活排水系統への廃棄は避ける
- 悪臭対策: 槽のふたのパッキン劣化・破損があると、清掃を怠っていなくても隙間から臭気が漏れることがあるため、ふたまわりの状態もあわせて点検する
- 害虫対策: 残渣の放置は害虫の温床になりやすいため、バスケット層の清掃頻度を確保することが、そのまま害虫対策にもつながる
清掃を怠った結果、油脂が配管内で固まって詰まりが発生すると、原因の特定・復旧に大きなコストと営業への影響が生じます。日常清掃の負担と、詰まり・悪臭・法令違反のリスクを比較すれば、定期清掃を計画的に組み込んでおく方が、結果的に運用コストを抑えられるという理解が実務では一般的です。
まとめ
- 業務用厨房の排水は油脂・残渣の負荷が大きく、そのまま流すと配管の閉塞・下水道施設への負荷・悪臭の原因になる
- グリース阻集器は、バスケット層・油脂分離層・最終層という3槽式の構造で、残渣と油脂を段階的に除去する
- 容量選定は「SHASE-S217 グリース阻集器」等の規格に基づき、店舗全面積または利用人数から必要容量を算定するのが原則
- 設置場所は屋内床置き型と屋外埋設型があり、いずれも清掃動線を設計段階から確保しておくことが重要
- グリース阻集器は下水道法上の「除害施設」の代表例であり、設置義務・排除基準の細部は自治体条例による。所轄下水道部局への確認が前提
- 槽ごとに異なる頻度での定期清掃が、性能維持だけでなく悪臭・害虫対策、下水道の水質基準の順守にも直結する
本記事で紹介した内容は一般的な考え方の整理です。実際の容量算定・設置届出・清掃頻度の設定にあたっては、必ず所轄の下水道部局、設計者、厨房機器メーカーに確認したうえで進めてください。
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