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改修・解体工事の基礎|耐震改修・外壁改修と解体の施工計画(一級建築士 施工)

新築工事の施工計画が「更地から完成形に向けて積み上げていく」計画だとすれば、改修工事・解体工事の施工計画は「すでにそこにある建物」という制約からスタートする計画だと筆者は捉えています。既存の躯体をどこまで生かすか、使用しながら工事を進めるのか、周辺にどこまで配慮しなければならないのか。新築にはない条件が次々に絡んでくるため、工法そのものの知識と同じくらい、「なぜその工法・その手順を選ぶのか」という判断の理屈を押さえておくことが、一級建築士の学習でも実務でも役に立ちます。

本記事では、既存建築物の耐震性を高める耐震改修の代表工法、使用しながら工事を進める外壁・防水・設備の改修(居ながら改修)の留意点、そして建物を取り壊す解体工法と分別解体の考え方を、施工計画上の留意点とあわせて整理します。解体・改修に伴う法令上の届出やアスベスト対応の詳細な手続きは解体時の手続きとアスベスト対応で扱っていますので、本記事では施工技術・施工計画の視点を中心に扱い、手続き面はそちらへの案内にとどめます。


図で見る(全体像)

耐震改修の代表工法(耐力壁増設・鉄骨ブレース・炭素繊維巻き・免震化)と解体の原則(上階から下階へ・分別解体は内装材の手作業取り外しが先)を示す模式図


耐震改修の代表工法|壁増設・鉄骨ブレース・炭素繊維巻き・免震化

耐震改修は、1981年(昭和56年)5月31日以前の旧耐震基準で設計された既存建築物を主な対象に、耐震診断で明らかになった弱点を補強する工事です。耐震診断では、建物の耐震性能を**Is値(構造耐震指標)**という指標で表し、Is値が0.6以上であれば地震に対して倒壊・崩壊する危険性が低いと評価される一方、0.3未満では危険性が高いと評価される、というのが耐震改修促進法に基づく告示の基本的な考え方です。この診断結果を踏まえ、不足している耐震性能をどう補うかを選ぶのが耐震改修工法の役割になります。

代表的な工法として、まず耐力壁の増設があります。既存の骨組みの中に新たに鉄筋コンクリートの壁を増し打ち・新設し、あと施工アンカーで既存躯体と一体化させることで、建物全体の水平剛性・耐力を高める工法です。効果は大きい一方、壁を新設する位置に開口部があると使い勝手が変わってしまうため、間取り・採光への影響を事前に調整する必要があります。

鉄骨ブレース増設は、既存の柱・梁の中に鉄骨の筋かい(ブレース)を後付けする工法です。比較的低コストで水平耐力を高められ、柱・梁など主要構造部材への負担を軽減できる一方、ブレースを設置した開口部は自由に使えなくなる点、後付けのブレースが外壁面に露出すると美観に影響しやすい点が実務上の留意点です。

**炭素繊維シート巻き付け(柱の靭性補強)**は、既存の柱に炭素繊維シートや鋼板を巻き立て、地震時の変形に対する粘り強さ(靭性)を高める工法です。柱の断面がほとんど太くならないため使い勝手を変えにくく、比較的軽微な耐震性能不足を補う場面で選ばれる傾向がありますが、耐力そのものを大きく引き上げたい場合は壁やブレースの増設と組み合わせて検討されます。

**免震化(既存建物への免震装置の設置)**は、建物の基礎部分や中間階に積層ゴムやダンパーからなる免震層を新設し、地震動そのものが建物に伝わりにくくする工法です。地震力の低減効果が大きく、建物の用途・使い勝手をほぼ変えずに済む利点がある一方、免震層を新設するための躯体の切断・仮受け(建物をジャッキアップして支持する仮設)を伴うため、工事の難易度・コストは他の工法より高くなる傾向があります。免震・制振の基本的な考え方は免震・制振構造と建物の振動の基礎でも整理していますので、あわせて確認しておくと理解がつながります。

耐震改修工法 主な効果 使い勝手への影響 実務上の留意点
耐力壁の増設 水平剛性・耐力を大きく向上 増設位置の開口・採光に影響 あと施工アンカーによる既存躯体との一体化
鉄骨ブレース増設 水平耐力を比較的低コストで向上 開口部の自由度が下がる 後付けブレースの露出・美観、メンテナンス性
炭素繊維シート巻き付け 柱の靭性(粘り強さ)を向上 断面変化が小さく使い勝手を維持しやすい 耐力の大幅な向上には他工法との併用が必要な場合がある
免震化(免震層の新設) 建物への地震力の入力を大きく低減 用途・使い勝手をほぼ変えずに済む 躯体の仮受け・切断を伴い難易度とコストが高い

一級建築士の学習では、それぞれの工法名を単独で覚えるより、「耐力を増やす(壁・ブレース)」「粘り強さを増やす(炭素繊維巻き)」「入力そのものを減らす(免震化)」という3方向の発想の違いとして整理しておくと、初見の工法が出題されても対応しやすくなります。


外壁・防水・設備の改修|居ながら改修の留意点

耐震改修と並んで頻度の高い改修工事が、外壁・防水・設備といった経年劣化した部位の更新です。新築工事と大きく異なるのは、建物を使用しながら(居ながら)工事を進めるケースが多いという点にあります。マンションの大規模修繕、稼働中のオフィスビルの外壁改修、営業を続けながらの設備更新など、居住者・利用者の生活や業務を止められない現場では、施工計画そのものが新築とは異なる発想で組まれます。

外壁改修では、既存の仕上材(タイル・塗装等)の劣化状況を打診調査・目視調査で確認したうえで、ひび割れ補修・浮き補修・再塗装・タイル張り替えなどを組み合わせて計画します。足場やゴンドラを使った高所作業が伴うため、居住者の窓開閉や避難経路の確保、外部足場による採光・通風への影響といった、使用中の建物ならではの調整が必要です。防水改修についても、既存防水層を撤去せずその上に新しい防水層を重ねるかぶせ工法と、既存防水層を撤去してから施工する撤去工法の使い分けが実務上の判断になります。防水・仕上げ工事の工法そのものの考え方は防水・左官・タイル・塗装工事の基礎で扱っていますので、あわせて確認しておくと理解が深まります。

設備改修では、断水・停電・空調停止など使用者の生活に直結する切替作業が発生する点が特有の留意点です。切替のタイミングを深夜・休日に設定する、仮設の給水・電源を用意して停止時間を最小化する、切替のスケジュールを事前に利用者へ周知するといった配慮が欠かせません。また、既存の配管・配線ルートが図面と食い違っていることも珍しくないため、着工前の現地調査・試掘で実際の配管・配線位置を確認しておくことが、手戻りを防ぐうえで重要になります。

居ながら改修に共通する施工計画上のポイントを整理すると、次のようになります。

  • 工区分割:建物・敷地を複数の工区に分け、工区ごとに順番に工事を進めることで、居住者・利用者の生活範囲を確保する
  • 動線分離:工事関係者の動線と、居住者・利用者の日常動線を明確に分け、安全と生活の両立を図る
  • 事前周知:断水・停電・騒音・振動を伴う作業は、時期と時間帯を利用者へ事前に説明し、理解を得たうえで実施する
  • 仮設計画:仮設の給水・電源・トイレなど、工事期間中も生活・業務を継続するための代替手段をあらかじめ用意する

一級建築士の学習では、居ながら改修は工法そのものより**「使用者への配慮をどう施工計画に落とし込むか」という視点**で出題されやすい分野です。工区分割・動線分離・事前周知といったキーワードを、単なる用語ではなく「なぜそれが必要か」とセットで理解しておくと得点につながりやすくなります。


解体工法と分別解体|圧砕機・大型ブレーカーと建設リサイクル法

解体工事は、対象となる構造(RC造・S造・木造)や規模、周辺環境に応じて工法を選び、さらに建設リサイクル法に基づく分別解体を行いながら進めるのが基本です。

鉄筋コンクリート造の解体で広く用いられるのが圧砕機工法です。重機の先端にハサミ状のアタッチメントを取り付け、鉄筋コンクリートを掴んで圧砕する工法で、コンクリートの破砕と鉄筋の切断を同時に行えます。従来のはつり作業に比べて振動・騒音が少なく、作業効率も高いとされ、市街地の解体工事で選ばれやすい工法です。大型ブレーカー工法は、油圧式のブレーカーで打撃を繰り返しコンクリートを破砕する工法で、硬い構造物にも対応しやすい一方、圧砕機工法に比べて振動・騒音が大きくなりやすい点に注意が必要です。鉄骨造の解体では、ガス溶断や切断機を用いて鉄骨部材を切り分ける鉄骨切断機工法が用いられます。

解体の進め方としては、上階から下階へ順番に解体を進めるのが一般的な考え方です。上屋の解体は、間仕切り壁の撤去、上階のスラブ(床)の撤去、屋根の撤去、外壁の撤去という順序で進み、階数の多い建物では大型クレーンで重機を上層階に運び上げて解体していく階上解体が用いられることもあります。いずれの進め方でも、下の階を壊してから上の階を壊す(下から上への解体)は建物の安定性を損なうため行わないという原則を理解しておくことが重要です。

解体工法 破壊の仕組み 特徴の傾向
圧砕機工法 ハサミ状のアタッチメントで挟み圧砕 振動・騒音が比較的少なく市街地に適する
大型ブレーカー工法 油圧式の打撃でコンクリートを破砕 硬い構造物に対応しやすいが振動・騒音が大きめ
鉄骨切断機工法 ガス溶断・切断機で鉄骨部材を切断 鉄骨造の解体で用いられる

工法の選定と並んで欠かせないのが、建設リサイクル法に基づく分別解体です。分別解体とは、コンクリート・木材・アスファルトコンクリートといった特定建設資材を、構造物ごとに分別しながら壊していく解体方法のことで、重機で建物を一気に取り壊し廃棄物を後から選別するミンチ解体は、対象となる工事では原則として認められていません。分別解体の技術基準では、建具・内装材・屋根ふき材といった部材の取り外しは原則として手作業で行うことが求められており、まず手作業で分離可能な部材を取り外したうえで、重機による躯体本体の解体に進む、という順序が基本になります。分別解体の届出や規模の基準、アスベスト事前調査との関係については解体時の手続きとアスベスト対応で詳しく整理していますので、届出・手続き面はそちらをあわせてご確認ください。


改修・解体の施工計画上の留意点

耐震改修・外壁改修・解体のいずれにも共通するのが、「すでにそこにある建物・周辺環境」を前提に計画を組み立てなければならないという制約です。施工計画を立てるうえで、特に意識しておきたい留意点を整理します。

現況調査の重要性は、改修・解体に共通する最初のステップです。既存図面が現況と一致しているとは限らず、増改築を繰り返した建物では、配管ルートや構造部材の配置が図面と食い違っていることも珍しくありません。着工前に現地調査・試掘・コンクリート強度調査などで実態を把握し、その結果を踏まえて施工計画を組み直す姿勢が欠かせません。

近隣対応と環境配慮も、新築以上に重要度が増す項目です。解体・改修工事は、振動・騒音・粉じんの発生を伴いやすく、特に市街地や住宅地に近接する現場では、散水による粉じん飛散防止、防音パネル・防音シートの設置、工事車両の搬出入経路や時間帯の調整といった配慮が求められます。着工前の近隣説明会や、工事中の苦情対応の体制をあらかじめ整えておくことも、トラブルを避けるうえで実務上のポイントです。

アスベスト・PCB等の事前確認との連携も、施工計画に組み込んでおくべき事項です。耐震改修で既存の吹付け材に手を加える場合や、解体で古い保温材・断熱材を撤去する場合には、有資格者による石綿事前調査の結果を踏まえて、除去等の作業を他の工程に先行させる必要があります。この事前調査・届出の詳細な流れは解体時の手続きとアスベスト対応で整理していますので、改修・解体の全体工程を組む際は、あわせて確認しながら計画を立てることをおすすめします。

一級建築士の学習では、これらの留意点は個別の暗記事項というより、「新築にはない制約(既存建物・使用中・周辺環境)にどう向き合うか」という施工管理の応用問題として出題される傾向があります。施工管理の基本であるQCDS(品質・原価・工程・安全)の考え方が、改修・解体という条件下でどう変化するかを意識しながら学習すると理解が深まります。施工管理全体の考え方は施工管理の基礎で整理していますので、あわせて確認しておくとよいでしょう。


実務・学習チェックリスト

  • 耐震改修の対象建物が旧耐震基準(1981年5月31日以前)に該当するか、耐震診断でIs値が把握されているか
  • 耐震改修工法(壁増設・鉄骨ブレース・炭素繊維巻き・免震化)は、必要な耐力・靭性の向上量と使い勝手への影響を踏まえて選定されているか
  • 外壁・防水・設備の改修は、居ながら工事を前提にした工区分割・動線分離・事前周知が計画されているか
  • 設備の断水・停電を伴う切替作業は、影響を最小化するタイミングと仮設の代替手段が用意されているか
  • 解体工法(圧砕機・大型ブレーカー・鉄骨切断機)は、構造種別・周辺環境(振動・騒音への配慮)を踏まえて選定されているか
  • 解体の進め方は上階から下階への原則に沿っているか、内装材等の取り外しを手作業で先行させる分別解体の手順になっているか
  • 着工前の現況調査(現地調査・試掘等)を行い、既存図面との相違を確認したうえで施工計画を組んでいるか
  • 石綿事前調査など法令上の手続きと、耐震改修・解体の作業工程の順序が整合しているか
  • 近隣への説明・苦情対応の体制が、着工前の段階で整えられているか
  • 具体的な耐震性能の目標値・工法の適用条件は、耐震診断結果と構造設計者・専門家の判断に基づき個別に確認しているか

よくある質問

耐震改修工法はどれを選んでも効果は同じですか?

同じではありません。耐力壁の増設や鉄骨ブレースは主に耐力そのものを高める工法、炭素繊維シート巻き付けは柱の粘り強さ(靭性)を高める工法、免震化は建物に入る地震力自体を減らす工法というように、それぞれ働きかける対象が異なります。耐震診断で明らかになった弱点の種類と、使い勝手・コストへの影響を踏まえて選定するのが基本の考え方です。

居ながら改修と、建物を空にして行う改修はどちらが望ましいですか?

一概にどちらが望ましいとは言えません。居ながら改修は入居者・利用者の生活や業務を継続できる利点がある一方、工区分割や動線分離など施工計画の負担が大きくなります。建物を空にできる場合は工事の自由度が高まりますが、移転や仮住まいのコスト・調整が発生します。建物の用途や工事規模、関係者の合意状況を踏まえて判断されるものです。

解体工事で分別解体が義務付けられていない小規模な工事なら、ミンチ解体をしてもよいですか?

建設リサイクル法の届出対象規模に該当しない小規模な工事であっても、廃棄物処理法など他の法令や自治体の指導により、分別を求められる場合があります。対象規模の基準や具体的な扱いは工事内容によって異なるため、所轄行政庁や元請業者に個別に確認することが前提です。

耐震改修と解体、どちらを選ぶかはどう判断するのですか?

一般的には、耐震診断の結果(Is値等)や建物の老朽化度、用途変更の要否、コストと工期の比較などを総合して判断されます。歴史的価値や継続利用の意向が強い建物では耐震改修が選ばれやすく、老朽化が著しく改修費用が新築を上回るような場合は解体・建替えが検討される、という傾向がありますが、最終的な判断は建物ごとの個別事情によります。


まとめ

  • 耐震改修工法には、耐力を高める壁増設・鉄骨ブレース、靭性を高める炭素繊維シート巻き付け、地震力の入力自体を減らす免震化があり、それぞれ働きかける対象が異なる
  • 外壁・防水・設備の改修は居ながら工事になるケースが多く、工区分割・動線分離・事前周知・仮設計画が施工計画の要になる
  • 解体工法には圧砕機工法・大型ブレーカー工法・鉄骨切断機工法があり、構造種別と周辺環境に応じて選ばれる
  • 解体は上階から下階への原則で進め、建設リサイクル法に基づく分別解体では内装材等の取り外しを手作業で先行させる
  • 改修・解体に共通する施工計画の留意点は、既存建物の現況調査、近隣対応、アスベスト等の事前確認との工程連携である
  • 届出・アスベスト等の詳細な法令手続きは別記事で整理しており、本記事では施工技術・施工計画の視点を中心に扱った

改修・解体工事は、新築工事とは異なり「すでにそこにある建物・周辺環境」という制約を出発点に施工計画を組み立てる分野です。工法名を個別に覚えるのではなく、「何のためにその工法・その手順を選ぶのか」という理屈で整理すると、一級建築士の学習でも実務でも応用が利きやすくなります。具体的な工法の選定・耐震性能の目標値・法令上の対象規模は、耐震診断の結果や最新の基準、専門家の判断に基づいて個別に確認してください。


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