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環境工学

湿り空気線図の読み方|乾球・湿球・絶対湿度・エンタルピーの基礎(一級建築士 環境)

結論から言うと、湿り空気線図(しめりくうきせんず)は、空気の「温度」と「湿り具合」に関する複数の状態量を1枚のグラフの上で同時に扱うための道具です。乾球温度・湿球温度・絶対湿度・相対湿度・露点温度・比エンタルピーという性質の異なる数値のうち、どれか2つが分かれば、線図上の1点として空気の状態を特定でき、残りの値も図から読み取れます。

この記事では、線図を構成する各状態量の意味を表で整理したうえで、加熱・冷却・加湿・除湿・混合といった空気の状態変化が線図上でどの方向に動くかを解説します。結露との関係については、別記事「結露」もあわせて参照してください。


湿り空気とは何か

湿り空気とは、乾いた空気(乾き空気)に水蒸気が混じった状態の空気のことです。私たちが日常的に呼吸している空気は、程度の差はあっても常に水蒸気を含んでいるため、厳密には常に「湿り空気」を扱っていることになります。

湿り空気を扱ううえで厄介なのは、温度が変わると、その空気が含むことのできる水蒸気量の上限(飽和水蒸気量)も変わってしまう点です。同じ量の水蒸気を含んだ空気でも、温度が高ければ「まだ余裕がある湿った空気」に見え、温度が下がれば「限界に近い、結露しやすい空気」に見えます。つまり温度と湿り気は切り離して考えることができず、常にセットで扱う必要があります。この温度と湿り気の関係を、計算ではなく図から視覚的に読み取れるようにしたものが湿り空気線図です。

湿り空気は、成分としては「乾き空気(窒素・酸素などの本来の空気)」と「水蒸気」の混合物と考えます。水蒸気の量は温度に比べるとごくわずかな重量比ですが、人の体感や結露・カビの発生、建材の劣化など、建築設備が扱う多くの現象に直接関わってくるため、単に温度だけを管理する以上に、湿り気の状態まで踏み込んで把握する必要があります。空調設備の設計では、「何度にするか」だけでなく「その温度でどれだけ湿らせる・乾かすか」までを一体で検討することになり、その検討の土台になるのが湿り空気線図です。


線図を構成する状態量の早見表

湿り空気線図には、性質の異なる複数の状態量が同時に描き込まれています。まずはそれぞれが何を表しているかを整理します。

状態量 意味 線図上の位置づけ
乾球温度(DB) 一般的な温度計で測る、普通の意味での空気の温度 横軸(右へ行くほど高温)
湿球温度(WB) 温度計の感温部を湿らせたガーゼで包んで測った温度。水分の蒸発によって奪われる熱(気化熱)の影響で、乾球温度以下の値になる 右上がりの斜めの線群
絶対湿度(重量絶対湿度) 乾き空気1kgあたりに含まれる水蒸気の質量。単位はkg/kg(DA)(DAは乾き空気の意) 縦軸(上へ行くほど水蒸気量が多い)
相対湿度(RH) その温度で空気が含みうる最大の水蒸気量(飽和水蒸気量)に対して、実際にどれだけ水蒸気を含んでいるかの割合 線図の中を横切る曲線群。一番上の曲線が相対湿度100%=飽和曲線
露点温度 空気を絶対湿度一定のまま冷やしていったとき、水蒸気が飽和して結露し始める温度 現在の状態点から水平(絶対湿度一定)に左へたどり、飽和曲線とぶつかった点の乾球温度
比エンタルピー 乾き空気1kgあたりが持つ熱量(温度による顕熱と、水蒸気による潜熱の合計) 右下がりの斜めの目盛線
比容積 乾き空気1kgあたりが占める体積 緩やかな傾きの目盛線

線図の外周には飽和曲線があり、これより上(左上)の領域は現実には存在できない「過飽和」の領域です。空気の状態は、必ずこの飽和曲線より下側(相対湿度100%以下)のどこかに位置します。

線図の便利なところは、7つの状態量のうち独立な2つが決まれば、残りはすべて自動的に決まるという点です。たとえば「乾球温度」と「相対湿度」が分かれば、線図上の1点が定まり、そこから湿球温度・絶対湿度・露点温度・比エンタルピーをすべて読み取れます。実務や試験では、乾球温度と相対湿度、あるいは乾球温度と湿球温度の組み合わせで状態を指定することが多くなります。

なお、線図の縦軸(絶対湿度)は温度に比べて非常に小さい数値(1kgの乾き空気に対して、水蒸気はせいぜい数十g程度)を扱うため、実際の線図では縦軸の目盛りが細かく刻まれています。数値そのものの大小に気を取られるより、まずは「横に動けば温度が変わる」「縦に動けば水蒸気の量が変わる」という2方向の意味を体で覚えることが、線図を読みこなす近道です。飽和曲線に近い(=相対湿度が高い)ほど、少し冷やしただけで結露しやすい状態にあるという点も、あわせて意識しておきたいポイントです。


状態変化の読み方

空調設備は、空気に対して加熱・冷却・加湿・除湿といった処理を行い、目的の状態に近づけていく装置の集まりです。それぞれの処理が線図上でどちらの方向に点を動かすかを押さえておくと、空調システム全体の流れを追いやすくなります。

状態変化 乾球温度 絶対湿度 線図上の動き方(考え方)
加熱(顕熱のみ、水蒸気を足さない) 上昇 変化なし 水平に右へ移動
冷却(顕熱のみ、結露が起きない範囲) 低下 変化なし 水平に左へ移動
加湿(蒸気を吹き込む等の場合) ほぼ一定 上昇 ほぼ垂直に上へ移動
冷却減湿(露点以下まで冷やして水分を絞る) 低下 低下 左下方向へ、飽和曲線に沿うように移動
混合(2つの空気を混ぜる) 2点の中間 2点の中間 2つの状態点を結んだ直線上の、混合比に応じた内分点

加熱・冷却が水平方向の移動になるのは、水蒸気の量(絶対湿度)を変えずに温度だけを変える処理だからです。空気を温めても冷やしても、水蒸気を足したり奪ったりしなければ、含まれる水蒸気の質量そのものは変わりません。

一方で冷房時の除湿は、単純な水平移動にはなりません。冷却コイルの表面温度が空気の露点温度より低くなると、空気中の水蒸気がコイル表面で結露し、水分として空気から除かれます。このため、空気を露点以下まで冷やしていく過程では、温度の低下と同時に絶対湿度も下がっていく、左下方向への動きになります。これが「冷房すると除湿もされる」現象の線図上の説明です。

混合は、温度や湿度が異なる2つの空気(たとえば外気と室内還気)を一定の割合で混ぜ合わせる処理です。混合後の状態点は、2つの元の状態点を結んだ直線上に必ず乗り、その位置は混合する空気量の比率によって決まります。量が多い方の空気の状態点に近い位置に、混合後の点が来ると考えると理解しやすくなります。

さらに、冷房・暖房の処理過程を線図上で扱うときには「顕熱比(SHF:Sensible Heat Factor)」という考え方も登場します。これは、除去(または付加)する熱量全体のうち、温度変化に使われる顕熱の割合を示す指標で、線図上では状態点を結ぶ直線の傾きとして表れます。顕熱比が大きい(=1に近い)ほど、その処理はほぼ温度変化のみで、湿度変化を伴わない処理に近くなります。逆に顕熱比が小さいほど、温度変化に対して水蒸気の増減(潜熱の出入り)が大きい処理であることを意味します。冷房負荷計算などでは、この顕熱比の直線を室内の目標状態点に当てはめることで、吹出し空気に求められる状態を線図上で逆算していきます。


空調設備での使いどころ

湿り空気線図は、単なる理論図表ではなく、実際の空調システムの設計・検討で日常的に使われます。

  • 冷房・除湿の検討:夏季、外気と室内空気を冷却コイルに通すとき、コイル出口の目標状態(温度・湿度)を線図上に置き、そこに至るまでにどれだけの熱量(顕熱・潜熱)を除去する必要があるかを、比エンタルピーの差から見積もります。
  • 加湿の検討:冬季は外気を導入して加熱すると相対湿度が大きく下がるため、快適性や静電気対策の観点から加湿が必要になる場合があります。線図上で、加熱後の点から目標の相対湿度に至るまでどれだけ絶対湿度を上げる必要があるかを確認します。
  • 全熱交換(熱交換型換気):排気する室内空気と、取り入れる外気との間で、温度(顕熱)だけでなく水蒸気(潜熱)もやり取りして、外気処理にかかる熱負荷を減らす仕組みです。線図上では、外気の状態点が室内側の状態点に近づく方向に動く形でイメージできます。
  • 混合空気の状態決定:外気と還気を混合してから冷却・加熱するシステムでは、混合後の状態点を先に求め、そこを起点にコイルでの処理量を計算します。

いずれの場面でも、線図は「感覚的に温度・湿度の変化を追うための地図」として機能します。数値計算だけでは見えにくい、処理の全体像をつかむのに向いています。

また、空調機の年間を通じた運転計画を検討する際にも、線図は役立ちます。夏季と冬季とで、外気の状態点は線図上の大きく離れた位置に来ますが、目指す室内の状態点はほぼ一年を通じて同じ場所(快適域と呼ばれる、相対湿度40〜60%程度・温度20℃台前半の範囲に置かれることが多い領域)にあります。外気点から室内の目標点まで、季節ごとにどの経路(加熱するのか、冷却減湿するのか、加湿するのか)をたどる必要があるかを線図上で俯瞰することで、空調機に求められる能力(冷却能力・加熱能力・加湿能力)の見通しを立てやすくなります。


露点温度と結露の関係

露点温度は、絶対湿度を一定に保ったまま空気を冷やしていったときに、相対湿度が100%(飽和曲線)に達する温度です。空気に触れている壁面や窓、配管の表面温度が、その空気の露点温度を下回ると、表面で水蒸気が凝縮して結露が発生します。

つまり結露は、絶対湿度そのものというより、「その空気の露点温度」と「触れている物の表面温度」の大小関係で決まります。冬場に室内の絶対湿度がさほど高くなくても、断熱性能が低い窓や壁の表面温度が室内空気の露点温度より低くなっていれば、結露は起こり得ます。結露のメカニズムや対策の考え方については、別記事「結露」で詳しく整理しています。


実務チェックリスト

  • 空気の状態を示すときは、乾球温度・相対湿度など「どの2つの状態量で指定しているか」を明確にする
  • 冷房時の除湿量を検討する際は、冷却コイルの表面(コイル面)温度と処理空気の露点温度の関係を確認する
  • 冬季の加湿計画では、外気導入後・加熱後の相対湿度を線図で確認し、必要な加湿量を見積もる
  • 混合空気の状態を検討する際は、外気と還気の混合比率(風量比)を先に確定させる
  • 全熱交換設備を検討する際は、顕熱交換率・潜熱交換率(または全熱交換効率)の数値を機器仕様書で確認する
  • 数値の詳細や最新の基準は、線図の版元・機器メーカーの資料や所轄官署に必ず確認する

よくある質問

乾球温度と湿球温度は何が違うのですか

乾球温度は、そのままの状態で測った空気の温度です。湿球温度は、温度計の感温部を湿らせたガーゼで包んで測る温度で、ガーゼの水分が蒸発するときに周囲から熱を奪う(気化熱)ため、乾球温度と同じか、それより低い値になります。空気が乾燥しているほど水分の蒸発が進みやすく、乾球温度と湿球温度の差が大きくなります。

絶対湿度と相対湿度はどちらが「湿気の量」を表していますか

絶対湿度が、空気中に実際に含まれる水蒸気の質量そのものを表しています。相対湿度は、その温度で入りうる最大量に対する割合(%)なので、同じ絶対湿度でも温度が変われば相対湿度の値は変わります。「湿気の量」という意味では絶対湿度、「体感的な湿っぽさ・乾きやすさ」という意味では相対湿度が近い指標になります。

なぜ冷房をすると除湿もされるのですか

冷却コイルの表面温度が、処理する空気の露点温度より低くなると、空気中の水蒸気がコイル表面で結露し、ドレン水として排出されます。この結果、コイルを通過した空気は温度が下がるだけでなく、絶対湿度も下がります。これが冷房運転時に室内の湿度も下がる理由です。

線図はどんな場面で実際に使いますか

冷房・暖房の熱負荷計算、加湿量の見積もり、全熱交換設備の効果確認、外気と還気を混合する空調システムの状態決定など、空気を扱う設備計画の随所で使われます。試験対策としては、まず7つの状態量それぞれの意味と、加熱・冷却・加湿・除湿・混合が線図上でどちらに動くかという「方向」を押さえることが優先度の高いポイントです。


まとめ

  • 湿り空気線図は、乾球温度・湿球温度・絶対湿度・相対湿度・露点温度・比エンタルピー・比容積という複数の状態量を1枚の図で扱うための道具
  • 独立な2つの状態量が決まれば、線図上の1点として空気の状態が定まり、残りの値も読み取れる
  • 加熱・冷却は絶対湿度一定の水平移動、加湿はほぼ垂直移動、冷却減湿は左下方向への移動、混合は2点を結ぶ直線上の内分点として表れる
  • 冷房時に除湿が起きるのは、冷却コイル表面温度が処理空気の露点温度を下回り、水蒸気が結露して除かれるため
  • 結露は、空気の露点温度と、触れている物の表面温度との大小関係で決まる
  • 実務・試験のいずれでも、まず各状態量の意味と、状態変化の「方向」を図でイメージできることが理解の近道になる

湿り空気線図は、最初は情報量が多く感じられますが、「横軸が温度、縦軸が水蒸気量、その他は補助的な目盛線」という骨格さえ押さえれば、あとは状態変化の方向を1つずつ確認していくだけで読み解けるようになります。


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